第?日  
 
「誰?」と少女は言った。  
 黒髪の鮮やかな少女だった。  
「君こそ誰なんだ?」と少年は言った。  
 外見の凡百な少年だった。  
 少年は何かがひっかかっていた。奇妙な違和感。まるで彼女を昔から知っているような。  
 しかし少女はピシャリと一括した。  
「まず私の質問に答えなさい」  
「俺はこの家のものだ」  
「あら奇遇ね。私もこの家に住んでるわ」と少女は片方の口端を吊り上げ……  
「ふざけないで、私がこの家の主よ。アナタは誰なの、泥棒さん?」  
 彼女はその柳眉までも吊り上げている。  
「だから言ってるだろう。俺はこの家に住んでいた。泥棒じゃない。最近は訳あって別のところにいたけど」  
「私はずっとこの屋敷に住んでいるけどあなたなんて見たこともないわね。ねぇ、あなた名前は?」  
「一砂。高城一砂だ」  
 それを聞いた途端、少女の顔が呆けた。その表情は次第に驚愕へと変わり……  
「あなたまさか!」  
「そういうあんたはなんて名前なんだ?」  
「ふふ、あははははは、そう、そういうことね」少女は何がおかしいのか急に笑い始めた。  
「おいあんた、聞いているのか?」  
 漸く身体の震えを止めた少女はこちらを見据えこう言った。  
「私? 私の名前はね……」  
 ──瞬間、思い出した。  
 
 
第一日  
   
 平凡だと思っていた自分は遠い霞の中。  
数週間前のアレ以来、彼の価値観は完全に覆された。  
それを彼に告げた少女は今、穢れをお湯で今日の疲れとともに流している。  
 つい昨日、江田のおばさんに別れを告げ、ここへ来て共に暮らしはじめた姉は十七とは到底思えぬ貫禄を備え、また掴み所がなかった。  
 未だ実感などない。彼女が自分の姉だということも、他人の血が欲しくなるなんてことも。八重樫にもさぞや心配を掛けているだろう。  
 一砂は気づくと八重樫の事を考え始めていた。  
 彼女の事が気がかりだった。あんなこと言わなければ良かった。  
俺は彼女に懸想しているのだろうか。いや、違う。  
心配し理解してくれる人を望んでいるだけなのだ。  
 想いを巡らせているとするりと障子が滑り  
「あがったわよ。あなたも入りなさい、一砂」と語りかけてきた。  
その声は静かだったが、とてもよくこの和室に響いた。  
一砂はそれを聞きつつ  
「ああ、わかったよ千砂」と風呂へ向かった。  
千砂と擦れ違ったとき石鹸のとてもいい香りがした。果物か何かだろうか。  
その甘い匂い……一砂にはその香りがとても──  
「どうしたの一砂?」声をかけられ、気づくと一砂は千砂のすぐ後ろに立ち、千砂を振り返って凝視していた。  
「いや……なんでもないよ」  
彼は改めて脱衣所へと向かった。  
 
 
 掛け湯をし湯船に浸ると、昨日の事が厭でも思い出された。  
 また血を吸ってしまった。  
行為のあと、落ち着いたところで思い出すとその心は罪悪感で溢れかえった。  
 初めてではなかったものの幾ら経験しようが嫌な事にかわりはない。  
しかし一砂がもっと恐れていたのは行為ではなく、  
食事や排泄などと同じように、日常のものとなることだった。  
先程千砂に貰った劇薬。アレを飲む日も近いのだろうか。  
 あの時の情動。実姉の血を舐めていた時に感じたのはまるで性衝動のようだった。  
 堪えようの無い興奮、そして行為後の悔恨。それは若気の至りで女性を押し倒してしまった青少年のようだと一砂は感じたが、すぐに吐き気を催し湯船から出ることで想像をうち切った。  
 嫌な思考と穢れを落とし、新しい服に着替えると一砂は自室へと向かった。  
 
 
 暇をつぶそうと自分の荷物から本を出そうとしたが見つからなかった。置いてきてしまったことを思い出し、この部屋の本棚をみたものの自分が理解できそうなものは一つとして無かった。  
 仕方無しに読書を諦め、一砂は茶室へと向かおうとした──刹那。  
 苦痛が彼を襲った。幾度か経験した苦しみ。吸血衝動に他ならなかった。  
一砂は頭を抱え、うつぶせに倒れこんだ。  
 物音を聞きつけてか千砂が障子を開けてその姿を見せたが、  
それを見る余裕などあるはずもなく、一砂はただ苦しみにうめくばかりであった。  
「落ち着いて! いま薬を──」  
振り返り、駆け出そうとした瞬間、一砂の手は彼女の手首を掴んでいた。  
 すぐに戻ってくるわ。不安なのだと思いそう言おうかと思ったが、違う。  
一砂の目は虚ろであったが奇妙なほど爛々と輝き、千砂の目をまっすぐに見つめてくるのだ。  
「ど……」うしたのという暇もなく、彼女は畳の上に押し倒された。  
 すると彼の手は突如として千砂の衣服へとのび、力任せに──  
「やめて! 一砂っ」彼女は必死で抵抗した。  
しかし衝動の作用だろうか、彼女の細い腕で振りほどけるような力では到底なかった。  
 だがまだ女性経験のない一砂が女性の服を脱がせることは簡単ではなく、ましてや和服ともなれば尚更だった。  
 とうとう耐え切れなくなったか一砂の歯は千砂の肩の辺りを切り裂き、血を滲ませた。  
一砂は貪るようにして血を啜り、更なる悦楽を求めた。  
 しかしそうこうしているうち、痛みに耐えられなくなったか、血で、かりそめの安息を得たか、兎にも角にも一砂の意識は深淵へと沈み、千砂は漸くその手から解放されたのだった。  
 
 
 三時間後、目が覚めた一砂は横たわったまま時計を見て、ちょうど一刻前に日付が変わった事を知った。  
 そして、先程の行為を思い出し一砂は愕然とした。  
なんて事をしてしまったんだっ!  
だが、彼の心が後悔の色に彩られるより早く千砂が部屋に足を踏み入れた。  
「起きたのね」と彼女は言うとまた出て行ってしまった。  
当然だ、と一砂は思った。自分を襲った相手だ、嫌われたのだろう。一砂は自分を殺してやりたかった。これからもこのような事があるのだろうか。  
 知らずのうち、一砂は自らの頭に手を伸ばし乱暴に掻き毟っていた。  
とても痛そうだったが身体は行為をやめる事を拒んだ。千砂の先程受けた痛みに比べればこのくらいなんだというのだろう。  
「何をやっているの!」と千砂は手に持っていたものををかなぐり捨ててこちらへ駆けて来た。何故戻ってきたのだろう。  
何かゴン、と鈍い音がした。  
「貴方が心配だからに決まっているでしょう」  
 どうやら知らず声に出していたらしい。床を見ると二つ分の湯呑みが転がっていた。  
畳は濡れており、そこから湯気が立ち昇っていた。  
「あなたは取り乱すだろうからお茶を取りに行ったのだけれど……」  
本当なのだろうか。無理をしているのではあるまいか。  
「怖かったでしょう。悔やんでいるでしょう。でも私は大丈夫、気に病む事は無いわ」  
 言って彼女は彼を抱きしめた。胸の中で彼は震えていた。それは恐怖か悔恨か。彼女には分からなかったが代わりに千砂はさらに強く彼を抱擁した。  
その光景は一枚の名画のようであり、永遠に続くと感じられた。  
 だがその絵は突如動き始め、彼は顔を上げた。  
 一砂は謝罪しようとしていたがおもうような言葉が見つからないようだった。  
 それが千砂にも伝わったのだろう。一瞬微笑んだようにも見受けられた。それは一砂が始めてみる笑顔ともいえぬような笑顔だったが、彼はその笑顔が何物にも変えがたく、まるで聖母の微笑みのように感じ、落ち着きを取り戻したようだった。  
 しかしその束の間の安息も次の千砂の言葉によって脆くも崩れ去ることになった。  
 
「私が欲しいの?」言って、彼女はまっすぐに一砂の目を見た。  
一砂は驚きか、はたまた罪悪感からか彼女の視線を真っ向から受けることが出来ずにただ、俯いてしまった。  
 二、三秒の沈黙。それは客観的には短いのだろうが、  
一砂にとってこれは文明の誕生から現在までほどの時間に感じられた。  
 しかしその不動の世界は彼女の次の動作によって滅びた。  
彼女はやおら彼の下腹部へと手を伸ばしたのだった。  
 一砂は驚愕のあまり声も出せなかったが、しかし悲しいかな男の身体よ。  
彼の男性器はしっかりと硬くなっていた。  
 千砂のほうはというと静かに微笑んでいた。しかし聖母は既に不在なようで、その微笑みは酷く淫靡で蠱惑的だった。  
 彼が見惚れている間に千砂は彼の肩をポンと押すと簡単に畳へと倒れた。  
そのまま彼女は彼のチャックを開けると陰茎を取りだし、童女のような小さい手でそれをゆっくりと扱きだしたのだった。  
「うっ。ああぁ」数分間のサイレント映画がトーキーに変わった。  
彼も男だ。自らを慰めることもある。いつもと同じ右手での規則的な往復運動。  
 しかし今、自分の実姉によって行われている行為は  
実の姉にしてもらっているという背徳感や初めてということもあってか自分でするそれとは比べ物にならなかった。  
 千砂は何でもないような顔こそしているが良くみると頬がほんのりと赤み掛かっていた。  
唇が乾いたのか舌で自らのそれを一度舐めまわした。  
 その姿が酷く扇情的で一砂は──  
「どうしたの。また硬くなったわよ?」淫靡に笑う。  
「だ、だめだ千砂。姉弟でこんなこと」  
 ようやく意味のある言葉を口にした一砂だが。  
「何を言ってるの今さら。こんなにカチカチにさせちゃって。  
やめてほしければまずコレをなんとかなさい」  
そういうと千砂はサディスティックな笑みを浮かべ正座していた足を横に流し、  
仰向けに寝転がっている一砂のモノを扱くスピードを更に速めた。  
「ッ……」  
もはや声にならない一砂の叫びは精液となり尿道を駆け上がってきた。  
 しかし千砂は陰茎を強く握り  
「誰がイっていいと言ったの?」  
と優しく、しかし愉しんでいるような調子で言った。  
 一砂は奈落へと突き落とされる思いだった。  
 数十秒前の自分の言葉さえ忘れ、  
彼はただただ絶頂を迎えたい気持ちで溢れかえっていた。  
「ど、どうして……」  
「さっき貴方はいったわね。『姉弟でこんなこと』って。私もそう思ってね?  
 だからやめる事にしたのよ」  
「そ、んな」  
「でもね。私は貴方を愛しているわ。姉弟としてではなくね。  
だから貴方も私を愛しているなら言って頂戴。『自分は千砂のものです』とね」  
普通ならばそれは屈辱的だっただろう。  
 もう彼には理性など残っているはずもなく一砂は  
「お、俺は……千砂! お前のものだっ!」  
「ふふ。即答してくれて嬉しい。待たせちゃってごめんね。思いっきりイって頂戴!」  
 千砂の手が三つにも見えた気さえする。  
それほどの速度で彼女の手は再び動き始めていた。  
「ほらっイクのよ! イッパイ精液吹き出しなさい!!」  
 言われるまでもなかった。  
普段の千砂ではありえない言動に激しく興奮し、  
情けなくも一砂はわずか十秒ほどで絶頂に達した。  
噴出したそれは仰向けになっていたにも関わらず百五十cmほども飛び上がり、  
やがて重力に負け、白濁物が彼女の手にこれでもかというほど大量に降り注いだ。  
「ものすごい量ね。それに臭い。まったく、お風呂入り直しじゃない  
ほら、見て御覧なさいよコレ。指で掴んでも全然落ちてこないわよ」  
彼女はその指を口元へともって行き、舌で舐め取った。  
「んあぁっ、もう。喉に引っ掛かって飲みづらいったらないわ。どうしてくれるの一砂?」  
 しかしその言葉は一砂に届く事はなかった。彼の意識がなくなってきた。目の前が暗い。  
一砂はそのまま気絶するように深い眠りについたのだった。  
 最後に千砂がなにかを呟いたような気がしたが良く分からなかった。  
 

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