……はじめて、二人きりの夜明けを迎えた、あの冬の日以来。  
私と野乃は、幾度となく…身体を重ねた。  
部員を帰らせ、誰も居なくなった演劇部の部室で。  
家族の気配を気にしながら、お互いの私室で。  
冬休みには、二人きりの小旅行に行った記憶もある。  
様々な場所で、睦み合う時間を求めた。  
 
初めの頃は、抱き合って、お互いを感じていられるだけでよかったのけど。  
…だんだん、それ以上、それ以上を望むようになって。  
覚え始めた快楽を満たすため、いろいろなことを知ろうとし、試した。  
野乃も知らなかった手段を試し、予想以上の反応が返ってくると、心が躍った。  
繋がり合う実感が欲しくて、道具に頼ったこともあった。  
二人同時に処女を喪い、二人同時に初めての絶頂を迎えて…  
…でも、所詮道具では、繋がりの実感は乏しくて。そのうち使うのをやめてしまった。  
 
今考えると…若気の至りだったと、思う。振り返るのも、恥ずかしい…。  
…でも、それだけ真剣に、私たちは、愛し合っていたのだろう。  
その関係自体が、許されざる「禁忌」であることも、忘れるほど。  
 
そんな毎日が、いつまでも続けばいいと思った。  
いつまでも一緒にいられると思った。一緒にいたいと、願っていた…。  
 
「…んむ、っ、ッ……ちゅ、は」  
二人の唇から、唾液の糸が、繋がったままだらしなく張る。  
激しい息づかい。真っ赤に紅潮した、想い人の頬を、優しく撫でる。  
「…野乃」  
「美麗……さ、さすがに、この衣装のままじゃ」  
歴代の演劇部員が使い続け、すっかり色褪せた『プリマヴェーラ』の、春の女神。  
すでに新調することは決めていて、先日から私自ら作り始めている。  
…せっかく、新調してしまうの、だったら……  
「綺麗だわ、野乃……本当、いろいろな意味で、ゾクゾクしちゃう」  
「そういうことを、言ってるんじゃないのっ。  
 …さすがに、お役御免とはいえ、由緒正しき衣装をえっちに使うだなんて、何考えてるの!?」  
「……いいじゃない。興奮、するでしょ?」  
「…美麗って、いつからそんな変態になったのかしら」  
変態。変態かぁ。  
やっぱ、そういう風に、見られちゃう、よねぇ……  
「…ちょ、ちょっと、何へこんでるのよ?」  
「へこみもするわよ。…せっかく、いつもと違うシチュエーションの方が、  
 野乃も新鮮に思うかと、思っ」  
「はい、言い訳はいいから。……ったくぅ」  
ぎゅぅ。後頭部に両腕を回され、そのまま抱きしめられる。  
胸に顔を埋める格好。…柔らかくて、良い匂いがする……  
「…意外と美麗も、子供っぽいところがあるのねぇ」  
「私、普段そんなに大人っぽいかしら」  
「そうねぇ…部長の仕事も、毎日しっかりこなしてるし。立派だと思うわよ」  
「だったら、ご褒美頂戴」  
「え……ぁ」  
顔を起こし、野乃の後ろに回りこんで、背後から抱きしめる。  
そして、衣装の上から、二つの膨らみを両手のひらで包み込んだ。  
「っは……や、だ、だめぇ……っ!……衣装の、皺に」  
「うりうりうり。…やっぱり、柔らかくて、気持ちいい。揉み応えがあるわ」  
「……そんな、私のなんて……理咲の方がずっと大きいし」  
「何事もホドホドのほうがいい、ってことだってあるのよ」  
むにゅ、むにゅ…私の手の中で、揉み解され形を変えていく彼女の胸。  
彼女の頬が赤く染まり、息遣いも荒くなっていく。  
「はぁ、はぁ……だめ、これ以上は……やっぱり、脱ぐ、わ」  
強引に、両手を剥がされる。…名残惜しいけど、仕方ない、か…。  
衣擦れの音。彼女の細い肩から、滑り落ちていく衣装……  
半端に晒された彼女の白い背中。胸が、きゅーん、とくる……  
「新しい衣装があるとはいえ、何が起こるか、わからないでしょう?だから……ぁ」  
…気が付くと、彼女を背後から、組み伏せていた。  
「…だ、め、やめて、みれ、い……ぁ、っあ、ぁぁ……っ」  
……結局、衣装は、皺くちゃになってしまっていた。  
 
…失ったと気づいても、もう、取り戻せないもの…と、いうのがある。  
それまで、そばにいてくれるのが当たり前だった存在。  
それがなくなったとき、そして、取り戻せないと知ったとき。  
…人はどれだけ、絶望に堕ちてゆけるのだろう。  
 
「私の高校生活は、もう半分もないもの。  
 貴女がどうしても反対するのなら…その場所は、自分で作る」  
 
彼女が、言い出したら聞かない、頑固な性格なのは知っていた。  
でも、私は…それでも彼女に、「演劇を捨てろ」と言わざるを得なかったのだ。  
だって…、そもそもの原因を作ったのは、私だったのだから。  
彼女の体質を知らず、演劇を勧めてしまったのも。  
病状がそこまで悪化するまで、演劇にのめりこませてしまったのも。  
全部私。すべて、私の責任。私の、罪…  
……だから、その罪から、少しでも逃れたかったのかもしれない。  
彼女から、声、までも奪ってしまったら……おそらく、自責の念で、私は押しつぶされてしまうだろうから。  
エゴ、だったのだ。私の。  
……だから、彼女も私から離れていったのだ、と……そう思っていた。  
 
……チガウ、チガウノ。  
イヤ、ダッタノ。アナタノコエヲ、キクコトガ、デキナクナルノガ……  
…イトシイ、アナタノ、コエヲ  
 
結果的に、私の心は押しつぶされた。  
彼女を守るのと引き換えに、失ってしまった、彼女との間の想い。  
…当然だ。自分にとっての「もうひとつの自己」を「捨てろ」と言われて、  
言った相手を…憎まずになぞ、いられるだろうか。  
だから、私は憎まれ役に徹した。  
そうまでして、守りたかった。彼女の声を。彼女の、未来を。  
毎晩のように私を襲う、心の痛み。引き裂かれるような苦しみ。  
それでも、いつか諦めてくれる、だろうと……  
 
…だから、驚いた。  
それでも彼女が決して諦めない理由。  
私のことを憎いから、なんかじゃなく。  
 
『友達ぐらいはいる 榊美麗』  
 
……あぁ。  
あれだけ私、貴女に酷いことを言ったのに。  
……貴女の想いは、変わってなんか、いなかったんだ、って……。  
 
いちど失ったはずの想いを、たぐりよせ、抱きしめて。  
私は泣いた。いっぱい、いっぱい泣いた。  
それまで、枕に顔を埋めて、涙を押し殺してきたぶんまで…いっぱい、泣いたのだ。  
 
「…ちゅ。ン、む…」  
びちゃ。びちゃ…  
私の眼前にある、彼女の肉襞が、舌で嬲り回すたび、粘着質な音を立てる。  
「……ど…、ぉ?はやく、降参した、ほうが……ぁ、あ、ぁ」  
余裕めいた声が…びりびりと身体中を走る電流に、妨げられ、た。  
ぁ、は……ぁ。彼女も、私の全く同じところを、しなやかな指でなぞってきたからだ。  
 
−丁度、仰向けの私の身体に、野乃が逆さまに覆いかぶさる姿勢になっている−  
 
「…強が、り?」  
平静を装いつつも、明らかに荒い息を隠しきれない、野乃の返答。  
どっちが強がってるのよ、と、言い返したくなる。  
「……つよがって、なんか…ぁ、ぁ」  
指でぱくりと秘部を開けられ、壷のなかを、舌先で押し込むようにされると、  
また、まっしろな、電流が、あたまのなかを……  
「ひ、ぁ、はッ、……ら、っ」  
だめ。  
いや。やめておねがい…  
声を絞り出そうとする。けど。  
「は、ひ……や、ひゃめ……てッ」  
喘ぎにしか、ならない。  
「ずいぶんよくなってきてるのね……これじゃあさっきの『ド淫乱女』発言、  
 そっくりそのまま返すしかなくなってくるわね」  
「ち、違……ぁっ、ひゃ……ぁ、ぅ、ぁぁ」  
くちゅむ。くちゅら。  
彼女が壷の中をかき回すたびに、えっちな水音が増していくのが、わかって……  
「っ、は、ひ、ぁ……は、い、やぁぁぁぁ……ッ」  
 
「……いった?」  
……答えられない。  
あまりにも、鮮やかに……とばされてしまった。  
「一瞬、頭が、真っ白になったわよ……」  
「そう。悦んで頂けて、光栄だわ」  
「…どう、しても、あんた、には、勝てない、わね……は、ぁ、はぁ」  
まだ声が荒い。ごとりと力無く床に頭を落とす。  
思いのほか冷たくて、少し頭がすっきりとしてくる……  
「…ふふ。二人同時によくなるには、このシックスナインの体勢が一番良いって…  
 教えてくれたのは、美麗だったはずだけど。  
 …こうまで美麗に堪え性がないと、同時によくなれないわね」  
「な、なによ!…やっぱり私じゃ、不満なんでしょう」  
少しいじけた。野乃、やっぱり満足してないのかしら……  
「そんなことないわよ。…私、貴女じゃなきゃイケないもの」  
「…本当?」  
身を起こし、彼女の下から逃れる。  
野乃も体勢を整えると、私を下から覗き込むようにしながら、じっと見つめてきた。  
「本当。貴女の指先、貴女の舌遣い、貴女の全てが…私を淫らにさせるの。  
 …貴女じゃなきゃ……だめなの」  
肩をつかまれ、引き寄せられて……お互いの唇が重なる。  
この唇…温かな身体、目の前に映る、とろけるような眼差し……全てが、いとおしい。  
「く、ちゅ、っぅ、ん、ふ…ゥゥ……ぁ」  
吸い付き、いやらしい水音をたてながらの接吻……長いようで短いそれが終わり、  
余韻のような水糸を延ばしながら、唇が離れる……それから間をおかず、  
私は彼女の身体を両腕で挟み込むようにして、そのまま引き寄せた。  
「……美麗」  
「野乃……私も、貴女じゃなきゃだめ。貴女と……もっと、よくなりたい」  
 
「は、ぁ……ぁ、っ、は」  
彼女を後ろから包み込むように抱きしめて。  
首筋に舌を這わせつつ、肩を掴んだ両手の力を緩め、そのまま身体のラインに沿って滑らせていく。  
襟元、鎖骨の部分を通って、二つの膨らみを、制服の上から両手のひらで包み込んだ。  
「ひゃっ……だめ、皺に……なるわ」  
「何を今更…もう制服なんて、汗といやらしい水でびしょ濡れじゃない」  
「……それも、そう、だけど」  
ふくらみの下部から包み込むように、ぐにり、ぐにりと揉む。  
「……っ、く、ぁ」  
「…少し、大きくなった?」  
耳元に息を吹きかけるように、問いかける。  
「…えぇ、どうせ、少し、よ……理咲どころか、貴女にもかなわないわ」  
「そうなんだ?野乃ってば、意外と気にしてたのね?……可愛い」  
「からかわないでよ……っ、ん」  
セーラー服の前ボタンを外し、下着の上に両手を滑らせた。  
その頂点をくすぐるように指を這わせると、  
彼女は荒い息を立てながら、肩を震わすのだ。  
「はぁ……ぁぁ、だ、だめ。それ以上は……」  
彼女が身じろぎし、私の上に寄りかかったまま、体勢を変える。  
私の上に跨るような姿勢になったかと思うと、さっきの私のように、  
私の胸元に手を這わせ、上着を脱がしにかかってきた。  
「ちょ、ちょっ……」  
「貴女のも、揉ませてくれなきゃ、いや」  
ちょっと拗ねたように呟くその仕草が、私の欲情を更に刺激するのだった。  
 
お互いに制服を脱ぎすて、下着もずらして。  
「…は、ぁ、ふッ…く、ぅぅんッ」  
外気に晒した両の乳房、その先端どうしを互いのと重ねあわせ、巧みに刺激を送りあう。  
擦れて痛いような、気持ち良いような……そんな微妙な感覚が、絶え間なく頭に走って  
だんだんと感覚を麻痺させていく。  
「…っ……、ど、どぉ…?」  
乳房を両手で支え、上目遣いに私の顔を覗き込む野乃。  
ふるん、とその膨らみが揺れるたび、私の先端から電流が走り、全身を震わせた。  
息が、荒く、なる……。  
…激しく息遣いをする私の口を塞ぐように、乗りかかってきた彼女が深く口付けてきた。  
両手を彼女の滑らかな背中に這わせ、ぎゅっと抱きしめながら、彼女の咥内を嬲り、啜る。  
……酸素が、足りな  
「ぶはっ!!……み、れい」  
私の真上。野乃の両眼には、紅潮し、だらしない表情をした私が映っている。  
…やだ、なぁ……今の私、こんなに、乱れて……。  
「……あんまり、見つめ、ないで」  
「…綺麗よ、美麗……そして、妖艶で、扇情的だわ」  
「…のの、こそっ」  
彼女の背中を撫でる。ぽたり、ぽたり……その剥き出しの背中から  
汗が垂れて、私たちが横たわる床を濡らす。  
…ふと、冷静さが戻りかける。  
「…もう、拭けば良いってレベルじゃないわね」  
「そうね……でも、なんだかもう、そんなことどうでもいい」  
潤む瞳。吸い込まれそう。  
……野乃、あんたの方が、よっぽど扇情的じゃない……。  
「…みれい、もう……私」  
私に跨る、彼女の股座が擦りあわされる度、  
その間から太股に沿って、粘着的な液体が垂れ落ち、私のスカートを濡らす。  
「……うん……の、の。私も……もう、いくところまで、いきたい。……きて」  
 
お互い自分でスカートを捲り上げ、局部を露出させる。  
そして…ゆっくり、野乃が腰を下ろすのにあわせ、互いを欲しがりあってる場所を近づけ…ぴちゃりと、密着させた。  
「は……ぁあぁぁ」  
重ね合わせるだけで……だめ、っ……高まりそうなくら、い…すごい刺激が、全身を走りぬける。  
「……いぃ……いい、わ、みれい……動いて、いい?」  
恍惚の表情を向ける彼女。問いかけに応じ、こくん、と頷く。  
「…じゃ、ぁ、動く、わ……ひ、ぁぁぁ!!」  
少し腰を前後させ、秘部を擦り合わせただけで、体中を震わせる野乃。  
ぽたり、ぽたりと垂れ落ちる汗……もう秋も過ぎているのに、私たちの周辺だけは真夏のように暑い。  
「……ぁ、はぁ、……ぁあ」  
「の、の……もぉ、だめ?」  
「……、ま、だ」  
ぐっと力を全身にかけ、体勢を整える。  
私はその身体を包み込むように抱きしめると……私の胸の中に、彼女の身体を迎え入れた。  
「…楽にして…いいのよ。ゆっくりで、いいから」  
「み…れい」  
抱き合い、見つめあって……また私たちは、唇を重ね、舌を深く絡めあう。  
繋がってなくても、こんなにも感じる一体感……いとおしい。とてもいとおしい、あなた……  
「…っは……ぁ、ぁっ、んっ、っハ」  
「……ん、んんっ!く、ゥ……みれい、み、れいぃ」  
「の、の……のの……ぉぉ……!」  
互いに、息を切らせながら、想い人の名を呼びあう。  
擦れる秘豆。高まりが、湧き上がり、押し寄せる……押し流される……!!  
「……んっ、はぁあぁっ…………ッ!!!」  
まっしろになって、飛ばされていく意識。ふたりの高まりの嬌声が重なった……気がした。  
 
「……まさか、この時期になって、ジャージで帰るハメになるとはね」  
私の愚痴めいた台詞に、野乃がくすりと笑う。  
「いいんじゃないかしら?私は、なんだか…演劇部にいた頃を思い出したわ」  
言って、遠い目をする野乃。その表情は晴れやかだ。  
演劇部にいた頃、か……  
彼女が辞めてから、私はずっと、後悔しながら毎日を過ごしてきた。  
もう少しで、彼女と過ごしたあの日々さえ、黒く染められるところだった。  
…でも、彼女は、後悔など微塵もしてなかったんだろうな。  
だからこそ、あの日々もまた、彼女の中では、きっと美しいままで。  
「……そうね」  
私も微笑み返した。  
今だったら、胸を張って言える。  
失ったものも多い。心残りや、未練もたくさん残ってる。  
…でも、私は後悔していない。  
彼女と出会えてよかった。彼女を演劇に導いてよかった。  
彼女と高校生活を過ごせてよかった。彼女と、同じ道を歩めて、よかった……。  
「…ほら」  
目尻を、不意に拭われる。いつの間にか、泣いていたのだろうか。  
「…ねぇ、野乃」  
「?」  
「私、頑張るわ。意地でも、あんたと同じ大学へ行く。  
 …だって、高校生活は終わっても、あんたとの人生はまだまだ、終わらないもの」  
「…美麗、貴女いつまで、私と一緒にいる気なの?」  
「……いつまでも」  
「……」  
一瞬、野乃の頬が紅潮したような気がした。が、それを確認させる間もなく、  
彼女はすたすたと歩いていってしまう。  
「待ってよ、野乃っ」  
 
そうだ。私たちの人生は、これからも続いていく。  
心残りがあったぶんは、これから埋め合わせをしていこう。  
そのための時間は、これからもたくさん、用意されているんだから。  
 

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