“医療的な軍事行動”  
 
 少しひんやりとした手が気持ちいい。その手は胸板を一つ一つ、なにかを確認するようにゆっくりと撫でていく。  
「大きく息を吸ってみてください」  
 促されて九峪は大きく深呼吸した。  
「はい、すとっぷ? ……でしたっけ?」  
「ん」  
 クエッションマークを頭に浮かべて聞いてくる忌瀬に、声を出せないので九峪は小さく顎だけ引いて答える。  
「吐いて」  
“はぁ〜〜〜〜”  
「はいOKです」  
 九峪の胸板から手を離して、忌瀬は竹簡になにか書き込む。  
「どうだ?」  
「いまのところ問題はありませんよ 極めて健全な男の子です」  
 先程から二人がなにをしているのかと言えば、九峪の身体の定期健診である。  
 この時代、人々の命を落とす理由としては、戦などよりも病の方が圧倒的に多かった。  
 当然だが抗生物質などというものはない。現代ではビタミン剤を飲めば済むようなものでもアッサリと死んでしまう。  
 狗根国の暗殺などよりも、むしろ亜衣たち耶麻台首脳部が恐れたのは九峪が病に倒れる事だった。  
 現代でも手の施しようのない病気はいくつもあるが、この時代ではそれこそ忌瀬でも治せない様な病気が星の数ほどあるだろう。  
 じゃあどうしたらいいと考えたとき、なったらどうするではなく、ならなければいいという結論になった。実際問題それしかない。  
 こうして九峪は定期的に忌瀬の健診を受けるようになった。  
 
 しかしこれは同時に、忌瀬に対する九峪の絶大な信頼も表している。  
 例えば薬が毒に変えられたとしても誰も気づきようがない。九峪の命は忌瀬の匙加減次第という事だ。  
 それに元々は忌瀬は天目配下である。それなのにすんなりと自分の命を預けてしまう九峪に、幹部達は呆れるながらも感服していた。  
 もっとも、忌瀬がその様な真似をしないのは皆わかっている。  
 大体当の本人達がそんな事を考えてる素振りすらないのだ。危惧するだけ馬鹿らしい。  
 最初は一緒にいて目を光らせていた亜衣も、いまは山のように積まれている仕事の所為もあり二人は放ったらかしである。  
「それじゃ、それも脱いじゃってください…………えへっ」  
「…………なんだ、最後のえへっていうのは」  
「いやだなあ九峪さま、別に深い意味はないですよ ささっ気にしないで豪快にガバッと」  
 いささか引っかかるものを感じるが九峪はズボンを引き降ろした。衣緒に言って作ってもらったトランクス風の下着一丁になる。  
「これでいいだろう」  
 そう言ってイスに腰を降ろそうとした九峪に忌瀬が待ったを掛けた。  
「九峪さま、まだ残ってますよ? それが……」  
 チョイチョイと指す“それ”はもちろんトランクスである。  
「え!? こ、これもか?」  
「あったり前じゃないですか」  
 トランクスを脱ぐのに躊躇する九峪に、忌瀬は“なにを今更”といった顔だ。  
「九峪さま 患者は医者に対してぷらいべぇと? なんてものはないんですよ」  
 現代であれば人権団体辺りに抗議の嵐を喰らいそうな発言を忌瀬はサラリと言う。しかしまぁ、九峪もそれはわかってはいるのだが、  
「でもなぁ、女の子の前ですっぽんぽんになるのはちょっと…………」  
「きゃぁああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」  
「うぉ!? なんだよ?」  
 いきなり大きな声を出した忌瀬に、九峪は思わず仰け反ってしまった。  
「また、また女の子って言った うぅれしぃぃにゃんよ〜〜〜〜」  
 一瞬にして歓喜に身を包まれた忌瀬は、それこそ豪快にガバッと九峪の首に両手を廻して抱きつく。  
 猫のようなのは口調だけではなく、すりすりと九峪に頬ずりまでした。  
 
「お、おいバカ止せってば」  
 つい先日はこんな事をやってるところに亜衣が現れたのだ。  
 九峪も女の子に抱きつかれるのは嫌いではないどころか大好きだがいまはマズい。  
 トランクス一丁の、感触が非常にダイレクトにいき易い状態なのである。女の子の身体の柔らかさに抗しようがない。  
 若いオトコの身体が、望みもしない嬉しくも情けない変化を見せる事は疑いなかった。無理やり忌瀬を身体から引き剥がす。  
「あぁんもう、ツレナイなぁ九峪さま」  
「ツレんでいいの……俺だって残念なんだよ、こんなチャンスを…………」  
「なんか言いました?」  
「べつになんも」  
「そうですか、じゃ、こうしてますからその間に脱いでください」  
 忌瀬は両手でイナイイナイバアッの様に顔を覆った。この間に脱げという事のようだが、  
 結局見るんだから意味ねぇだろそれ……。  
 九峪は思ったが、パンツを脱いでるところを女の子に見られるのは相当情けない。なんぼかマシかと思い直した。  
 でぇえい、俺もオトコだ!!  
 九峪は意を決すると、侠気の無駄遣いをしているような気もするが、勢いよくパンツをずり降ろす。  
「もう、いいですか九峪さま?」  
 気配を察したのかイナイイナイバアッのまま忌瀬が聞いてくる。  
「ん、いいよ」  
「きゃッ」  
 凄いスピードで両手を下げた忌瀬が、今度は可愛く両手を頬に当てて顔を背けた。  
「おいコラッ なんだその反応は」  
 このシーンだけ見ていたら九峪が変態みたいである。  
「こっちを向け」  
「いゃん 九峪さまのエッチ」  
 エッチは変態の頭文字だ。エッチ、エッチをくり返しながら、忌瀬はいゃんいゃんと首を振る。  
「……見ないなら、俺帰るぞ」  
「あ、うそうそ、見ます見ます どれどれ…………」  
 帰るそぶりを見せた九峪に忌瀬は慌てると、今度は一転して気恥ずかしくなるくらいジ――と股間を熱心に観察しだした。  
 その距離は息が掛かるほど近い。九峪はなんとも居心地が悪かったが、今更見るなとも言えなかった。  
 
「ふむ、見たかぎりでは問題なさそうですね、見たかぎりでは……」  
「うッ!?」  
 九峪の股間の牡器官が、冷たく優しい感触に包まれる。ひんやりとしたぬくもり、そんな矛盾だらけが心地いい。  
 絡められた指先がわずかに上下する。それは九峪が、いや若いオトコなら毎夜慣れ親しんだ動きだ。  
「お、おい、忌瀬」  
「触診ですにゃん……痛かったら言ってください」  
 口調はいつも通りザックバランにふざけている。でもその声はかすれて…………艶のある熱を帯びていた。  
 
“しゅにしゅに…………”  
 擦る動きがぎこちない。間違いなく九峪が自分で擦ったほうが、肉体的にはずっと気持ちいいだろう。  
「こうやれば気持ちいいのは知ってるんですが、意外に難しいものですねぇ……にゃん」  
 語尾に『にゃん』を付けるのを忘れるほど、忌瀬はその行為に、九峪の勃起を擦る行為に没頭していた。  
 その顔は一生懸命で愛らしい。  
 普段は気が抜けているが、ちゃんと真面目な顔さえすれば、元々どこに出ても充分以上に美人で通る素材なのだ。  
 そんな美人に誰も来ない密室で奉仕されれば、喩え神の遣いという肩書きがあろうとも、九峪だって立派な高校生である。  
 人間は思春期などと綺麗な言葉で取り繕っているが、動物でいうところの発情期真っ最中、興奮するなというのが無理な相談だ。  
 逆にこの歳でまったくしないようなら、それこそ忌瀬に診てもらった方がいい。  
「お!? 先っちょから出てきましたねぇ……いくらかは気持ちいいですにゃん?」  
「まぁ……な」  
 九峪の頬が赤くなる。  
 忌瀬は医者だけあって、こういった身体の反応に対する質問に頓着はないのか、なんでもないように聞いてくるが、九峪からすれば  
自分の蒼さを指摘されたようで、どこかむず痒く小っ恥ずかしかった。  
「それじゃ、ちょ〜〜〜〜〜〜っとだけ、刺激の強い診査に移りますにゃん」  
 言って忌瀬は椅子から腰を浮かすと、九峪の前に跪く。神の遣いに接するのに、この所作はなにもお変しいところはない。  
 忌瀬は無宗教だろうし時代も全然違うが、キリスト教の祈りのポーズに見えなくもなかった。  
 迷える子羊は神の遣いに、唇を笑みの形にしながら恭しく頭を垂れる。  
 
“チュッ……”  
「うッ!?」  
 小鳥が啄ばむような音。  
 縦割れの唇に九峪は軽くキスをされた。それだけで脊髄に強烈な快楽パルスが走る。  
「まだまだ……これからが本番ですにゃんよ」  
 顔は俯かせたままなのでその表情は窺えないが、忌瀬の声はすごく愉しそうで、それと同じくらいに嬉しそうだ。  
 そしてその言葉に嘘はない。  
 忌瀬は笑みの形になっていた口唇を大きく開けると、  
“はむッ”  
「はぁうッ!?」  
 九峪の勃起の先端を咥え込んだ。温かく濡れた口内粘膜に亀頭が包まれる。  
「うぉッ……はぁ……忌瀬………くぅッ…………」  
 舌をモゴモゴさせながら、忌瀬は硬いのに不思議に柔らかい肉の実に、しつこいくらい丁寧に唾を塗していった。  
 そしてそれを潤滑油にして、  
“ぬむむむッ……”  
 ゆっくりと勃起に唇を滑らせて喉の奥ギリギリまで忌瀬は呑み込んでいく。  
 限界まで収めたところで“チラッ”と上目づかいに九峪を見た。  
「……ああ……コホンッ」  
 ジ――ッと真っ直ぐに見つめられて、気恥ずかしくなった九峪は業とらしく咳払いすると、明後日の方向に目を逸らす。  
 忌瀬は増々愉しそうに笑みを深くすると、呑み込んだときのようにゆっくりと口唇を引いて亀頭が抜けるギリギリまで後退すると、  
また勃起に滑らせて喉の奥まで呑み込み、拙い動きながらもちょっとずつ往復を始めた。  
 
“ちゅぷ…ちゃぷ……ちゅるる……にゅちゅ……”  
 口の端から零れそうになる唾液を忌瀬が啜り上げるたびに、口内が“きゅぅッ”と収縮して亀頭が強く圧迫される。  
 お気楽極楽薬師の舌が踊るたびに、背筋を這い上がってくる快感に九峪は打ち震えた。  
 手は自然と長い髪を振り乱して、自分の勃起に奉仕する忌瀬の頭を愛でるように撫でている。  
“ちゅぽッ”  
 コミカルな音を立てて、忌瀬は口唇から勃起を解放すると、  
「九峪さまのそういうとこすご〜〜〜〜く…………あいらぶゆぅ〜〜だよ」  
 ニッコリと、九峪の心を根こそぎ鷲掴みする会心の笑みで微笑んだ。  
 

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