“戦略変更” 
 
 
 文机の上には竹間が乱雑に積み上げられている。耶麻台復興軍が共和国を名乗ってから数日、以前にもまして、  
軍師である亜衣の仕事は膨大なものになっていた。  
耶麻台幹部には、戦場の勇者は両手でも数えられないほどいるが、こういった事務関係、縁の下の力持ち的能力の持ち主はあまりいない。  
財政は只深に一任できるのでまだいいが、他はすべてを亜衣が請け負っていた。  
星華や衣緒は、じゃあなにをしているのかといえば、新たな志願兵を含めた訓練である。  
早ければ二ヶ月で、狗根国軍が再び九洲に来襲するだろう。  
短い間で新兵を一人前、にするのは無理でもせめて半人前ぐらいにしなくては、狗根国相手にお話しにならない。  
では、内政を滞らせていいかというと、そういうわけにもいかないだろう。こういった事情で、亜衣は朝から九峪の部屋にいる。  
亜衣が九峪の部屋で仕事をしているのは、効率を優先してのことだ。  
企画・構想の段階では、九峪は恐ろしいほどのひらめきを見せるが、事務仕事にひらめきの入り込む余地はあまりない。  
しかし、九峪の裁決を仰がなくてはならないことも多々ある。いちいち九峪を探したり、ましてや部屋に呼びつけるわけにもいかない。  
そんなこんなで、亜衣は開店休業中の神の遣いと一緒にいることが多かった。  
 
 ……それにしても……  
 亜衣は先程から熱心に竹間を読んでいる……ふりをしていた。内容はいっこうに頭に入ってこない。  
視線を横に走らせると、すぐそば、手の届きそうな距離に九峪がいる。暇を持て余しているのか、頬杖ついて亜衣の横顔を眺めていた。  
 ……集中できんっ!……  
 これは鬱陶しいということではない。その証拠に、亜衣の頬はうっすらと赤らんでる。元々九峪の顔は亜衣の好みなのだ。  
それがこんな間近で、しかも二人っきりでじっと見られれば、いくら鉄面皮の亜衣でもそこは麗若き女性、頬の一つも赤くなる。  
青春のすべてを、耶麻台国復興に捧げたと言っていい亜衣は、とにかく異性に対しての免疫がない。  
これが顔だけで頭がすっからかんだったら歯牙にもかけないところだが、九峪は亜衣が畏敬の念を払うほどの智謀の冴えを持っている。  
ようするに、亜衣にとって九峪は、年齢以外はど真ん中なのだ。  
 ……それに優しいし……すけべ〜〜なのがちょっとあれだが……ほんっと年上だったら……て、そうじゃない!!……  
 亜衣がその優秀な頭脳でどうでもいいことを考えてる間も、九峪の熱視線攻撃は続いていた。堪らず、  
「なにか? 九峪様」  
 努めて冷静を装いながら声をかける。  
「ん、邪魔しちゃったか?」  
「いえ、そのようなことは……」  
 思っきし邪魔されていたのだが、『ええ、とっても』などと言うわけにもいかない。それに……九峪に見られるのはイヤではなかった。  
「退屈ですか?」  
「いや、亜衣を見てたから」  
「え!?」  
 亜衣の自慢の脳細胞が一瞬停止する。  
 
「なぁ〜〜んってね」  
「は、ははははは…… ご、ご冗談を」  
 ……び、びっくりした……なんだ…………冗談…………か……  
 なにか、淋しい気がしたのは……多分、おそらく……気のせいだろう。なぜか胸が、チクリッとした。  
「その竹間ずっと見てるけど、なんか困ったことでもあるのか?」  
「あ、えっと、こ、ここなんですけど」  
 竹間を見てはいないのだが、とりあえず、亜衣は適当なところを指差す。  
「どれどれ」  
 九峪が見たからといって、なにがどうなるわけでもないが、わざわざ立ち上がると亜衣の後ろ、肩口から竹間を覗き込む。  
「これか?」  
「あッ……」  
 しゃべる声が吐息となり耳に吹きかけられる。小さい悲鳴を上げて、くすぐったさに、亜衣は可愛く首をひねた。  
その仕草を、彼女の主君と妹達が見ていれば、変装か?そっくりさんか?と疑うこと間違いなしだろう。  
「亜衣、どうした……」  
「く、九峪様……んぅッ……」  
 肩にはいつの間にか九峪の手が置かれている。耳元で囁かれる声が、亜衣にはくすぐったく、とても心地よかった。  
 
「亜衣……」  
 名前を呼ばれるたびに、頭にはもやがかかるのに、身体の感覚は研ぎ澄まされていく気がする。  
「カワイイな、亜衣は……」  
 ……カワイイ……  
“賢い”や“えらい”ではなく“カワイイ”……自分にはもう向けられる事の無いと思っていた賛辞の言葉にどぎまぎしてしまう。  
「あッ……」  
 九峪の舌が軍師の耳に挿し込まれる。複雑な耳朶をねぶり、耳たぶに軽く歯を立てられた。  
「そこ……だめ……あぁッ……」  
 亜衣の注意が耳への強襲にいってるすきに、肩に置かれた右手がするすると、妹ほどではないがあまり大きくない胸に降下してくる。  
「あンッ」  
 いくら冷徹鋭利な軍師であっても、亜衣も妙齢の女性だ。身体の渇望を抑えきれず、自分で自分を慰めたこともある。  
しかし、その行為も軽く触れるだけ、いたって淡白なものだ。でも、九峪の触りかたはずっと荒々しい。  
痛みすら感じる。その痛みが、亜衣にはとても甘く感じられた。  
後ろから抱きつく九峪の力はさほど強いものではないのに、なぜか逆らえない。否、もっと、もっと壊れるくらい強く抱きしめてほしい。  
と、乙女チックなことを考えていたら、九峪の指先が乳房の一番敏感な部分にふれた。  
頬がカァ――ッと赤くなる。すぐに離れてほしい。あいだに服と胸覆い二つあっても、九峪は亜衣の身体の変化にすぐに気づくだろう。  
「亜衣はいつも対応が早いな♪」  
 言葉にされたくないことを、九峪がわざと口にしている。その声に、からかってる風があるのが亜衣にはわかった。  
 ……穴があったら入りたい!……  
 服を内側から突き上げるてくる恥ずかしい突起。それを、九峪はくるくると円を描くように指先でなぞる。  
その指先を、亜衣は怯えをふくんだ瞳で見つめていた。でも、怖いのは九谷ではない。…………怖いのは……  
 
“きゅいッ”  
 不意に乳首を、少しきつめにひねられた。  
「ひんッ」  
 こうやって、小娘のような甲高い声が出てしまうこと。鋭い甘さが、亜衣の官能中枢に突き刺さる。  
「ごめん、痛かったか?」  
 九峪はすぐに乳首を捉えていた指を離すと、こんどは親指の腹でさするように撫でまわす。  
わかりやすい“アメとムチ”それでも優しくされたからか、亜衣の乳首はさきほどよりも硬くなり、九峪に興奮の度合いを伝えていた。  
「イヤでは、ないみたいだな」  
「うぅッ……」  
 恥ずかしい。でも、いくら亜衣の弁舌が軽やかでも反論はできない。欲情のバロメーターは、九峪の親指の腹の下で硬くしこっている。  
「それとも……」  
 首筋に唇を這わせながら、亜衣の膝に置かれていた左手をそろりそろりと動かし、ピタリとした現代風に言えがレオタードだろうか?  
その中へと、いきなり手を差し入れた。  
「こっちも触ったほうがいいか?」  
「やッ……九峪……様……」  
 亜衣は九峪の手を掴み、形の上では拒絶をして見せるが本気ではイヤがってはいない。声と表情が裏切っていた。  
それが自分でもわかるだけに、亜衣はより激しい羞恥に襲われる。  
「だめ……ンンッ……後生……ですから……ああ……」  
 九峪の二本揃えた指先に、下帯の上から正確に女の弱い部分をこすられて、モジモジとお尻が動いてしまう。  
「見てみる、亜衣♪」  
 亜衣は大きくイヤイヤするように頭を振った。内腿が濡れている。九峪の言ってるのは自分の恥ずかしい蜜のことだろう。  
もともと九峪の指が触れる前から湿っていた下帯は、ぐっしょりと濡れそぼり、もう本来の意味を成さない。  
でも、九峪はいつも通りの、場違いなほどさわやかな笑みを浮かべると、亜衣のレオタードの裾をグッと持つ。  
 
「俺は見たいなぁ〜〜」  
 一気に膝元までずり下げた。そして、名将九峪は下帯のいまの状況を見て一言。  
「おもらししたみたいだな」  
「…………………………ッ」  
 非常に的を得たわかりやすい比喩表現。それは当然、耶麻共和国で一、二を争う切れ者の亜衣にも伝わった。  
もう、顔はいまにも泣きそうである。しかし、それでも九峪は攻撃の手をゆるめない。  
「どれどれ、どこからおもらししてるんだ……」  
 九峪は目を細めると、スルリッと下帯の脇から指先を潜り込ませた。淡い恥毛を掻き分けて、淫らなよだれを垂らす秘裂に触れる。  
“ぬちゅ”  
「ふぁッ!」  
 少し九峪が力を入れただけで、指先が第一関節まで沈む。膣内に溜まっていた愛液が、入れられた中指を伝って外へとあふれだし、   
床には水溜りが出来ていた。  
「これは、衣緒に掃除を頼むわけにはいかないな」  
“ぬちゃ・にゅりゅ・くちゃ”  
「うぁッ……は……くぅんッ……ああッ……」  
 とぼけた口調でも、指は激しく亜衣を攻め立てる。もう、声を抑えるのも亜衣は忘れていた。  
 
「亜衣、ここはどう?」  
 攻城戦の推移を荒い息の中でも冷静に見ていた九峪はもう一押しとばかり、ぬめらかな粘膜の感触を愉しみながら、  
乳首に負けないくらいピンピンに勃起した女体の真珠にも攻撃を仕掛ける。  
「はひッ!」  
 ひときわ甲高い声を上げると、亜衣の腰が突き出すように浮き上がった。鋭い快感の矢が、下腹部から脳天へと突き抜ける。  
 ……こんなの……はじめて……  
 九峪が聞いたら泣いてよろこびそうなことを心に浮かべながら、白い喉をさらして、亜衣は九峪にもたれかかった。  
そんな亜衣に、やはりさわやかに微笑みながら、九峪は耳元で囁く。  
「まだまだこれからだよ、亜衣♪」  
 
 亜衣の手を取ると、九峪は自分の股間へと導く。  
「あ……」  
「亜衣のせいでこんなになったんだ……」  
 そこはもう、ズボンの布地を突き破りそうなほど膨らんでいた。その熱さと硬さに亜衣は驚いたが手を振り払らえない。  
九峪がそれを許してくれない。  
 ……わたしの……せいで……九峪様のをこんなに……大きく……  
 以前にも九峪の男性器を見てしまったことはあるが、そのときは、だら〜んとだらしなく垂れ下がり、当然だがもっと小さかった。  
それを忌瀬は『まあまあ』と評している。でもいま、亜衣が手で触れてるものは、全然まあまあじゃない。  
圧倒的な存在感を誇っている。基準のわからない亜衣はもちろん、忌瀬もまだまだ神の遣いの力を甘く見ていたようだ。  
“ちゅっ”  
 頬に軽く唇が触れた、ただそれだけのことなのに、亜衣の胸がドキリッと高鳴る。  
「もっとしてやるから、その机の上に座って」  
 勝手に九峪が始めたことなのに、いつの間にか『してやる』に変わっていた。でも、いまやめられて困るのは亜衣のほうである。  
のろのろとした動作で立ち上がると、ちょこんと文机の上に座り、期待と不安の入り混じった複雑な目を九峪に向けた。  
「それ、脱いじゃおうか、気持ち悪いだろ?」  
 九峪の言ってる『それ』は、やはり下帯のことだろう。たしかに気持ち悪い。気持ち悪いが……  
「…………………………」  
 なんとなく、亜衣は九峪が次に言いそうなことがわかった。もっとも、誰でもわかるだろう。目を見ると笑ってる。  
 
「俺が脱がしてやるよ♪」  
 予想通りだ。  
「足開いて」  
「…………………………」  
 しかし、いくら予想ができても、頭の中で考えるのと実行するのでは、後者のほうがはるかに難しい。  
  ……いっそのこと……いっそのこと九峪様が襲ってくださったら……  
 亜衣の思考が、危ない大胆な方向に進もうとしたとき、  
「戦場でも、どこでも……」  
 優しく九峪の手が、亜衣の膝頭を撫でる。  
「いつも亜衣は、俺のわがままを聞いてくれるよな」  
 その微笑みはさわやかだ。が、珠洲あたりなら『ジゴロ……』一言で切り伏せるかもしれない。  
亜衣は残念ながら交渉には長けていても、男女の駆け引きの経験とはまったく縁のない人生を送ってきた。  
 ……わがまま……そんな……九峪様のわがままでしたら……この宗像の亜衣はいつでも……  
 こういう思考になるのも仕方がない。現代社会でも、仕事一筋に生きてきた女性が悪い男に引っかかる。よくあることだ。  
恋する乙女モードの入った亜衣は意を決すると、  
「うぅッ……」  
 ぷるぷる震える膝頭を少しずつ開いていく。どんなに恋しようがナニしようが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。  
べちゃ濡れの下帯、それを見て、もちろん九峪はにこにこ顔のご満悦。  
 
「動いちゃダメだよ」  
 そう言って素早く器用に下帯を解いていく。いまだに九峪が履いてるのはトランクスなのに、その解きかたは妙に慣れている気がした。  
“じゅりゅッ”  
「んンッ!」  
 すべりの良くなっている下帯は亜衣がお尻を浮かさずとも、九峪が力を込めると簡単に引き抜けた。刹那の刺激に亜衣は身体を  
仰け反らせる。九峪は笑みを一層深くすると、女性が最も秘密にしておきたいだろう部位に顔を近づけた。  
すでに秘裂はほころび、粘度の低い液は控えめに茂みを成している恥毛の先から九峪の視線を感じてか、涙を流すように滴り落ちる。  
亜衣が顎を引くと、ペロリと唇を舐める九峪が瞳に映った。とても凛々しく映ったりして、亜衣の中では九峪がもうなにをしても有りだ。  
「ああ……」  
 ……見てる……九峪様が……わたしの……見てる……  
 そうやって意識するだけで、秘裂の内側に新たな愛液がじゅんわりとにじみ出してくる。亜衣の身体はざわざわと切なくうずいた。  
見ているだけでなく、さっきみたいに触ってほしい。でもさすがに、自分からそんなハシタナイおねだりをするのははばかられる。  
“ふぅ〜”  
「あッ!」  
 そんな亜衣の心の葛藤をからかうように、九峪は剥き出しになったわれ目に息を吹きかけた。たったそれだけのことなのに、  
いまの亜衣は小さな悲鳴を聞かせてしまう。  
「わかってるよ、亜衣」  
 九峪は舌を“んべ〜っ”と亜衣にも見えるように伸ばすと、ゆっくり、顔をさらに秘裂へと近づけていく。  
 
「……あ……ああ……」  
 触れるか触れないか、そこまで近づいたとき、不意に、九峪が亜衣を上目づかいで見た。  
「んあッ!」  
 快感の電流が背筋を走る。九峪の舌が秘裂を“ペロリ”と舐め上げると、亜衣は身体を仰け反らせた。  
ガチャガチャと音を立てて竹間が文机の下に崩れ落ちる。  
そのまま九峪の舌はぬらつく秘裂を浅くかき回しながら、包皮を被り外にでるのを怖がっている突起にしゃぶりつく。  
「ひぁッ!」  
 包皮の中から吸い出された真珠を嬲る舌の動きはマメだが決して単調ではなく、緩急と強弱をわきまえている。  
“どこで覚えたんだろうか?”気にならないではなかったが、  
「ハッ……あッ……あふぁッ!」  
 もちろん、九峪はそんな余裕を与えてくれない。それに、それに……  
「く、九峪……んンッ……さ……ま……」  
 切羽詰った声の亜衣に、愉しそうに九峪は顔を向けた。  
「ん? なんだ」  
「なにか……なにか……あの……よく……わからないんですけど……」  
 状況説明は優れた軍師であり、会議での司会進行役である亜衣の得意としているところだが、いまは自分でもなにを言ってるのか  
わからない。泣きたくなってきたが、しかし、九峪には伝わったようだ。にこにこ顔のご満悦パート2である。  
 
「もっと、気持ちよくなりたいんだろ、亜衣♪」  
「……………………………………………」  
 九峪の中指が“すッ――”と亜衣の秘裂を撫で上げる。  
「ひゃンッ!」  
 可愛らしい声で、亜衣の肢体が跳ねた。すりすりとこねながら、もう一度、九峪は尋ねる。  
「そうだろ、亜衣♪」  
「……はい」  
 
 九峪は無言で立ち上がると、ズボンのチャックを勿体つけるようにゆっくりと下げていく。  
“ジィ〜〜ッ”と鳴る金属音。亜衣の目はそこに、九峪の股間に釘付けになった。  
「そんなに見られたら照れるよ」  
「あ!?」  
 言われて亜衣はサッと目を逸らすが、とうの九峪には照れた様子は微塵もない。おもむろに勃起した牡器官を取り出すと、  
亜衣の唇を狙うように近づける。  
「……………」  
 それは亜衣にも、熱と、鼻腔をくすぐる動物的な匂いですぐにわかった。  
「亜衣……」  
 呼ばれておそるおそる顔を向けると、  
「!?」  
 予想していたものを上回る形状のものが目に飛び込んでくる。  
九峪のそれは、赤黒く膨張して逞しくそそり立ち、ヒクヒクと蠢く様はまるで亜衣を威嚇しているかのようだ。  
黒々と口を開ける鈴口からは、期待と興奮でもう先走りの液があふれている。  
「俺のもしてくれ」  
「……………」  
 亜衣に躊躇いはなかった。唇のあいだから舌先を出し、急角度でそそり立つ、静脈の浮いた裏筋にそっと押しあてる。  
“ちろちろ……”  
 その行為は舐めるというには慎重で控えめなものだ。事実、勃起に接触している面積は、舌よりも唇のほうが大きい。  
小鳥が啄ばむように甲斐甲斐しく、根元から亀頭のでっぱりに唾液を塗りたくる様になんども行き来する。  
 ……男も濡れるのか……  
 九峪が喜んでくれているのは、亜衣は口の中に広がる味でわかった。不思議な味、美味しいとは思わないが嫌いではない。  
 
「亜衣はなんでもコツを覚えるのが早いな、これからが楽しみだよ……」  
「ん……」  
 指先で首筋から頬、耳の裏とまさぐりながら九峪は髪の毛を撫でた。亜衣に気づきようもないが、これは九峪の癖である。  
「こんどは、咥えてみて」  
 請われて、亜衣は亀頭を口に含んだ。味が急激に濃度を増すのがわかる。ここまでくると少しエグいが、それが亜衣には嬉しかった。  
“ちゅぷ……ちゃぷ……にゅちゅ……”  
 神の遣いの勃起は大きくて舌を満足に動かせない。だから、亜衣は九峪に言われる前に、自然と頭を振り、唇で勃起をしごいていた。  
言われたことしか出来ないのでは軍師失格である。状況を考えて独自に判断を下す、宗像の亜衣はそれが出来る女だった。  
“じゅぶ……ちゅる〜……じゅぶ……”  
 淫らな粘着音。唾液と一緒に九峪の味を、はしたない音を立てて啜り上げる。自らが奏でているその音に煽られるように、  
亜衣の秘裂は切なくひくついていた。しかし、なにも切ないのは亜衣だけではない。九峪の腰もぶるぶると震えている。  
「亜衣……」  
 “ちゅぽっ”と音をさせて抜き取られた勃起と唇のあいだに、銀色の糸がきらめいた。  
凶暴な勃起の先端が、亜衣の鼻先に突きつけられる。亀頭が一瞬ブワッと膨らみ、縦割れの唇から欲望の塊が亜衣にぶちまけられた。  
“びゅッ・びちゅッ!”  
 避けようのない至近距離から、亜衣の顔に青臭い精液が容赦なく浴びせられる。  
遠眼鏡のレンズに当ったので目に入ることはなかったが、射精の勢いは激しく、亜衣はどうすることもできず、きつく目を閉じて、  
このひどい仕打ちに耐えることしかできない。そう……ひどいことをされてるはずなのに……  
 ……なんだ……これは……なんでこんなに胸の鼓動が大きい?……なんで身体が熱くなる?……  
『なんで?なんで?』で、亜衣の頭は混乱状態だ。それと、こんなときに場違いだが、羽江と自分はやっぱり姉妹だと再認識してしまう。  
 
戸惑いながらも、しばらくたって嵐が過ぎ去ったのを確認すると、おそるおそるまぶたを開く。  
目の前にはさわやかに微笑む九峪と、吐き出したばかりとは思えない牡器官。そこはもう、次の戦いの予感に打ち震えている。  
「後ろを向いて、お尻を高く上げて」  
 亜衣は背を向けると、文机にもたれかかりながら頭を下げ、固く目をつぶると震えるお尻をゆっくりと上げていく。  
もう、考えるのはヤメにした。どうせ答えなど出ない。答えは九峪がくれるはずだ。  
腰の高さまで上がってきたお尻を、九峪は愛でるように撫でまわすと、勃起の先端をあてがう。亜衣の身体が本能的に震えた。  
「亜衣は……初めてか?」  
「……はい」  
 言葉を発するだけで、切なくうずく。九峪は秘裂にツンツンしながら聞いていた。  
「俺でいいんだな?」  
 なにを今更、という気がしないでもない。決まっているではないか。  
 ……九峪様は……口にしなくとも良いことを口にしています……  
「はい」  
「ありがとな……」  
 ……それも余計ですよ……  
 そうは思っても、やはりその言葉は嬉しい。軍師の目から、ほろりっと涙が零れた。見られないように、亜衣は文机に顔を伏せる。  
 
「チマチマやってると痛いらしいから、一気にいくぞ」  
 伏せた顔で亜衣は頷いた。それを見て、九峪が体重をかけて腰を沈める。  
「かはぁッ!」  
 粘液質の音とともに、複雑に入り組んだ柔らかな肉壁が巻き込まれていく。亜衣の中は熱くヌメり、奥へ奥へと誘うように  
締めつけてくる。  
「……んぐッ……いッ…」  
 頬を流れる涙は歓喜の為ではなく痛みの為だ。処女喪失の痛みは、亜衣の想像よりも遥かに痛い。本当なら悲鳴を上げたいところだ。  
「力を抜け、そうすりゃあ楽になる」  
 ……力を抜けって九峪様……激烈に痛いんですけど!!……  
 亜衣は元々痛みに強いほうではない。ましてやこの痛みは、生涯で大抵は一度しか味わうことのない特殊なものだ。  
構えてしまうのは仕方がない。それは言った九峪もわかっていたのか、対応策をすぐにとる。  
上着の裾から手を潜り込ませると、オナカ・脇腹・腋の下と指先を滑らせながら、器用に胸覆いを取り去った。  
間髪いれず、九峪は指をいっぱいに広げて、亜衣の乳房を鷲づかみする。でも、その触り方は強引なものではない。  
亜衣の反応を一々見ているマメなものだ。それが功を奏したのか、  
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……」   
 痛みしか訴えてこなかった亜衣の口唇から、徐々に艶のある声が漏れ出してくる。九峪は目を細めると、  
“きゅッ”  
「はひッ!」  
 乳首をひねる。亜衣の背がグッと反りあがった。  
 
「よかったよ、ちゃんと気持ちいいみたいで」  
 耳元で囁きながら、九峪はもう容赦なく腰を振っている。  
“じゅむッ……じゅむッ……じゅむッ……”  
「はひッ……ひッ……あ、ンぁッ……」  
 二人の腰がぶつかる音と、自分の出すはしたない悲鳴、そしてなにより九峪の息遣い、亜衣の耳にはもうそれしか聞こえない。  
でも、それすらも段々聞こえなくなってきた。頭の中を白いもやが覆っていく。  
「く、九峪……ふぁッ……様……ひッ……んぁッ……あぁッ……く……ひんッ……」  
 助けを求めるように、背後の九峪へと顔を向ける。亜衣本人は気づいてないだろうが、その表情はずいぶんと幼いものだった。  
安心させるように九峪は微笑む。だが腰のほうは、一際強く“ズンッ”と膣奥を突き上げる。  
「ふぁあッ!」  
 ここが九峪も最終局面と見たのか攻め手を緩めない。亜衣の最も深い部位を笠にかかって突き崩しに掛かる。  
「はひッ……ひッ……あッ……あふぁッ!」  
 雁首ぎりぎりまで勃起を後退させ、勢いをつけてしつこいくらい突撃を繰り返す。初陣の亜衣に持ち堪えられるわけもなく、  
ガクガクと身を震わせると、九峪はこれでトドメとばかりに勃起を突きこむ。  
「あッ、あッ、ああッ!」  
 最奥に熱いほとばしりを感じながら、亜衣は白い奔流に飲み込まれた。  
 
 
 亜衣は宮殿の廊下を一人歩きながら考えていた。これからの戦略について……  
 
「それでは……失礼いたします」  
 事が終わったあと、二人は一言もしゃべらなかった。  
九峪の顔が見れない。仕事は半分以上残っていたが、いたたまれなくなった亜衣は頭を下げると引き戸を閉めて退室しようとした。  
すすっと引き戸が閉まる寸前、  
“グッ”  
 九峪の手で止められる。顔を上げると、九峪の顔は目の前。  
「あ……」  
 いきなり唇を奪われた。呆けた顔で九峪を見返すと目が泳いでる。少し……頬が赤い。  
「……頼りにしてるからな」  
「……はい……おまかせ……ください……」  
 
 数分前のことを思い出すと、頬がぴくぴくっと引きつる。  
いつの間にか廊下のど真ん中に立ち止まり、親指と人差し指で顎を支えるお得意のポーズを取っていた。  
 ……星華様を火魅子にするには九峪様とくっつけるのが一番確実だと思っていたが……  
 訓練が済んだのか、ちょうど星華がこちらに歩いてくる。亜衣に気づいたのか右手を上げて、小走りに駆け寄ってきた。  
「今日もこっちのほうは大変だったわ、亜衣のほうはどうだったの?」  
 ……しかし、宗像系に引き込めば……それで済む話しではないか……  
「ちょっと、聴いてるの亜衣」  
「星華様!!」  
「わぁ!? び、びっくりした」  
 突然、亜衣が弾んだ声を出す。得意満面の笑顔で……  
「星華様はわたしが必ず、火魅子にしてみせますからね♪ では…… たぁ〜〜ら〜〜ん〜〜」  
 調子パズレのリズムを口ずさみながら、亜衣は軽やかな足取り、というより、スキップするように去っていく。  
「なんなの……いったい」  
 このとき、信頼する懐刀の戦略が若干変更されたことを、星華は気づくよしもなかった。  
「また変なものでも食べたのかしら?」  
 
 
 

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