ヒメジは離陸前から眠りについてしまっていたため、配られた機内食にありつけないでいた。  
空腹が彼女を目覚めさせると、そのことに気付いたパーサーの空軍下士官が笑いながらやってくる…、すぐ食事を用意する旨彼女に伝えた。  
ふと気がつくと、しきみ達三人の姿がない…。  
 
「ふん?、連れションでありんすね?」  
 
相変わらず品がない…。そんなわけがあるか…。  
 
三食目の機内食を平らげる頃、まず、ひまわりが戻ってきた。  
 
「みんな どこへ行ってたでありんす?」  
 
「う、うん、ちょっとね…」  
 
何気ないひまわりの態度で、それ以上は聞かない方が良いと悟ったヒメジは  
 
「わかったでありんす…」  
 
それだけ言うと手元のコーヒーを啜った。  
 
(どうやら仲間外れにされたようでありんす…)  
そう思うと少し面白くない気持ちになったが、任務が理由の筈だからそれ以上考えることは止めにした。  
 
しきみはミーティングが解散になった後、部屋の外でナナフシが出てくるのを待った。ナナフシがネクタイを緩めながら現れると、彼女はやおら彼の腕を掴み、隣のブースにあるレストルームデッキに引っ張りこみ通路との仕切りになるカーテンを乱暴に閉める。  
 
振り向きざま思いっきりのビンタを彼に食らわした。  
 
「一体どういうことよっ!」  
 
しきみは怒っているようで冷静だった。英語で怒鳴ったからだ。  
 
「…すまない…、秘密厳守だったから…」  
 
ナナフシも静かに英語で返す。  
 
「秘密ですって?…私は全部話したでしょ?…何よ『僕はドイツ組』だとか嘘突くなんて…」  
「いや、それは嘘じゃない…」  
「じゃ、何よコレ?これがドイツ連邦軍の制服なの?バカにしないでよ!」  
 
しきみはかなり荒々しく彼のスーツの襟首をつかんで言った。  
 
「い、いや…僕の研修先はBND(ドイツ連邦情報庁)なんだ、軍じゃない…」  
 
「何ですって?」  
 
研修先が軍組織ではなく、諜報機関そのものであるということは、かなり優秀だと受け入れ先が認めた証拠だった…。SEALsで有頂天になっていたしきみはプライドがズタズタにされたような気分になった…。  
 
「だから…あの時点で君に話すことは…どうしてもできなかったんだ…」  
 
「信じられない…」  
 
しきみはワナワナと震えると、怒りが収まらない…。もう一度殴りにかかるが今度は彼の手がそれを阻んだ。ナナフシは彼女の両腕を掴んで、静かに降ろすと、そのまま唇を彼女のそれに重ねた…。しきみの怒りを鎮めるには、もはや『この手』しかなかった。  
 
あざみがシークレットサービスの担当官と護衛任務についての簡単なブリーフィングを終えて戻る途中、トイレに立ち寄ろうとしてレストルームデッキのカーテンを開けると、中で見覚えある男女が激しいキスシーンを演じてるのを目撃する。  
 
(やばっ!)  
 
そう思うとサッとカーテンを閉じ、苦笑いを浮かべてその場を去った。  
座席に戻るとひまわりが怪訝そうな顔で聞いた。  
 
「あれ? しきみさんは?」  
「あ、ああぁ〜、ちょっと野暮用で…時間かかりそう…みたいよ…」  
 
あざみは半笑い顔をしてスッとぼけた。  
 
「みんなしてコソコソと…わらわは面白くないでありんす…」  
 
座りかけたあざみを見上げて口を尖がらせるヒメジ…。  
 
「シ〜っ(指を口元で立て)、任務のことは例え親でも部外者には話せないんだから、子供じみたこと言わないのぉ!」  
 
「そんなこと…分かってるでありんす!」  
 
いや、解かってないからそんな精神状態なのだ…。  
 
機内の狭いトイレに二人して入ったしきみとナナフシは互いの衣服をあわただしく脱がせにかかる。といっても全裸になるわけにいかないから『必要最低限』ではあった。  
便座の蓋を閉じ、しきみはその上に座るとスカートをたくし上げショーツの脇に手を差し込むと一気に降ろす。彼女は『3in1』の下着構成だったから、ストッキングを脱がずにそれだけで済んだ。  
露わになったしきみの股間に鼻先を突っ込んでナナフシがその匂いに感じいると彼女の脚を肩に乗せるようにして陰部に唇を這わせた。  
長い事待ち望んだしきみの秘部を味わう時が来た。既にそこはテラテラと輝き、隠微な匂いをとき放っている。  
しきみは彼のクンニリングスもそこそこに、早く見たいとばかりに上体を起こすと、ナナフシの股間を必死でまさぐり、ベルトを外してジッパーを降ろす。  
ハヤトほど大きくはないが充分に怒張したソレを眼にすると生唾を飲み込む。  
フェラチオをしようとするがナナフシは今は時間がないとばかり、彼女の想いは無視し、しきみを立たせ片方の脚を大きく持ち上げたかと思うと体面立位の形で、いきなり突っ込んできた。  
 
「あぁ!ナナフシっ!」  
 
突然中を抉られるような快感で、思わず声を上げたしきみの口を手でふさぎ、ナナフシは大きく腰をしゃくりあげて抽送を始める。いくら飛行機の中とはいえ奇声を上げれば周りにバレてしまう。  
しきみは久しぶりの『かゆいところを掻いてもらう』感覚を膣内で感じると快感で狂いそうになった。  
 
荒い息使いの中、ナナフシが中に出せるのかを問うと、しきみはイヤイヤをするように首を振った。  
それを見て腰の動きに速度を増すと、ナナフシはやおらペニスを抜き、しきみの口にそれを捻じ込むと『むっ!』っと唸って大量の精液を放出した。  
しきみはすんでの所で逝けなかったが、彼の体液を喉の奥で感じ、この場はそれで我慢した。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ… ご、ごめん…」  
 
ナナフシは自分だけが逝ったことをすまなく思った。  
 
「ハァ、ハァ、いいわよ…気にしないで…感じちゃったんでしょ?」  
 
きっと経験不足のせいよ…若いんだから仕方がないわ…。  
そう思いながら、ティッシュボックスに手を伸ばすと何枚かをとりだした。  
太股の内側を彼女の淫液が垂れ伝っていた。  
 
 
『おみそ』にされたような煮え切らない気持ちを食べることで紛らわそうと自販機ブースにやってきたヒメジ。キャンディバーやポテトチップ等の小袋が並んだ機械の前で思案している。そこへスーツ姿の背の高い男がやってきた。  
 
「失礼…」  
 
彼はそう言ってヒメジの後ろを横切るとドリンク・ディスペンサーのボタンを選び始めたが、数秒してのち、その男が固まったのがハッキリ分かった。  
 
ヒメジはチラリと男の横顔を見る…。男も横目でヒメジを見ると眉をひそめた。  
互いにゆっくりと顔を向き合わせる…。  
 
「あ〜〜〜〜〜〜っ」  
「ぷ、プリンセス…?」  
 
一年数か月振りの再会であった。  
 
立ち話もなんだからと、ヒメジとマックスウェルは空いている席に並んで座った。  
「あ、あ、あ、あの時は『宿題』…やっていただいて、ありがとうございました…でありんす」  
頬を紅らめて完全にあがっているヒメジ。  
 
「で、どうだったの?」  
「え?、あ、『A』を貰ったでありんす…」  
 
苦笑して更に頬を紅らめる…。  
 
「そいつは良かった…」  
彼も彼でこんなところであの『じゃじゃ馬』と会うなんて想定外もいいところだった、正直困惑していた。  
 
「あの君が…ここに居るなんてねぇ〜」  
素直に感想を言う。  
 
「へへ…」  
大きな図体で照れ笑い…。  
 
「あ、あの、ミスター・マックスウェルは…何でここに?」  
「『マック』でいいよ、職場じゃみんなそう呼んでる…」  
 
ヒメジはただ照れている…。  
 
「ここへは次の任務のために同乗させてもらってるんだ…」  
もちろん嘘である。例のひまわり達とのミーティングに参加していたのだから…。  
彼は3人とヒメジの関係をまだ知らなかったから当然である。  
 
「さっきはなんか偉く仏頂面していたけど?」  
「な、なんでもないんでありんす…、ただ…」  
「ただ?」  
「ただ、仲間外れが寂しかったんでありんすよ…」  
「え?」  
「仲間の3人だけが…なんか『任務』を与えられたみたいなんでありんす…」  
 
(はは〜ん…そういうことか…)  
 
「そりゃ仕方ないな…仕事なんてそういうもんだ…割り切らないと…そんなことはこの先しょっちゅう起こる」  
 
(俺なんかだいたい独りだけど…)  
 
「さって  っと、もう寝ておかないと…明日大変だぞ?」  
「そ、そうでありんすね…」  
 
二人は立ち上がるとそれぞれの席の方向に分かれる。  
 
「あ、また会えて嬉しかった でありんす…」  
 
ヒメジは笑って彼に伝えた。  
 
「僕もだ…(Vサインを作って敬礼のしぐさをする)、お休みプリンセス!」  
 
「おやすみなさいでありんす…」  
 
 
旅客キャビンは既に照明が落とされていた。各自ほとんどが眠りについている。  
あざみはiPodのメニューから、これを聞けば必ず眠れるという「モーツアルトの弦楽協奏曲プレイリスト」を選ぶと、それらを聞きながらブランケットに包まって横になった。  
が…、なかなか寝付けない。  
 
そこへヒメジが先ほどとは打って変わって恍惚の表情で戻ってきた。  
あざみは片目を開けてそれを見届けながら(なんにしても機嫌が戻ったんなら良いやね〜)と思った。  
 
続けて少し腰をふらつかせながらしきみが戻ってきた…  
(以外に早かったな? ナナフシ…ひょっとして淡泊?)等と下世話な想像を脹らます。  
しきみがけだるそうにしてシートに腰を掛けると、あざみは意地悪く  
 
「おつかれ〜」  
 
といった。  
 
「何がよ?!」  
 
背を向けて寝てるあざみに少々尖った口調で聞き返す。  
 
「あ、いや…何となく」  
 
(げ〜 良くなかったんだワ やっぱ…)そう内心で呟き、思わず舌を出すあざみ。  
 
「おやすみなさ〜い」  
 
あざみは腫れものには触るまい…そう思って眠ることに傾注した。  
 
 
ひまわり達を乗せたB-707は定刻通り西部標準時0930にエドワーズ空軍基地に着陸した。  
長い事タキシングしたあと大型機専用格納庫に収納され、そこへタラップが接続する。  
 
「君達3人は先に降りてくれ、下で私の部下が待っている」  
 
アンダーソンがこれから別行動となるひまわり達に段取りの再確認をしに席まで来て言った。  
 
「分かりました」  
 
しきみが代表して返答をすると、あざみとひまわりにアイコンタクトをする。  
 
「ヒメジ…悪いけど、ここでサヨナラするわ…」  
 
そう言って右手を差し出した。  
 
「気にしないで良いでありんす…頑張ってくるでありんすよ!」  
 
そう言ってしきみと握手するとみんなにウインクして見せた。  
マックスウェルの一言が効果的だったようである。  
ひまわりとあざみもそこに手を乗せた。  
 
「外で見送るでありんす…」そう言うと、ヒメジはひまわりの荷物を掴んだ。  
 
事のやり取りを1ブロック向こうで韓国軍の幼年将校たちが怪訝そうに見ている…。まるで『どうしてあの日系人将校たちが特別扱いなんだ?』とでも言いたげだった。  
 
あざみはその中のイ・ビョンボン似のナンパ野郎に向けて軽くウインクしてやった。  
 
タラップを降りると、カリフォルニア・ハイウェイパトロールのカワサキ・ポリス1000 4台に囲まれた白いフォードエクスプローラーが3台並び、要員たちの乗車を待ち構えている。  
しきみ達は真ん中の1台にアンダーソンと供に乗車、先頭の車両にはナナフシが既に乗り込んでいた。  
最後尾の1台にマックスウェルが乗り込もうとしたとき、彼は車両の窓越しにタラップの前で寂しそうに立って見送っているヒメジをしばし見つめた…。  
3人が彼女のクラスメートなら、まだ10代の子供たちを作戦に使うって事になる…。  
そんな話はMからは聞いていなかった。  
 
全ての要員が乗り終えると、やがて車列は静かに格納庫の外へ流れ出て行った。  
 
車内の助手席に座ったアンダーソンはフォルダから紙片を取り出すとそれを見ながら携帯を操作している。  
 
「こちらアンダーソン…子猫は餌にありついた。繰り返す…」  
「子猫は餌にありついた。X Day-6 0947 継続! 以上!」  
 
それだけ言うと電話を切る。ルームミラー越しにひまわり達を見るとニコリと笑った。  
 
X Dayダッシュ6…つまりマイナス6…、作戦決行まであと六日という意味だった。  
 

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