いよいよこの日がやってきた。志能備学園女子校では放課後の体育館にてイギリス・アメリカ向け選抜メンバーの壮行式が厳かに行われていた。  
 
ステージ前最前列に並べられたパイプ椅子には今日出発するメンバーが既にその配属機関の制服を身に纏って座っていた。  
その中にひまわり、しきみ、あざみ、ヒメジが含まれている。ヒメジはすっかりSAS女性士官らしくトレードマークのツインテイルをアップに纏め、まるで別人のように見えた。  
ゆすらとつきよ姫は傍らで見守っている。フランス、ドイツなどNATO大陸組は2日後に同様の式典が予定されていた。  
 
やつがしらの神妙な祝辞のあと、一人ひとりが壇上に呼び出され任命証を受け取る。まるで卒業式のようなノリであった。  
 
「アメリカ合衆国海兵隊少尉ヒロコ・ミシェル・ライトこと、日向向日葵!」  
「ハイっ!」  
 
ちょろぎの呼び出しに大きく返事をして、海兵隊女性将校のユニフォームを着たひまわりが壇上に向かう。これもヒメジ同様に髪型はフォーマルにアップとし、特徴的な円筒形の帽子を被った姿は精悍で別人に見えた。  
幼さの見えた顔も適度な化粧が施され全く違和感のようなものは窺えない。実年齢より2〜3歳は大人に見えた。これも武蔵坊の教育の成果である。  
 
壇上で綺麗に『左向け左』で校長に向かうと、見事な海兵隊式の敬礼を決めるひまわり…。  
(カッコいい!)教員席で見ていたハヤトは思わず叫びそうになった。  
 
そうして次々と呼び出される。  
各々、それぞれの帰属する軍隊の礼式をキチンと決めて既に任務に入っていることを意識し、間違いなくやってのけることを最終確認する場でもあったが、  
ここにいるメンバーにとってはそんなことは朝飯前だった。  
 
イギリス海軍少尉の制服を着たあざみが階段を降りるとき、規則より少し短めのスカートから覗く脚線美には全ての男性教員が眼を奪われた。  
したがって彼女がハヤトに向けてウインクしたのには誰も気づかなかった。  
しきみはクソ真面目に正規のひざ丈スカートだったが、左胸に付けた『三叉鉾とライフルを掴んだ白頭鷲』を模したSEALsの徽章が誇らしげに光っていた。  
 
式典が終わると、それぞれがそのまま校庭で待機している自衛隊のCH-46輸送ヘリに乗り、まずは厚木のアメリカ海軍航空基地に向かう。そこからC-2中距離輸送機で嘉手納空軍基地に飛び、長距離機に乗り換え、ひとまずは西海岸のエドワーズ空軍基地を目指す段取りだった。  
嘉手納では韓国、台湾からの同様のプログラムの『研修生』達も合流する。ちなみに男子校のアメリカ・イギリス組とは厚木から同行することになっている。ここから先は志能備学園の校則は適用外になる。  
 
ボーディング前に各々が見送りのクラスメイトや教師たちにつかの間のお別れをする。  
ハヤト、ゆすら達の前にはひまわり達が居た。  
 
「ひまわり、見違えたぞ…頑張ってこいよ…」  
 
「ハヤト殿〜」(泣きそう…)  
 
それを横目にあざみがハヤトに軽くハグをする。みんな唖然とする…。  
ここ2晩続けて10回以上『ハヤトから精を抜いた』のにも関わらず、まだ名残惜しい…。  
 
「お、お、おい…あざみ〜」  
「いいじゃん!、アタシ、誰も見送ってくれる人居ないんだから〜」  
 
笑ってごまかす。でも嬉しかった…。  
 
「じゃ、私も〜」ひまわりが続いた。  
 
「わらわもでありんす〜」  
 
そう言ってしきみの方を振り返る2人。  
 
「わ、わかったわよ」  
 
苦笑してしきみもそこに加わる。3人の美女にハグされて幸せなんだかそうでないのだか…、困惑顔のハヤト。  
 
「と、とにかく…みんな達者でな…」  
 
「あたしも、あとで追いかけるからね〜」  
 
ゆすらが少し眼に涙を溜めて言った。  
 
「お互い頑張りましょう!」  
 
しきみがゆすらにもハグをしてその場を締め括った。  
ヒメジはレイバンのサングラスをかけて涙眼を隠す。  
時間が来た…。  
 
最後に残っていた4人が手を振りながらCH-46に乗り込むと、クルーがステップを上げドアを閉める操作を始めた。それと同時にスターターの音が聞こえ2基のメインローターが静かに回り始める…。  
やがてそれが轟音に変わると、機体はふわりと持ち上がった。  
 
『がんばれ』そう、心の中で呟くハヤト…。  
どうせ何事もなく、また会えるさ…。そう思いながら、遠ざかっていくヘリコプターを見送った。  
 
 
厚木の海軍航空基地には1時間もかからずに到着した。  
ひまわり以下8人を乗せたCH-46は自衛隊用ではなくアメリカ海軍用ヘリポートに着陸すると、そこへ2台の高機動多用途装輪車:通称『ハンビー』が横付けされた。  
サンディブラウンの制服を着たアメリカ海軍の女性下士官が降りてきた。  
 
「こんにちは皆さん、私は本日嘉手納までのご案内役を仰せつかりましたキドリッジ特務兵曹です」  
 
テキパキとした敬礼の後、そう言って簡単に自己紹介をした。  
見るからにひまわり達より年上だったが、通常通り丁寧に士官に対応するように話す。  
 
「それでは、これから嘉手納に向かうためにC-2輸送機へ乗り換えていただきますので、皆さんご乗車願います」  
 
そう言って乗車を促した。  
 
5分も走らないで離陸準備を整えてるC-2機に到着すると、既に男子校生徒を乗せてたであろう別の2台がそこを離れようとしていた。  
 
「男子…誰が一緒だと思う?」  
 
意味ありげにあざみがしきみに向かって言う。  
 
「さぁ?興味ないワぁ」  
 
しきみは気のない返事をする。ナナフシが居ないのは既に知っていた…。  
 
「あれ?小紫君?…」  
 
ひまわりは最後に乗った一人を指差す。  
 
「どうかしら?」  
「じきに判るわよ…」  
 
C-2輸送機は双発ターボプロップの艦上輸送機だが、カーゴベイは簡単な機材の入れ替えで旅客型にも変更可能な汎用性の高い航空機だ。  
左右並列に並んだ3座式の座席は前二列が既に男子生徒で埋まっていた。どの顔を見てもみな優秀そうな連中で、少なくともあざみが親しくしていた顔は誰もいなかった。ただ一人小紫を除いて…。  
 
(小紫君!)  
 
ひまわりは一瞬名前を叫んで手を振りそうになったが、すぐに控えた。そう、既に任務中…。我々はもう公然と本名で呼び合うわけにはいかないのだ。  
小紫は座席に腰を掛けるとき、わずかに彼女たちに向かってウインクした。彼はもう判っていたのだった。  
 
ひまわりは順番に座席に着くつもりでいたが、あざみが数少ない右舷の窓側を譲ってくれた。  
 
「あ、ありがとう…」  
 
あざみは3座の真ん中に座るとシートベルトを締めながらひまわりに向かって言う、  
 
「狙撃されるから、普通〜将校は窓際には座っちゃいけないんだよ」  
 
ええぇ〜〜〜っといったひまわりの表情を見て  
 
「冗談よ」  
 
そう言って意地悪そうに笑った。  
 
全員が着座し、ベルト装着を確かめるとキドリッジ兵曹がコクピットに安全確認シーケンスを伝える。やがてエンジンが唸りだしC-2機は滑走路に滑り出ると一気に加速して離陸した。  
 
水平飛行に入り5分もするとひまわりの望む窓にまだ残雪を頂いた富士山が見えてきた。  
彼女はあざみをつつくとそれを教えてあげた。  
 
「綺麗ね…」  
 
あざみがそういうと二人は訳もなく感動して涙を流した。  
 
 
嘉手納空軍基地。国内世論でのタブーもあり、この基地からスパイ機が発着している事実は公表されていない。  
しかしながら実際は朝鮮半島問題や中国軍情勢把握などを考慮すれば、ここが重要拠点たる事実は誰が考えても否定できない。  
口には出さないが誰もが周知のことではあった。  
 
ひまわり達は空軍のリムジンバスに乗せられ、これから乗るボーイングB-707が隠されている格納庫に向かっている。  
 
傍らの滑走路を合衆国戦術空軍のF-15Cが2機揃って物凄い轟音を引いて離陸していくのが見えた。  
 
「どう?、こういうの…血が騒がない?」  
 
あざみはそっとひまわりに耳打ちする。  
 
「はい、凄く興奮します…」  
 
ひまわりは始めてみるアクティブで本格的な軍用基地に自分が『任務』でいることの気分を素直に口にした。  
今度は逆方向に海兵隊のF/A-18Cがアプローチしてきた。  
 
「あの子…見てよ…」  
 
あきれ顔でしきみがヒメジの方を顎で示す。  
 
そこには、車窓にへばりついて戦闘機の姿を追うヒメジが居た。今にも涎を流さんばかりで眼が『逝っちゃって』いる。  
 
バスが格納庫脇の建物に横付けにされると、全員が大型エレベータで二階のラウンジに案内された。  
キドリッジ兵曹が全員にお別れを言うと、次の案内役の空軍下士官にバトンタッチをする。  
下士官は軽く館内と、これから搭乗する機材(B-707)の説明をし、それぞれに座席番号の書かれたボーディングチケットを配った。  
搭乗10分前になったら再びこの場所に集まるよう告げると、しばし休憩時間をとるように促し一時解散となった。  
 
「お久しぶり!」  
 
ひまわりが振り向くとそこにはアメリカ海軍のブレザーを着た小紫が居た。胸にはしきみと同じSEALsの徽章がついている。  
おチビちゃんだった彼も、見るたびに背が伸びているように感じた。  
6cmヒールのパンプスを履く167cmのひまわりよりも既に高くなっている。  
飛び級入学の天才児だったからまだハイティーンになったばかりだというのに既に青年士官といった風体に彼女は驚いた。  
それほど久しぶりに見たわけでもないのに、軍服のせいもあるのだろうかすっかり男っぽくなった…そう思った。  
 
「あ、アタシ、ちょっとコーヒーでも買ってくるワ、じゃぁね〜」  
 
そう言ってあざみは席を外す。完全に『気を利かせたわよ〜』と眼で合図している。  
小紫は微笑んで彼女を見送ると、振り返ってひまわりに話しかける。  
 
「ひまわりさんと一緒に研修に参加できるなんて、僕、凄くうれしいです…」  
「あ、あ、そうだね…へへ」  
 
なぜか照れる。(だって、凄いイケメン君なんだもん…小紫君ったら…)  
 
「もし、むこうで暇ができたら、是非デートしてくださいね」  
(そ、そ、そんな〜困る〜〜〜)  
「あ、でも、しきみさんとかも居るし〜」  
「大丈夫ですよ(もう話はつけてます)…じゃ、むこうで仲間がうるさいから戻りますね」  
 
そういうと小紫はひまわりの手をとって軽くキスをした。  
やることがマセている。だがイケメンだからサマになってしまう。  
 
「あっ…」  
 
言葉を返す暇もなく、完全に主導権を握られたアプローチを受け、ひまわりはタジタジになる。頬を紅らめて困惑しボーっとただ座ってるだけだった。  
そこにコーヒーの紙コップを持ってあざみが戻ってきた。  
 
「いや〜ね〜、さっそくナンパされちゃったわよ…韓国軍のイ・ビョンボンみたいな奴にぃ〜」  
 
ひまわり、ぼけ〜っとして…  
 
「え?、な、何?」  
「何よ〜?ボケーっとして〜、小紫どうしたの?」  
「行っちゃいました。」  
 
ずずぅ〜っとコーヒーを啜りながら(どうしちゃったの?)という視線のあざみ。  
 
「デ、デートに誘われちゃいました…」  
「や、やったじゃんw」  
 
(アンニャロ…ガキのくせに まぁ〜色気づいちゃって…)あざみはそう思った。  
言えた義理ではない…。  
 
 
休憩時間も過ぎ、各自がゲートからタラップを伝って機内に乗り込む。タラップの大きな窓から見える全面白塗装の機体には、例のブルーとオレンジの配色で『FedEx Express』と大きく書かれていた。  
見かけだけのこの『運送会社の機体』は、内部が完全に電子化されたスパイ機であり、要員輸送や偵察任務に就くための間違うことなきアメリカ戦略空軍(SAC)所属機である。  
 
入口でパーサー任務の空軍下士官から、電子式パッドに自分のサインを求められる。続いて指紋読み取り欄が表示されると、そこに右手の親指をスキャンさせブルーの背景色に変われば搭乗許可となる。  
 
ときどきすれ違うクルーたちがみな笑顔で『welcome aboard!』と声を掛けてくれるので緊張が和らいだ。  
 
座席のあるデッキは広々としていてホテルのラウンジみたいだった。フカフカの絨毯にビジネスクラスのシートに似たもので最大160度の水平リクライニングが可能なレカロ製シートが並んでいた。  
ひまわり達『日本組』はまとまったエリアに席が割り当てられていた。  
3x3配列だが中央にパーティションが設けられ、右舷側が女性、左舷側が男性と分けられている。  
民間旅客機のそれと違い、各座席は充分に離され、それも少しずつ前後方向でオフセットされた配置になっていた。トイレに立つため通路側の者に席を空けて貰うといった面倒はありえなかった。  
 
「これ、渡されたとおりに座んないと怒られンのかなぁ?」  
 
あざみがそういうと、ひまわりは彼女のチケットを自分のと交換し、窓際を譲る。  
 
「サンキュー」  
 
そういうとあざみは窓側に座る。実にゆったりとした座り心地のいい座席だった。  
 
搭乗状況を確認しに来た黒人のパーサーが通りかかったとき、座っているせいで今にもショーツが見えそうなあざみのスカートに思わず視線を落とすと(ヒュー)っと微かに口笛を吹く。彼女が魅惑的な笑みでそれに応える。  
 
それを見てしきみが立ち上がり、自分のスカートのウエスト部分をクルクルと巻き上げ、あざみのと同じくらいのミニスカートに『改造』した。  
アタシだって〜っといった顔であざみを見返す。  
 
「な、なに対抗意識燃やしてんのよぉ〜」  
 
あざみが笑いながら溢す。  
 
「二人とも〜いい加減にしてくださいっ、風邪ひきますよ〜」  
 
ひまわりは苦笑して二人の膝にブランケットを掛ける…。  
後ろの席では既にヒメジが寝息を立てていた…。いろいろと興奮しまくりで疲れが来たらしい。  
 
機は間もなく日本を離れる…。  
 
 
FedExに化けたボーイングB-707型機は薄暮に乗じて嘉手納基地を飛び立つこと30分後。  
既に水平飛行に入り安定した状態で徐々に上昇を続けている。  
シートベルト着用のサインも消えてから暫く経っていた。  
 
丁寧に豪華な機内食がサービスされ、食べ終えた所で各々が眠りに就く。到着は現地時間で朝にになるからちょうどいい筈だが、ひまわりは何だか興奮して眠れない。あざみをみるとiPodのイヤフォンを嵌めて何とか眠ろうと頑張っていた。  
 
そこへ赤毛のジリアン・アンダーソン似の若い女性下士官が現れ、しきみとひまわりの座る列にしゃがみ込んで言った。  
 
「Excuse me… Ensign Mitsui, SecLieutenant Wright… we've something to tell you. … Please follow me…」  
 
慣れないからつい油断をしていると脳内にそのまま横文字が入ってきた。  
ミツイ というのはしきみの『役名』だった。『サラ・ミツイ海軍少尉』これが彼女の官姓名である。  
 
何事かしら?といった顔でひまわりを見るしきみ。  
二人はベルトを外して静かに立ち上がると女性下士官の後に続いた。  
 
残されたあざみは心配そうに二人の姿を眼で追うだけだった。  
 
 
しきみとひまわりは機内に幾つか設けられているミーティングルームに案内された。  
既にスーツ姿の男が数名と、アメリカ陸、海軍の将校が着座していた。  
部屋の隅にはなんとナナフシが立っていた。  
黒の上下、ダークグレイのシルクのシャツに黒のネクタイっといった服装だった。  
 
一瞬、驚いた2人だったが、ナナフシがそっと手で(抑えろ)と合図するのを見て何とか平静を保つ。  
 
「寛いでいる所を大変申し訳ない、ミス・ミツイ、ミス・ライト…」  
「私はNSA(国家安全保障局)中央アジア担当のアンダーソンだ、後のメンバーはその都度紹介しよう…我々は一応文民なので敬礼は必要ない…」  
 
中央の席に座るジョージ・クルーニーに感じが似た男が口火を切った。  
 
「さっそく本題に入る(君!といって下士官にプロジェクターの操作を依頼する)」  
 
スクリーンに映し出されたのは正装した若い女性の胸像だった。  
 
「こ、これは…」  
 
映し出された映像は、どことなくヨーロッパ系の特徴を見せるものの、驚くべきことに顔がひまわりと瓜二つの若い女性だった。  
 
「この女性は、旧ソ連の構成国パルティメニスタン共和国の大統領、ゴスコフ氏の一人娘で名前をエドナという…」  
 
しきみとひまわりは固唾を飲み込んだ。  
 
「ゴスコフ氏はソ連崩壊後の最初の大統領選で当選時まで独身を通していたが、傍で選挙参謀として彼をずっと支えていたウイグル出身の女性と結婚し彼女を設けた」  
「ところがこの御令嬢はひどい放浪癖があり、度々お忍びで国外に出かけることがある…」  
 
画面には彼女が各国を訪れたと思しき映像が次々と映し出されていく。パリ、ローマ、マドリード、そしてモンテカルロ…。  
 
「その都度監視役の要員が陰ながら護衛を務めており大事に至ることは無かったのだが、プラハ市内でその監視役が2人とも射殺死体で発見された」  
 
しきみはゾクゾクとする感触を背中に覚える。ひまわりも映像の中の眉間に銃創を負った男の死体に眼が釘付けになった。  
 
「しかしながら、本件は失踪発覚以来2ヶ月間程内密にされていて、我々西側の情報部も事実を知らなかったわけだ…(傍らのCIA局員と思しき男をチラリと見やる)」  
 
「ところが、ゴスコフ氏自らがイギリス政府に救いの手を求めてきた…。彼は今の英国内閣の内務大臣とは旧知の仲だったというのがその理由だ…」  
 
「MI-6が調査を進めた結果、現在、彼女はブダペスト郊外の、あるテロリストグループのアジトにかくまわれていることが判明している」  
 
アンダーソンの隣に座ってるハンサムな男が微笑んで手を上げた。どうやらMI-6の職員のようだ。  
 
「目的はゴスコフ氏を辞任に追い込み、彼に支えられているパルティメニスタンの政情バランスを崩すことで内紛を再発させ、原油市場の混乱とパイプラインの遮断で西側経済にパニックを起こそうとするものらしいと判明している…」  
 
アンダーソンがここまで話すとプロジェクターの映像が切れ、照明が元に戻る。  
しばしの沈黙が訪れた。  
 
「分かりました…で、我々を呼ばれた理由は?…」  
 
しきみは鮮明な英語で尋ねた。  
 
「救出作戦を行うのはこのジョンブル達に任せてある…(隣のハンサムに視線をやる)」  
「そのあとが問題だ…。時を待たずしてゴスコフ大統領はこの御令嬢を伴いチェコを表敬訪問する手筈になっている…、連中は再度奪還を図ると我々はみている…」  
 
「その際、連中に、ある『トラップ』を仕掛け、黒幕を含め一網打尽にする作戦だ…これはゴスコフ氏自身の要求でもある…」  
 
この場合の『一網打尽』とは逮捕ということではなく『皆殺し』という意味だった。  
 
ここまで言うと、聊か遠慮がちな口調になり、アンダーソンは静かに続けた…、  
 
「その際、…ミス・ライト…君にエドナの影武者になって欲しい…ミス・ミツイは現地の指令所でサポートに回ってもらう…ミス・ライトの行動原則に非常に詳しいと資料に書かれてる通りならば…だが…」  
 
やはりそう来たか…しきみは頷いた。  
考えてみれば、海兵隊って事以外、ひまわりの所属が未定だったのは全てこの作戦のためだったのだ…。やっと合点がいった。  
 
「言っておくが…状況から、我々は君たちに命令はできない…あくまでも君らの志願が前提の作戦だ…」  
 
「テロリスト達はなぜゴスコフ氏に直接手を下さないのでしょう?」  
 
ひまわりの質問は最もだった…。  
アンダーソンはネクタイを少し緩めると、二人に向き直って静かに口を開いた、  
 
「…彼を『殉教者』にできないからだ…」  
「そんなことをしてしまえば『イエス・キリスト』や『カエサル』を作ることになる…」  
「しからばその体制を維持しようと次から次へ『聖ペテロ』や『アウグストゥス』が現れて体制がむしろ強化される…そう分析しているらしい」  
 
事実、ゴスコフの後継者養育に熱心な癖は内外に知れ渡っていた。  
 
「あくまでも『彼自身が国を捨てた』… そういう結果でないと意味がないのだよ…」  
 
一同は二人の返答を待つために、暫くの静寂を作った…。  
 
「わかりました…私、やります!」  
 
ひまわりはしきみを見て言う。しきみも頷いた…。  
 
アンダーソンは一つ深くため息をつくと微笑した。彼の任務の『ヤマ』はここまでだったのだろう…。  
 
「よく決意してくれた…、成功すれば世界中が君達に感謝するだろう…」  
 
一番感謝してるのは彼自身かもしれない…。  
 
「そこでだ、作戦を説明する前に、ミス・ライト…もう一人メンバーを指名する権限を君に与える…誰か信頼できる『護衛役』を知っているかね?」  
 
はっとして、ひまわりはしきみを見つめた…しきみが再び頷く…。  
 
「はいっ!、居ます、最も信頼できる人が…」  
 

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