「ふぅ……」  
熊鷹芸術学院の放課後、演劇部元部長の榊美麗は一人演劇部の部室でため息を漏らす。  
キリリと整った、男役に向きそうな顔が緩む。  
(気になってきて見に来たけど、やっぱり幸枝はいい加減ねぇ……春子はともかく)  
彼女としては貴重な受験勉強の時間を割いて抜き打ちで見に来るのに、部活自体がなぜか始まっていないのはいただけない。  
普段はたくさん人がいる場所に、一人でいるのは寂しいものだ。  
(とりあえず、もう少し待ってから帰るとするか……)  
そんな結論を出した彼女は長机の上に参考書で重くなった鞄を置くと、  
つい最近まで自分が部長だった部の部室の、粗探しを始めることにした。  
(暇つぶしには、ちょうど良いかもね)  
もしかしたら、この作業をしている内に誰か一人くらいは変わり者が来るかもしれない。  
小道具や衣装の状態をチェックし、今練習しているらしい台本を読んでみる。  
どうやら、みんな自分がいなくなった後でも十分に頑張っているようだ。  
自分の教えたことが受け継がれているのは嬉しいことで、思わず微笑みがこぼれる。  
しかし……自分の居ない場所でも、時間は平等に過ぎていく。  
それは当然のことなのだが、自分が後輩にとっては少しずつ過去の人間になっていくのがわかるようだった。  
少しだけ感傷的になった彼女は、次に部のアルバムが収められた棚に手を伸ばしていく。  
そう、まだ野乃と一緒の舞台にいたあの頃が懐かしくなって……  
 
 
――とても懐かしそうな、しかしどこか少し遠くを見ているような目で美麗は演劇部のアルバムを読んでいた。  
まだ、自分が『彼女』と一緒にいた頃の写真が沢山載っている、少しだけ古びたアルバム。  
それらに収まっている写真を一つ一つ、入部したての頃のモノから順々に見ていく。  
すると、美麗の口元に小さな笑みが浮かんだ。  
 
(ふふ……野乃って、この頃は特別に愛想が無い顔ね)  
 
彼女が見ていたのは、一年生の頃の自分と野乃が映っている写真だった。確か、何かの打ち上げで撮られた写真だったろうか。  
自分は今から見たら恥ずかしいくらいにとても喜んでいるのに、野乃と来たら普段とさほど変わらないような顔をしているのだ。  
その二人のギャップというか、性格の差は当時から感じていたけれども、それはとても可笑しくて、大切なものに思えた。  
凸凹コンビというか、お互いに無いものを補いあっていたと言えば良いのだろう。  
 
……美麗がそんなことを考えながら徐々にアルバムを読み進めて行くと、あることに気づいた。  
アルバムの最初の頃は映っている箇所が自分にくらべてやや少なく、表情も乏しかった野乃が、  
やがてアルバムのたくさんの箇所に映り初めてきていたのだ。しかも、自分の隣でにこやかに笑っている写真ばかりだ。  
そんな鮮やかな変化に、美麗は思わずハッと驚く。そしてその驚きは、温かい感情の流れとなって彼女の心を満たす。  
 
(あの子……笑って、る‥‥)  
 
自分の記憶と照らし合わせてみても、時が進むごとに野乃の表情が明るくなり、演技の腕も自分と並ぶようにメキメキと上達していた。  
二人で演劇というモノに、間違いなく全身全霊をかけて打ち込んでいた時期であった。  
……登場人物の心情の解釈とその演じ方について一週間も揉めたり、夏の合宿で野乃のした怖い話しがあまりにも恐ろしかったり、  
テスト勉強の時間を削って練習しまくって、結局勉強の方は野乃の家にお泊まりしてまで教えてもらってなんとか助かったり……  
たしかそういう思い出のある時期だったと美麗は思い返してクスりと笑った。  
美麗はふと、自分が野乃を演劇に誘った時の文句を思い出した。  
 
(自分じゃない自分になれる、か……)  
 
……同じクラスの隣の席だった、無口で表情に乏しいけれどしっかりしている女の子。  
試しに演劇に誘ってみたら、まるで予想していなかった所まで『二人』で来ることが出来た。  
こんなにも毎日が楽しくて、演劇に誘ったことは間違いじゃないと思えた。  
 
そう、『あのこと』が起きるまでは―――  
 
 
 
 
野暮用があって演劇部を訪れた野乃がドアを開けると、そこでは……  
「……あなた、自分の部室で一体ナニをしているの?」  
秘め事の真っ最中だった美麗は、野乃の存在に気づくと心臓が止まりそうなほど驚いた。  
「ビクッ! い、いやあぁっ〜〜…‥‥!  のっ、野乃! これは、その……ひやぁんっ!」  
野乃は後ろ手でドアを閉めると、いきなり近づいて美麗の耳たぶをチロリと舐め上げ、既にブラジャーがずり下げられた胸を揉みほぐす。  
「ふふ、美麗ったら、一人でこんなになるまで感じて……私に黙って」  
「ちょ、ちょっと待っ……!」  
「‥‥駄目」  
野乃はそう言いながら、さりげなく美麗のショーツの中に右手をスッと差し入れ、  
程よく湿っている美麗の秘泉を容赦なく、しかし爪で傷つけないように滑らかに弄る。  
クチュッ……クチュクチュ! グチュッ……  
「の、のの、やめ……あ、やぁ、んっ……! おねが‥‥」  
「イヤ。 私が人の言うことを聞かない性格なのは、あなたが一番知ってるでしょ?」  
グチュッ……グチュ!  
「ふわ、ぁぁんっ!  だからってだめっ、こんな……!」  
美麗は、自分の心を奪われている当の相手になすがままにされて、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めていく。  
美麗というかけがえの無い親友の乱れた表情を見た野乃も、もはや正しい精神を保てずにこんなことを言い出す。  
その言葉は、二人に一線を越えさせようとするものだった。  
「じゃあ……スケベな美麗部長が、一体何を考えて部室でこんなことしてたのか、ちゃんと詳しく教えてくれたらやめてあげてもいい」  
「……!?」  
……最近までひどく仲違いしていて、やっとまた近くなれた親友。  
せめて卒業まで、もう離れないように、その親友の心も体も自分のモノにしていたい……  
 続く?  
 
 

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