無柄のベッドに身を横たえるこの姿は、眠り姫を連想させる。  
 流麗な黒髪。端整な容貌。ガラスのように繊細に透きとおる肌。浴衣越しにも見てとれ  
る、優美と華奢の均衡を絶妙に保つ肢体。  
 初めに言葉ありきと云う。しかし、賞賛の言葉は須く、この存在の為に用意されてあっ  
たのではないか。天におわしめす造物主の送り給いし最高傑作。  
 しかし所詮、お伽噺は現実とどこまでも相容れぬもの。増してやこの少女、高城千砂の  
肉体は残り少ない時間に制約され、精神は現世に亡き実父に呪縛されている。その頑強さ  
は魔法なぞの比ではない。  
 十年間に渡って全霊を統べられ、全身を奉げてきた自分にとってはこのような現実の在  
りようは過酷と云う他にない。医師となった今でも、それは献じる手には子猫のように、  
時に甘えて時にかい潜る。  
 いつの日にか少女を掻き抱き、また掻き抱かれる他愛のない夢想が、心の底で厚く重い  
澱となって積層している。  
 それら総てに甘んじざるを得ぬ。私の絶対の支配者なのだから。  
 かすかな呻きを発して、少女のまぶたがおもむろに開いていく。  
「どうだい、気分は?」  
「…」  
 黒目がちな双眸をくるくると動かして、自分が置かれた状態をつぶさに確かめているの  
が見てとれる。ここは何一つ装いを改めてはいない。  
 天井。窓枠。しっくい塗りの壁。薬品が納められた戸棚。  
「…横、浜?」  
「ああ、そうだ。先生の病院だよ。今は僕が使ってるが」  
 上体を起こして伏し目がちに、何があったのか、失神する以前の記憶を反芻しているよ  
うだ。  
意識は混濁していないのが幸いか。無論、予断を許されるものでもない。  
 
「君は倒れたんだ。以前一砂君が公園で倒れたようにね」  
「…一砂、一砂は?」  
 その声に宿る色合いに、苦衷が胸に込み上げて締めつけられる。  
「彼は世田谷に帰した」  
 少女が布団を剥いで出ようとするのを、咄嗟にその肩口を抑えて制する。  
「家に帰して。水無瀬さん」  
「駄目だ。今君を彼に合わせる訳にはいかない」  
 私の腕を突き放そうとする。しかし、その抵抗は寝起きであることを差し引いても余り  
にか弱くて愕然とする。  
「私は帰らなきゃならないの」  
「なら、なぜ血を飲むことを拒む? 一砂君の血だからか?」  
 先生に、少女の実父に生き写しの少年から、彼が自らの血を与えようとしたことを知ら  
されると、屈辱や嫌悪に似た感情に捉われた。  
 医術を学ぶことが彼女を救う最良の手段と信じてきた自分と、ためらうことなく、思い  
出にない父がそうしていたのと同じに腕を傷つけた高城一砂。  
 三人の親子が、否、累々と伝わる高城家の血脈が、暗黙の裡に部外者である自分を寄せ  
つけまいとしているかのように、あざ笑っているかのように思える。  
「彼の血を受け入れない限り、君は同じことを繰り返すだけだ」  
「なら、あの薬をちょうだい」  
「無理だ。あれをこれ以上使えば、君の体は…」  
 続く言葉を呑み込む。お互いに解り切っていることだ。  
「彼の血を拒むことで、父親の影からは逃れられる。それで、その先はどうする? 一砂君は?」  
 自分が方便を使っていることは承知している。  
「一砂君の気持ちを察してやれ。彼はそんなことを望んでないだろう」  
 先刻までの気迫がしおらしく消沈していく。  
 
 効果は苛立たしいほど、哀しいほどてきめんだった。できれば気づかない振りを続けて  
いたかったのだ。少女の精神を占める対象が、自分にではなく少年に、彼女の実弟にすり  
替えられつつあることは。  
「彼には、これからも君が必要なんだ」  
 吐き捨てながら、自分を鷲掴みにするどす黒い感情の正体が嫉妬であることがまざまざ  
と解って背を向ける。自分の顔は今醜く強張っているに違いない。  
「私はどうすればいいと云うの」  
「しばらくここで静養して体力を回復させてくれ」  
 今度は方便ではなく、あからさまな偽りだ。既に少女の心臓は、医学の手に負える範疇  
を越えている。  
「でも、一砂が…」  
「彼も承諾済みだ」  
「嘘!」  
「嘘じゃない!」  
 灼熱の沙漠の中に見出したオアシスのようなものなのか。渇望を満たす為にいかなる策  
を弄したところで、自分はそこに、高城千砂の実体に辿り着けないのだろうか。辿り着か  
せてくれないのだろうか。  
 選択肢は他になかったとは云え、少年に託し過ぎた自分の迂闊さにほぞを噛む。  
「私、帰るわ」  
 少女が強い決意を口にして、ベッドから毅然と脱け出して立ち上がる。  
「どうやって?」  
「帰るわ」  
 その視界の片隅に自分は捉えられていても、最早数多ある路傍の石の一つ程度にしか認  
識されていないだろう。否、自分は出会ったその時からそう云う存在としか受け止められ  
ていなかったのではないか。  
 
 傍らを過ぎ去ろうとする少女の二の腕を握る。そのか細さも気に留めずに力を込める。  
「っ痛っ、放して!」  
 放すのか? 逃すのか? そして、またこのまま弄ばれていくばかりなのか? 少年の  
ものになるのなら、自分のものにならないのなら、いっそのこと…。  
 引き寄せてきつく抱き締める。長髪にまつわる芳香が脳髄をぞくぞくと痺れさせる。  
 頬をすり合わせる。日に日にやつれている筈でありながら、その感触は滑らかに吸いつ  
くかのようだ。  
「水無瀬さん…」  
 衣服越しにも骨格が把握できる薄い肩が、くびれた腰がおこりのように震えている。否、  
震えているのは自分の腕かも知れない。  
「行かせるものか!」  
 重心を少し傾けただけで、少女は敢えなくひざを折ってしまう。  
 抵抗の素振りは見られない。それどころか、ふと覗き込んだ瞳には諦めにも悟りにも似  
た透徹な意志すら伺える。  
 莫迦にしてるのか? 同情してるのか? 憐れんでるのか?  
 見下されていると感じた刹那、か細い手首を掴み上げながら床に押し倒していた。その  
ように女性を扱ったことなぞ一度たりともない自分が。  
「行かせるものか、どこにも」  
 自分も既に高城の怪奇な愛憎の中に取り込まれているのだろうか。  
 猛然と唇を奪う。息を吐かせるいとまを与えずに、瑞々しく温かい粘膜をひたすら貪る。  
二年前の夏の記憶が鮮やかに甦る。  
「んうむっ」  
 押し殺した呻きがこぼれる。流れるような眉の間に、かすかな苦悶の皺が寄る。  
 そうだ。もっとだ。どんな形でもいい。私の存在を感じ取ってくれ。  
 歪んだ衝動が私の全神経を支配していく。床の上に菊花のように豊かに拡がる少女の髪  
に指を絡ませて引っ張り上げる。  
「い、いや、そんなっ」  
 
「いやか? いやだってのか?」  
 堪らずに開いた唇の間から、その滑らかな歯と薄紅色の歯茎に舌を遊弋させる。湧き出  
る唾液を啜り込む。それは私の肉体に火を点す媚薬だ。下半身にみるみると血が集中して  
いくのが判る。  
 股の間に足を割り入れ、怒張した陰茎を少女の太腿に圧しつける。熱くたぎる男の脈動  
が伝わるだろうか。  
 片手で尖った顎を掴み、指を突き立てて頬の肉越しに上下に割る。  
「うむっ、んはあっ」  
 口腔の奥に縮こまった少女の舌に自分のそれを伸ばしてあやす。若鮎のようにぴちぴち  
と跳ねては泳ぐ感触をじっくりと楽しむ。  
「みな、水無瀬さ、ふうん」  
 言葉にならない喘ぎと共に、鼻先に生々しく口臭が香り立つ。  
 口を放して観察すると、少女の肌がおもむろに紅潮し始めている。このような振る舞い  
にも過敏に反応してしまう性感は、実父の手によって開発された賜物なのだ。遣る瀬ない  
怒りに総毛立つ。  
 心を開かない、許さないなら、せめてこの体だけでも狩り尽くしてやる。焼き入れられ  
た刻印を自分が糺して修正してやる。  
 唇を顎から下に這わせ、うなじに歯を立てる。心地よい弾力。雪中の足跡のように赤く  
凹む歯形。  
「あ、いっ、あうっ」  
 帯をそのままに、襟を掴んで浴衣を剥ぐ。白磁で造られたような乳房がこぼれ出る。繊  
弱な肉体の中で女の性を強調するかのように優雅にたわむ様子は、既に一個の芸術品だ。  
 素早く掌を当てがい、緩急をつけてつんと上を向いたそれを握り込む。  
「…うっ、んっ、は、ふうっ」  
「どうした? 感じるか? 感じてるのか?」  
 抑えたような喘ぎは、実父とは異なる行為に戸惑っているからだろうか。実父以外の男  
から性の悦楽を与えられることを拒みたいが故だろうか。そのような理性なぞも粉々に打  
ち砕いてしまいたい。  
 
 胸への乱暴な愛撫を続けながら耳朶に噛みつく。耳穴に舌を挿し入れる。  
「ひゃあっ、あっ」  
 少女の悩ましいのたうちを、荒れ馬にくつわを使うように前髪を引っ張って組み敷く。  
 今まで気づきもしなかった苛虐心が自分の深奥から頭をもたげている。  
 この豹変には、眼下の少女もさすがに動揺を隠し切れないようだ。苦痛に表情を引きつ  
らせながら瞠目している。  
 この刹那だけでも、彼女の意識は私を中心に巡っているだろうと想像するだけで、鼓動  
が速まっていく。最早一旦ついた加速は、終点に辿り着くまで収まらない。  
 左手で少女の挙動を制したまま上体を起こし、左の乳房を口で、右のそれを掌で、バタ  
ーを体温で溶かすように揉みしだく。  
「んふっ、ふっ、うむっ、…ひゃああっ」  
 頂点を可憐に飾る乳首を甘く噛み、爪の先で摘み上げる。千切られるかも知れないと云  
う戦慄が背筋を凍らせたに違いない。少女の五体がひくひくと引きつる。  
「どうだ? 先生はこうしてくれなかったか?」  
「いやっ、あっ、つうっ」  
 首を幾度も縦に振る。その度に乱れる髪の房が、しっとりと汗ばむひたいに貼りついて  
艶めかしい。  
 気づけば少女の発汗は夥しく、五体の隅々から甘ったるく官能的な匂いを漂わせていた。  
男を狂わせる魔性を秘めたそれだけでも、父が実の娘を斯くも忠実な性の虜に調教したこ  
との充分な理由になるだろう。  
「いいのか? いいんだろう?」  
 執拗に胸をなぶる内に乳首が隆起し、乳房全体もその肌の下に切ないしこりが生じてい  
くのが指先に感じ取れる。  
 
 少女もまたその肉体に火を点しつつあるのだ。  
 右手を下半身へと這わせ、腹部から腰骨へと辿らせていく。痩身な故に肉感には欠ける  
ものの、支配者であった存在を思いのままに掌に収める感覚に、私の血はぐらぐらと沸騰  
するようだ。  
 片足が太腿に挟みつけられる。私の次なる目標を感づいたのだ。ここまで事を運ばせる  
とは予想していなかったのか、今となっては遅過ぎる抵抗だ。そして何より、そのような  
反応が今の私をより昂ぶらせる事までには気づいていない。  
 浴衣の裾をめくり上げ、内股から少女の聖域へと侵入させる。唯一人の男に独占されて  
きたそこを遮る物は最早何もない。  
「水無瀬さっ、ん、や、やめっ、そこぉ」  
「ん? 濡らしてるな」  
 触れたそこは既に、男を歓待する女の本能を露にしていた。  
「…んくっ」  
 そのような自分の姿を認められないのか、潤んだ瞳が不審に揺れている。  
 緩やかな曲線を描く丘に当てがい、掌底で薄い叢を、指の腹で熱くぬめる陰唇を拉いで  
掻き分け、滲み出た蜜で泡立てるようにこねる。  
「あふっ、やっ、やあっ、優しくし、つああっ」  
 悲鳴にも似たその声に反し、少女の腰がはしたなく波打つ。  
「ああ、優しくしてるよ。きみがして欲しいようにしてるよ」  
 中指を膣に突き立てる。数え切れないほど男の欲望を受け入れてきたそこがきつく締め  
上げては絡みついてくる。  
 弱冠十七歳の肉体が、性交の悦びを知り尽くしているのだ。遠慮する必要はない。指を  
曲げ、内部を縦横無尽に引っ掻き回しながら往復させる。  
「やふぁっ、やっ、そんなっ、ん、んんっ」  
 理性の狂乱をよそに、器官はどこまでも冷徹に担う役目を遂行して態勢を整えるものだ。  
膣から分泌される蜜は瓶を倒したように溢れ返り、飛沫となって私の手や鼠蹊や尻を濡ら  
していく。  
 
「凄いな。もうびしょ濡れだよ」  
 この悩ましい痴態に興奮を抑え切れる男なぞいる筈がない。素早く手を返して上体を起  
こし、ベルトを外してスラックスを降ろす。  
 更にいたぶり抜きたくもあるが、一刻も早く自分の陰茎で少女を抉じ開けたかった。捻  
じ伏せたかった。情けない事に、いきり立つそれはわずかでも気を切らせば暴発してしま  
いそうなほどなのだ。  
「…水無、瀬、さん」  
 不意に少女の手が伸び、私のトランクスを掴んだ。少女も覚悟を決めたのだろうか。や  
おらと体をくねらせて横座りになりながら、中心を小山のように盛り上げたそれを引き下  
げていく。  
「…きみ」  
 ばね仕掛けのように跳ね上がる、膨れ上がった陰茎を窺う少女の眼差しは、我が子を見  
遣る母のそれだ。このようにまぶしい照明の下で女性に自分の性器を曝すのは初めてだ。  
 手が伸び、その胴を優しく握られる。真っ赤に凝固した肉に絡まる白魚のような五指が、  
絶妙のコントラストを醸し出す。  
 丁寧に緩急をつけて揉み上げ、前後に滑らせていく。  
「あ、ああ、いいぞ、そうだ、そう」  
 肉体への繊細な刺戟と少女が自分の意志で私に身を尽くすと云う精神への甘美な衝撃が  
伴って脳髄が眩む。  
 思わず朦朧となる刹那、少女の上体がずり下がり、そこに口を寄せる。  
「おおっ」  
 目を疑うのと同時に、亀頭の先が唇に捉えられていた。腰が蕩けて崩れそうになる。  
今まで話でしか知らなかったフェラチオ。泌尿器でもある生殖器を口に受け入れる奉仕。  
それを上方から逆に私が見下ろす悦びは例えようもない。  
「ああ、何て…」  
 唇が胴をねぶり、舌がくびれをなぞり、指が陰嚢をあやす。的確に男の性感を把握して  
高めていく、余りに手慣れたこの技巧もまた実父に仕込まれた結果に違いなかった。  
 
 上目遣いに私の愉悦の様子を観察しながら、頬を窄めて呑み込んでいく。荒い鼻息が私  
の陰毛を断続的にくすぐる。  
 もたらされる快感は巷に溢れる凡百の女の膣の比ではない。たっぷりと唾液を溜めた口  
腔にくるまれた陰茎が丹念に舌で転がされ、弄ばれていく。首の前後運動に合わせて捲れ  
る唇はそれを洗い浄めているかのようだ。  
「いい、いいぞ、凄い、ああ…」  
 乙女性と娼婦性の何れが本当の顔なのか。否、その双方を宿すこの高城千砂こそは私の  
天使と云うに相応しいのだ。  
 少女の後頭部を抱え、首振りを助長させる。じゅぶじゅぶと淫靡な水音が狭い部屋中に  
響き渡る。  
 腰の裏が疼き、下腹に力を込めてもその猛りは堪え切れるものではない。  
「そのままだ。いいか、絶対に放すなよ」  
 自慰の時のような速度で少女を揺り動かし、また少女もそれに応え、私の腰に手を添  
えながら口腔で締め上げては強く吸い込んでいく。  
 程なく限界が訪れた。余りに早く訪れたそれを悔やみながら、最後に喉の奥深くまで陰  
茎を突き入れ、熱く滾る白濁をそこへ撒き散らす。  
「呑め! 残さず呑めよ!」  
「んふうっ、ううっ、うむっ」  
 それは食道までも直撃したに違いない。しかし、反射的に咳き込みたいだろう少女を我  
慢させながら最後の一滴までも絞り出して嚥下させる。少女を内側からも私の色の塗り替  
えたような錯覚に、脳髄を心地よい靄が立ち込めていく。  
「…ああ、よかったぞ」  
 私の迸りの終焉を確認し、柔らかな唇が離れていく。口端から含み切れなかった精液が  
一筋の光のように垂れている様子が悩ましい。  
 こくりと喉を鳴らす少女の瞳には、慈愛が宿っていた。  
 
 余韻の中で起き上がろうとして少女の傍らに腰を落としてしまう。全身が、ありったけ  
のエネルギーを使い尽くしたように脱力していた。  
 少女は上体を捻って唇を手の甲で拭いながら、幾度もしゃくり上げている。  
「呑んだこと、ないのか」  
 私の問いに背を向け、懸命に口腔に残っている粘つく精を飲み干そうとする。何と気丈  
で愛らしい姿だろうか。  
 その背に体を落として密着させる。仄かに汗ばむうなじ。その襟元から漂う女の匂い。  
 だらしなく垂れ下がっていた陰茎が、更なる刺戟を求めて再び血を漲らせていく。こん  
なにも早い回復は十代の頃以来だ。膝に絡まるスラックスとトランクスを脱ぎ捨てる。  
「止めて!」  
 険しい声が耳をしたたかに打った。  
 不意に少女が私を突き放して立ち上がる。乱れた浴衣を整え、髪を流す。  
「水無瀬さん、あなたには本当に感謝してるわ。だから、…だけど」  
「…だけど?」  
「お願い、…これで、許して」  
 その言葉の一つ一つを脳裏に反芻させる。だから。だけど。これで。  
「…さよなら」  
振り向き様に云い放つ菩薩のような表情に、やはり少女は私の心も体もその奥に受け入  
れる事を拒んだ事を、怒涛のような性欲を鎮める為にその口を使って慰めたに過ぎない事  
を悟らされる。すげなく、じゃれつく幼児を扱うようにあしらわれたのだ。  
 屈辱を核にした衝動が、私を言葉が吐いて出るよりも速く起き上がらせていた。思わず  
仰け反る少女の肩口を掴んでベッドに放り投げる。  
「きゃっ」  
 自分もそこへ飛び込み、急いで離れようと身を翻す少女を背後からしっかりと抱きかか  
える。年代物のベッドの足が頼りなく軋んでいる。  
「やっ、だめ、だめよ、水無…」  
「これで、だと? 許して、だと?」  
 
 許すも許さないもない。きみがどこまでも彼方に居続けたいのなら、ここに堕としてや  
る。その翼をもぎ取ってやる。  
 体重を乗せて自由を奪う。裾をはだけさせ、先刻以上に強く硬くそそり立つ陰茎を臀部  
に押しつける。  
「ああっ、どうして」  
 信じられないと云うような悲鳴だ。壮年を過ぎていた実父との情事は、一回の射精で幕  
を下ろすものだったのだろう。少女は今、予期しなかった底なし沼にずるずるとはまって  
しまうような感覚にたじろいでいるに違いない。  
 両肩を上から抑えつけて突っ伏させたまま、武者震いする亀頭を這わせて膣口に近づけ  
ていく。  
「だめよ、それだけは止めて、お願い」  
 必死に腰をくねらせて脚をばたつかせる。そのか弱い抵抗すらも私の中の炎に油を注い  
でいる事には気づかないのだ。  
「ん? ここか?」  
 面白半分に、肛門を突ついてみせる。  
「やっ、違、やだっ」  
「違うんなら、こっちだな」  
「あ、あっ、やあっ、だめ、やめて」  
 徹底的に少女の精神と肉体を侵犯して蹂躙し、憎悪を超えた畏怖を植えつけるには排泄  
器での性交が望ましい。しかし、陰茎は何よりも先に少女の膣との邂逅を欲している。そ  
こもまた少女の理性を裏切り、蜜を内部から滴らせて挿入を待ち焦がれているのだ。  
 亀頭の先をあてがうと、そこは奥に引き込むかのようにうねる。  
「ほら、判るか? 入りそうだ」  
 より焦らせようと、入る寸前まで押し込んでは引き抜く。少女に、その心と体が乖離し  
つつある事を認識させる。  
「あんっ、や、水無瀬さ、んんっ」  
 
「へえ、先刻よりも濡らしてるな。これじゃ簡単に入ってくよ、ほら」  
「うそっ、うそよ、だめ、あっ、ああああっ!」  
 一気に後背位で奥底まで突き入れる。落雷を浴びたように少女の腰がわななき、手が遣  
る瀬なくシーツを握り締める。  
 熱い粘膜が陰茎を隙間なく圧迫し、襞が淫靡に収縮して締めつけている。男の為に、否、  
私だけの為に設えられた、究極の理想郷と云うべき世界がそこにあった。  
「ああっ、いい、いいぞ」  
 そのままでも難なく射精へと導かれそうな程だ。しかし、私の中の性がそれ以上の快楽  
を求めて腰を律動させる。  
 一旦射精させてしまった事が、少女にとっては仇となっていた。昂奮の中に冷静を保た  
せたまま、緩急をつけ、狙いを定めて丹念に打ち込む事ができた。  
「あっ、はあんっ、い、いや、あん」  
 一方では恥辱に堪えられずに中止を訴えながら、一方では性感に過敏に反応し、すすり  
泣く仔犬のように喘ぐ。実父が他界してから今日まで渇き切っていた女の欲望が今、貪欲  
に男を吸収しているのだ。  
「いやなら、この音はなんだい?」  
 髪を掴んで顔を背後に振り向けさせる。結合部からは、肉のぶつかり合う音と共に、ち  
ゅぷちゅぷと蜜が弾ける水音が絶え間なく響いているのだ。シーツには、水差しを傾けた  
ような染みが浮かび、更に拡がっている。  
「ああっ、いやっ、酷い。はっ、あ、あなたが、やっ、こんな人だなんて」  
 裏切られたと云いたいのか。十数年、私の思いを素知らぬ顔で踏みつけてきたきみにそ  
の資格はない。  
 追い詰めるように抜き挿しを速めて深めていく。それに合わせ、少女の膣も精を揉みほ  
ぐして絞り出すかの様にうねり始めていく。少女の性欲が理性を凌駕しつつある表われだ  
ろう。  
「やんっ、やあっ、も、もうだめ、水無、瀬さ、ああん」  
 全身に火を点しながらも目だけはきつくつぶっているのは、それを認めざるを得ない限  
界の線上に立たされているからに違いない。  
 
「そうか、なら止めるか」  
 不意に陰茎を亀頭の先だけを残して引き抜く。  
「…あ、んんっ、ああ」  
「どうした? これでいいんだろ?」  
 少女が急な刺戟の停止にまぶたを開ける。その眉は切なく歪み、瞳は宝石のように潤沢  
に輝いている。  
「ん、え、あ」  
「何だ? ちゃんと云わないと判らないな」  
「あ、や、んん、ん、…けて」  
 掠れた声がだらしなく開いた唇から、一筋の涎と共にこぼれる。落花は間近だった。た  
だ、それを辛うじて留めている羞恥を振り払ってとどめを下すのは、少女自身でなければ  
ならない。  
「何だって? 聞こえないぞ」  
「…続けて、ん、んああああああっ!」  
 狂ったように激烈な律動を再開する。例えようもない歓喜が脳髄を占め、実際に狂いそ  
うだった。漸く私を認めさせたのだ。求めさせたのだ。  
 今こうして肉を交える二人を遮るものは何もない。抽送に思いの丈を尽くしていく。  
「はあああ、はあっ、んっ、ああああああっ、わ、私、イっちゃいそ、ああああっ」  
「イクのか? イクのか?」  
 咄嗟に片手を少女の股間に差し入れ、陰唇を剥き出してクリトリスを指先で押しひしぐ。  
膣口が千切らんばかりに締め上げてくる。こちらも臨界を迎えそうだ。  
「あんっ! それ、いいの、いい、ああっ、イク、もうイっちゃう、イクゥ、んんんん!」  
 少女が荒れ馬のようにぐらぐらと絶頂にのたうつ。それを合図に、私も陰茎をびくつか  
せ、白濁の迸りを子宮に浴びせ掛けていく。生涯で最高、最上の瞬間。  
 意識がまどろんでいく中で見る少女の横顔もまた至福に包まれていた。  
 
 

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