ヤァッ! と鋭い呼気と共に香蘭の手が動いた。常人ならば掻き消えた様にしか見えないだろう
その動作も、師であり癖を知りぬいた私にとっては、変哲の無い突きに過ぎない。
迫る動きにあわせて身を捻り、退く。向かってくる手を取り、くるりと力の方向性をずらしてい
なす。とっさの判断で身を退いた我が娘の反応の良さに喜びを感じながら、情け容赦なく足を払い、
無防備になった脇へと蹴りをめり込ませた。
「かぁ――――っ!」
苦しそうな声と共に香蘭の体が中に飛び、コマのように急回転する。びりびりと足が痺れた。あ
の一瞬で打点を僅かにずらしたらしい。まだ語学能力は低いが、武に限れば目覚しい進歩と言えた。
子が師を超えるのは定められたことだけに、香蘭の上達は喜ばしい事だった。そして、現時点で
は私より弱いと再確認できた事もまた、喜ばしい事だった。……これで九峪様の計画に支障が無い
と分かったのだから。
宙に廻っていた香蘭は、身を廻されるままにしていた。そのまま僅かに上体を立て直し、足から
すっと舞い降りる。
こちらを見やる娘の目は餓えた獣の様にギラついている。小気味のいい目だった。きっと復興時
の私の目も、こんな風だったのだろうと思う。夫を失い、何かを常に求めていたあの時。九峪様に
目をかけられるあの日まで、きっと――。
「私のいない間にもちゃんと腕は磨いていたようね」
「当然のこと」
にっこりと笑いながら、香蘭は手をさする。いくら巧く受けても威力は完全に殺せなかったらし
い。攻める側の私の足が痛くなるのだから当然の事と言えた。香蘭が耐えれるようなら次からはハ
リセンを使うとしよう。
「あちらでは粗相をしでかして困らせてはいないでしょうね?」
「と、当然のことよ!」
慌てた物言いに嘆息する。どうやら変わらず面倒をかけているらしい。私と夫と、二人の間に出
来た子が何故こんな問題児になるのか。理解に苦しむ。育て方が甘かったのかも知れない。
「九峪様には挨拶を済ませたの?」
「まだよ」
「いけないわ。母娘の前に臣下の礼在。今度からは私ではなく、先に九峪様に挨拶を済ませなさいな」
「でも……」
「そしてそれから、心行くまで私と話せばいいわ」
「分かったよ」
「では、行くとしましょう。九峪様もきっと喜ぶ筈」
そう、香蘭をこちらに常駐させ、傍に置く事を決めたのは、ほかならぬ九峪様だ。一人の女とし
ては尊厳を傷つけられ悔しいが、親子ともども寵愛を受けるというのも、悪くは無かった。少なく
ともこれで香蘭がこれまで以上の厚遇で扱われるのは間違いないのだから。
これで良い、と己に言い聞かせた。そうでもしなければ今頃我が子を叩き殺しているかもしれな
かった。捨てきれない女の性が、心の奥底に秘められながらも、確かに息づいていた。
「母様……」
「何ですか?」
遠慮したような娘の声を背に受けて、はっと我に返る。実の娘に嫉妬してしまっているなんて、
死んでしまいたい。そう思う自分がいる。
「え――――?」
トンッと首筋に軽い衝撃を感じた事が不思議でならなかった。一瞬にして平衡感覚を失って、地
に倒れこむ。かすれ行く意識。いったい誰が? この自分に気配を悟らせないほどの手練。狗根国
の乱破? 香蘭が危な、い、逃げ、て…………。
意識が暗転した。
「九峪、九峪ぃ! 気持ち良い、香蘭気持ちいいよぉ!」
「そうか、そう、か。じゃあもっと腰振って気持ちよく、なろうな!」
九峪様の考えはこうだ。香蘭を抱きたい。しかし初々しい香蘭は抵抗するかも知れない事が恐い。
そこで私が香蘭を説得させ、寝室へといざなう。もし反対するならば――そんな事は無いと私は確
信していたが――そのときは力ずくで。
そういう手順の筈だった。だが気絶から目覚めてみると、香蘭は九峪様に犯されていた。いや、
喜んでいると明確に判る嬌声が聞こえるのだから、抱かれていた、だろうか。
らしくもなく、混乱している。しすぎてするべき手順が分からないくらいだ。視界一杯に香蘭の
胸がぷるんぷるんと上下に揺れていた。大きな胸だ。私よりも良く育っているかもしれない。その
質量は圧巻の一言に尽きた。
ポタリ、と顔に液体が落ちる。目を細めて注視すると、それは汗だ。交合によって湧き出した多
量の汗が、胸の先を伝って流れ落ちているのだった。
途端、辺りに漂う濃密な淫気が香り立っているのに気付く。幾度もこんな事を繰り返していたら
しい。香蘭が処女だとは到底信じられるものではない。
騙された事に腹立たしさを感じるよりも先に、目の前で繰り広げられる痴態に圧倒されてしまっ
た。尖りきった乳首が鼻先をかすめる。視線上部では九峪様と香蘭の恥部があられもなく目に映った。
めくり返りそうなほどに荒々しく力強い抽送。咥え込んだ膣は引き伸ばされながらも、白濁した
愛液を次々に溢れ出している。聞くに堪えない淫語と粘りついた水音。囁きあう睦言、愛の言葉の
数々。
なんて恥知らずな。でも私も九峪様の前でこんなはしたない姿を見せ、恥知らずな言葉を紡いで
いるのだろうか?
思い出そうとしてだけで、腰布がじゅんと湿った。乳首がむくむくと肥大し始め、準備が整い始
める。魏服とこすれあった先っぽがジンジンと痺れた。
「お、香蘭、お前の母さんが起きたぜ」
「いぃ、んぐぅ〜、もっと奥、奥に欲しいよ」
「香 蘭 !」
「は、はいね!」
びくりと身を震わせて我に返った香蘭は、きょろきょろと辺りを見回した。
「お、おぉう、母様起きたか。ふぁ、くっ、良かった。これでおっ! 九峪が二人で楽しめる」
何気ない様子で香蘭は言ったが、その膝と肘はガクガクと震えていた。だらしなく弛みきった顔
と澱んだ瞳。目に力が無く、快楽で濁りきってしまっている。いったいどれ程の間抱かれ続けてい
たのか。心は愛娘の心配をしながらも、意思に反するようにして躰が九峪様のオチンチンを欲しが
り、のどがグビリと音を立てた。
「あうぅ――――〜〜くぅぅぅ」
突如、覆い被さるようにして香蘭が崩れ落ちた。豊満な胸が顔中に広がる。無意識に口の中に含
んでいた乳首を甘噛みし、吸い立てる。香蘭の細腰が暴れまわった。
「イクッ! 香蘭乳首でイクよ――――っ!!」
思わず耳を塞ぐほどの大きな宣言をして香蘭は達した。カクカクと空腰を使い、精液を吸い取ろ
うと、懸命に膣が収縮する。
膣内に放出された精液は多量で、収まりきらなかった分がどろりと溢れ出した。いったいどれほ
ど溜まっていたのか、ゆっくりと垂れ始めるそれは黄ばんでいた。
あまりに濃い精臭に、頭がくらりとした。