プラハのアメリカ大使館では、ナジム達を追い詰めるための最後の仕上げにかかっていた。  
エドナの協力と、ここ2,3ヶ月の入国者記録からナジムや部下の顔写真モンタージュが出そろい、たった今インターポール並びにヨーロッパ中の各捜査機関に直接伝送し終わったところである。  
 
そんな折、イライラとした足取りでプラハ市内を歩く一人のアラブ系の男がいた。  
マハドは先程のナジムの行為に嫌気がさし、とりあえずポーランドの知人に匿って貰おうと脱出を図っていた。  
とにかく足が無いので空港まではシャトルバスを使おうと、ここ共和国広場にやってきたのだが、そこらじゅうに警官が居てチケットを買うことができない。  
いや、仮にチケットがあってもバス乗り場で捕まるだろう…。それくらい警官で溢れていた。  
 
そうこうしてるとまずいことに警官の一人と眼があった。  
マハドは慌てて振り返り、ショウウインドウ越しに様子を窺うが、警官は手配書の写真と見比べて、こっちを窺っている様子だ。  
そして相棒の警官に伝えるとこちらを指差している…まずい…。  
 
たかがシャトルバスでこのありさまだ…恐らく空港も凄い警戒に違いなかった。  
マハドはあきらめてそこを立ち去ろうとする。  
 
「おい!君!待ちたまえ!」  
 
警官が走り寄ってくる。マハドは慌てて走りだした。  
 
「まて、待たんかぁぁぁぁ」  
 
マハドは車道に躍り出る。クラクションを鳴らしながら車が避ける中を必死で反対側の歩道に出てさらに走り続ける。  
 
途中から合流した他の警官が拳銃を抜き一発空中に向け撃つ。  
歩行者達が一斉に悲鳴を上げる。  
 
「みんな伏せろ〜〜〜」  
 
警官がそういうと、道路の中にマハドだけが浮かび上がった。数発の銃声が轟くと彼はもんどりを打って倒れた。  
 
周りを警官が取り囲むころ、既に彼は息絶えていた。  
哀れなテロリストの末路だった…。  
 
 
ひまわりはしきみの送ってくれた住所に辿り着くとバイクを降り、ホルスターからP220を抜きセーフティを解除した、  
ここは古いビール工場の廃墟でやはり再開発地域のひとつであった。  
 
「なんだか、『再開発』がキーワードですね…」  
 
ひまわりは一人語散ると、人の気配を感じクルリと振り向いた。  
 
「待った!待った!撃つな…」  
 
マックスウェルの『相棒』が両手を上げて立っていた。右手にワルサーPPKを人差し指でぶら下げている。  
 
「中佐ぁ〜脅かさないでくださ〜い」  
 
ひまわりはため息をついて、銃を降ろす。  
 
「ごめん…だが、俺達の事聞いてなかったのかい?」  
「聞いてましたけど…」  
 
いきなり女の子の背後から現われるなんてぇマナー違反です…。  
そういう風に表情で語った。  
 
「ダメだ…誰も居ないし、何も残ってない…」  
 
廃墟になったプラントの地下からマックスウェルが上がってきた。  
 
「そうか…」  
 
そういうと『相棒』はPPKを仕舞った。  
 
「ここでは多分車を乗り換えただけだろう…」  
 
「残念だったな…」  
 
ひまわりは一息つくと、彼女も銃を仕舞った。  
 
 
ウィーン国際空港。ハヤトは何とかイミグレを終えて一階の到着ロビーまで辿り着く事が出来た。初めてのヨーロッパ…もっとのんびりした旅行気分で訪れたかったというのが本音だった。  
 
「ったく、11時間で着くって嘘じゃんよ…」ロビーの時計を見て言った。  
 
これからどうしたもんか半分パニックになっている。  
慌てて出たのでユーロへ換金するのを忘れたのだ。  
これではレンタカーもタクシーも乗れないと…そう思ってるのだが、何のことはない空港で換金すればいいだけの話なのだが…。  
 
「サマータイムだ… だから標準時より1時間時計が進んでいる…」  
「そんなことも知らんのか?」  
 
「な、なんだよう…いるならいると…言ってくれりゃいいのに〜〜〜」  
 
ハヤトは顔も見ずに後ろから聞こえる声の主に文句を言った。  
 
「今、レンタカーを借りてきたところだ…ついてこい」  
 
武智はそういうと10m程向こうに止めてあるカローラを指差した。  
 
「なんだよう…本当にも〜〜」  
 
内心では感謝しながらも、オレがオロオロするのを見て楽しんでんのかよ〜と言う気持ちで不平を言う。  
武智はハヤトから荷物を預かるとトランクを開けそれを放りこみ、彼に助手席を勧めた。  
 
「のぉわぁぁぁぁっ! つ、つきよ姫ぇ〜〜〜」  
 
どういう経緯かしらんが、後席は彼女が陣取っていた。  
 
「 ま た 会 っ た な … 」  
 
今度は『my お椀』で味噌汁を啜っていた。  
 
(ったく…また会ったな じゃねぇ〜っつ〜の)  
 
「さて、プラハまで200km強ある…、黙って乗っててくれよな…」  
 
武智はそういって睨むとイグニッションを回した…。  
 
「ひとつ聞くが…お前、何でフライパンなんか持ってきたんだ?」  
 
(う、うるせぇ〜)  
 
ハヤトは答えずに心の中で言い返した。  
 
(ありゃ縁起もんの『お守り』みたいなもんなんだよ〜)  
 
 
先程のビール工場。  
あれから1時間してしきみ達のダッジが駆けつけて来た。  
ようやく『非公式奪還チーム』のメンツが一同に会したことになる。  
 
だが再会を喜べるようなムードではない。一縷の望みの衛星画像だったが、相手が特徴ある大型トレーラーだったからこそここまで追跡可能だったのだ。  
ありふれた乗用車となると街行く他の車に紛れたら最後、もう追跡不可能だった。  
皆憔悴しきっていた。  
 
だが、ひまわりだけは、犯人達が乗り換えた乗用車の特定に躍起になっていた。  
 
「ダメだわ…このトンネルの先で、もう全く見分けがつかなくなる…」  
 
しきみは画像を追いかけながら何度やっても同じ結果になることについ不平を溢す。  
 
その時、ひまわりが別の画像に眼を奪われた。  
 
「しきみさん!こ、この画像は?」  
「ええ?」  
 
ひまわりはトラックボールを回転させ、衛星画像受信アプリケーションの陰に隠れている他のViewerプログラムにカーソルを持っていき、そこでクリックする。  
 
「それは、さっきプラハ警察が送ってきてくれた画像で、共和国広場で射殺された犯人が持っていた所持品の画像だ…ガラクタばかりであまり役に立つ情報じゃなかったんで…」  
 
ナナフシが説明した。  
 
「いいえ、その反対です…」  
 
ひまわりはその中の一つを拡大した。確認しただけに終わったとした監禁場所での残留物と同じものがそこにあった。  
 
「これ何?これがどうしたっていうの…」  
「わかりません…ただ、凄く気になります…」  
 
ひまわりは科学分析班のチーフの番号に電話をかける。  
 
「あ、ライトです…先程はどうも…」  
「あの時見せていただいた、『マッチ』…覚えていらっしゃいますか?」  
 
しきみとナナフシは不思議がって顔を見合せた。  
 
「…そうです、その店の住所を教えてください…」  
 
ひまわりは紙とペンを と二人に合図した。ナナフシが用意する。  
 
「はい、はい、旧市街の…はいユダヤ人街…はい…どうもありがとうございました」  
 
電話を切る、既に傍らではしきみが素早くそのメモを読み取り、ナヴィゲーションシステムに入力していた。  
ユダヤ教のシナゴーグが密集するプラハ市内ど真ん中の住所だった…。  
一回北に向かったのは明らかに『擬装』だった…間抜けは間抜けなりに連中も工夫してたようだった。  
 
「しきみさん!先にいってます」  
 
そう言ってバンを飛び出した。  
 
「ま、待ちなさい!ひまわり〜〜〜〜」  
 
つられてつい日本語で叫んだ…。  
 
何事かとバンの中を覗き込んでいるマックスウェル…。  
 
「どうした?」  
 
「ひ…いえ、ライト少尉が、なんか手掛かりを見つけたらしくて…」  
 
(どうしよう?)そんな顔をしている…。  
 
「指揮官は君だ…君が決めろ…」  
 
彼は微笑んでそう言った。  
それに勇気づけられたのかしきみは意を決した。  
 
「ミスター・サイトウ!車を出して!我々も向かいます!」  
 
マックスウェルは(そうこなくっちゃ)とばかりバンのドアを閉め、相棒に合図すると自分達のボルボに急いだ。  
 
 
ナジムは今、自分の人生が半分終わりを迎えたことを忘れんがため、その捌け口を性欲を昇華させることでごまかしていた。  
アジトを出てここ『プラハで飼っている情婦の棲家』でユダヤ人女の尻を掴みながら己の熱く猛り狂ったモノを突き立てている。  
女は自分を抱いている男が恐ろしい『原理主義者』のテロリストであることも知らずに快楽に身悶えさせていた。  
 
何の愛情も感じず、ただただ肉体的快楽だけを求めて後ろから突きまくるナジム…そろそろ射精して終わりにするか…そう思っている時だった。  
ベッドサイドの窓から差し込む月明かりがいきなり閉ざされ部屋が暗くなった。  
 
次の瞬間窓ガラスが大きな音とともに粉砕され、黒いジャンパースーツのひまわりが飛び込んできた。  
 
ひまわりは、驚きながらもなお女の尻を抱えた状態で居る男の左側頭部に回し蹴りを喰らわせる。  
男はそのまま女の背中の上にだらしなく突っ伏し気を失った。  
 
女は悲鳴を上げて全裸のまま急いでそこを立ち去ろうとすると、階段を上がってきたマックスウェル達を見てまた悲鳴を上げた。  
 
一瞬で勝負がついた。  
 
「異教徒の街に隠れ家とは…驚きだな…」  
 
『もう一人のジェームス』はあきれ顔でPPKをホルスターに仕舞う。  
 
そこへ便所バケツ一杯の水を汲んで持ってきたしきみが現れると、いろんな気持ちを込めてナジムの頭に思いっきりブチ撒けた。  
 
「うぁぁぁぁ!」  
 
ナジムは情けない声を上げて眼を覚ました。両腕をしっかり二人のDouble OHに掴まれて絶体絶命だった。  
 
「ぉ、お、俺は何も喋らんぞぉぉぉほぉ〜」  
 
「結構よ!、自然にあんたの脳みそが喋ってくれるワ…」  
 
しきみはそう言うと、注射器のキャップを口に咥えて外した…。  
 
今日を最後に、階下のパブが営業をすることはもうないだろう。  
 
 
ロンドン。外務省。  
大きな応接室では在英ロシア連邦大使と外務大臣が他愛ない雑談で『午後のお茶の時間』を楽しんでいた。  
 
もちろん真相は、今回の作戦によって明らかになった情報を、ロシア大使が詮索しに訪れたのは明白だが、どちらもあからさまにそれを口にすることはない。  
外交とは正に『キツネとタヌキの化かし合い』である…。  
 
「ところで大臣閣下…この度はお国の女性海軍士官が大活躍をされたそうで…」  
 
痺れを切らしたのはロシア大使側だった。  
 
「いえ、その件ですが…実のところ彼女…というか彼女達は『女王陛下のエージェント』ではないのですよ…大使閣下」  
 
大臣はそう言うと微笑みながらスコーンを手で割り、口に放り込んだ。  
 
「東洋のとある国からの『レンタル』でして…」  
 
(それ以上は言えません…)そう顔に表した。  
 
「なるほど…」  
 
ロシア大使は聊かの不満を目で示すと、一口紅茶を啜る。  
 
「そう言えば…お耳に入れたい話がありましてな…」  
「何でしょう?」  
「今回爆撃された現場から出てきた情報なんですが…」  
「・・・」  
 
大使が身を乗り出す。  
 
「彼らの資金源…と申しましょうか…資金をバックアップしていた連中がいたようです」  
「それも、かなりの金額でして…」  
 
大使は固唾を飲みこむ…。  
 
「調べさせましたところ、そのケイマンの口座に多額の入金をしていたスイスの口座が割り出せました…」  
 
そこまで聞くとロシア大使の顔が強張った…。  
 
「よく目にする口座番号でしてね…」  
 
外務大臣は(こちらは全て掴んでるぞ…)そう、目で語った。  
 
「なるほど…、流石ですな…」  
 
そこまで言うと大使はわざとらしく時計を見て、『次の予定を思い出し』退出の許可を求めた。  
 
もちろんその口座番号の先を辿られないよう処置を講じるために奔走せねばならないからだった。  
 
 
あざみは眼を覚ますと、自分は天国に来たのだろうか?そう錯覚した。  
真っ白な天井がまぶしい。  
 
銃弾で受けたショックと激しい脱水症状による血糖値の低下に疲労が加わって意識を失っていただけだったが、もちろん彼女にはそんな自覚があるわけがなかった。  
 
「気がつきましたね…あざみちゃん…ご苦労様でした…」  
「ひ、ひまわり…?」  
 
「防弾チョッキが幸いしたのよ…でも肋骨はやられちゃったから当分大笑いできないわね」  
 
「しきみ?」  
 
「わらわも居るでありんすよ…」  
「あざみったら〜本当にも〜ボウシテナガザル並みに悪運が強いんだからぁ〜〜」  
 
「ヒメジ〜、ゆすら〜」  
 
涙があふれてきた。彼女等の後ろで小紫とナナフシも手を振っている。  
そして最後にハヤトが現れた…。  
 
「ハ、ハヤト先生?…なんで、ここに?」  
 
「ハヤト殿は〜アタシ達が拉致されたニュースを見てわざわざ駆けつけてくれたんですよ〜」  
 
ひまわりが説明する。  
 
「わ〜〜〜〜〜っ」  
 
そこまで聞くとあざみはハヤトに抱きついて号泣した。  
 
「こ、こら、傷に障るぞ〜」  
「ハヤトセンセ〜〜〜、愛してる、愛してる、愛してるぅ〜〜〜〜」  
 
あざみは嬉しくて思いのたけをぶちまけた。ヒビの入った肋骨の痛みなど関係なかった。  
 
ひまわりはそっと全員に病室を出るように促した。もちろん自分も…。  
彼女は外に出ると、静かにドアを閉めた。  
 
「ひまわり…いいんでありんすか? あれじゃあざみにハヤトを取られちゃうでありんすよ…」  
 
「あの二人…デキちゃってるんじゃないの?」  
 
しきみが確信ありげに言う…  
 
「良いのです…ハヤト殿もあざみちゃんも…みんな、みんな、み〜〜〜〜んなひっくるめて私の『ご主人様』なんですから…」  
 
窓から月を見上げて言った。  
 
「今回の事で、私、それがよ〜〜〜〜〜く解かりました…」  
 
小紫は何も言わず、改めてひまわりの『大きさ』に感じ入って微笑んだ。  
 
傍らのベンチでは、つきよ姫が一人味噌汁を啜っている。椀の中に映るハヤトとあざみのキスシーンを見ても、彼女はもう何の怒りも感じなかった。  
 
 
病院の屋上では旧知の仲の男達が再会を喜び合っていた。二人のDouble OH、そして武智吾郎の3人だ。  
 
「あの子達が…お前さんの秘蔵っ子だったとはな…驚きを通り越してあきれるよ…」  
「しかし…よく鍛えてある…」  
 
マックスウェルが皮肉も交えながら大賛辞を送る。  
 
「拙者は何もしとらん…きゃつらが勝手に成長したんだ…」  
 
先程からずっと同じ姿勢で、腕組みをして月を見上げている。  
 
「嘘が下手だなぁ…本当にそうだったら、今なんでお前がここに居るんだよ」  
 
葉巻を燻らせて『もう一人のジェ−ムス』が笑いながら言った…。  
 
武智は何も答えなかった、だが、その口元は少しだけ緩んでいた…。  
 
 
ひまわり達の海外研修はこの最初の作戦が全てであった。チームが解散後、それぞれが研修先に戻り無事カリキュラムを消化すると各々が最高の評価を貰い帰国した。  
 
第4学年を無事終了し、志能備学園を卒業した彼女等は、各々が皆希望通りの進路に進んだ。  
 
ひまわり達5人とナナフシ、そして小紫の7人は「マイティ7」と呼ばれ、国内の任務では勿体ないということで世界各国から数多のスカウティングを受けた。  
だが、ゆすらだけは森の動物達と米澤のために志能備学園教員の道を選び、その権利を風間椿に譲った。  
だが、ゆくゆくは歴代校長に名を連ねるだろうことは約束されたようなものだった。  
ゆすら校長につきよ姫教頭…そんな青写真が目に浮かぶ…。  
 
しきみはアメリカ国籍を与えられNSAでアンダーソンのシニアー・アシスタントの地位を得た。指揮官としての才能を高く買われたのである。既に3つの作戦立案にあたりいずれも成功裏に終わらせている  
 
ヒメジは諜報活動より戦闘能力の方を評価されSASで最初の女性中隊長になった。  
彼女の訓練プログラムには、その激烈さから男性隊員ですらついていけない者が出る高レベルなもので、世界中の特殊部隊要員がこぞってチャレンジに訪れている。  
 
小紫はSEALsの訓練教官として、毎日のように鼻っ柱の強い大男どもを組み敷いて『弟子』を増やしていた。既に『飛び級』で少佐にまで昇進している。  
実戦でも2回ほど敵地に墜落した戦闘機パイロットの救出作戦にガルニア等『愛弟子』と供に参加し成功させていた。  
 
ナナフシはBNDでおもに薬学の才能を生かすために『特殊新薬』つまりはウルトラ自白剤の研究に従事している。だが、ときどき現場にも担ぎ出される多才ぶりを発揮し、既に2度の授勲をしている。  
 
 
そしてひまわりとあざみの二人だが、憧れのMI-6に初めての『同盟国派遣要員』というポジションを与えられ、Double OH作戦の支援任務についていた。  
現在作戦成功率100%の継続記録更新中である。  
 
二人は今、ロンドン市内の高級マンションでルームシェアをして暮らしている。  
そう、もうひとつ別の『もの』もシェアしながら…。  
 
 
無機質なブザーの連続音で眼が覚めたひまわりは、眼を擦って時計を掴むとブザーを止めた。  
昨夜、愛情たっぷりの情事の後、そのまま眠りについたために一糸まとわぬ姿である。最近急に大きさを増したバストが美しく揺れていた。  
 
「いけな〜い…もうこんな時間…」  
 
そう言うと、ナイトガウンを纏ってバスルームに向かう。  
隣で寝ていた男が寝返りを打った。  
その向こうに居たあざみの腕が後ろから男の胸に手をまわした。彼女も全裸だった。  
 
「んん〜〜〜今日は任務明けだからもう少し寝かせて〜〜〜むにゃむにゃ〜」  
 
訳のわからない寝言をもらすあざみ…。昨夜は任務になんか就いてない。  
 
「ハヤト殿〜〜〜起きてくださいよ〜〜〜遅刻します!」  
 
歯ブラシとコップで両手がふさがっていたひまわりは、ひざ蹴りの格好で彼の尻を軽くつついた。  
 
「え?…あ?…いけねぇ〜〜〜〜」  
 
慌てて飛び起きるハヤト、あざみの脱ぎ散らかした衣類につまずいて転びそうになる。  
 
「ったくも〜〜〜何遍言ったら治るんだよ〜〜〜この癖〜〜〜」  
 
そう言ってズボンを履きながら新しい靴下を探す。  
 
「ハヤト殿〜〜また顔も洗わずに出かけるんですか〜」  
 
「向こうで髭剃るからいいよ、間に合わない…」  
 
ハヤトは今、武智の推薦状のおかげでDouble OH養成所で訓練を受けていた。  
信長のDNAのおかげなのか不明だが、恐ろしく飲みこみが良く評判は上々、  
ただし敵性外国語教練を除いて、ではあるが…。  
二年後くらいには晴れて『初級オペレーター』として採用されそうである。  
ひまわりやあざみよりまだまだ格下だが、まずはそこからスタート…であった。  
目標は『日本人初のDouble OH』とデカイ…。  
 
だが、霞の里に居た時よりもずっと毎日が充実していた。  
何よりも、最愛のひまわり、そしてあざみが傍に居る…。  
 
 
「言ってきまーす」そう言ってひまわりにキスをする…。  
 
「ハヤト殿〜〜〜」  
 
ひまわりに注意されると(いけね…)っと引き返し、寝ているあざみにもキスをした。  
 
この三人の奇妙な関係が、  
 
『くノ一に恋はご法度』…  
 
この不文律に叩きつけた彼女達の『答え』になるのかも知れなかった。  
 
 
リビングの壁に、ピンクゴールドの額縁が飾られている。  
その中には卒業しロンドンに来たばかりのころ、やつがしらが二人に宛てて送った手紙の封筒と便箋が入れられていた。文面にはこうあった…  
 
『 ひまわりさん、あざみさん、  
 卒業、そして御就職おめでとう。  
 正直、お二方がここまで立派に成長するとは思っても居ませんでしたよ。  
 特に ひまわりさん、あなたが転入してこられた時は、失礼ながら  
 SPにでもなっていただければ御の字…そんな風に思っていたものです。  
 あざみさん、貴方には男子校の間者を演じろなどと無理なお願いをしました。  
 それでも楽しそうに勤めてくれましたね…本当にご苦労様でした。  
 貴方々との4年間は小職にとっても、素晴らしい思い出になる事でしょう。  
 
 寂しいとき辛い時、里での事を思い返してみてくださいね。  
 ここはいつまでも、変わらず 貴方々の故郷なのですから。 』  
 
 
マンションのテラスからひまわりがいつものように見下ろしている。  
あざみと二人でハヤトにプレゼントした銀のアストンマーチンが、脱兎のごとくダウンタウンにかっ飛んで行くのを見届ける。  
 
起きてきたあざみが彼女の背中に覆いかぶさるようにして重なった。  
 
もう直ぐ、ロンドンに来て3回目の夏が訪れようとしていた…。  
鉢植えの向日葵がまた大きく花を咲かせる日もすぐそこだ…。  
 
ひまわりはあざみの手を取って幸せそうに笑った…。  
まるで彼女達を祝福するかのように一筋の涼風が二人の頬を撫でていった。  
 
 
完  
 

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