目の前に広がる光景にもはや珠洲は耐えられそうになかった。
ここは九峪の寝室。さほど広いわけでもなく内装も飾りつけが全くなく殺風景で面白みの無い
部屋だ。そのくせ床には細かい字で何か書かれた木簡やら紙やらが無造作に散らかっている。
また何か突拍子の無い作戦でも思いついたのだろうか?
珠洲は九峪の事が嫌いだ。すけべえだし変態だし何考えてるか分からないし。
珠洲の秘密を九峪に知られてしまったのは2週間程前。珠洲にはある秘密があった。それは女
の身体なのに股間に男性器が生えてしまったという事。
始めは放って置いたが性的興奮を感じるとちゃんと勃起してしまうのだ。
異常な事は自分でも分かっている。しかし、生えてしまったものを今さらどうする事もできな
い。それに志野の事を思うとすぐ硬く勃起してしまう。擦ると気持ち良い。達すると射精まで
してしまう。
正確に言えば珠洲の出す精液(のようなもの)に精子は含まれていない。何らかの体液が射出
されているには違いないが詳しい事はよく分からない。人体の神秘とでも言うべきか。
珠洲は2週間前、肉棒をしごいて自慰しているところを九峪に偶然見られた。一生の不覚だと
思う。その時に前はおろか後ろの処女までいっぺんに奪われてしまった。
───あの鬼畜やろう。
それからほぼ毎晩九峪は珠洲を部屋に呼び寄せては珠洲を犯していた。九峪の性欲を解消する
ために。
しかし珠洲もまんざらでは無い様子だった。表面上は九峪に秘密を握られたから仕方なく、と
いう感じだが身体を重ねる毎に増していく快感を求めているのも事実。人間の一次的欲求、本
能が理性を上回ったとも解釈できる。結果、珠洲は九峪に開発された。
具体的に言えば後背位で肛門に挿入されながら竿をしごかれる。
これが一番珠洲が感じる行為だった。
今珠洲の男性器ははちきれんばかりに血が巡っている。もちろん女の部分も割れ目から透明な
液体が溢れている。余計なものが付いているが女性器は至って正常な機能を維持している。
そして珠洲は今押し入れの中にいる。
「九峪様、お話しというのは一体?」
九峪の部屋に呼ばれた志野は九峪の正面に座っていた。ぴんと背筋を伸ばした姿勢が美しい。
一流の踊り子ともなると普段からの姿勢からの心がけが必要なのだろう。
「復興軍の今後に関わるお話しでしょうか?」
「あぁそんな大した事じゃないからそんなに肩肘張らなくていいよ。楽にして」
「あ、はい」
と言われても露骨に姿勢は崩さない。少し足を崩した程度だ。ぴしっとした姿勢の方が楽なの
かそれとも志野の奥ゆかしい性格ゆえなのか。そんな志野は珠洲だけでなく皆に慕われている。
そして九峪は切り出す。
「あのさ、清瑞から聞いたんだけど……」
「珠洲のことですか?」
「うん、そう。何か最近様子が変なんだって?」
「そうなんです」
志野はそう言って目を伏せる。
「あんなに付きまとっていたのに今じゃすっかり近寄らなくなってしまって……。私珠洲に何
か悪いことをしてしまったのでしょうか?」
珠洲が志野に近寄らなくなったのは珠洲に男性器が生えてからだった。
志野に近寄ってしまうとそれだけで股間の肉棒は硬く勃起してしまう。そんな状態が続いたら
男性器が生えている事がいずれ志野にばれてしまう。そうなれば志野に嫌われてしまう。珠洲
はそう考えて志野に近寄らなくなったのだ。
もちろん九峪はその事を知っている。だが知らない素振りを装って志野に応対する。
「う〜ん、あの珠洲がねぇ……。何か心当たりは?」
志野は首を左右に振って
「分かりません。何か私に落ち度があったのでしょうが何が原因かまでは……」
志野は生真面目にそう答えた。自分が原因で珠洲の様子がおかしくなったと思っている。
他人を思いやる志野らしい考え方だと思う。それに比べて九峪は意地悪く何も知らない顔で続
ける。
「そっかぁ。志野にも分からないとなると誰にも分からないかもなぁ」
「そう……ですか」
志野は目に見えて落ち込んでいる。
志野にとって珠洲は家族も同然だ。唯一の家族と仲違いするというのは相当辛い。志野の周り
だけに暗く重い空気が見えるような気がした。
「大丈夫だよ志野」
「え?」
「きっとそのうち平気な顔でいつも通りになるよ」
九峪は白い歯を見せて笑ってみせた。
「志野がいつまでも落ち込んでたら珠洲も今まで通りに戻りづらいんじゃないかな。きっとさ
、一時的なものだと思うんだ。ほら、思春期とかそんなやつじゃないかな」
「そうでしょうか」
「14歳といえばいろいろ気難しい年頃だし」
「……」
「だからさ、志野はいつも通りに笑っていればいいんだよ。せっかく美人なんだから笑ってな
いと損だよ」
そう言われても志野はまだ笑えるような気分にはなかなかなれない。
愛想笑いも上手くできない。
少し気まずい雰囲気が二人の間を流れる。
そして少しの沈黙の後。
「……で、話は変わるんだけどさ」
「はい」
「志野は好きな人いるの?」
「は、はいぃ?」
九峪からの予想外の質問に志野は普段見せない慌てぶりを披露した。
今までの話からどうしてこんな流れになるのか志野には全く理解できなかった。
どうしてこの人はこんな事を聞いたのだろう?
「あ、いや……その……わ、私みたいな女には好きな人なんか───」
「こんなに落ち込んでる志野は見たくないよ」
九峪は志野の言葉を遮って、そっと志野の肩に両手を置く。
「俺じゃだめかな?」
志野は大きく目を見開いて驚く。それと同時に顔をかぁっと赤くさせる。
───これは告白なのだろうか?
九峪は真剣な眼差しで志野の瞳を見つめている。何故か視線を外すことができない。
何か見えない、抗いがたい力が視線を介して志野を拘束する。
少しは九峪に好意を持っている事も事実だった。
普段は見せない九峪の力強い眼差し。
───そんなに見つめられると……
九峪の前で志野は何も言えなかった。
代わりにそっと目を閉じた。
生暖かい感触が軽い吐息とともに伝わる。
重なった互いの唇。
重ねるという表現がぴったりの、触れ合うだけの軽い接吻。
目を閉じているからこそ、より唇の柔らかさが伝わる。
それだけで志野には十分刺激が強かった。
一旦、唇を離すと志野は、はぁはぁと荒い息遣いをしていた。
「初めてだった?」
九峪が優しい口調で聞くと志野は頷いた。
頬を紅潮させながら目を潤ませて上目遣いで見てくる。
その様子があまりに可愛くて九峪はもう一度志野の唇を奪う。
今度は触れ合うだけの軽い接吻ではない。
深い。
九峪の舌が志野の口内に侵入する。唇とは全く違う感触。柔らかいのか硬いのかよく分からな
い。ただ舌と舌が唾液を含んで絡みあう感触が気持ちよく、志野の肌には鳥肌が立った。
「んんんっ」
志野の口内を蹂躙すると同時に、九峪の手は志野の豊満な乳房を優しくなぞっている。
柔らかな乳房を壊れ物を扱う職人のように愛撫する。
志野の着ていた服は踊りの際に着るような派手に露出しているような服ではなく割と普通の服
だったが薄手の生地でできているため服ごしでも胸の柔らかさと熱が分かる。
胸を愛撫していると硬いしこりのような感触が九峪の手のひらに伝わる。
九峪は志野の唇から唇を離す。と、唾液が透明な糸を引く。
九峪は志野の胸を露出させようとする。
志野の胸覆いに手を掛ける。志野が少し抵抗するような素振りを見せたが構わず続ける。
胸覆いを下にずらすと弾力のある乳房がぷるんと揺れて外気に晒された。
九峪は志野の大きな乳房に目を奪われた。
いつも露出の大きい服を着ているため胸の大きさは分かっていた。
だが実際目にして触れるとその大きさがさらに強調された。
興奮した九峪は乳房に顔を寄せて乳首を口に含もうとする、が
「だ、だめですっ」
志野が慌てて九峪の頭を掴んで制止する。
九峪は少し訝しむような表情を志野に向ける。
「あ、いや、ごめんなさい。あの……さっきまで踊りの練習をしてたんで汗が……汚いんで」
懸命の弁解。
九峪は、ふっと口元を緩ませる。
「なんだそんな事か」
九峪は志野には構わず乳首を口に含む。確かに少ししょっぱい汗の味がする。だが嫌な感じは
しない。むしろ逆に興奮するくらいだ。
九峪は無遠慮に志野の乳首を舌と唇で犯す。さっきまでとは打って変わって激しい愛撫だ。硬
くなった志野の乳首を転がしたり甘噛みする事で刺激を与える。志野の身体が小刻みに震える。
「全然気にならない。志野の汗も乳首もおいしいよ」
九峪がそう言うと志野は耳まで真っ赤になった。
それから九峪は夢中で志野の胸にむしゃぶりついている。
その様子が何だか可愛くて何だか愛しくなった。
九峪が自分の赤ん坊みたいに思えてくる。
赤ちゃんみたいですね、と言おうとしたが怒られそうな気がしたので口には出さず頭の中で呟
いた。
でもこんな大きな赤ん坊はいない。
それに赤ん坊はこんないやらしい舐め方はしない、と思う。多分。
胸を口で刺激しながら、やがて九峪の手は志野の下半身へと伸びる。
衣服はすでに乱れていて裾の間から白い太ももが露になっている。微かに汗ばんでいるのは踊
りの練習によって発したものではない。九峪の愛撫によって志野の身体が顕著に反応していた
事の証拠だ。
九峪は下帯の隙間に手を入れる。柔らかな陰毛の感触が指先に伝わる。
そして志野の性器に触れようとする、が足を強く閉じているため上手く触れない。
「志野、ちょっと足を広げてくれる?」
志野はこくんと頷く。
一応頷いたもののさすがに足を開くのは抵抗があった。自分の一番大事な部分を無防備に晒す
事になるのだから。例えるなら丸腰で敵の前線に一人で立ち向かうようなものだ。それでも九
峪の言葉に素直に従って少しだけ足を広げる。
九峪はその瞬間を逃さなかった。
僅かに開いた足の隙間に素早く手を入れて志野の性器を一撫でする。
それだけで志野の身体は水揚げされた魚のように全身を跳ねさせた。
志野の身体を電流が流れる。つま先から頭頂まで。
それからは九峪に委ねるままだった。
割れ目がある部分に軽く触れる。
───濡れている。
膣口の付近で指を細かく動かす。
漏れる志野の喘ぎ声と、愛液と粘膜の摩擦による淫猥な響き。
九峪は自分の指先についた愛液を舌でぺろっと舐める。
もう前準備は万端だ。
志野を仰向けに寝かせる。
今度は大きく広げた足の間に九峪が移動する。
二人の性器が軽く触れ合う。
「志野、挿入するよ。いいね」
「あ、あの……私、少し怖いです」
「大丈夫、俺に任せて」
九峪が少し力を入れ、膣口に照準を定めた陰茎を奥に進める。
「ほら、先っぽが入ったよ」
志野の様子が意外と平気そうだったので九峪は一気に挿入する事にした。
腰に力を入れる。
先っぽだけが入った陰茎を志野の奥深くまで一息で到達させる。
処女膜が破れたような気配は無かった。血も出ていないようだ。
それに志野本人が初めての性交にあまり痛みを感じていないようだった。
一気に全部挿入したのにも関わらず。
「大丈夫?痛くない?」
「はい。お、思ったより痛くないです」
「じゃあ少し動いてみるよ」
今まで誰も侵入したことの無い膣内は初めて訪れる異物に警戒を示していた。
これ以上は先へ進ませない、という意識下の抵抗が膣壁を通じて伝わる。
だがそれも長く続かなかった。
九峪は少しずつ本当に少しずつ動いて膣壁を陰茎で撫でていく。
そうする事でいとも容易く警戒を解いていった。
もう通常通りに動いても志野の脳は快楽物質を分泌していた。
気持ち良い。
ただ純粋にその感情が身体を駆け巡って志野の身体を支配する。
「あ、ああんっ!……あっ、はぁ、んんっ!」
「気持ちいいよ志野」
「わ、私も、き、気持ちひい……です……っ!」
志野が素直に感じてくれているため九峪は嬉しくなった。
男としての喜びを感じている。
その感情のままに九峪は志野の膣奥に白い欲望を吐き出そうとする。
腰の動きを一段と速くする。
「志野、そろそろ出すよ!!」
「だめーーーーーーーっっ!!」
そう叫んだのは志野ではなく珠洲だった。
何故か押入れに居た珠洲がいきなり出てきて九峪を突き飛ばした。そのせいで九峪は尻餅をつ
いて後方に飛ばされた。
射精寸前だった陰茎から出た精液は志野の膣内ではなく床に空しく放たれた。
「痛いな!何するんだ珠洲!!」
「だめ!志野の膣内に出しちゃだめ!!」
珠洲が涙目になって九峪の前に立ちはだかる。
「なんだよ、話と違うじゃないか!!なんで出てくるんだよ!?」
「だめったらだめなの!絶対にだめ!!」
珠洲が必死になって九峪と口論する。正確に言えば、珠洲は頭ごなしに否定してるだけで口論
にすらなっていないのだが。
二人の間で事前にどんな話がされていたのか?
だが、どうやら九峪の行動が珠洲は気に入らなくて制止したらしい。
二人は激しく言い争っている。
そして、全く今の状況を理解できていない人物が一人。
鋭い剣幕で九峪に怒鳴る珠洲を捉える視線が九峪のもの以外にもう一つ───志野だった。
「珠洲」
「志野……」
「今度は志野を混ぜて3人で楽しむか」
そう提案したのは九峪だった。
それは2週間前の事───そう、珠洲が九峪に秘密を握られて犯された日でもあった。
強姦同然に犯されながらも行為に快楽を感じていた珠洲はその提案を飲んだ。
想いを寄せている志野とこの快楽を共有できる。そんな誘惑に珠洲は勝てなかった。
志野は処女だ。
そう言い切る珠洲。何の根拠があるかは知らないがやけに自身たっぷりでそう言い切った。
男性器が女性器と交わっていないという観点から言えば珠洲は童貞だった。
お互いの初めてを分け合えられたらどんなに素敵な事だろう。こんなに心躍る事はない。
しかし、問題が一つ。
珠洲は今、志野とは顔を合わせられなかった。
「それなら俺と志野がしているところを見ていろ」
それは九峪が志野の初めての相手になることを示唆していた。
とても耐え難い。
自分の好きな人が他人に蹂躙されるのを黙って見ているなんて。しかもその相手が九峪だ。
珠洲は苦悩した。
が、悩んでいたのはそんなに長い時間じゃなかった気がする。
九峪が志野の処女を奪う。───私と同じように。
自分と同じ境遇になる事で志野と分かり合える。きっとそうに違いない。この身体の事だって
受け入れてくれるに決まっている。
そんな歪んだ感情が珠洲の中で渦巻いていた。
もう何が正しくて何が間違っているか判断できない。
だから珠洲は渋々承諾した。
いずれ秘密を打ち明けて志野と交わる、珠洲はその瞬間だけを夢想して押入れの中で息を潜め
て二人の行為を見ていた。湧き上がる感情を抑えながら。
この状況を我慢できればいずれ自分も志野と交われる。
そう、信じて。
志野と珠洲。
二人の間に生まれる沈黙。
志野の頭の中でいくつもの疑問符が飛び交う。
聞きたい事がいろいろある。
だが、そのどれもが言葉にはならなかった。
いきなり現れた珠洲に半ば呆然とした視線を向けるだけだった。
それは珠洲も同じ事だった。
つい九峪の行為に我慢できなくなって飛び出したのはいいものの言うべき事が見つからない。
言わなければならない事がある。
なかなか言葉にならない。
少しの静寂が永遠のようにも感じられる。
このまま時が止まればどんなに楽になるだろうか。
この場から今すぐ逃げ出したい衝動を抑えて、何とか先に口を開いたのは珠洲だった。
実は、と震える声で言って珠洲は自分の衣類を脱いで志野の前に立った。
志野の目が点になる。
ありえない。
志野の目がそう語っていた。
そこには堂々と屹立する男性器がある。女である珠洲にあるはずがない物体。
先端には透明な液体の雫。
「わ、私こんな身体になっちゃ……た。これがばれたら志野にき、嫌われると思って……」
珠洲はもうそれ以上は言えなかった。こみ上げてくる涙と嗚咽で何も言えなくなった。
ついに志野に秘密を明かした珠洲は志野の顔をまともに見れずに顔を俯かせていた。
怖くて志野の顔を見れない。ひょっとしたらもう志野とは以前のように仲良くできないかもし
れない。それどころか口さえもまともに聞いてくれなくなるかもしれない。志野は今どんな顔
をしているのだろう?
と、珠洲は頭に軽い衝撃を受けた。それほど痛くはない。
志野が珠洲の頭を軽く叩いたのだ。珠洲は何故叩かれたのか分からず顔を上げる。志野の顔は
怒っているような笑っているような微妙な表情だ。だが柔らかい。
はぁ、と嘆息した後、
「馬鹿ね。そのくらいで私が珠洲の事を嫌いになったりするもんですか」
そして優しく抱きしめる。
志野の憎らしいくらい優しい香り。
温もり。
心が安らいでいく。
それまで珠洲を取り巻いていた不安が雲散霧消していく。
志野は男性器の生えてしまった珠洲を受け入れた。
「たった一人の家族じゃない。これまでもこれからもずっと一緒よ」
「うぅ、し、志野〜」
珠洲は志野の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
「ごめん、志野。私、志野の膣内に入れたい」
泣き止んだ珠洲が放った第一声がそれだった。
九峪と志野の交わりを見てる時から珠洲の陰茎は張ち切れんばかりにぱんぱんになっていた。
「え、で、でも大丈夫なの?」
志野は困惑する。それも当然かもしれない。志野は先ほど処女を喪失したばかりだ。それを差
し引いても原因が分からないまま生えてきた陰茎を体内に入れるのは抵抗があった。
「大丈夫だよ。私に任せて」
「任せてって……きゃっ」
志野の小さな悲鳴。珠洲は抱きついたままの状態で志野を押し倒す。
「志野、このまま……いいよね?」
珠洲は志野に聞いたが志野が首を縦に振らなくてももう止められなかった。だから志野が頷く
前に挿入体勢は整っていた。もし志野が抵抗するようなら自前の糸で手足を絡み取ってでも挿
入するつもりだった。珠洲の理性は通行手形を持ってどこか遠くに行ってしまった。
志野の性器は先ほどの九峪との名残でそのまま続きができそうな状態だった。珠洲はそれを冷
静に判断した。
志野の沈黙を珠洲は是と受け取った。
もし本当に嫌なら必死に抵抗するはずである。
しかし志野は心の中でもう珠洲とぎくしゃくするのは嫌だという理屈を抜きにした感情がある。
ひょっとすると珠洲はそんな事まで計算済みだったのかもしれない。
そして珠洲は限界までに勃起した自分の陰茎を志野の膣穴に宛てる。
力を入れる。さしたる抵抗感もなくぬるっと陰茎は穴に吸い込まれていった。
初めての感触。
自分にも付いている女性器。その中がこんなにも気持ち良いなんて。
手で擦るのとは雲泥の差だ。暖かくぬるぬるざらざらしてて、全体がきつく締め付けてくる。
「あ、あぁっ志野のおまんこに私のおちんちんが入ってる〜!」
しかも相手が好きな女性だからその感触は格別だ。
「あぁっ、うあああぁ!」
挿入してから僅かな時間しかたっていない。それにまだ全然動いていない。それなのに珠洲は
絶頂に達して精液(のようなもの)を大量に志野の膣内に発射した。志野の体内が暖かい液体
で満たされる。膣内に出されたのはもちろん初めてだったがそれほど嫌な感じではなかった。
めざとい九峪がその行動にすかさず反論する。
「てめえっ!自分は膣内に出していいのかよっ!」
珠洲は射精の余韻に浸っているのを邪魔されて明らかに不快な声で言った。
「志野は私のだから私はいいのっ!あんたはだめっ!」
「何だよそれ!?」
「うるさいなぁ。とにかくそういう事なの!」
「私いつ珠洲のものになったの?」
「えへへ、今」
志野がはぁ、とため息をつく。
それより、と珠洲が切り出す。
「私女の子の初めては九峪に奪われちゃったけど」
と一旦言葉を切って九峪を睨む。九峪はそ知らぬ顔で違う方向を見ている。
「男の子の初めては志野にあげれてとっても嬉しい」
珠洲は年相応の笑顔で志野に話す。珠洲にもこんな表情ができたんだ、と九峪は内心で驚く。
普段からそれくらい素直だったらもっとみんなにも好かれてるだろうに。
志野もそんな珠洲が可愛いと思う。珠洲と長い付き合いの志野は珠洲がこんな一面を持ってい
る事は既に知っていた。だから、そう、とだけ言って微笑んで頭を撫でてやる。
「志野、私まだ全然足りない。もっともっと志野を感じたい。いいでしょ?」
「仕方ないなぁ」
志野は珠洲に両手を伸ばす。
「今度は私も気持ちよくさせること。一人で気持ちよくなったら許さないから」
「志野ぉ!志野ぉ!気持ち良いよ志野〜!!」
珠洲はなりふり構わず腰を振っている。まるで獣だ、猿だ、と九峪は思う。
男でもそんなに激しく腰は振らない。
珠洲は先刻すぐに果てたが一回出したので次は大分長く持っている。
志野も感じている。珠洲の乱暴な腰使いにも感じてしまっている。
腰を振りながら珠洲は志野の胸を愛撫する。両手で胸を鷲掴みにして片方の突起を口で貪って
いる。
九峪が口を挟む。
「おいおい楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
と、どちらに言うでもなく言葉を発した。
そして志野の上で必死に腰を振っている珠洲の後ろに膝立ちになる。
九峪はさっき珠洲に邪魔されたため、お返しだと言わんばかりの表情。
「珠洲、こっちの穴が寂しそうだな」
そう言って九峪は珠洲の肛門に指を挿入する。
珠洲はその感触を無視できなかった。ずぶずぶと九峪の指は珠洲の中に入っていく。
珠洲はお尻が弱い。
あまりにも強い刺激に珠洲は腰の動きを止めた。
九峪がゆっくり指を動かすのに合わせて珠洲もゆっくり腰を動かし始めた。だが腰を動かせば
志野に入っている陰茎も一緒に動くので前と後ろで同時に快感が珠洲の身体を駆け巡る。
「あ、ああぁっ、あっ、こ、こんな……のき、気持ち良過ぎ……っ」
珠洲は苦しそうに声を出す。今までに経験したことのない快感が珠洲を襲っている。
「まだ本番はこれからだぞ、珠洲」
九峪は指を抜いて勃起した陰茎を珠洲の肛門に宛がう。そして珠洲の腰を掴んで入り口の抵抗
を突破して一気に根元まで挿入した。
「う、うぁああーーーーーっっっ」
さすがに一気に挿入されるのは珠洲にも相当な負担だ。
珠洲は動けずにそのまま志野に抱きつく。
九峪はそんな事お構い無しに腰を振って珠洲のお尻を犯す。
暖かくて入り口がきゅうきゅう締め付けてくる感触は病み付きになるほど気持ちが良い。
それにいくら中に出したって妊娠の心配をする必要が無いのだから。
肛門でする性交は個人差はあるが女も強い快感を得ることができる。膣で感じる刺激よりも数
倍良いらしい。
だがその事を知らない志野はお尻を犯されて本気で感じている珠洲を不思議そうに見た。
珠洲に素朴な疑問をぶつける。
「お尻なんて……い、痛くないの?」
だが迫り来る快感によって珠洲はその質問に答えることができない。
九峪は腰を激しく振りながら珠洲の身体ごと動かす。
すると志野に入っていた珠洲の陰茎も連動して3人は同時に快感を与えられる。
中でも一番刺激が強いのは二人に挟まれている珠洲だ。
前後のどちらか一つでも十分すぎるのに。
性感を通り越した暴力的な刺激が珠洲の身体を襲う。
九峪は珠洲を挟んだまま志野を抱きしめた。必然的に間に珠洲が挟まっている状態ではあるが。
珠洲は少しドキッとした。
あの日以来九峪には散々いいように犯されてきた。まぁ自分も気持ち良かった事までは否定
しないが。それでもこんな風に腕に抱かれた事はなかった。いつも穴を犯されて自分が満足し
たらそれで終わり。優しくされたことなんか一度も無かった。一方的な身体の繋がりはあって
も接吻などはもちろん無い。
その後すぐに続いた九峪の動きによって珠洲はまた強い刺激の波に投げ出される。
そして何も考えられなくなる。
頭が真っ白になる感覚。
このままどこかに飛んでしまいそうな、そんな感覚。
そして3人は同時に到達する。
志野の膣内と珠洲の腸内に精液が脈々と排出された。
珠洲にしてみれば出したのに出されているという奇妙な感覚があった。
熱い液体が珠洲の身体を満たしていく。
ぐったりした珠洲は志野の乳房に顔を埋めていた。
九峪は珠洲の肛門から自身の陰茎を抜き取る。白い精液がとろりと流れ落ちる。
九峪は荒い息をついて抱き合う二人を見る。
そして静かに部屋を出て行った。
九峪にはもう珠洲を犯すことはできない。
珠洲が九峪の言いなりになっていたのは珠洲がふたなりだという秘密を握られていたから。
そしてその事実が志野に知られたくなかったからだった。
今こうして志野は珠洲を受け入れて行為に及んだ。
つまりそれは珠洲が九峪の呪縛から解き放たれたのと等しい。
珠洲は自由になったのだ。
だからここに九峪の居場所は無かった。
珠洲は部屋を出て行く九峪に気が付いた。
その背中を珠洲は視線だけで追う。
寂しそうな背中に何故か胸がちくっと痛んだ。
───どうして?
自分に問いかけても答えは出ない。
ただ何かしらの空白感がある。
今こうして大好きな女性と一つになれたのに。
今までの不安が消し飛んだのに。
幸せを感じているのに。
何か大事なものを気付かない内に落としてきたような感覚に囚われる。
もう九峪からは開放されたのだ。志野とは前以上に仲良くなれた。
なのになぜ───?
九峪が志野の処女を奪った時も似たような胸の痛みを感じた。
九峪の精液を志野の膣内に出させなかったのも何故だろう?
珠洲は自分でもその理由が分からない。
分かるのはその原因が九峪にあるという事だ。これだけは間違いない。確信できる。普段は信
仰しない神に誓ってもいい。でも神の遣いには誓ってやらない。
あの男のせいでこんな気分なのだ。
だから九峪が出て行った戸に向かって呟いた。
「……九峪の馬鹿」