もう何億年生きて来ただろうか。そして、その間に起きた事柄のどの位を記憶に止めているだろうか。  
そんな事を考えながら、私は今日も私以外に生命の存在しない世界で生きる。私の名は山之辺マサト。  
この星に使命を与えられた男。だが、その使命にも些か飽きた。私は暫し、未だ鮮明に残っている記憶に思いを馳せる事にした。  
 
*****  
 「ねぇ。マサト、今夜は何が食べたい?」  
メガロポリスヤマト。それが、僕達の住んでいる都市の名前だ。僕はここで宇宙戦士の一員として暮している。  
傍らの美女はタマミ。最初は高価なペット位にしか考えないで、こいつを飼い始めたんだが、最近ではどうにも情が移っちまって、恋人の様な気さえしてくる。  
そう、始めは御袋を亡くした寂しさから、何処かの惑星で発見されたムーピーと言う生物を手に取ったのが、始まりだった。  
タマミは人間では無い。ムーピーと言う他惑星の不定形生物だ。美人なのは当然で、僕の思い浮かべた最高の女の像を読み取らせて、形を取っている。  
だが、彼女と暮らし始めて気が付いたが、彼女の本当の魅力はその美しい外見よりも、寧ろ内面に在った。  
本当に僕の事を愛してくれて、労わってくれる。その癖自分は常に控え目で、見返りなんぞ求めない。  
毎日の激務からの帰宅も、こいつの顔を見れば、一発で疲れが吹き飛ぶ程だった。今日は、そんな彼女と『永遠の都』の街をデートしていた。  
「あら…マサト、見て!この唐揚げ用ゴキブリ、凄く美味しそうよ」  
タマミは初めて見る露天市にすっかり夢中で、もう僕は何を幾つ買わされたか覚えていない位だった。  
「そうだな、今夜はゴキブリにするか。オヤジ、このゴキブリ、500g量り売りで」  
「兄ちゃん達、夫婦かい?目の付け所が良いねえ。こいつぁ、正真正銘のヤマト産天然の、チャバネゴキブリさ!」  
『夫婦』と言う言葉を聞いて、顔に血が上って来る。恐らく、今の僕の顔は真っ赤だろう。隣のタマミを見ると、タマミも耳の先迄真っ赤にして、  
目を泳がせていた。僕は、そんなウブな人間らしいタマミの性格が本当に愛しく思えた。  
 
 「御馳走様!いやぁ、美味かった。やっぱりタマミの料理は最高だよ」  
「御粗末様。ふふ…嬉しい。有難う、マサト」  
タマミは、褒められる事に慣れていない為か、両手を真っ赤に染めた頬に当てて恥ずかしそうにしている。だが、その顔は本当に嬉しそうだ。  
人間の社会に溶け込んで日の浅いタマミは本当に素直で、全く飾り気や見栄と言った物が無い。  
そんな、本物の女には無い魅力を兼ね備えているタマミへの俺の好意は徐々に増していった。  
「マサト、お腹が落ち着いたら、ムーピーゲームをしましょ。今日は何処へ行こうかしら?」  
タマミは楽しそうに、千年前の観光地の資料を漁っている。  
ムーピーゲームと言うのは、ムーピーと他者の意識をシンクロさせ、ムーピーの意識の先導に依って、両者共に望んだ夢を見る、と言う遊びの事だ。  
勿論、タマミは僕を楽しませる為に、これをしてくれている。何て健気な娘なのだろうか。僕も彼女に何かしてやりたかったが、俺に出来る事と言っても、  
そんな物は限られていた。そして、僕は思い切って彼女に言い放った。  
「今夜はムーピーゲームはしない」  
 
 少し、言い方が意地悪だったか。タマミの悲しそうな顔。構って貰えないと思ったのだろうか、何も言わずに、僕の次の言葉を待っている。  
「そんな顔しないでくれよ。唯さ、今夜は夢の世界じゃ無くて、現実の世界でタマミを愛したいと思ってね」  
「マサト!!マサト!マサト…マサト…」  
僕の名前を連呼しながら、僕の胸に飛び込んで来るタマミ。こいつは、本当に僕の事を想ってくれている。  
僕は華奢な彼女の身体を壊れてしまいそうな程強く抱き締め、決意した――彼女を一生愛し続けると。  
彼女は勿論同意してくれるだろう。亡くなった親父や御袋は、僕と地球外生命との愛を悲しむだろうか…いや、きっと祝福してくれる。  
相手が何であろうと、これは間違い無く本物の愛なのだから。  
 
 そっとタマミの麗しい唇に指を触れる。柔らかく、弾力の在るそれは、優しく僕の指を受け止めた。  
「やだ、口紅付いちゃうわ」  
やんわりとその指を拒むタマミ。だが、その表情は決して嫌がってはいなかった。  
「構うもんか」  
僕は半ば強引に彼女と唇を重ねる。唇を触れ合わせるだけのキス――彼女は固形物を口に含めない。  
タマミは少し驚いた顔をしたが、すぐにそれに応え、積極的に唇を触れさせて来た。  
僕等はその侭ベッドに倒れ込み、強く抱き締め合った。彼女の美しい鼻孔から吐き出される吐息が、僕の顔を撫でていく。  
それで彼女が興奮している事に気付いた僕も益々興奮してしまった。  
 
 今、僕が見ているのは、ムーピーゲームの幻では無い。本物、現実だ。僕は自身にそう言い聞かせた。  
「綺麗だよ、タマミ」  
「もう、マサトったら。でも、良かった……」  
タマミは眉をハの字にして照れている。彼女の裸体は本当に美しかった――比べるのは良くないと判ってはいても、今迄僕が見て来たどんな女性よりも。  
染み一つ無い、真っ白な肌に程好く膨らんだ乳房。その上に、可愛らしく飾りの様に乗っている小さな桃色の乳首。  
しなやかに括れた腰から、ふっくらと優しげに膨らんだ尻へのライン。秘部を隠すのに全く役に立っていない控え目な陰毛……  
それ等全てが僕を魅了した。僕は彼女の顔の作りこそ口出ししたが、それ以外は、彼女が自分で人間を勉強して作り上げた物だ。  
女性としての性別を持つ彼女はやはり、美しく在りたいのだろう。その勉強の成果は見事と言う他無かった。  
僕はタマミの薄い両肩に手を伸ばし、優しく抱き締める。  
「タマミ、好きだよ…」  
「私もよ、マサト」  
衣服を介さない抱擁が齎す快楽は、先のそれとは比べ物にならなかった。僕は抱き締めているその腕を、彼女の背中から腰へと移動させ、  
その美しいラインを優しく愛撫した。彼女はそれに応える様に息を荒げ、僕の背中を掻き毟る。見れば、薄らと彼女の全身は紅潮を始めていた。  
僕はその体を抱き寄せ、彼女の乳房を胸板で押し潰す。僕の胸板に伝わるその感触は、何物よりも柔らかく、その頂点に鎮座する乳首は、  
刺激を欲するかの様に、堅く勃ち上がっていた。  
 
 密着した体をゆっくりと離し、彼女の乳房に手をやる。見る者にふわふわとした印象を与えるそこは、見た目よりも遥かに弾力が在り、  
優しく揉み潰す僕の手が離れる度、元の完全な形に戻ろうとした。  
「あぁっ!マサト!そこ、何だか気持良いわ」  
彼女は体を作る時、医学も学んだらしく、彼女の神経の配置は、人間の女性のそれと変わり無い。本当に勉強熱心な娘だ。  
モデルにした女性が余程敏感だったのだろうか。僕の愛撫に応える彼女の反応は並々ならぬ物だった。  
「もっと良くしてあげるよ」  
と、僕は先程から自己主張を始めている彼女の乳首に唇を宛がい、それを優しく甘噛みした。  
「ヒッ!!あぁっ!何だか!いっ!へ、変になりそうッ!!ひあぁぁぁ!」  
僕が歯で挟んだ乳首をその隙間から激しく吸い立てると、彼女は両腕を縮こまらせて、体を震わせ、昇天した。  
 
 意識が朦朧としているのだろう。僕は、横たわり、ぼんやりと開いた瞳を潤ませてこちらを見詰めるタマミの優しくカールした髪を撫でてやり、  
彼女の頭を胸に埋めさせてやった。暫くして、漸く落ち着き始めたのか、彼女が口を開く。  
「資料で勉強はしてたけど、こんなに気持の良い物だったのね。私のムーピーゲーム、まだまだみたい」  
そう呟く、彼女の顔は、とても満ち足りていたし、僕も彼女に悦びを与えてやれた事が何よりだった。彼女は続けて言う。  
「でも、『本番』って言うのはもっと凄いんでしょ?ねぇ、続きをしましょう。私もマサトを気持良くしてあげたいから」  
 
 今、僕の目の前にはタマミの秘部が開いている。興奮の為に、ヌラヌラとした愛液を纏ったそこは、  
ふっくらとした大陰唇を充血した内側の桜色の花弁が押し広げ、頂点に当たるクリトリスは膨らみ、ヒクヒクと蠢いていた。  
ここもタマミが自分で勉強して作った部分だ。その為、まるで僕を誘うかの様な淫靡な印象を与えるデザインをしている。  
全てが完璧な彼女の中で、唯一この部分だけが『壊れている』と言う感じで、異端に思えた。  
一方タマミはと言えば、僕の股間に取り付き、怒張したペニスを慣れない手付きで撫で摩っている。  
口に物を含めない彼女は、時折自分の股間に手をやり、そこから溢れる愛液を手に取っては、僕を絶頂に導こうと悪戦苦闘していた。  
僕はと言えば、彼女と違って口も使えるし、何より経験が違うのだから、このハンディキャップの付いた勝負の行方は目に見えていた。  
タマミが必死に頑張っている姿を見ながら、彼女tが僕のペニスを握れば、僕は彼女のクリトリスを指で圧迫し、  
彼女が僕のペニスに愛液を塗りたくれば、僕は彼女の陰部全体を舐め上げる、と言った鸚鵡返しの愛撫を続けていた。  
次第に彼女の手が止まる時間が長くなり、悦楽を傍受する事に専念し始めたと感じた僕は、彼女に引導を渡す事にした。  
両手の中指と薬指で彼女の小陰唇を挟み、刺激しつつ、人差し指で陰核の包皮を捲り上げて、その小さな本体を舌で舐め、押し潰す。  
「あーっ!!あっ!マ、マサト、駄目!ダメェーー!!!!」  
彼女は体を震わせながらも、最後の抵抗を試みようと、震える手で僕自身を握り、扱こうとした。だが、それも長くは続かなかった。  
 
「これでタマミの0勝2敗だな」  
僕はそう言って、彼女に少し意地悪な笑みを向ける。  
「もう!マサトの意地悪。『本番』では負けないからね」  
そう応えて、頬を膨らませて見せるタマミ。彼女は意識していないのだろうが、その表情が又、何とも可愛い。  
僕は思わず彼女を力一杯抱き締めた。  
「マサト……来て」  
僕はタマミの秘部へ目を向け、己の怒張の先をそこへ向けた。充分過ぎる程に準備の出来上がったそこへ、ゆっくりと自身を挿入していく。  
僕はその時、妙な違和感を覚えた。  
「あれ?タマミ、初めてだよな?」  
なのに、痛がる風も無く、破瓜の気配も無い。  
「その…最初は痛い場合も在るって言うから。痛いの嫌だもの」  
どうやら彼女は、処女膜を意図的に作らなかったらしかった。  
「最初から気持良くなれる様に、ってか?淫乱だな」  
「意地悪!そうじゃ無くて……やっぱり、マサトと一つになる時は、最高の状態で居たいから…」  
タマミはそう言って、紅潮している全身の中でも、特に赤い顔を更に赤らめた。  
ペニスの進入が止まる。どうやら彼女の最深部に辿り着いた様だった。  
僕は抱き合った姿勢でタマミの上に乗り、腰を動かし始める。  
「っ!あぁっ!マサト!」  
彼女が作り上げた完璧な膣は、僕の精液を搾り取ろうと蠢き、締め付けて来た。  
彼女に何度も出入りしている内に、僕の中の欲望も高まり、思わずそれを吐き出しそうになる。  
先程あんな意地悪を言った手前、ここで負ける訳にはいかなかったが、そんな事がどうでも良くなってしまう程の快楽の嵐に襲われた。  
「タ、タマミ!もう……」  
「あっ!あぁっ!私も!!」  
タマミが絶頂を迎え、それに合わせて激しく収縮する膣に、僕は己の精をぶちまけた。  
 
「これで、0勝2敗1引き分けね」  
「まだそんな事に拘ってたのか」  
「マサトが言い出したんじゃ無い」  
「そんな事よりタマミ、死が僕等を別つ迄、ずっと一緒に居てくれるかい?」  
「でも、私と貴方じゃ子どもは産まれないわ。それでも良いの?」  
「僕は君しか愛せない。それに、愛さえ在れば、きっと何かを産み出せるさ。だからタマミ……」  
「えぇ。生まれ変わっても、愛してるわ。でも、私より先に死なないでね」  
「それは無理だよ。人間の僕は、君の5分の1しか生きられないんだぜ」  
「それでも駄目。出来るだけ頑張って生きて。私、マサトが居ない世界なんて嫌よ」  
「はいはい、解りました」  
「ふふっ…ずっと、私を抱き締めていてね」  
 
*****  
 結局、先に死んだのは彼女の方だった。どんな苦難も彼女と一緒ならば、楽に乗り越えられた様に思う。  
何時だって彼女は一緒に居てくれた。もう、あの幸せな日々は戻っては来ない。  
タマミに会いたい。もう一度優しく名前を呼んで欲しい。あの華奢な体を抱き締め、愛を語り合いたい。  
だが、タマミはもう居ないのだ。彼女は言った。生まれ変わっても愛してくれる、と。タマミを模した機械では意味が無い。  
そうだ、新たな生命を生み出そう。私は薬品棚からゼラチンとエタノールを取り出した。  
 

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