暗い部屋の中でチュンチュンと、いつの時代どの場所であっても、あまり代わり映えのない朝の音で、九峪はゆっくりと目を覚ました。
「………………………………………」
腕に乗っている頭の重みを心地よく感じながら、まだ少し寝ぼけ眼で、自分に寄り添う裸体をしげしげと観察する。
窓、というより雨戸の隙間から漏れる光に照らされて、その女性の裸体は巫女であるということも相まって、とても神秘的だった。
昨日の夜、否、もう今日の朝か。
隅々まで散々に貪った身体ではあるが、九峪の牡器官は朝とかどうとか関係なしに、またムックリと鎌首を、獲物を前にした蛇のように
持ち上げている。
「………………………………………」
九峪はしばし考えてみた。このままもう一戦しようかどうかを。
「………………………………………」
だがそれは考えるまでもない。
そろそろ九峪はこの部屋から消えなければ、いろいろと面倒なことが起こるだろうことは、火を見るよりもあきらかだった。
いまもし誰かに部屋に踏み込まれでもすれば、神の遣いである九峪はともかく、お手付きされてしまった彼女の立場が悪くなるだろう。
星華や亜衣の見る目は、どうしたところで厳しくなるだろうし、どこか他所の県に飛ばされてしまいかねない。
それは九峪の望むところではなかった。
起こさないよう注意しながら、そっと腕を抜くと、素早く身支度を整える。
「さてと――」
「もう…………行ってしまわれるのですか?」
引き戸に手をかけた九峪がその声に振り返ると、自分の肩を抱くようにしながら、蘇羽哉が暗闇でもわかる潤んだ瞳で見つめていた。
「ああ、この世界の人間は早起きどころか、暗いうちから動いてるのがいくらでもいるからな、誰かに見られたらお互い困るだろ?」
「………………そう………………ですね…………………」
非常にわかりやすく、しょんぼり、そんな擬音が聞こえるくらい蘇羽哉は肩を落とす。
彼女の敬愛する直属の上司や主君に見つかれば、困ることになる、そんなことは神の遣いに指摘されるまでもなくわかっているはずだ。
亜衣が子飼いにするだけあって、蘇羽哉の頭は中々に回転が良ければ切れもいい。
そして己の領分を越えた発言もしないはずだが、不味い事態になるのがわかっているのに九峪を呼び止める行為は、あきらかに一線を
越えていた。
何なら九峪は怒ってもいいくらいである。
しかし神の遣いは怒るどころかにっこりと微笑むと、顔を俯かせた蘇羽哉に歩み寄り、顎に手をかけて持ち上げると優しく口づけした。
「あっ!?」
「ごめんな、こんな風にしか二人で会うことは出来ないけど………………またすぐ来るよ」
夜更けに突然部屋に訪れて来た九峪を、わたわたと混乱しつつ招き入れてから、いくらもしないうちに蘇羽哉は唇を奪われている。
何度も何度も奪われて、その度に信じられず夢心地だった蘇羽哉だが、いまも唇を押さえて感涙で泣き出さんばかりだった。
「蘇羽哉は…………蘇羽哉はいつでも………いつまでもお待ちしております……………九峪様…………………」
「うん、またな」
今度こそ九峪は引き戸を開け、首だけ出してから、右左、誰もいないのを確認すると、蘇羽哉の部屋を後にした。
そして廊下を何食わぬ顔で歩き、自分の部屋に戻ろうとする九峪に、いきなり誰かが後ろから、がばっと首筋に抱きついてくる。
「だ〜〜〜〜れだ? と思いますにゃん?」
「忌瀬」
こんなことを神の遣いに朝っぱらからするやつは、羽江以外では一人しか九峪には心当たりがない。
だったら羽江という選択肢もあるのだが、九峪は刹那すらも迷わず即答である。
いくらなんでも羽江と答えるには、背中にむにゅむにゅと押しつけられるものは、大きくて柔らかくて気持ち良すぎた。
迷うには軽く後十年以上が必要だろう。
「大体オマエ、だれ〜〜〜〜だって言いながら、オレの目を隠してないだろ」
「あ? そっか、えっへへ 失敗失敗 でも夜這い帰りの九峪様、残念ながらハズレですよ、正解は可愛い可愛い忌瀬ちゃんでしたぁ」
言って忌瀬は九峪を解放すると腕を取って、やはり胸を押しつけるようにすると、にや〜〜ん、と猫みたいに嫌らしく笑った。
「どうでした? 上司に負けず真面目っ娘な巫女さんは? 去り際のチュ―は効果覿面だったでしょ?」
「まあな、青春を戦に捧げたって感じだったから、キスは初めてだったろうし、それが可愛くてな…………うん、すごく良かったぜ」
「わたしよりもですか?」
にやにやした顔を爪先だって、にゅっ、と九峪に近寄せると忌瀬は、男にはとても答えずらいことを訊いてくる。
表情と口調こそふざけてはいるが、その目は結構マジだった。
「どうだろうな、蘇羽哉とはまだ一回しかしてないし、もうちっとしてみないとよくわかんねぇや」
「ああっ!! ここに卑怯な臆病者がいる、嘘でもいいから忌瀬が一番だよ、て言えばいいのに〜〜〜〜 九峪様のいけず〜〜〜〜」
ぎゅっと忌瀬は九峪を抓っりする。
「イテイテッ!? 馬鹿ぁ忌瀬、オマエ抓るのはいいけど乳首はよせ」
「え〜〜〜〜 だ〜〜〜〜て九峪様は必ずわたしの乳首は苛めるじゃないですかぁ 言ってくんなかったし、いつものお返しですよ」
くりくりとされると男だって気持ち良かったりはするのだが、誰も九峪の喘ぎ声などは期待してない。
忌瀬の手を取ると九峪はずずぃと顔を近づけ、望んでいるだろう言葉を、とりあえずは満足するだろう言葉を言ってやった。
「蘇羽哉はまだ固くて、それはそれで良いんだけど、オレ専用に馴染んでいる忌瀬とは、とてもじゃないが比較するには早すぎるぜ」
「………………………………………」
忌瀬は柄にもなく、ポッと音がなるくらいに頬を赤らめると、バシバシと九峪の胸を叩く。
「いや〜〜〜〜ん九峪様たらぁ 美味いなぁもう わたしの身体は九峪様だけのものですからね」
バシバシと九峪の胸を叩く忌瀬の連打は、そんなことを言いつつも止まらない。
実際のところいいかげん痛くなってきたが、九峪はその手を止めようとはしなかった。これはこれで忌瀬の愛情表現なので嬉しい。
ひとしきり掌低を打ち込んで気が済んだのか、忌瀬はクリンと顔を向けると、またまた猫みたいににや〜〜んと微笑んだ。
「で? 九峪様、次は一体誰を狙ってますにゃん?」
「先に言っとくけどな、別にそれが目的って訳じゃないんだぞ、そこんとこを間違えるなよ?」
「うん? どういうことですかにゃん?」
「ちょうどいまな、対狗根国戦の開戦準備状況を見てもらいたいて要請が、各県から一斉に来てるんだよ」
それを聞いて忌瀬の笑みがより一層深くなる。
「つまり手当たり次第、てことですにゃん?」
「………………………………………」
九峪はその言葉に首肯しそうになり、それをギリギリで抑え込むと、忌瀬からつぃと目を逸らし、あさってを見ながら結局頷いた。
もわもわと湯煙がすごい。
豊後県の湯布院がとかく有名ではあるが、さすがは九洲、この火後県は片野の湯も中々のものだ。
九峪はそ〜〜〜〜っと浴場へと入りながら、湯船にまだ浸かってもいないのに、にやにやしながら悦に浸っている。
白い煙の向こうにはぼんやりと、初雪のように白い肌が浮かんでいた。
掛け湯をしているその白い肌の持ち主は、後ろから忍び寄る九峪にはまったく気づいてはいない。
「藤那」
「!?」
だからいきなり声をかけられて、びくん、と小さく座ったままで飛び跳ねても、失態というにはちょっと可哀想だろう。
しかしやはりそんな、九峪にとっては見慣れぬ反応は、微笑ましく可愛らしいものだった。
「く、九峪様、で、ですか!?」
わかりきっていることを訊きながら、藤那は自分の肩を抱くようにして、わりかし大柄な身体を小さく小さく丸める。
でも当然それだけでは、九峪の好色な視線から全てを隠すことなど出来るわけもなく、椅子に乗っているむっちりとした白いお尻は
見られ放題だった。
「ああ、こんなとこで奇遇だな、藤那も風呂入ってたんだな、全然知らなかったよ」
勿論嘘八百である。
酒断ちしている藤那が早々に宴会から抜け出したのを見ると、九峪も追うようにして席を立ち、頃合を見計らって浴場に入ったのだ。
ちなみに今頃宴会場では、忌瀬お手製の薬が混入されてる酒を呑んで、皆いつもより大いに盛り上がってるだろう。
兎三姉妹には効くかどうか疑わしいが、我関せずといった風に酒を呑んでいたので、他の者も含めて浴場に来る心配はまずないはずだ。
「な、なんでもいいですから早く、早く出て行ってください九峪様ぁ!!」
「まあまあ藤那、こんな機会はそうそうないんだしさ、背中とか流してやるよ」
目までぎゅっとつぶって、随分と可愛い女の子になってしまった藤那の背後に、怒声などどこ吹く風で九峪はすとんっと腰を降ろす。
おもむろに石鹸を取ってぬるぬると、自分の手に丹念に丹念に塗り込みはじめた。
「スポンジ…………じゃ意味がわからないか? え〜〜〜〜っと手拭い? うん、手拭いとかが見当たらないんで直にいくからな」
言って九峪はひたりと、手を藤那の背中に宛がう。
“ぬる〜〜〜〜”
「ひゃぁ!?」
ぜひとも閑谷に、オマエは藤那のこんな声を聞いたことあるか? オレはあるぜいいだろう、そんな風に自慢したくなるような声で
さっきよりも大きく、びくん、と藤那は身体を跳ねさせた。
“ぬる〜〜〜〜ぬるぬる〜〜ぬる〜〜〜〜”
石鹸を九峪の手によって塗り広げられていく藤那の背中が、月明かりに照らされて何だかとても妖しく艶かしい。
「う……んぅッ……い………あんッ……い………お、怒りますよ九………んンッ………ひッ…………あッ………んぁッ…………」
その上藤那の弱々しい抗議の声に、牡を誘うような響きが含まれ出したと聞こえるのは、決して九峪の自惚れだけではないはずだ。
忌瀬からの事前情報で、藤那の性感帯は多分背中にありますよ、と聞いてはいたがどうやら大当たりだったようである。
持つべきものは生物兵器上等の薬士だな、と九峪は心の中で、ここまで調べ上げてくれた忌瀬に感謝した。
白かったはずの背中がじわじわと、桜の色に染まりはじめている。
それを契機にして石鹸塗れでぬめっている両の手を、九峪はなめらかな肌を滑らせて、亀になっている藤那の甲羅の中に差し入れた。
“むにゅん……”
「あンッ!?」
大きなふくらみを鷲掴みにする。
「ん……んぁッ……んふ………はぁッ………ン……んふぁッ……んンッ………ん………ふぁ……あ……んンッ………ン……んふぁッ」
にゅむにゅむと乳房を揉みしだきながら、九峪は犬の交尾みたいに覆い被さると、耳朶に息を吹きかけるように囁いた。
「前の方もちゃんと洗ってやるからな、全部オレに任せておけよ、藤那」
“カリッ……”
「ひッ!?」
耳たぶに軽くだが歯を立てられたそれだけでも、藤那の身体はいちいち敏感な反応を返して九峪を愉しませてくれる。
九峪は目を笑みの形に歪めながら、そのまま尖らせた舌先を、複雑な作りの耳朶の中へとねぶるように挿し込む。
「ぅあッ……は………ふぅ……んンッ……んぅッ!!」
舌先がくねくねと蠢く度に、ぞわ、と藤那の身体が総毛立っているのが、肌をぴたりと密着させている九峪にははっきりとわかった。
どうも耳の方も相当弱いらしい。
益々九峪は愉しそうに目を細めると、もう洗っているのか、いい香りのする後れ毛の匂いを、すぅ〜〜、と鼻を鳴らして吸い込んだ。
「んッ………ふぅん……ンンッ……くぅッ…………」
息が当たってくすぐったいのか、藤那は幼い子供がむずがるみたいに、首を小さく可愛く傾げる。
ここ最近は禁酒をしているとはいえ、定着してしまった酔っ払い高飛車キャラには、その仕草は正直いってしまえば似合わない。
しかしそれだけに、その普段とのギャップは凄まじく、俄然九峪の持つ牡の嗜虐心をを燃えさせた。
“にゅむ・にゅむ…………”
「んッ、ちょッ、九、九峪さ……ん、んぅッ、待っ……くぅんッ………んンッ………あッ……ふぅッ………はぁんッ………」
揉み込むとあっさりと指先が沈み卑猥な形になるが、それを跳ね返そうとする心地よく強い弾力がある。
制止する藤那の声などは当然のように無視して、神の遣いは柔らかな乳房を堪能し苛めることに没頭していた。
熱心に指先を動かしながら、掌で硬くしこりだしている乳首を、少しだけキツメに捻り上げる。
“きゅッ!!”
「はひッ!」
甲高い声が藤那の口から洩れた。
そんな自分の声にカァ――ッと耳まで赤く染めて、藤那は慌てたように、ぎゅっ、と下唇を噛んで口元を手で覆う。
だが勿論そんなことには何の意味もない。ばかりか九峪を調子づかせるだけだった。
“きゅッ…………きゅッ………くにゅくにゅ……………きゅッ………………”
グミの実みたいな不思議な柔らかさの乳首を、しつこくしつこく弄い潰しながら、女性が最も守らなくてはいけない部位にのばされる。
「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……ぅああッ……あ!?……ああッ………ふぁッ!!」
本来ならそこは非常に防御が堅く、易々と牡に侵入など許しはしない。
しかし当たり前だが、閑谷にすらここまで許したことはないのに、畏怖の想いはあっても特別男性として意識したことはなかったのに、
いくら神の遣いとはいえここまでさしての抵抗もせず、なし崩しとはいえ許してしまっている自分に藤那は混乱していた。
“くちゅ……”
九峪の指先は秘唇が触れる。
「んぁッ!?」
湿っている段階など通り越して、もうあきらかに濡らしてしまっいる事実を知られて、藤那は一層身体も心も小さくなるしかなかった。
羞恥心という名の鎖にがんじがらめに縛られた乙女の身体は、好色な神の遣いに捧げられた生贄も同然である。
“ドクン……ドクン……ドクン……………………”
覆い被さったときからその存在を、藤那に嫌でも認識させるように、ぐりぐりとお尻に擦りつけられていた勃起は、九峪の興奮を如実に
現して力強く脈打ちながら、更に硬く大きくなっていた。
「………………………………………」
九峪のその露骨なアピールに藤那の身体が、誤魔化しが利かないくらいにふるふると、まるで捕食される前の小動物のように震える。
反射的に太股を閉じてはいるが、その正しい乙女の恥じらいが結果、より深く九峪の手を秘裂に誘い入れる形になってしまった。
「ううッ………くぅんッ……んンッ………ん………んぅッ!!」
感触を愉しむ様にしながら、九峪の中指と薬指がねっとりとイヤらしく、くちゅくちゅと早くも音をさせて濡れた粘膜を泳ぐ。
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……んッ……ふぁッ……あッ!?……やッ!?………やめッ………ああ……………」
じわりと侵してくる快楽パルスに、藤那は乙女の恥じらいで前屈みになろうとするが、それをむざむざとすけべぇ九峪は許しはしない。
ぐいっと身体を強引に起こす。
現代人の九峪からすれば、この時代の銅鏡はすこぶる映りが良くないが、それでも藤那の痴態を拝むことは充分出来た。
内股の格好で鏡から顔を背け、乳房と秘所を蹂躙している九峪の腕を、そっと形だけ押さえながら、藤那は切なげにもじもじしている。
「ほら、見てみろよ。いつも藤那はいい女だけどさ、いま目の前にいる女もかなり可愛いぜ」
九峪の口調には弱冠の揶揄が含まれているのは感じるが、藤那に限らず、そう言われて悪い気がする女性はあまりいない。
そ〜〜っと薄目を開けてチラッと覗き見る。
「!?」
信じられないものを見た。そんな感じで藤那の目が驚愕で大きく見開かれる。
凛とした切れ長の瞳はうるうると潤んでおり、自信に裏打ちされた(根拠があるかは別にして)光などはまったく微塵も放っておらず、
生涯自分はそんな言葉とは無縁だと思っていたのに、否定も隠しすことも出来はしない媚が滲み出ていた。
「強い強いと思ってた女がさ、いきなり弱いとこ見せたりすると、男は単純馬鹿だから、それだけでドキッとするもんだぜ」
そういうものだろうか? では九峪様は、九峪様は馬鹿ではないが単純なところもあるから…………いまドキッとしてるんだろうか?
仮にも神の遣いに対して不敬すれすれのことを考えながら、藤那はゆったりと身体を、あまり厚くもない胸板に預ける。
その顔は益々牡の獣性を煽りくすぐる、媚々の色っぽいものになっていた。
「!?」
鏡に映ったにやにやしている九峪と目が合って、ささっと逃げるように藤那は慌てて顔を伏せる。
考えすぎかどうなのかはわからないが、わからないが、おまえの考えはお見通しだよ藤那、何だかそう言われているような気がした。