「九峪様、失礼します…」
そう言って九峪の部屋の戸を開けたのは清瑞だった。しかし九峪の姿はそこには無か
った。九峪の方から呼びつけておいて本人は留守というのも失礼な話しだ。文机の上
には今さっきまで作戦を思案していたの物語るように筆記用具や火向の地図などが乱
雑に置かれている。この様子だと少し部屋を外しただけだな、と清瑞は考えた。なら
ばまた訪ね直すよりもここで待たせてもらった方が良案だと判断した。
───部屋の隅に座って30分あまりが過ぎた。
「う〜ん、遅いな九峪様……。てっきりすぐ戻ってくるものだと思ったけど」
九峪が戻ってくる気配が一向に無い。清瑞はただ待つのに飽きてしまった。ふと顔を
上げると梁がむき出しになった天井が目に入った。そこで清瑞は良からぬ考えを思い
付く。
(少し九峪様を驚かしてやるか)
そう決めると清瑞は身軽な跳躍で天井の梁に到達した。そこで九峪を待ち伏せして帰
ってきたところに背後に飛び降りて大声で声をかけてやるのだ。これは驚くに違いな
いと清瑞はひとりで頷いた。驚く様子を想像すると口元がにやけてしまい笑いを抑え
るのに必死だった。
───遅い。
清瑞が天井の梁で待っている時間ももう大分経ったはずだ。清瑞は飽きを通りこして
少しイライラし始めていた。
(いつまで待たせれば気が済むんだ!?)
そう心で叫ぶと九峪の顔が浮かんだ。自分は怒っているのに脳裏に浮かぶ九峪の顔は
すけべえな顔ではなく、神の遣いとは思えないほどのさわやかな笑顔だった。想像と
はいえ九峪に笑顔を見せられて少し清瑞は嬉しくなった。次の瞬間には脳裏の九峪の
姿はなぜか裸だった。以前部屋を訪れた時に偶然目にしてしまった九峪のソレ。あま
りにもインパクトが強かったためにいつまでも忘れることのできない光景。それを思
い出してしまって清瑞は頬を赤く染める。
「わ…私は一体何を想像してるんだ…!?」
自分の想像に戸惑いながら清瑞は自分自身に弁護する。必死で首を振って自分の作り
出した想像図を消し去ろうとするがいつまでも消すことができなかった。そうして常
に頭の中に九峪がいる状態が続くと今度は清瑞自身に変化が生じてきた。
(な、何だか身体が熱くなってきた……)
鼓動が速くなり呼吸の回数も多くなっていた。何だか切なくなり瞳を閉じて九峪に抱
きしめられている想像をする。それに合わせるように自分の腕で自分を抱きしめると
本当に九峪に抱きしめられているような錯覚を覚えた。
「九峪…様……」
清瑞は自分の世界にトリップしていたためそれが本当に口から発したのが自分でわか
らなかった。その直後、
「ん?なんだ、清瑞か?…ってそんなとこで何してるんだ?」
ビクゥッッッ
清瑞は驚いて天井の梁から転落してしまった。
ゴンッッ
清瑞が床に直撃した音が響く。
「お、おい清瑞どうした!?大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る九峪は上半身がはだけるのも気にせずに清瑞を抱き起こした。
清瑞が薄く目を開けるとそこには自分を抱えている九峪の姿があった。何か必死に口
を動かして喋っているようだが何も聞こえなかった。
(あぁ、そうか。これは自分の想像の続きなんだ)
自分を抱えている九峪は裸だし何だか視界もぼやけて頭がぼ〜っとしている。これだ
けの材料が揃っていたため清瑞は目の前に起こっている出来事が想像の範疇にある、
とそう判断した。それならば、と清瑞は想像の中でしかできないような事を実行した。
清瑞は自分を抱えている九峪に抱きつき、顔を寄せて接吻をした。
───!!
さすがの九峪もこれには驚いた。すぐに身体を離してその場から脱出しようと思った
が清瑞の唇があまりに甘く柔らかいので唇の感触を存分に堪能することにした。
しばらく接吻を続けすっかりその気になってしまった九峪は清瑞の口内に自分の舌を
するりと滑らせた。その瞬間口内の異物感というか艶めかしい感触に清瑞はハッと正
気に戻った。すぐ目の前には九峪の顔がある……というか接吻どころか舌まで入って
きている。
───これは夢ではない!!
気付いた時にはただ九峪から離れることしか頭に無かった。清瑞は一瞬のうちに九峪
から離れ距離をとる。清瑞は、はぁはぁと肩で息をしていた。
「……な、何をするんです!?」
自分から接吻しておいてその言い草はどういう事だ?と九峪は怪訝に思う。
「……お前の方からしてきたんじゃないか」
九峪は半ば呆れ顔で清瑞に言う。
清瑞は先程の自分がとった行動を思い出して赤面する。
「……あ、あれは……ですね、えっと、その……九峪様のことを考えていたら……、
ってそうではなくてですね…そんなことは絶対になくて、あぁこんなことを言ったら
逆に怪しいか……えっと、そう、急に九峪様の声がしたものだから驚いて……」
と、驚くほどの早口で必死にごまかそうとする。混乱しているためか言ってることが
良くわからない。
───と、清瑞が言い訳を喋っている途中で彼女の身体が急に傾きだした。
危ない、と思って九峪は駆け出し清瑞の体を受け止める。
清瑞は天井の梁から落ちて頭を床に直接ぶつけたために意識が朦朧としていた。
またもや九峪が何か言ってるが聞こえてこない。そして清瑞は深い闇に落ちた。
───清瑞が再び目を覚ましたのは九峪の布団の中だった。
「お、気付いたか。急に倒れるから心配したぞ、調子はどうだ?」
九峪はと言うと清瑞の枕元にいた。
清瑞が倒れた後、九峪はすぐに忌瀬を呼んで診てもらった。軽い脳震とうで外傷はと
くに見当たらないので安静にしていればすぐに良くなるという事だった。それを清瑞
に伝えると清瑞は心底申し訳無さそうな顔で布団の上で正座して九峪に謝罪の言葉を
述べる。
「本当に申し訳ありません!!正常な状態でなかったとはいえ九峪様にあんなご無礼
をしてしまいまして……その上心配もかけてしまって……、もう返す言葉もありませ
ん……」
「ん?あぁ気にするなって、清瑞と接吻できてラッキーなくらいだからさ」
「…らっきぃ?」
「あ、えーと……幸運だったってこと」
そういうと清瑞の顔がボンと音を立てるくらい一気に赤くなった。そして朧気ではあ
ったが九峪の唇の感触が蘇ってきた。九峪が怒っていないことに安心もしたがむしろ
喜んでいる感じに清瑞も嬉しく思った。
清瑞自身にも自覚症状がなかったが清瑞は九峪のことが好きだった。最初は何かと突
っかかっていた清瑞に心境の変化が生じたのは伊万里の刃から身を呈して守った時か
ら、あるいはその前の九峪の裸を目撃した時からか……。とにかく清瑞との接吻を喜
んでいる九峪の様子が清瑞に大胆な行動をさせる。
「あの、九峪様……私も、らっきぃにさせてくれますか……?」
九峪は最初意味がわからないまま頷いた。そして清瑞が自分に接吻してきた事で言葉
の本質を理解した。二人は止まらなかった、今度は接吻だけでは止まらなかった。
「九峪様、清瑞を……清瑞を抱いてください」
接吻したまま清瑞を布団の上に押し倒す。胸元が大きく開いている乱波装束の間から
手を滑らせて胸に触れると小さなため息が漏れる。
「あ……ふぁあぁぁ…」
初めて触る清瑞の乳房は見た目以上に柔らかく弾力があった。始めはためらいがちに
触っていたためか清瑞に方も少し構えがちな反応だったがお互いに徐々に慣れていき
、乳房全体を包むように優しく愛撫しだすと確かな反応が返ってくる。清瑞はもちろ
ん男性経験はない。九峪は無いわけではなかったが経験が多いわけではない。今まで
に得た知識を総動員させて清瑞の体を愛撫していく。
ある程度胸をほぐすと今度は胸を覆う布を剥ぎ取り豊かな乳丘を露出させた。これは
さすがに恥ずかしかったらしく清瑞は慌てて両手で乳房を隠す。
九峪はその両手を掴んで優しく乳房から引き剥がし露になった突起物に唇を寄せる。
そして間髪入れず乳首を口に含み、舌で転がすように刺激する。
「ひゃあぁぁっ!?」
こんな刺激は初めてなので清瑞は変な声を上げて驚いた。両手は九峪に掴まれている
ので抵抗はできない。もとより抵抗する気なんて無いのだが……。
始めは驚くだけだったがすぐに感じたことのない快感が清瑞を支配した。九峪の口内
が、舌が焼けるほどに熱い。
九峪は清瑞の乳首が硬くなってくるのを舌先で感じ今度は激しく吸い上げる。
清瑞の目が次第にとろ〜んとしてくるのを確認すると九峪の手は清瑞の股間に伸びて
いた。制止する間もなく下着ごと脱がされていた。そして九峪は清瑞の秘部にそっと
触れる。
───濡れていた。
比喩でも何でもなく確かに清瑞のソレはすでに溢れんばかりに愛液を分泌していた。
割れ目に沿って指を滑らすと下部で指がザラザラした肉壁に包まれた。何者も侵入し
たことのない汚れを知らない膣は九峪の指の第一関節までを受け入れた。指を少し動
かすとさすがに抵抗があった。そこで指での愛撫は止めて舌を使うことにした。顔を
秘部に近づけると清瑞は何をされるのかわからなくて不安そうな表情を浮かべる。そ
してその表情が大きく歪む。
九峪は清瑞の性器に舌で容赦のない愛撫をしていた。割れ目に沿うように舐め上げる
事もあれば控えめに付いている大陰唇を唇で挟んだり舌ではじいたりして愛撫をする
。そのたびに清瑞の口からは可愛い切なげな声を上げる。一番大きな声を上げたのは
九峪が陰刻を刺激した時だった。多分自分でも触ったことがなかったに違いない。少
々刺激が強すぎて快感ではなく痛みを感じたのかもしれない。だが愛液は先程よりも
はるかに多く溢れてすでに布団の一部分をたっぷり濡らしていた。九峪はその愛液を
指ですくって清瑞に見せてやる。
「清瑞こんなに濡れてるよ……、感じてるんだな」
清瑞は自身の快感の証を九峪に見せられて恥ずかしくなって顔を背ける。顔はすでに
紅潮しっぱなしで全身から汗が噴き出している。
と、九峪は自分の服を脱ぎ出し清瑞の前に裸を晒す。清瑞は以前にも九峪の裸を見て
いてその光景は今でもはっきりと目に焼き付いている。だが違っていた。清瑞の記憶
とは似ても似つかなかった。以前見たのはだらんと地面に向かって下がっていた。だ
が今はどうだ、天に昇ろうとするように猛々しく天上に向かって直立しているではな
いか。それも大きく、見ただけで感じとれるくらいに硬く、まるで生きているかのよ
うに脈を打っている。清瑞は九峪の立派なものから視線を動かせなかった。まるで呪
いでもかけられたように。
(か、神の遣い………)
率直な感想だった。
確かに神々しいものではあったのかもしれないが、それは清瑞が初めて勃起している
男性器を見たためであると思われる。
清瑞の意識が九峪のものから動けないでいると九峪の身体は清瑞の足の間にあった。
「清瑞……入れるぞ……」
清瑞はハッと我に還る。清瑞にもその言葉の意味は通じた。とうとうその瞬間がやっ
てきたのだ。知識としては知っていたがいざ自分が体験することとなると不安や恐怖
が沸いてくる。しかも先程見た九峪の性器の印象が強いためか自然と身体が強張る。
いくら清瑞が死線を乗り越えてきたからといってこの類の恐怖とは全く別物なのだか
ら仕方がない。
九峪は陰茎の先で割れ目をなぞって愛液を纏う。そして膣口に狙いを定めると、
「痛かったら気にしないで力一杯抱きつけばいい。……なるべく痛くないようにする
から」
清瑞は無言で頷く。
そして九峪の腰が少しずつ下降していく。十分に濡れていたので割とすんなり入った
が純潔の証がその侵入を拒んだ。九峪もその抵抗を感じて一気に貫通することを決意
する。その方が痛みが少ないと思ったからだ。
グッと腰に力を入れて抵抗を断ち切る。
プツンと薄い膜が破れるような感触を感じたのは清瑞だけだろうか?
さすがに相当痛かったらしく清瑞は唇を噛みしめ、九峪に力一杯抱きつき、必死で痛
みを堪えている。閉じた目の端からは一筋の涙が流れた。それは痛みの涙なのか喜び
の涙なのか……?
九峪は奥まで挿入したまま動かずに清瑞の様子を伺っていた。
「清瑞……、大丈夫……か?」
「大丈…夫です……、ですからこのまま……動いて…ください」
お決まりらしいセリフを言って清瑞は無理に微笑んだ。九峪は清瑞の言葉通り、動き
始める。やはり最初は痛みだけを感じていたらしいが徐々に艶の混じった声が響いた
。初めての性交で快感を感じることができた。それは相手が九峪だったことも理由の
一つだろう。
────そして大量の白濁液を奥に射出した。清瑞はそれを身体の内から感じた。
清瑞は九峪と結ばれたことを心から喜んでいた。そしてこれからも身体を重ねる機会
があることを切実に願っていた。
二人の関係は内緒のはずだったが何故かすぐに復興軍内で瞬く間に広まった。九峪と
清瑞は必死でごまかそうとしたがすでに修復不可能なぐらいに浸透していた。
きっと誰かに清瑞との行為を見られた可能性があると考えた。なぜなら行為の手順や
ら方法までもが事細かに伝わっていたのだから。こんな事をするのは忌瀬くらいしか
いないと九峪は考える。そしてその読みは正解である。
この話が流れた直後、当馬城の一部が星華の方術により全壊した。得意のヒステリッ
ク満載の行動である。復興軍内で新たな戦いが始まったのは言うまでもない。
そして清瑞はこの後の戦で姿を消すことになる。