「くそぅ!よくも僕の脚本をめちゃめちゃにしてくれたな神奈のやつめーーー!!」  
 
 
そう叫び、パソコンのキーボードを打つのは、悲劇の赤ずきんを別の意味で悲劇にされた演劇部の脚本担当、木野である。  
 
 
「いつもチビメガネ、チビメガネと馬鹿にされてるのを我慢して主役の赤ずきんをやることまで賛成してやったのに、  
できもしないアドリブなんかでぶち壊しにしやがって!10分だぞ!?  
一時間枠の高校演劇大会で見たどうしようもなくつまらない短い劇でも30分はあったぞ!!」  
 
 
木野はキーボードを叩く速度を上げ、一気に文章を書き上げていく。  
今、彼を突き動かしているのは、初めて自分の脚本が採用された劇をたった一つのアドリブでめちゃめちゃにされた怒りと、  
 
 
「まあいい…。赤ずきんの脚本を作るとき、たっぷりとインスピレーションを刺激させてもらったからな…。  
くっくっく、我ながらあの獣姦される神奈は傑作だった」  
 
 
湧きあがる妄想力である。  
そう。演劇部で脚本を任され、毎日ちとせにチビメガネと呼ばれている彼は、  
憂さ晴らしにちとせを陵辱する妄想を書き連ねることで日ごろの恨みを晴らしているのだ。それにより、彼のインスピレーション(妄想力)は更なる飛躍をし、  
結果として彼の脚本を書く能力は、日々、さらなる高みへと上っていく。彼の書く脚本と、怒りと陵辱心によって書かれる妄想は、同じコインの裏表なのだ。  
しかし新歓公演の脚本が完全オリジナルではなく、童話をモチーフにしたパロディだったのは、彼が童話・民話が好きだからなのと、妄想がヒートアップしすぎて気がつけば朝、ということがほぼ毎日続くので  
一から脚本を作っている暇もなく、書かれた妄想から劇に使えそうな箇所を繋ぎ合わせ、大慌てで脚本をでっち上げたからである。  
日々高まっていく創作力によるオリジナル脚本は、しかし残念なことに当分日の目を見れそうにない。  
ちなみに、彼がまともに眠れているのは昼休みと、チビメガネと言われることのない土曜、日曜だけである  
 
 
「せっかく神奈に仕返しできると思っていたのに、なんのために今回主役をやらせたと思ってるんだ。  
…はぁ。これで当分仕返しはおあずけだな」  
 
 
彼が主役の赤ずきんをちとせが演じることに賛成したのは、日ごろの恨みを自分の脚本によって晴らすためだった。  
主役をやることを願っていた彼女に主役をやらせ、その舞台でちょっとした失敗をさせて落ち込ませようと、ちとせの早口言葉の練習から知った  
苦手な言い回しのパターンをいくつか台詞に入れておいたのだ。  
もちろんそこをしっかり言えるよう練習も多く行われたが、一年たって直らなかったものが今更直るはずもなかった。  
 
「勢いに乗ればどーってことないわよ!」  
 
リハーサルでもしっかりとちり、それでも明るく振舞っていたが、内心は気が気ではなかったはずだ。  
 
「初めての主役、それも新入生獲得の要である新歓公演でわずかでもとちれば、さすがの彼女もしばらくはおとなしくなる。」  
 
お客さんに感動を与えることも楽しみだったが、ちとせが台詞を噛んだときの反応も、実は楽しみだった。  
しかしその目論見が神奈自身の手であっさりぶち壊され、お客さんには呆れられ、追い討ちをかけるように一年生二人がやめてしまったことで、  
今や彼の怒りは限界を超えて逆巻き、妄想力は更なる次元へと押し上げられていった。  
。  
 
 
「アドリブの失敗も、苦手なところを言わずにすむようわざとやったんじゃあないだろうな?  
………しかし神奈のやつ、赤ずきんの衣装よく似合っていたな。それにさちえ先輩の狼姿もよかった。ケモノミミがあんなにも  
グッとくるものだったとは知らなかった…。思い出すだけでますますインスピレーションが高まってくる。  
だが、まだだ!まだ足りない…!!  
もっともっとインスピレーションに刺激を与えなければ…!!!!!さあ、今夜はどんな話で懲らしめてやるか…。  
……そうだ、シンデレラだ!!  
魔法使いのおかげで舞踏会に行けるシンデレラ。しかし舞踏会に行く目的は王子をかどわかすためだったと知った魔法使いに呪いをかけられ、夜だけ魔法使いだけの馬になる…。  
クル、クルぞ!インスピレーションがどんどん湧いてくる!!くっくっく、僕の妄想力を甘く見るなよ、神奈。今日はバックからたっぷりとぶち込んでやるからな!いい声でないてくれよ!!  
そうだ、今度のショートストーリーでもあいつには馬の役をやらせよう!台詞はヒヒーンだけだ。  
みんな神奈に不満を持っているからな。おそらく満場一致で決まるはずだ。ざまあみろっ!くっくくく、はは、あははははははははは!!」  
 
 
こうして今日も、ヒートアップしていく悪い魔法使いの指使いによって明け方まで神奈は陵辱され、ついでに脚本もできていくのである。  
 
後に彼は名のあるエロ童話作家として広くデビューすることになるのだが、それはまた別の話である。  
 

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