『美女侍らせて――――魏服』
「なあ紅玉さん、お願いだよ、一生のお願い。俺さ、今お腹の下が張って苦しいんだよ」
「…………」
「なあ紅玉さん……」
「しかた、ありませんね。他ならぬ九峪様のお願いとあれば……」
「ありがと。紅玉さんは俺に優しいから、大好きだよ」
「九峪様……」
これで果たして何度目の「一生のお願い」なのだろうか?
手を合わせ、情けないような顔で見上げられるとついつい承諾してしまう。甘えるような声で耳
元で囁かれると、拒絶するために張り巡らされた心の堤防が、いともたやすく崩れ去っていく。そ
の結果自分が如何に苦しみ、頭を悩ませてきたか。
九峪様だけでなく私も、懲りるという言葉が辞書に書いていないらしかった。
私は恥ずかしさに顔を染めながら、俯いてゆっくりと魏服を剥いでいく。大陸では手間隙をかけ
て磨き上げた肌は、少女の頃の様な張りは無かったが、代わりに吸い付くような潤いを与えてくれた。
しっとりと汗ばんだ肌の上を、九峪様の手の平がぶしつけに撫でていく。
当麻の城郭の最上階。まだ日は高く、開け放たれた窓からは遠くに山々が連なる様子が見える。
九峪様の私室での睦み事。果たして肌を重ねる事になって、どれくらいの日が経ったのだろうか?
耶麻台国が疾風怒濤の速さで復興されたかつての日が、懐かしく感じられる程度には時は経っている。
「あっ……んぁ、九峪様、乱暴は止めてくださいまし……」
「分かってるよ」
そう言いながらも、九峪様はいたずらを止めようとはしない。荒々しく私の胸を揉み、こね、乳
首を掴んでは引っ張る。
キリキリとした痛みと、もはや慣れた刺激によって感じてしまう心地よさ。じんと胸に疼痛が走り、
股の間に湿り気を帯びたのを感じた。悟られてはいけない。九峪様はますます私を辱めようと
深謀を発揮してしまうだろう。
「あれ?」
「どうか……ぁっ……しましたか?」
甘い声が漏れてしまったが仕方が無かった。この熟れた体は、九峪様の命によって隅々にまで
開発されてしまったのだから。だから、その中に冷えた動揺が含まれていなかった事に、私は自賛してやりたい。
「紅玉さんお風呂ちゃんと入ってる? 何か臭ってくるんだけど……」
感じている事を揶揄されると思っていたのに、意外な言葉に心が氷る。不潔な女だとは思われたくなかった。
心を寄せた男に嫌われるのは、死ぬよりも辛い。百戦錬磨の強者だって、恋には敵わないのだ。
「そ、そんな! 私はいつ見られても恥ずかしくないように毎日、あっ! ……あ……その、」
「へえ、いつ見られても、ね。一体誰に見せるつもりだったんだろうね?」
「それは……」
「一般兵? それともどこぞの見知らぬ男? まさか狗根国兵か?」
「違います! く、……に」
「く? 何だって?」
「九峪様、に……」
「そっか、紅玉さんは俺に触って貰う為に、毎日体を綺麗に洗ってたんだね?」
「は、い……」
頭の中を駆け巡る羞恥に、我知らず消えるような声だった。
しかも気づかぬ内に見られるが触られるに変わっている。言葉のすり替え。
九峪様はいやらしい笑みを見せて、私と唇を交わした。
「んっ……ふむ、ぅ、あぅ……んん!」
好色そうな、いやらしくだらしない九峪様の顔は好きではなかった。彼が復興時に見せた精悍な
顔で抱いてくれれば、私は文句など無く体を差し出すというのに……。しかし私もかつてのような
表情でここにいる訳ではなかっただろう。夫の無念を晴らす想いは、いつしか九峪様への愛情と忠
誠に摩り替わっていたのだから。
私は盛りのついた雌犬のように目を潤ませ、尾の代わりに尻を振り、今にもご褒美を頂こうとだ
らしなく口元を開いているのだ。なんて情けなく、なんて正直で羨ましい性格。ただ九峪様に呆れ
られないか、その事だけが怖い。
私は口を開いて九峪様の愛撫を甘受する。唇を吸われ、舌を交わし、歯茎から上顎を一気に舐め
られると、続々と背筋が震え、悪寒とともに愛液が湧き出していく。
腰布は見る間に湿り、濡れそぼり。肌に張り付いたそれは透明になって秘所を露わにした。
私は一瞬だけ視線を下に向け、再び目を瞑り愛撫に身を任せる。胸に置かれた手がそろそろと下
に向かっていくのに気づいた時、私は少なからず狼狽した。
「んあぅ、あ、やめ、止めて下さい九峪様、後生、後生ですか……ひぅっ!」
「こりこりとお豆がどうしてこんな所にあるんだろう。ねっ? 紅玉さん?」
「それはぁぁああ――! くひゅぅ!」
血が滲むくらいに唇を噛んで、あふれ出す嬌声を押し留めた。それでも唇の間からは空気が漏れ出た。
窓が開いている。あられもない声を出し続けていては、いくら最上階とはいえ気がつく人も居るだろう。そうなれば私は……私は。
「あっあっあっ。……くぅう〜〜、かんにんです、堪忍してください」
「何を堪忍するの?」
ああ、九峪様は意地悪だ。私がその場所を答えるのを何よりも嫌がっているのを知っていて。なんて憎たらしい人だろうか。私が抵抗しないと確信していて、この人は。
本当に、恨めしい。
ニチニチと粘り気のある水音が股の間から絶え間なく響く。太ももと腰をがくがくと震わせ、私は絶叫するように答えるしかなかった。
「私の惨めないやらしい女のオチ○チンを弄るのを止めてくだ――――」
時が氷った。少なくとも私には永遠のような長い時間。
淫核がぎりっと捻られ、その瞬間私は絶頂に達した。虎の毛皮の敷物をびちょびちょにする位の
潮を噴き、背骨の折れるくらい弓なりにして、足と手の指をぎゅっと握り締めて、私はイッた。長
い絶頂だった。視界が真っ白に染まり、腹の底からあられもない声を上げる、腰がビクビクと跳ね
回る。私は倒れこみ、どすっと体がぶつかった。
心地よい浮遊感。小さな波と大きな波が交互に襲い掛かる。小さな波で私はピクピクと腹筋を痙
攣させ、大きな波が来るとまた軽い絶頂に達する。はしたない水芸が腰布だけではなく周りをびち
ゃびちゃにさせる。デロンと舌を垂らしながら、私は九峪様に抱きついていた。
最後に大きな絶頂の波が来た時、ぐるりと目玉が白目を剥いたな、と自覚した。視界が完全に暗
闇と化し、大部分の感覚が消えうせる。
頬を嘗め回され、頭を撫でられているのが何よりも至福に思える瞬間だった。