「俺が次に作りたいものは、あれしかない ── 人間狩りだ」
2155年、立体テレビ局の番組制作を手がける男、青居邦彦は自らの手で人生を狂わせた。
画期的と信じたアイディアは、彼の遺伝子からクローンがつくられたことから暗転する。
犯罪者となった彼は捜査の手を逃れ、山中に身を潜めて生きのびた。
しかし事態は、それで治まりはしなかった。
青居の複製をハンターが仕留める様子を、街中で待機する多くのテレビカメラが追う。
殺人を娯楽化した番組は、15年ものあいだ高視聴率を保ち、更に陰惨な企画が実現に向けて動いていた。
自分の愚かさにようやく気付いた彼は、爆破装置を体に仕込み、クローン人間の製造工場へ向かった。
計画は成功し、工場の生産ラインは全壊した。
こうして青居の存在は消えた。 ── 赤の他人である彼を「とうさん」と慕う少女、ジュネを残して。
「お嬢さん、あんたこれからどうなさるね?」
山で負った傷が癒えて退院するジュネに、病院長が尋ねた。
その問いに、もといた場所に戻ると答えたけれど……本当のところ、どうしていいか分からない。
たった一人で、山中の暮らしが成り立つとは思えない。
3歳まで住んでいたとはいえ、都会での生活もほとんど経験がない。
街の中へ歩き出したはいいが、ジュネは途方にくれて足を止めた。
「…とうさん、帰ってきて…」
病室で最後に交わした会話、優しく髪を撫でてくれた時の、思いつめた表情。
静かに触れ合った唇の感触もまだ思い出せるのに、その人はもうこの世にいない。
涙を拭いもせず、立ち止まったままのジュネに、後ろから声を掛ける男がいた。
「お嬢さん、あんたこれから何処へ行くつもりだい?」
「どこだって、いいじゃない!」
振り返ったジュネの前に、死んだはずの青居の姿があった。
「威勢がいいな、安心したよ」
驚きで肩から落ちたバッグを、彼は「左腕」で拾い上げ、ポンと手渡す。眩しげに目が細まる。
ジュネは言葉を失い、体をぶつけるようにして抱きついた。
灰色がかった低い空の下、一台の車が滑るように移動していく。
ひとたび事があれば大騒ぎになる街も、沈黙を保っている間は、季節や時間と無関係のふりをする。
車を運転する青居の横顔を、ジュネはじっと眺めていた。 次々とわく疑問を、何から尋ねてみようか。
「今日から、ここで暮らすといい」
喧噪から少し離れた地にある住居の前で、青居は車を停めた。
「…どうした、気分が悪いのか?」
怪訝な顔でのぞき込まれ、ジュネは我に返り、無理に笑ってみせた。
外見の一部が変わっていても、以前と同じように接する青居が別人だとは…やはり思えない。
「俺に用意出来たのは、当座の生活費とこれだけだ」
明るい色で誂えられた室内は、家具も備品も全て真新しい。
過去に人気プロデューサーとして派手に暮らしていた彼には、もちろん贅沢なものではなかった。
当然ながら機械全般に疎いジュネのために、特製のマニュアルが置かれる。
「さて、行くとするか… それじゃあ、元気でな」にこりと笑い、青居は立ち上がった。
「えっ?これから、ずっと一緒にいられるんじゃないの?」
あまりに唐突な別れの挨拶に、ジュネはびっくりして目を見張った。
「そりゃァ…、無理ってもんだ」
視線をジュネに戻さず、青居は上着の襟を直す。
「ジュネには、とうさんしかいないもん! ね、どうして無理なの?」
細い体の何処にそんな力があるのか、両腕でしっかりと青居をつかまえ、こっちを向いてと揺さぶる。
ふわふわした綿雲のような髪を乱し、ジュネは今にも大雨寸前という顔をした。
「俺は“とうさん”じゃない、…もちろんクローンや、幽霊でもない…、ただの死にぞこないだ」
あえて聞かずにいたことが、その口から出た。 ジュネの理解を超える返事だった。
「あの、言ってること、よく分からない…」
「そう、何にも分からなくていいんだ」青居の顔は、俄に厳しくなった。
「でもこの手は…、とうさんだわ、違うの?」
くすり指の欠けた右手。 その爪の形、指の長さまで、全て記憶の通り。だが、決定的な違いがあった。
失ったはずの左腕が、この男にはある。
振り払いかけた手を止め、青居がジュネの体を反転させた。
「…そんなに、知りたいか?」
離れた場所にある姿見に、二人の姿が映っていた。
不安げな顔のジュネの後ろに、渇望と劣情をない交ぜた表情の青居。
自分に向けられた強い眼光にも、ジュネは小首を傾げ、意味をつかみかねていた。
引き留めた相手に、拒否させるつもりはない。
驚くジュネから、青居は着衣を一枚ずつ奪っていった。
覆うものを失くした裸体は、小鳥の繊細さと、猫に似た丸みを備えていた。
よく熟れた胸は、正面を向いて盛り上がり、その先には薄赤く色づいた乳首がある。
野育ちで締まった脚も、腿から足首まで無駄のない線が、なめらかに続く。
髪と似た明るい色の恥毛からは、微かに秘裂が透けて見える。
一糸まとわぬ姿を青居の視線にさらし、小さな歯がかちかちと音を立てていた。
さながら、咲いたばかりでまだ雨風を知らず、真っ直ぐに立つ若い花。
柔らかい肉の奥には、本人もまだ気付いていない、甘酸っぱい蜜を隠し持っているに違いない。
青居の頭に、他の男がジュネの体をいいように扱う様が思い浮かんだ。
そいつは柔らかい髪に指を通し、唇を荒っぽく貪り、細い手首をシーツに押し付ける。
苦しげな声に荒い息が被さり、絡んだ手足の中心から、いやらしい音が零れ出す……
………俺が、ずっと面倒を見てきたんだ。 むざむざ他人にくれてやるなんて、馬鹿げてる!
どす黒い感情が胸の内にわき起こり、青居の顔を険しくさせた。
「とうさん、怖い顔はやめて、……それに、こんな格好…」
戸惑うジュネに構わず、巻き毛を押しやり、うなじに舌先を這わせてやる。
口中に入った襟髪を吐き出し、耳に吸い付く。
男の大きな手からもこぼれんばかりの乳房は、容赦なく揉みしだかれ、重く揺れる。
十分過ぎるほど成長した体とは不釣合に、無垢なままの気持ちは、ひたすら青居を恐れていた。
ゆっくりと床に座らせると、皮膚の上を光が波打ち、ジュネの全身をみずみずしく彩る。
肌は鏡の中で陰影を濃くし、更に生々しく曲線を強調した。
柔らかい下腹に手を進めると、いやっ、という小さな拒絶の声があがる。
しかし、一番触ってやりたいところがそこだ。 いったいどんな風に反応するのか、それとも……
「脚を開いて…、よく見ておくんだ」
左右に押し開かれた陰部は、半透明の粘液に静かに守られていた。
秘裂の奥をさらけ出したまま、どうにか姿勢を保つジュネの唇がわななく。
よく似た部分を見せつけるように、青居の中指が半開きになった口元に入り込む。
唾液で濡らした指先は陰部の肉をゆっくりと擦り、優しくいたぶる。
「…あぅ、……っ!」
鏡に映る上下の紅い肉は、それぞれに液体をじんわりと 端からこぼし始めた。
青居の指が、ぬかるみの中の小さな突起を探りあてると、細い体がビクンと跳ねる。
「ぃやぁっ!……とうさん、駄目ぇっ!」
口端を濡らしたまま、涙目のジュネは懸命に脚を合わせようとした。
半透明のゼリーを含んだ場所は、隠すことを許されずに赤みを増す。
ジュネはたまらず片腕を背後の青居にまわした。
青居の頭をかき抱き、もう片方の指先は繰り返し青居の手首にくい込む。
暴れる獲物をしっかりと抱え、太い指は敏感な場所をぬめぬめと捏ね回す。
かすれた声が短くあがるたび、細い手は力を強めて解放を求めた。
充血し、膨らんできた周囲をえぐると、柔らかい肌から汗がふき出す。
「あぅっ!い、痛っ、……もう、は、放して…」
鏡の中の青居に咎める視線を向け、ジュネは泣き声で懇願した。
それでも、腰がくねるたびに潤みが秘裂を満たし、油脂を塗り付けたように光らせる。
「力を抜くんだ」
低く平坦な言葉とともに、指がぬるりと滑り、膣口の中を侵攻する。
「くうぅっ、……!」
空間に響いた小さな悲鳴も気にせずに、緩慢な動きは奥まで掻き混ぜた。
指を増やし、拡げながらなぶると、ジュネの陰部はくちゅくちゅと音を立て、とろけていく。
左右に細かく揺り動かされ、ジュネは堪えきれずに胸を突き出した。
「あ、とうさっ、…はあぁぁっ…!……」
悲しい程うわずった声を上げて、ジュネが体を震わせた。
背後の青居に汗ばんだ肌を付けたまま、鏡の中で、痴れた視線を宙に送っている。
長くもれた吐息の甘さと、濃い愛液から漂う淫らな匂いは、激しく青居を煽った。
下衣をはだけると、強張った肉柱が現れた。 ぎゅっと血が集まり、更に存在を主張する。
「…どうして、帰してくれなかったんだ、俺を…」
青居は睨むようにジュネと向かい合い、そのまま床に身を横たえさせた。
首筋を甘噛みして抱き寄せると、反り返ったものが互いの下腹に触れる。
「えっ?……とう、さ…」ジュネは身を退こうとした。
だが、もう待つことは無理だ。青居はジュネの口角を舐め、唇をぴたりと重ねた。
「んん、んぅっ!……」
塞がれた口からは声も出せず、ただ喉の奥で押し殺される。
肉の裂け目に沿って尖端が滑り、早くも滴を滲ませて入り込む隙を窺う。
ぬめりは混じり合い、肉芽からすぼまり近くまでを、やんわりした摩擦が往復した。
腫れぼったい肉と狭い膣口は、やめてといわんばかりに軸の尖端をはじき返す。
しかし入り口を求めて、とうとう強張りが肉片をこじ開けた。
「くうぅっ!…あ、やっ…、あぁ!……」
跳ねるようにジュネの体が反り、絡まっていた舌が遠く離れる。
肉の反発の強さは、そのまま全身で感じる痛みに等しいはず。
青居はどうにか宥めようと、ジュネの細い顎に、肩先に、歪んだ口元に、下唇を押し当てた。
体を震わせてしゃくり上げながら、それでも青居にしがみつくジュネは、15年前に戻ったようだ。
寄る辺のない身となった幼い子、ほんの小さな手で腕を引っ張り、ついて行くと泣いた少女。
おじちゃん、という呼び名はいつの間にか「とうさん」に格上げされ、成り行きとはいえ生活を共にした。
長く続いた悪夢に耐えられた理由は、この無垢な娘の優しさの他にない。
交わりの痛みに耐えるジュネも、ようやく青居が滲ませた涙に気付いた。
抱き締める腕の中にある柔らかな肢体、合わさった胸の暖かさ。
触れ合う肌の全てが、青居の体の細胞一つ一つが、深い感激の中で、しみじみと震える。
少しずつ肉柱は吸い込まれ、奥へと迎えられた。
「う、……うぅんっ、と、とうさん…」
拒否の鼻声は、徐々に甘い喘ぎ声に変わっていった。
ぬめる通り道は混乱しながらも、硬い軸の動きを受け入れる。
もっと絡みついて欲しくて、青居は緩やかに揺すってみた。
ちゅくっ、ぬちゅ、いやらしく濡れた音が遠慮がちに響く。
「んっ、……ぐ、…」一瞬、青居は静止した。
柔らかいヒダが、くびれた部分を舐めるようにまさぐっている。
浅く、深く、内側の熱さを残らず味わいたい。
突き動く貧欲な塊を、いつしか不慣れな収縮が包みこんだ。
「あう、…やあぁ、あ、あぁっ!……」
自分の奥の変化に翻弄されるまま、ジュネは青居を喰い締めはじめる。
遠くへいきそうなジュネを引き降ろそうと、しっかりと腰を捉えて自らを叩きつけた。
たまらない熱さと快さに浸りながら、ジュネの様子を見下ろす。
ふんわりと広がった巻き毛の中心に、眉をきつく寄せた娘の顔。
それは、この手で育てて摘み取り、悦びを教えた女の顔。
こんなに愛おしいものが、他にあるだろうか。青居は己を繰り返し送り込む。
「と、…とうさん、大好き、…傍に、いてね……」
ジュネの内部が青居をより深く強く引き寄せた。長い睫毛の間から、澄んだ瞳がこちらを見つめる。
大事な者の願いなら叶えてやりたい、だが世の中には不可能なことばかりだ。
青居は哀しげに眼を瞑り、丸い乳房に頬を寄せた。あと数回動けば、ジュネの中で極まる。
息を詰める。肉柱の付け根奥から、白濁が駆け上がるのを感じる。
「ジュネ、……っ!」
二人の心身は絡み合い、細かく震える。長く引きずる喘ぎの中、浮き上がる程の愉悦をさまよった。
浜辺で息絶えたように、くったりと横たわった体を、青居の腕が抱きかかえ、そっと寝室に運ぶ。
「…ね、……ずっと一緒よ?」
ジュネにはそれだけ言うのが精一杯だった。
青居の表情を確かめる前に、彼女の意識は少しずつ薄れていった。
眠りにおちたジュネを眺め、くるんと巻いた髪の手触りをしみ込ませるように、青居はしばらく指を絡ませていた。
ジュネが気付いたとき、青居の姿は無かった。
そこにいたという確かな証しは、微かに捩れたシーツの他にない。
それも今は体温を失い、ひんやりと沈黙している。
ジュネは飛び起き、辺りを見回す。…本当に、本当に誰もいないの?
物音に反応し、数カ所から光がぱっと投射された中に、青居の姿が浮かび上がった。
「……とうさん!」 大きく叫んだジュネは、それが旧式のホログラフィだと気づき、その場に立ちすくんだ。
「ジュネ、起きたか?すまん、…いろいろ、脅かしちまったな」
光の中で、青居が話しかける。微笑む口元は、少しだけ歪んでいる。
「正直、自分でも俺が誰だか、よく分からん。…思い出せるのは、
一度でいい、お前を“両腕で”抱きしめたいと願っていたことだけなんだ」
揺らぐ映像が、ぽつぽつと言葉を続けた。
爆破計画の前に、なんとかこの住居を手に入れたこと。
名義はジュネのものだから、安心して住めること。
自分のクローンに向かって爆薬を振り上げたのが、最後の記憶であること。
見知らぬ場所で眼が覚めたとき、片腕が戻っていたこと。
「俺は分かったんだ、あの罪は一度死んだくらいじゃ償えないんだ、と」
青居は顔を伏せた。
「こんなこと言える義理じゃないが、俺のことは忘れるんだ、…分かったね?」
…それじゃあ、元気で。
挨拶の語尾は震え、拡散する映像が、溶けるように消えていく。
慌てて伸ばした腕は空を切り、床に座り込んだジュネは、代わりに自身を抱き締めた。
「ひどいわ!…まだ、まだあたし、何にも分からないのに!…」
泣き崩れながら、それでもジュネはたった一つだけ、希望を見つけた。
とうさんが何度も生まれ変わるのなら、あたしも同じように生まれ変わるはず。
いつか、きっとまた逢える。そのときお互いが違う姿になっていようと、絶対に見つけられる。
「忘れないもん、…絶対に」
悲嘆の表情は徐々に消え、未来を信じる強さを取り戻した瞳が、淡い光を受けて輝いた。