木野はキーボードに指を付いて考え込んでいた。  
決して珍しい事ではなく彼が普段からとるスタイルだ。  
 
「……すすんでる?」  
 
向かい側に座り机に突っ伏している彼女、神奈ちとせは遠慮がちに問いかけた。  
その問いに木野は黙って首を振り、小さくため息をつく。  
 
「また、書けなくなった?」  
「……ですかねぇ」  
 
時折打ち込まれるキーの音、そしてぴたりと止まったかと思うとバックスペース。  
その繰り返しである。  
またか、とそれ以外感想が思いつかない。  
 
(もうずっとこれだもな〜……)  
 
足元に散乱している雑誌や漫画が時間の経過を物語っていた。  
 
「…てかさ」  
「はい?」  
「チビメガネはさ、空いた時間はいつもソレ?」  
 
置かれたあったみかんを手に取り、皮を剥きながらパソコンを指した。  
甘酸っぱいみかんの香りが漂う。  
 
「何時も、っていう訳じゃないですよ。本読んだりとか勉強したりとか」  
「ふ〜ん……」  
 
みかんを一房口に放り込む。少し酸味が強いのだろうか、甘味はさほど濃く無い。  
咀嚼しながら、続いて一房剥がしながら時計へと視線を移す。  
針は7時をさしていた。  
 
「結構時間…っと、経ちましたね」  
 
木野もみかんへを手に取りながらそう呟く。  
 
眼鏡の奥からそれとなくちとせを見ながら、皮を剥いていく。  
 
(まだいるのかな、この人は……)  
 
パッとちとせがこちらを振り向いた。  
 
「っ!!!」  
 
驚きすぎた。なるべく表には出さなかったと思うが、びくっと体が固まったような跳ねたような気がする。  
すぐに視線をみかんへと向けて皮むきを続けた。  
 

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