戦場で行方不明になっていた伊万里が戻ってきて目覚めた時、彼女の様子はおかしかった。い  
きなり傍らにいた九峪に襲いかかって殺そうとしたのだ。どうやら彼女は敵の一味に蟲を飲ま  
されて操られているらしい。その蟲を退治するには曼陀羅華という薬草が必要なのだ。そこで  
九峪一向はその薬草を採取しにこの山を登山しているわけである。  
しかし、現代から来た九峪がこの世界の住人の健脚ぶりに敵うはずもなく早い段階で音を上げ  
た。そこで仕方なく衣緒が九峪を背負うことになった矢先に九峪が衣緒の胸を触ってしまい、  
衣緒がその九峪を投げ飛ばしてしまうというアクシデントが起こったのである。その際、九峪  
は腰を負傷してしまい結局衣緒が九峪を背負わざるを得なくなった。九峪が衣緒の胸を触って  
しまったのは偶然なのだが、万が一また触ってしまわないよう九峪の両手は紐で縛られた状態  
で衣緒に背負われている。まるで罪人だ。  
ただでさえ傾斜の厳しい山を登るのは辛いのに、さらに人一人背負って登る衣緒の体力は相当  
すごいものだ。とはいえ、さすがに何時間も登り続けているとさすがの衣緒にも体力の限界が  
見えてくる。忌瀬が「ここらで野宿をできる場所を捜して、泊まろう」と言った時は安堵のた  
め息が漏れた。  
やがて小さな洞窟が見つかり、そこで野宿をすることにした。  
食事をとりお酒も入り志野がいつも通りの酒乱ぶりを発揮した、とかの騒ぎがあったものの薬  
草採取の一日目は無事(?)に終わりを告げようとしていた。  
 
「じゃあ不寝番は3時間交代として、衣緒さんから頼める?」  
「ええ、いいですよ」  
忌瀬に言われた衣緒は返事一つで引き受けた。  
ここは山の中なのでどんな獣がいてどんな危険があるか分からない。そのため、火を絶やさず  
に番をしている必要があるのだ。  
衣緒を残して他の人たちは洞窟に入って仮眠をとっていた。  
衣緒は焚き火の前に腰を下ろして弱まりかけた火の中に薪をくべる。火の勢いが強くなり辺り  
が一層明るくなる。そして徐々に弱まり、また薪をくべる。この行為を繰り返していた。  
聞こえてくるのは火の燃える音以外には夜鳥の声と……神の遣いのいびきだけ。  
「よっぽど疲れたんでしょうね」  
と衣緒は独りごちた。  
その言葉を言った直後に九峪はほとんど自分の背中に乗っていた事を思い出す。  
「……私の方が疲れてると思うんだけどなぁ」  
愚痴とともにため息が、はぁ、とこぼれた。  
九峪のことを考えると改めて変な人だと思う。  
神の遣いのくせにやたらと気さくで変に驕らないというか……。  
ま、その辺が衣緒を初め復興軍の面々は気に入っていた。それゆえに九峪には人望があるのも  
確かなのだ。  
 
「それに昼間なんて……」  
最後まで言い切る前に衣緒の顔は真っ赤に染まっていた。それは決して焚き火の照り返しによ  
って赤くなったものではない。衣緒の顔が赤くなったのは昼間に九峪に胸を触られた事を思い  
出したためだ。恥ずかしさを隠すように衣緒は薪を火の中に入れる。しかし、一度思い出して  
しまうとなかなか頭から離れない。忘れようとすればするほどより鮮明に蘇ってくる光景。自  
分でも顔が熱を持っているのが分かる。  
実は、衣緒は男性に胸を触られるのは初めてのことだったのだ。今まで星華、亜衣、羽江には  
ふざけて触られたことは何度もあった(そのたびに胸の話になって喧嘩になったが……)。し  
かも衣緒は九峪には特別な感情を抱いている。胸を触られた時も嫌悪感は感じなかった。だが  
皆の前だし、いきなりの事だったので驚いて投げ飛ばしてしまったのだ。不可抗力とはいえ仕  
方ない。  
依然パチパチと燃え続ける焚き火を見ながら衣緒は九峪を背負っていた時のことを思い返す。  
密着する身体。背中に伝わる確かな体温。首元にかかる息。  
───衣緒に背負ってもらって俺は世界一の幸せ者だな。  
どうしてあの人の感触が、体温が、言葉がこんなにも私の胸を締め付けるのだろう。  
動悸が速くなる。  
胸が苦しい。  
右手で力一杯胸を押さえる。が、一向に胸の動悸はおさまらない。  
これは神の遣いの呪いなのだろうか?  
 
どうしたら良いかわからないまま衣緒はうずくまる。  
うずくまったままの姿勢で苦しげに口にする。  
「く……たに……さ、ま」  
その言葉を発した瞬間に胸の鼓動は身体の内からドンドンと叩かれている程に強く、速くなっ  
た。  
速まる鼓動に戸惑いを覚え、ふと胸を押さえていた右手を離す。  
その時、指で乳房の先端を弾いてしまったのである。  
衣緒の全身に電流が駆け巡る。  
「う、うぁぁっっ!?」  
今までに体験したことの無い感覚が全身を支配する。まるで自分の身体が自分のものじゃなく  
なってしまうような感覚。魂がどこか遠くに行ってしまうような、そんな感覚。  
その感覚の正体を突き止めるように衣緒はまた乳房の先端───乳首に指を伸ばす。  
そして、触れる。  
再度流れる電流。  
「な、何これ……!?」  
衣緒はパニック寸前だった。  
自分の身体はおかしくなってしまったのか……?  
いろんな思いが交錯する。しかし、答えは出ない。  
ひょっとすると胸に何か仕組まれたのかもしれない。  
そう思い、衣緒は背後を確認した後胸の前面をはだけさせ胸覆いをずらす。  
焚き火の明かりに照らされるのは決して大きくはない小ぶりで形の良い二つの乳房である。  
焚き火のせいか赤く染められた二つの乳丘は妙に艶かしく見える。  
衣緒は必死に自分の胸を物色するがもちろん変わったことは何もない。  
───ただ一つ、先端が大きくなり硬さを増していること以外には。  
自分の両手で胸を覆う。  
熱い。焼けるように熱い。  
少し指を動かしてみる。昼間の九峪がやったように。  
電流は衣緒の身体を巡るが今度は抵抗しなかった。むしろ衣緒はその電流を求めていた。  
 
「ん、……んんっ、……んっっ!」  
いつしか身体を流れる電流の波に衣緒は全身を委ねていた。  
顔を紅潮させ全身を汗ばみさせながら。自然と足は内側を向く。  
両手で自身の胸を揉みしだく。まるで体中の毒が胸に集中していて、その毒を一滴残さず絞り  
出すように。  
時折ずれ落ちてくる胸覆いが邪魔で衣緒は口でそれを咥えた。  
おかげで意図せずに漏れる声が抑えられた。  
最初は焚き火の一点を見つめて行為をしていたが今は両目を閉じている。  
考えている。  
九峪のことを。  
想像してしまっている。  
九峪にされている事を。  
全身が心臓になったみたいに体中が鼓動を打つのが分かる。  
そればかりか流れる電流で体中がピクピク痙攣する。  
息も上がっていて肩が上下している。口は胸覆いを咥えているために口での呼吸は出来なくて  
多少息苦しい。が、それが電流への感度をより敏感にしていた。  
汗ですべりの良くなった衣緒の胸を自身の手が蛇のようにいやらしく這い回るように動いてい  
る。  
もはや衣緒の頭の中には想像上の九峪とより強い電流を求めることに集中していた。  
さすがに息が続かなくなり口に咥えていた胸覆いを離す。  
はぁ、はぁ、はぁ、と荒い呼吸を何回か繰り返し、  
「あ、あぁん、……っうん、あ……はああぁぁ……!」  
周囲も気にせずに声を出す。  
 
そして自由になった衣緒の口は次の言葉を紡ぐ。  
「……く、くた、に……様ぁぁっっ!」  
「ん、何?」  
「!!!」  
瞬間、聞こえてくる間の抜けた声。  
衣緒はどこかに行っていた思考を光よりも速いスピードで現実へと引き戻す。  
後ろを振り向くと洞窟から出てきた九峪本人がのそっと出てきた。  
目を点にし、口をあんぐり開けながら衣緒は九峪を見た。  
「く、くた…………」  
超高速で思考を現実に引き戻した衣緒だが、またすぐに思考を遥か彼方へ飛ばそうと思った。  
もう何も考えたくなかった。  
両手を胸にあてがったまま固まる衣緒。  
───九峪様に自分の淫らな行為を見られた。  
もはや衣緒の目は焦点が合っていない。  
九峪は衣緒のそばまで来るかと思ったが予想に反して違う方向にふらふら歩いていった。  
そして水の流れる音、約10秒前後。  
九峪はその音の後ふらふらとまた洞窟の中に入っていった。  
そしてすぐに先ほどと同じいびきが聞こえてきた。  
どうやら寝ぼけたまま用を足しただけらしい。  
衣緒はその事に気付くまで相当な時間を使用した。  
そして、はっ、と気付く。自分がまだ胸をはだけたままだったことに。  
慌てて服装を整える。いつの間にか焚き火の火も消えそうなくらい小さくなっていた。消えな  
いように薪を入れる。また勢いよく燃え盛る炎。  
そしてもう3時間経っていたことにも気付く。  
一体自分はどのくらいの時間胸を触っていたのだろう?  
消えない疑問は胸の内に秘めて衣緒は忌瀬を起こしに行く。  
「忌瀬さん、不寝番の交代ですよ」  
なるべく平静を装った声で衣緒は言った。  
 
翌朝、一人だけなかなか起きてこない九峪を衣緒が起こしに行くことになった。  
「この中で一番付き合いが長いから」  
というのが理由だった。  
頼みごとを断れないのは衣緒の長所であり短所でもある。  
渋々、九峪を起こしに行った衣緒だが内心ではビクビクしていた。  
もしかすると寝ぼけてたとは言え昨日の衣緒の行動を見ていたかもしれない。  
もし見られていたとしても覚えていなければそれでよし。  
もし覚えていたらその時は……どうしよう?  
まず九峪を起こして皆に知られないようにこっそり確認することが吉だと衣緒は判断し、九峪  
に投げる質問を脳をフル回転させて作り出した。  
「九峪様。九峪様、起きてください。もう、夜が明けましたよ」  
九峪の肩を揺さぶって衣緒は九峪を起こそうとした。  
さて、どうやって切り出そうかな?  
と、衣緒が考えていた刹那、九峪が起きた。寝ぼけ眼できょろきょろあたりを見回している。  
「く、九峪様、お目覚めになりました?」  
「日、日魅子ぉ!?俺は!俺はついに戻ってこれたんだなぁっ!!」  
九峪は両手を広げて衣緒に抱きついた。  
「いやぁああっっ!!」  
いきなり九峪に抱きつかれた衣緒は用意していた質問ではなく目にも留まらぬ拳を繰り出して  
いた。  
───どがっ、ぼぐっ、べしゃっ、ばぎっ。  
数秒後、衣緒の足元には再び意識を飛ばした九峪が倒れていた。もちろんこれも不可抗力だ。  
「いやぁ、九峪様ぁ!?」  
衣緒は慌てて自分が打ちのめした神の遣いを抱き起こした。  
周囲から漏れる盛大なため息。  
 
結局、九峪は昨日の衣緒の行為については全く知らなかった。自分が用を足しに起きたことさ  
えも覚えていないのだと言う。  
それが衣緒に殴られた衝撃で忘れてしまったのか、  
それとも殴られたくないから「知らない」と言ったのかは分からない。  
ともかくその後も二人はいつも通りの関係でいられた。  
その日以降、衣緒が胸を使って自慰をするようになった。  
そしてこの後の温泉での出来事も彼女の自慰を増長させるのに一役買っている。  
 
私宗像三姉妹の次女の衣緒と申します。  
まぁ説明すると長いので簡略に私の今の心境を伝えるとですね、私の背中でのん気にしている  
神の遣い───九峪様にいささか反感を覚えています。  
いえ、嫌いだとかそういうことではなくて昨日、九峪様を背負った時に九峪様が……その……  
私の……胸を……触って…………。  
その時につい反射的に九峪様を投げ飛ばしてしまいまして……。む、胸を揉まれたくらいで平  
常心を失うなんて我ながら情けない限りです。これも鍛錬不足の表れです。でもそういう鍛錬  
はした事がないのでよく分かりませんが。それこそ、む、胸を揉まれても平気なように常日頃  
から鍛えておくべきなのでしょうか?やっぱりそういった鍛錬にはと、殿方を起用されるのが  
良いのでしょうか?もし、そういうことになれば私の相手には九峪様を希望……い、いえ、違  
うんですよ!?伊雅様は恐れ多くも耶麻台国前王の実弟である方だし、閑谷君や仁清君とは知  
りあってからまだ日が浅いし……。やっぱり残るは九峪様になるわけで、ほら、年齢も私と近  
いわけですから。そもそもこの話に男キャラが少ないっていうのが原因じゃないですか。  
ですから仕方なく、仕方なくですよ、九峪様で我慢してあげるのです。特別な感情なんてある  
わけなく、決して自ら望んだわけでは───  
 
「衣緒さん何か一人で笑ってるよ、気味悪くない?」  
「こ、こら珠洲」  
「九峪様背負ってるから変な病気にでもなっちゃったんじゃない?」  
ぱかーん、という乾いた音が響く。志野は頭を押さえてる珠洲を見下ろして、  
「失礼なこと言うんじゃありません」  
 
そんなやりとりは露知らぬ衣緒。  
 

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