誰かが掛けてくれた毛布を投げ捨てると、しきみはコマンダーズ・ルームに走り、ドアをノックする。  
 
「入れ!」中からアンダーソンが言った。  
 
ドアを開け、中に入るとアンダーソンは山のような書類にサインをしまくっていた。  
 
「何だ少尉…」  
 
上目使いにしきみを見やると手を止めた。  
 
「ウインタースの救出作戦のことなら、ついさっきワシントンから却下されたぞ…」  
 
憤懣やる方なし…そういう口調だった。  
 
「その事ですが、手掛かりが見つかったと今しがたライト少尉から連絡がありました」  
 
その内容を説明し、これからすべき事を述べた…。彼は黙って聞いていた。  
 
「ダメだ!…我々は下院機密委員会やホワイトハウスの承認なしに動くことはできん!」  
 
きっぱりと言った。  
 
「ミスター・アンダーソン!お言葉ですが…」  
「あきらめろ少尉!」  
 
彼はわざと外に聞こえるような大声で言った。  
 
しきみは黙った。  
睨むような視線をアンダーソンに浴びせると(失礼します)といって背を向ける。  
 
「待ちたまえ!」  
 
アンダーソンは彼女を呼び止めると、抽斗の中から車のキー…といってもリモコン式のものだから鍵には見えないが、それを取り出すと書類の山の上に投げた。  
黒いフレームに特徴的なダッジのマークが光っている。  
 
「君には『楽な任務』で恐縮だが、プラハ支局から預かり物の車が駐車場にあるのでそれを運んで行って欲しいんだがね?…」  
 
そう言ってウインクした。  
勘のいいしきみには、もう彼の言わんとすることが理解できた。鍵を拾い上げる。  
 
「ちょっとしたドライブになる…ミスター・サイトウも連れていくといい…」  
「あ〜だが2人じゃ寂しいな…何せ大きな車だし…」  
 
意味ありげな言い回しである。  
 
「紙にでも名前を書いて貼り出したら、同乗者も増えるかも知れん…」  
 
しきみは(意地の悪い人…)といった顔で笑うと、ペン立てから鉛筆をつかみ書類の一枚を裏返してそこにスラスラと筆記体で数人の名前を記した。  
 
アンダーソンはそれを眺めると眼で了解したと伝える。  
しきみは表情を和らげると(失礼します)といってまたドアの方に向く…  
 
「ミツイ少尉!」  
 
しきみが振り返る…  
 
「君が…、ハンドルを握るんだぞ…」そう言って微笑んだ。  
 
この場合、言葉通りに運転しろと言っているのではなく『指揮は君が取れ』ということだった。  
 
「Yes Sir!」  
 
しきみも微笑みを返した。  
 
(大した連中だ…)アンダーソンはそう呟くと、再び書類の山に向き合う。  
 
仮眠中だったナナフシを叩き起こし、一階上の地下駐車場に向ったしきみは、今、キーに書かれたナンバープレートの番号に一致する黒塗りのダッジ・ラムの前に立っていた。  
スライドドアを開けて中に乗り込む。  
広い筈のキャビンはあらゆる電子機器が犇めきあっていた。  
42インチワイドスクリーン、あらゆるメディアに対応したデータ入出力装置、高性能通信装置…先程までいた情報指令センターでできることは全てこの車内で可能だった。  
反対側にM4カービンが2丁ずつ並列にラックに固定されている。  
 
「いくわよ…」  
 
しきみはそう言うと、リモコンキーを運転席のスタートスイッチにかざしてエンジンを始動させ、まだ車外から中を覗き込んでいたナナフシにそれを投げ渡した。  
 
「え?、僕が運転するのかい…」  
 
しきみは返事もせずナナフシを見やると、コンソール前の回転イスに腰を掛け、ヘッドセットを耳に掛けた…。  
 
じきにアンダーソンがデーターを送ってくる…。  
 
 
あざみは、ガチャガチャと鍵を開ける音を聞くと我に返った。うっかり眠ってしまっていた。ひどく喉の渇きを覚える…。  
男が(多分)一人、中に入ってきた。乱暴に彼女の頭から目隠しと猿轡を外した。  
あの『目玉焼き』野郎だ。  
 
「やぁ、勇ましい『護衛官』のお嬢さん…」  
 
あざみは何も言わずナジムを睨みつける…。  
 
「君のように勇ましい女を見たのは初めてだ…私の国の女はみな従順でな…」  
 
「あんたの国の男って、み〜んなが女性進出を恐れてる、臆病な『腐れチ○ポ』野郎ばかりだもんねぇ」  
 
不敵な笑いを浮かべて挑発するあざみ。彼女は女性蔑視を是とする宗教を嫌悪していた。  
 
ナジムは『目玉焼き』状態になると、あざみに平手打ちを喰らわした…。  
 
「ほーら、縛りつけなきゃ女も殴れない…」  
 
言い終わると横目で軽蔑の眼差しを向け(ペッ)と血の混ざった唾液を吐きだした。  
 
「口の減らない女だ…」  
 
「何しに来たの?アタシから聞き出せる情報なんてないよ…ただの警護官だからね」  
 
『警護官』をオペレータと置き換えてみてもそれは事実だった…。  
多分、悲しいかな救出作戦など承認されないだろう…。  
くノ一の定め…アタシはここで死ぬんだ…。そう覚悟を決めていた。  
 
ナジムは忌々しそうにあざみの鼻先に自分の顔を近づけて睨み返すと、乱暴に彼女の股間に手をぶち込んで、その柔肉で覆われた恥骨を荒々しく掴み揉みしだいた。  
あざみはこれ以上ない最悪の嫌悪感で吐き気を感じ、眼を瞑って必死で堪える…。  
 
そこへ『この世の終わり』っとでもいった表情で彼の部下が現れた…。  
 
「た、大変です!ミスター・ナジム! 」  
 
「来るなと言ってあっただろう?! 一体何だぁ!このボンクラが!」  
 
この期に及んでこれ以上どんな『大変』が訪れるというんだ!  
これからこの女に恥ずかしめの『儀式』を施そうとしていた大事な時に邪魔が入り、ヒステリーを起こすナジム。  
 
「こ、これを見てください!」  
 
男は持ってきたポータブルTVの映像を見せる。  
 
 
その日の同じ時刻。世界中が驚愕のニュースでまたも色めきたった。  
 
『…繰り返します…。先ほど合衆国大統領が特別会見において、東部標準時午後8:00未明、多国籍共同作戦によってアフガニスタンのテロリスト本拠地へ空爆を実施。目標を完全に破壊したと発表しました…』  
 
ハヤトは座席に設置されたTVに眼を奪われ、機内食を食べる箸が止まった…。  
画面は砂漠迷彩服を着た現地作戦司令官が地図をポイントしながら報道陣を前に作戦の概要説明を行っているシーンが映し出されている。アラビア海に空母の形をした赤いマークがあった。  
 
『テロリストはかねてから当局にマークされていた『紅の聖戦』ということが確実で、空爆後の海兵隊による現地戦果確認調査により裏付けが得られたとのことです…』  
 
場面は軍の発表した現地映像が流されている。草原の中にぽっかりと空いた大きなクレーターの周りを、迷彩服姿の男達が歩き回っていた。  
 
『…この『紅の聖戦』は911テロにおいてアルカイダと協力関係にあった組織の一つで、当局は…』  
 
画面では見覚えのある国家安全保障担当大統領補佐官が報道陣に囲まれて笑顔でインタビューに応じていた。  
 
『それでは、ホワイトハウスの共同記者会見が始まる模様ですのでカメラを切り替えます…』  
 
映像の横に『LIVE』っと入った。ホワイトハウスの記者会見ルームに女性報道官が入ってきた映像に切り替わる。  
記者達が次々と質問を投げかける。  
 
「ワシントンポストのジョナサン・ライカーです…」  
「ある情報筋によると今回の作戦は、プラハで起きた拉致事件が関与しているということですが…」  
 
「そのような事実は全くありません」  
 
報道官は全否定した。  
 
「今回の作戦は以前から綿密に練られたプランによるもので、プラハの誘拐事件は全く別の事件です。あれは偶発的な身代金目的の犯行で、犯人グループも今回のテロリストとは一切関わりがないことが確認されています」  
 
関係が無いにしては、ずいぶん用意のいい回答だよな…。ハヤトはそう思った…。  
 
 
ドイツ。ドレスデン英国領事館。Double OH要員専用の控室で、現在TV電話回線が使用されている。  
 
「だめよ!そんな作戦が承認されるわけないでしょう?」  
 
Mは冷たく言い放った。  
 
「何故です!今回の作戦の最大の功労者じゃないですか?」  
「そうだ、それに彼女は英国海軍の人間です!」  
 
怒りに声を荒げる『2人のジェームス』がMに喰ってかかった。  
 
「私だって…(何かを飲み込むように一呼吸置き)貴方がたと気持ちは同じです!」  
 
Mは先程ウインタースがまだ19歳にもなっていない少女だということを認めたばかりだった。その頃のMはまだオックスフォード大の学生だった…。  
 
「ですが、感情で物事を動かせるような立場ではありません!」  
 
最もだった…。  
 
「多少の犠牲が何です?ジェームス?いつもの冷酷無比な貴方はどこに行ったの?…」  
「あの爆発の映像を見たでしょう?今回犠牲になったのはウインタースだけではない筈よ」  
 
「彼女はまだ死んだとは限らない!」  
 
2人は同じ言葉を同時に叫んだ。  
 
「それは失礼…」  
 
Mはジャケットの襟を正して姿勢を直した。  
会話が途切れる。  
 
2人は政府の助けは得られない…そう悟った。  
 
「ジェームス!貴方には次の任務が待っています。今夜の便でハバナに飛んで頂戴…」  
 
Mは話しを切り替えようとマックスウェルの相棒の方に呼び掛けた。  
彼は返事をしなかった。  
気配を悟るM。  
 
「貴方達…バカなことをしないで頂戴よ…Double OH資格を剥奪されたいの?」  
「それでは〜〜〜わたしは溜まりに溜まった有給休暇をいただきましょうかね?」  
マックスウェルはそう言って相棒に目配せした。  
 
「そいつは名案だ〜〜〜」  
 
そういうと『もう一人の』ジェームスは部屋を出ようとする。  
 
「ちょっと!待ちなさい、ジェームス!…マック!」  
 
マックスウェルが回線を切って言った。  
「俺達?クビ?」  
 
「俺、二回もDouble OHを取り消されてますが、何か?」  
「だな…」  
 
そう言って彼は相棒について部屋を出た。  
 
 
ニュース映像を見てナジムは愕然とした…。  
『主宰』様が亡くなられた…。  
 
「ミ、ミスター・ナジム…」  
「やかましい!」  
 
ナジムは、所作なくしている部下に八つ当たり気味に怒鳴る。  
 
一方で組織の処刑は免れたことに安堵しながらも、これまで人生そのものだった『紅の聖戦』が壊滅となった今、ナジムはどうしていいかわからなかった…。  
 
(自分が組織を引き継ぐ?)  
 
バカな!俺が組織に引導を渡したんだ…そんな間抜けに誰が従うものか…。  
自分の粗忽さへの怒りと、手を下した『異教徒』どもへの怒りが入り混じり眼がくらみそうになる。  
 
彼はやおら立ち上がる。  
そしてゆっくりと腰に挿したブローニングを取り出すと無表情にスライドを引き、あざみに向けた。  
 
『パン、パン』っと乾いた音を部屋に響かせると銃を仕舞い。  
 
隣で震えてる部下に向き直った。  
 
「行くぞ…」  
 
残されたあざみは大の字に吊るされたまま、力なく頭を垂れているだけだった…。  
 
 
カリフォルニア州キャンプ・ペンドルトン。  
テロ空爆作戦の件もあって遅くまでミーティングに出席していた小紫が、明日からの教練プログラムをチェックしながら将校官舎に向け歩いている。  
野外の通路だが屋根に照明付なので書類を読みながら移動ができた。  
 
そこへ今朝ほどコテンパンにのされた二人の下士官が叫びながら早足で追いかけてきた。  
 
「少尉殿〜」  
 
小紫は向き直ると、二人は傍まで来て気をつけの姿勢をとり敬礼をする。  
伍長の方は左の頬骨に絆創膏を貼りつけていた。  
小紫は舐めていた『チュッパチャップス』を口から取り出すと、怪訝そうに敬礼を返し(休め!)と告げる。  
どうやら仕返しに訪れたわけではないらしい。  
 
「何か用か?」  
 
「しょ…少尉殿っ!今朝ほどの出過ぎた態度を、謝罪しに参りましたぁ!」  
 
ガルニアが夜の官舎に響き渡らん限りの声で応える。  
わざわざけじめをつけたいために、多忙な彼を一日中探し歩いていたと見える。  
小紫は急にこの下士官達を(実直で単細胞なイイ奴等)と感じると、つい微笑んだ。  
 
「謝罪を受け入れよう…」  
 
そういうと右手を差し出した。二人は顔を見合せた…。  
 
「大丈夫…投げ飛ばしたりしないよ…」  
 
小紫がそういうと二人は握手に応じた。  
ガルニアも伍長もすっかり『タナカ少尉リスペクト・モード』だった。  
そこへ連絡将校がハンビーに乗って現れる。  
 
「タナカ少尉! ちょうどよかった、君を探しに来た所だ…」  
 
運転席から海軍少佐が叫んだ。小紫はハンビーに走り寄る。二人の部下も続いた。  
 
「何事でありますか?」  
 
小紫は敬礼をしながら尋ねた。  
 
「緊急任務だ、今からすぐドイツまで飛んで貰う…」  
 
そう言って命令書を渡す。小紫は明りにかざしながらそれを読んだ。  
詳しいことは何も書かれていない。  
 
「さ、早く乗ってくれ」  
 
促されるとハンビーの助手席に飛び乗った。  
 
「そ、そんなぁ〜自分等はどうなるんですぅ?」  
 
ガルニアが泣きそうな顔で言う…。  
 
「…教練は延期だな…追って指示あるまで待機…」  
 
そういうと小紫は二人に手を振った。  
 
同じ時刻、イギリスのヒメジ、フランスのゆすらにも同様の事が起こっていた。  
しきみの要請をうけたアンダーソンが手をまわしてくれたのである。  
 
 
しきみ達のダッジがオーストリア・チェコ国境にさしかかる。下り車線はチェコ側が大渋滞だった。  
それもそのはずで、テロリスト残党の逃亡を阻止せんが為の厳重な検閲が行われているからだ。車種、車格を問わず、無差別に厳しいチェックが行われていた。  
道のないところでも凶暴な猟犬や警察犬を総動員して『山狩り』が行われている筈だった。  
 
「これなら猫の子一匹チェコを出られそうにないな…」  
 
ナナフシが運転席で言った。  
あざみは返事をせずモニターを睨んでいる。そろそろ衛星データがCIA本部を経由して雪崩のように押し寄せてくる筈だったからだ。  
 
「来たわ…」  
 
あらかじめ領域を絞っていたとはいえ、3分置きに取られた画像の連続データである。  
再開発区域全体を覆う一枚に再構成するプロセスを経るとそれなりに時間がかかった。  
 
まず最初にあざみがひまわりと別れた時刻の版ができるのに12秒かかった。  
データは時系列には送られない。まず指定した範囲の最初の時刻の版。  
次に最後の版。そしてその丁度中間にあたる時刻の版。  
そうやって今あるブロックを頭とお尻、それにその間を半分に区切るようにする版をスライスして送ってくる『バイナリー・パーティショニング』方式だった。  
 
これだと大まかな様子の違いから徐々にターゲットを絞っていくので捜索が早かった。いらないブロックはキャンセルすることも可能なので効率的なのである。  
 
3版目が揃ったところでしきみはひまわりを呼び出した。  
 
「はい!ライトです…」  
 
今度はちゃんと英語で『芸名』を名乗った。  
 
「私よ、今第一レイヤが揃った…」  
「何か映っていますか?」  
「1枚目に、ウインタースの残したサインの先のマンホールに人影が数人…」  
「2枚目に、一枚目には映っていなかった大型トレーラーが西のマンホールの真上に現れてる」  
「3枚目…これにはそのトレーラが映っていない…目立つのはこれくらいね…」  
 
「それです!間違いありません!」  
 
ひまわりはアドレナリンが沸き立つのを覚えた。自分達が輸送された時の、あのトレーラーに間違いなかった。そのことをしきみに伝えた。  
 
「ビンゴね…」  
 
しきみはそういうと画像受信アプリケーションに第1レイヤ、1stブロックの以降の受信をキャンセルした。  
するとデータは倍の速度で第1レイヤ2ndブロックだけの時間帯で画像が次々と受信され始める。  
しきみはコンソールのトラックボールを回し、カーソルを今揃ったばかりの第7レイアに合わせてクリックすると、その全画面をズラリと並べて縮小表示させた。  
 
「ライト少尉、聞いてる?」  
「はい」  
「今第7レイヤを見てる、トレーラーは東の幹線道路をでて北に向かってる…」  
「このレイヤの5thブロックでこの領域から消えたわ…」  
「時刻はチェコ標準時0347…今から約7時間前ね…」  
 
「わかりました。引き続き追跡をお願いします」  
「貴方どうするの?」  
「とりあえずその方向に移動します」  
「了解…以上」  
 
しきみは電話を切り、アンダーソンに電話をすると、第三者が聞けば無意味に思える数字とアルファベットのフォネティックコードだけを伝え、すぐ切った。  
これだけで必要なことは全て彼に伝わった。  
2分もすると、送られてくる画像が『トレーラが次に向かった領域』に切り替わった。  
一旦目標が決まれば後は簡単だった。  
 
長いこと待機が続いたが、あざみの消えた現場からようやく離れる時が来た…。  
ひまわりはヘルメットを被るとドゥカティのエンジンを始動させる。  
しきみには言わなかったが途中寄るところがある。  
 
今度は静かにクラッチを繋ぎ、ゆっくりと始動させた。  
 
 
ナジムはアジトに戻ると私物をまとめだした。傍らで心配そうに部下がその様子を眺めている。  
 
「ナ、ナジムさん…?」  
 
荒々しく荷物をトランクに放りこんでいる。ラップトップ、デジタルカメラ、iPod、スマートフォン…自分達が忌み嫌ってる西側文明の生み出した製品ばかりが目立つ。  
 
「ナジムさん…あの」  
「うるさい!」  
 
ナジムはあらん限りの声で怒鳴った。  
 
「組織は消えたんだ!俺はこの国を出るぞ!お前達も国に帰るなり、好きなようにしろ!」  
 
リーダーの本質は逆境においてこそ現れる。結局この男はこの程度の人物だった。  
部下が不安な時に勇気を与えられなければ、誰もその男の言うことなど聞きはしない…。  
部下達は絶望するような眼で彼を見つめていた。一人、また一人、そこを去っていった。  
 
 
ひまわりは再開発地区を出る前に、自分達が監禁されていた現場に立ち寄った。先程の現場同様、科学分析チームのバンが止まっている。彼女はそこの主任調査官の所を尋ねた。  
 
「ろくなモノは残ってなかったね…」  
 
そう言って彼は複数のファスナー付きの小袋が入ったケースを彼女に差し出した。  
煙草の箱、クラブかカフェのマッチ、ポルノ雑誌に、携帯電話、どれも一見するとただのガラクタだった。  
 
一通り確かめてケースを返す。  
 
「わかりました…そのようですね…」  
 
ひまわりは収穫がなかったが、とりあえず確認ができたことで納得した。再びドゥカティに跨ると、ちょうどそこへ携帯電話がかかってきた。  
彼女は被ったばかりのヘルメットを脱ぎ、電話の受話ボタンを押す…。  
 
「ライトです…」  
『私よ…』  
「はい」  
 
『居場所が分かった…現在もトレーラーはそこに停まったままだわ、今携帯にデータを送信中よ…』  
 
ひまわりは携帯のモニターを確認した。  
 
『それからいいニュース…。マックスウェル中佐達が合流してくれるって。』  
『今ドレスデンから現場に向かってる。そこで落ち合って頂戴…』  
『私達はウィーンから車なのでまだかかりそう、今やっとズノイモを抜けたばかりよ』  
 
「わかりました…」  
 
『いい事、もしウィンタースを確認しても単独で手出ししてはだめよ!わかった?』  
「了解です」  
 
ひまわりは電話をポケットにしまうと、再びヘルメットを被りなおし、スターターを蹴飛ばした。  
 
淡い期待を胸に秘め、ドゥカティを発進させた。  
 
(あざみちゃん…生きててね…)  
 

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