血を求めねば生きる事もできない。  
 なんて不完全で――なんて無様な生き物なのか。  
 月に一度、自身の血を見る生活。その中で思う。これだけの血を流すくせに、なぜ自分  
は血を必要とするのだろうか、と。  
 眩む意識。揺れる身体。  
 けれど、私の足は床をしっかと踏みしめ、立ち尽くす。  
 倒れても、誰も助けてはくれない。誰も、自分を抱き起こしてはくれない。  
 なら、自分は倒れるわけにはいかない。  
 それは単純で明快な解答。  
「――気持ち悪い」  
 けれど、思いを吐露することを否定できないから、私は吐き捨てるように、呟く。  
 自分の血を見ながら。  
 
               † † †  
 
「……千砂。大丈夫?」  
 トイレを出て、縁側の廊下を歩きながら、私は柱に身をもたれかけていた。繰り返しわ  
き上がる吐き気と眩暈。下腹を覆う疼痛をこらえていると、居間から顔を出した少年が心  
配そうに尋ねてきた。  
「……少し、気分が悪いだけよ。大丈夫。発作じゃないわ」  
 言葉少ない私の答えを訝しく思ったのだろう。一砂は私の前に歩いてくる。  
 とんとん、と板を歩く音が、耳に届く。  
 傍らに膝をつくと、一砂の手が私の額に触れた。  
 
「熱があるじゃないか。寝てなくちゃダメだよ」  
「……大丈夫よ。少し休めば、楽になるわ。発作じゃないのよ」  
「ダメだ。ほら、掴まって」  
 ぐい、と私の身体を引っ張りあげる一砂。  
 その胸は思っていたよりも大きくて、そして、男の匂いがした。  
 あ、と声が漏れる。  
「千砂?」  
「……なんでもないわ」  
 それだけを答えて、私は一砂の腕に支えられながら自室へと戻る。血を流す自分。その  
澱物の匂いが一砂に気取られるのではないかと、怯えている。  
「……千砂。顔色が悪い。水無瀬先生に来てもらうかい?」  
「やめて。別に病気じゃないのよ」  
 言うのは正直恥ずかしいけれど、でも、それで水無瀬さんを呼ばれては、もっとみっと  
もない。私ははっきりとした言葉ではなく、少しぼやかして言うことにした。  
「女の人は、月に一度、大変なのよ」  
「え? ……あ」  
 一砂も理解したのだろう。真っ赤になって、そっぽを向いている。私だって、バツが悪  
くて俯いているのだが。  
 しばし、無言で歩く。  
 私の部屋の前で、一砂がようやく口を開いた。  
「……寝てたら、楽になる?」  
 まだ頬は赤い。けれど、その瞳は心配そうに私を見つめている。  
 だから。  
「……ええ。ありがとう」  
 気持ちの悪さをこらえて、私は微笑んだ。  
 

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