午後の授業も終え、放課後の予定もない者たちはそれぞれが自由に過ごす…。とはいえ、海外研修組は各々が準備に追われ遊んでいる暇などなかった。  
しきみはアメリカに行くと決まってからは、英会話の課外コースを『最終仕上げ』とばかりに熱心にこなしていた。  
外国人講師に受ける必要性から、里から離れた場所に設けられている外国語学校に通うわけだが、専用のマイクロバスに乗って往復するために小一時間を要した。  
今日もそのプログラムをこなし帰途についている途中だった。  
車窓から流れる景色を眺めながら昼間あった出来事を思い出した。  
 
「あざみ、凄く幸せそうな顔してたな…」  
 
ハヤトに処女を捧げたのをきっかけに『思わぬスイッチが入ってしまった』しきみの『色欲の治め役』はずっとあざみが勤めていてくれていたが、実のところ、彼女が自身で制御できるようになった頃から間隔が空くようになり最近ではずっと途絶えていた。  
だから嫉妬のようなものは感じることはなかったが何となく気になった。  
 
(そういえば…)あの事故の時と、あざみが遠のく時期が重なったのだっけ?  
今さら彼女に未練はない。だが、生来の『分らないことがあると気持ちが悪い』という感情がしきみの行動原理を支配していた。  
 
「くノ一に恋愛は御法度…」  
 
しきみは静かにそう呟いた。  
 
 
同じころ、学園の地下射撃演習場。  
ひまわりとあざみがダイナミック・ターゲット・プログラムに勤しんでいた。  
 
「なんでぇ? 急にまたぁ?」  
 
愛用のSIG SAUER P220のマガジンにカートリッジを詰めながら3パーティション左のひまわりに聞く。  
サウスポーのあざみだったが銃だけは右手で扱う。世界中の殆どの銃がそう設計されているからだ。もちろん左手でも撃てる。  
 
「今日、校長先生に言われたんです〜。派遣までに銃火器の扱いに慣れておくように…って」  
 
同じくスミス&ウエッソンM4506のマガジンを差し替えながらひまわりは答えた。  
 
「なぁんだ、そうなの…」  
 
マガジンをSIGに差し込むとスライドを引いて言った。  
 
「実は、私もなんだぁ」  
 
二人はヘッドセットをつけ防護メガネをかけると揃って立て続けにランダムに現れる標的に向けて連射する。  
 
全弾撃ちつくすと手元のプッシュボタンを押す。ブザーが鳴り得点が表示された。  
 
「あちゃ〜一発外したワ〜」  
 
そう言い、ヘッドセットを外しながらあざみは左のスコアーボードを見た。15/15と表示されていた。全弾命中だ。  
 
「やるわね〜」  
 
ひまわりは何も言わず微笑んで返した。  
あざみより重い銃をいとも簡単に使いこなしている…  
 
(何から何まで凄い子だわ〜)  
 
あざみはそう内心で呟きながら、彼女がパートナーだったらどんな任務もこなせそうなのになぁ〜と今回派遣先が分かれてしまったことが残念に思えた。  
 
割り当て分の全弾を使いきったあと、ロッカールームのそれぞれのガンケースに丁寧に銃を仕舞い、キーダイアルを回してお互いに施錠の確認を規則通り行う。  
二人はシャワーで汗を流した後、お腹が空いてきたのでこれからお好み焼きでも食べる?っと話がまとまり、夜道をもんじゃ屋に向かった。  
 
「しきみさん達も誘いましょうか?」  
「いいよ〜、たまには二人だけで、話したいこともあるしさ…」  
「そ、そうですね…たまにはイイですよね!」  
 
そういうとひまわりは笑って小走りに駆けだした。  
銃を握って照準を合わせ的確に引き金を引く時の精悍な表情…それとのギャップが凄すぎる。ひょっとするとこの娘は多重人格者ではないのか?あざみはそんなことを思った。  
 
「ちょ、ちょっと待ってよ〜〜〜」  
 
慌てて後を追う。  
この光景だけを見れば無邪気な女子高校生だ、だが内実は想像を絶する「殺し屋」であり「オペレーター」であった。  
 
 
場面は遠くユーラシア大陸の小国パルティメニスタン共和国。旧ソビエトの構成国で崩壊後はその豊富な石油資源で国家財政を支えていた。  
黒海に面しトルコ、アルメニアに近接する東西に長い地域を有する小国だが、ここを通るパイプラインは幾本にも及び、政治的には重要な鍵を握っている存在だった。  
旧共産党の幹部から大統領に就任した男は、通称「総統閣下」と称される程の独裁権力を有していた。  
といっても決して悪人ではなく、ともすれば民族間問題で不安定になりがちな内政の舵取りを、フットワークの良い独裁的政治システムを駆使して行っていると言った方が適切だった。  
かつてのチトー大統領にイメージが近い。  
 
その名をウラジミール・ゴスコフといい生粋のスラブ系ロシア人だった。  
 
ゴスコフ大統領は官邸で昼食後のコーヒーを楽しみながら僅かばかりの私人の時間をくつろいでいる。  
そこへ国家警察局の局長が訪ねてきた。  
 
「閣下…」  
 
「いやぁナターシャ…、ま、かけてくれ」  
 
大統領はソファを勧めると彼女は遠慮がちに座った。  
 
「で、娘の…、エドナの行方は…」  
 
ゴスコフが一瞬『父親』の顔を覗かせて尋ねる。とても心配そうに。  
 
「申し訳ありません…残念ながら…依然として掴めておりません…。」  
「以前申し上げた通り、誘拐ではなさそうだということは今現在犯人からの脅迫がない事で確定しつつはありますが…」  
 
「誘拐でなかったら、監視役の護衛官は一体誰に殺されたというのだね?…」  
 
「その件に関しても…現在調査中です…」  
 
内心期待はしていなかったが、やはりその想いが正しかったことを知らされるとそれはそれで無念ではある。  
定期的に匿名のメールアドレスで無事を伝えてきてはくれるが、本人のものか否かは正直疑わしかった…。  
 
「公式に発表されては…」  
 
「Het、Het…」  
 
鋭く左手の人差し指を彼女の床に突きつけるようにして、厳しい表情で否定するゴスコフ。  
 
「君は解かっていない…。そんなことをすれば、この国をつけ狙う悪人たちの思う壺だ…」  
 
彼は、万に一つでも娘が『ただ放浪しているだけ』という望みがあるのなら、そのことをワザワザ公表し世間に知られるのはまずいと考えていた。  
 
「では、モスクワのご友人に…」  
 
彼女の提案は一見常識的だが、それも非現実的だ…。ソヴィエトが崩壊し、やっと自由になった国をまた連中の支配下に戻すような真似をできるほど自分は老いぼれではない…。  
簡単な話じゃないか…娘を人質に私を辞任に追い込めばこの国はた易く内部崩壊する、何かと理由をつけてロシアが軍事介入する理由を与えるようなものだ…。  
 
「よろしい、今日はご苦労だった…。下がってくれたまえ…」  
 
国家警察局長を帰すとしばし思索を巡らせる。尊敬するユリウス・カエサルだったら、こんな時どうするだろうかと…。  
 
 
「いよいよですね〜」  
 
もんじゃ屋。豚玉チーズにソースを塗りながらひまわりが口を開いた。  
 
「うん、お互い寂しくなるよね〜」  
 
あざみは素直に本心を吐露した。  
 
「あ、でもぉ、メールのやり取りぐらいは、しましょうね、あざみちゃん」  
 
ひまわりは丁寧にコテを使ってお好み焼きを8等分する。  
 
「そんな暇あるかなぁ〜、それに、ホームスティってわけじゃないからメールすら打てないと思うよ。秘密厳守だからね」  
「そっか〜、それもそうだよね〜」  
 
聊か考えが浅かった、確かに行先は各国の防衛を担う所だ…派遣社員が派遣先企業に行くわけではない。ちょっぴり肩を落とすひまわりだった。  
 
「でもさ、秋になるころには帰ってこられるし、『今生の別れ』ってわけでもないから…」  
 
笑って見せる。しかし(だったら何でこんなに寂しいのあざみは?)そう内心自問する。  
 
「それでさ、ひまわり…、ハヤト先生とは…どうするの?」  
「どうって?何がです?」  
 
「何がって…、『契り』とか…いろいろ…」  
「あぁ、そうでした…全然考えていませんでした」  
「バカね…、それでも仕えてるつもりなの?」  
「アタシ達はくノ一なんだよ〜、これから先世界中を飛び回るし『結婚』なんかできないの…、だから、彼の事もちゃんと考えなきゃダメじゃないさぁ〜」  
 
自分の想いとは裏腹に、呑気なひまわりを半ば叱るような気持ちで言う。  
 
「子供じゃないんだから…それに彼だって男よ?男の『生理機能』のことだって考えてあげないと…」  
「わかっています…」  
 
急に姿勢を正してキリッとした表情でひまわりが答えた。  
 
「だからぁ〜私だって涙を飲んで〜武蔵坊先生や〜筆の子先生がぁ〜その、ハヤト殿のお相手をするのを見逃してあげているんです!」  
 
「はぁ?」  
 
あざみは一瞬目眩がした。あの巨根を楽しんでる女が他にもいたとは…。  
それにしてもなんちゅう男だ…。  
 
「な、な、なによそれぇ?」  
「ハヤト殿は…自分が私にふさわしい男になるまで、私とエッチしないって…そう宣言したんで〜」  
 
「で、じゃあその間〜他の女の相手をするのは良いっていうのぉ?」  
「はい…だって、恋愛と性的欲求は別ですから…」  
 
呆れてモノが言えない…。  
 
「それ?世間では『二股』とか、『浮気』とかいうんじゃないの?」  
「そうなんですかね?」  
 
ひまわりは何だかわからないが絶対的な自信があるのだろうか?全く意に介さない様子だった。  
 
「それに、ハヤト殿は『自分から誘ったわけじゃない!勝手に向こうからやってくるから拒めなかった』って言ってました」  
「忍びの者たち第17話『据え膳食わぬは男の名折れ』でも電蔵さんが同じことを…」  
 
ニコリと笑って言う。  
 
(確かにそうだワ…)あざみも内心で相槌を打つ。いやいやそんなこと考えてる場合じゃない。  
 
「で、でもさぁ、ひまわり…は、その、…したくな い の?」  
 
ひまわりは数秒間天井を見上げて考える…。  
 
「そういうの、まだ…わかりません、まだエッチしたことがないんで…」  
 
(あちゃ〜〜〜〜じゃぁバージンのまま海外研修へ?信じらんない〜〜〜)  
驚きの連続だったが、ハヤトがひまわり以外の女を抱くことに彼女がそれほどの嫌悪感を示さないことに少し安堵した。  
 
「あざみちゃんは、その〜〜〜どうなんですか?」  
 
(げ!)  
 
「あ、いや〜正直〜いろいろと…苦労してるよ…恋愛御法度…だからね」  
 
苦笑いして答えるが、ふと、思い切って言ってみようと続ける…  
 
「今度〜ハヤト先生借りちゃおうかな〜」  
 
一瞬、ひまわりの顔が凍りつくように感じた。  
 
「ダメです!もうこれ以上ハヤト殿を他のヒトには貸せません!」  
「じょ、冗談だってば〜」  
 
「でも〜あざみちゃんがハヤト殿と…その〜エッチしたいって思うってことはぁ〜」  
「だっ、だから冗談だってば〜もう〜」  
 
あざみは心中を見透かされまいと抵抗するが耳や頬が熱くなる。ひまわりはどう思ったろうか?  
 
「もし、もしもの話ですけど…私に万が一のことがあったら…あざみちゃんに…その〜ハヤト殿をお願いしてもいいですか?」  
 
ひまわりの突然の申し出に、豚玉を喉に詰めかける…。  
 
「ちょ、ちょっと待ってよ〜」  
 
あざみはゴクゴクと水を流し込んでから続けた  
 
「アンタ急に何言うのよぉ〜〜〜」  
「私たち…くノ一ですよね? 任務中に命を落とすことも考えに入れておかないと…だから」  
「大丈夫だって〜、今回の研修でそんなヤバイ任務はないから〜」  
「そうでしょうか?でもぉ〜」  
 
「第一、失礼だわ〜このあたしに『2号』さんになれって言うのぉ?」  
「そういう意味では…」  
 
暫く考え、あざみはコテを置くと少し姿勢を正して静かに話しだした。  
 
「アタシはぁ〜 もう一生独身って決めてるの…誰かを好きになってもどうにもならないんだもん…」  
 
少し表情に影が窺えた。  
 
「あざみちゃん…」  
 
「ときどき、任務中に知り合ったイイ男と、つかの間ベッドを供にできたら…そんなので十分かなぁ〜 そんな風に思ってんのよ…」  
「それに、その方がカッコよくない?」  
 
これは本心…というより左脳が導き出した結論だった。真のくノ一なら大同小異であれ、みんなそう思う。一方で激しく抵抗する右脳の『感情』を圧し殺して。  
 
「さ、深刻な話はこれくらいにしてぇ〜今日は食べようよ! 向こうに行ったらもうお好み焼き食べられないんだしさ」  
 
そういうとまた元の笑顔が美しいあざみに戻った。  
 
「マンサクさぁ〜ん、ここ海鮮ミックス追加ね〜!」  
 
霞の里の宵の口はまだまだ先だった。  
 
 
男性教員寮。ハヤトの自室。  
筆の子の身体で性欲を解放したハヤトはその余韻もさめないうちに彼女を追い返した。  
彼女は不平を言ったが、どうでもよかった。それだけ大事な『お客様』が訪れることになっていた。  
 
シャワーを浴び、汗と筆の子の匂いを落としてる最中、あざみは音もなく部屋に侵入した。いつもの忍者服ではなく、臍のあたりまで前が切れ込んだデニムのマイクロジャンパースカートに白のブラウスといった平服だった。  
ハヤトはベッドに腰かけたあざみを見つける…。  
 
「そうやって音もなく忍びこんで、鮮やかに人殺しをやってのけるんだな…」  
 
ハヤトももう驚かなくなっていた。  
 
「そういう任務は…もう少し先よ…」  
 
あざみは不敵に笑うとベッドから立ち上がり、ジャンパースカートの肩ひもを落とす。左肩、そして右肩…。  
すとんと落ちたスカートから脚を抜くとハヤトに歩み寄る…。  
 
ブラウスのジッパーをゆっくり下げ、それを脱ぐと白いレース地のブラジャーとショーツだけの姿になった。  
上目使いにハヤトを見上げると悪戯っぽい笑いを浮かべて言う…  
 
「ランチの続きをしよぉ…」  
 
この半日であざみはすっかり大人の女に成長した。  
最初に『来る』と言ったときはこうするつもりはこれっぽちもなかったが、夕刻のひまわりとの話で考えが変わったのだ…。  
 
好きな男が居るなら、抱かれるだけで良い…そういう割り切りができるようになってしまった。  
 
ハヤトはあざみの見事なまでのプロポーションを見せつけられて劣情を抑制することができなくなった。先ほど筆の子の胎内で暴れたばかりだというのに彼の欲望は再び力を漲らせていく…。  
 
あざみは立ち尽くすハヤトの前に膝まづくと彼の腰に巻かれたバスタオルを外す。  
現れた『未だ道半ば』状態のペニスを両手で支えるとそれを口に含んだ。  
舌で味わう数か月振りの感触だった。  
あざみが舌で先端を転がすようにすると、それはみるみる大きさを増していった。  
 
「もう、約束は忘れたのか?」  
 
あざみは返事もせずハヤトの怒張を頬張り続けている。  
ハヤトはあざみの頭を荒々しく掴むと、自分の顔に近づけた。  
 
「始めるなら…ちゃんとキスからにしよう…」  
 
そう言って唇を重ねる。  
あざみもハヤトの背中に腕を回して応じた。激しく抱擁し合うとそのままベッドに転げ落ちる。  
 
荒々しくブラジャーをはぎ取り、ショーツを脱がしにかかったとき掠れ声であざみが言う…。  
 
「今日は危ないの…これつけてね…」  
 
ハヤトは分かったとばかり、彼女が事前に用意していたと思しき小箱を手に取った。  
クンニリングスで場繋ぎをしながら巧みにそれを装着する。  
ことセックスに関しては手際が良いハヤトだった。  
 
充分に潤いを与えると、ハヤトはあざみの秘華にペニスを突きたてた。ハヤトはスレンダーなあざみの身体に覆いかぶさるようにしてのしかかるとまた唇を求めた。大きく開いた彼女の両足がハヤトの尻の上で交差する。  
 
「ああぁんっ…」  
 
ハヤトの怒張があざみの秘肉を割り、深々と侵入すると彼女は歓喜の声を上げる。  
 
「ハヤトせんせっ…」  
 
やがてベットの軋む音がリズミカルに繰り返され、二人は激しく恥骨をぶつけ合った。あざみは何度も何度も達するとハヤトが射精するころには失神しかかっていた。  
 
久しぶりに互いの愛に目覚めた二人は翌朝近くまで繰り返し繰り返し求めあった。  
 
 
「い、今…何時?」  
 
心地よいけだるさを何とか払拭し、あざみはハヤトに問う。  
 
「5:18…」  
 
ハヤトはサイドテーブルに置かれたSWATCHを掴み見て応える。  
 
「いっけな〜い、長居しすぎたわ〜」  
 
当り前である、逝っては眠り、起きては求め の繰り返しで6個入りのコンドームを全て使い果たしていたのだから。  
 
「帰るのか?」  
「だって…同伴通勤する気?」  
 
あざみは笑いながら からかう様に言うと、ハヤトの厚い胸の上に顔を擦りつける。  
 
「大好きよ〜」  
「なんだ、昼間の返事か? 今頃…」  
「違うよ…、ハヤトも相当の『ワル』だって判ったし…アタシね、割り切ることにしたんだ…」  
 
「お、俺が?ワル?」  
「ひまわりから聞いたの…ミサ先生や筆の子先生のこと…学園で一、二のセクシー系の同僚をセフレにしてて…、一方で『本命』は大事に取っておいて…」  
「そんなことする奴がワルじゃなかったら一体何なのよ?」  
 
(げぇ、話したのか〜)  
 
「い、いやアレは〜、持ちつ持たれつってことで…『恋愛感情』とかぁ、そんなのは無いから〜」  
 
苦しい言い訳だった。  
 
「だから、アタシのこと愛してなくても抱けちゃうんだよねぇ?…」  
(い、いや、そんなことは…)  
「もういいんだ、たまにこうやって可愛がってくれるんなら…、何もないよりマシかな?って、そう思うことにしたの…」  
「そ、それって…悲しくないか?」  
 
お前が言うか?  
 
「アタシ『くノ一』なんだよ? もともと恋愛系はどう転んだって『悲劇』で終わる運命なの…」  
 
あざみはブラジャーをつけながら、少し拗ねたような口調で言った。  
 
「もし俺が…お前に惚れてるって言ったら?」  
「そんなバレバレな嘘…だれも信じないよ…」  
 
脱ぎ散らかした衣類からショーツを探しながら笑って言う。そんなこと言ってくれるだけでも彼女は嬉しかったが…  
 
「無理しなくていいよ、アタシのココが気に入ってるだけでしょ?」  
 
そう言って股を指差す。すっかりスレっからしを気取っていた。  
 
「い、いや…」  
 
確かにそれもあるが、あざみには筆の子やミサには感じてない『気持ち』を抱いてるのは事実だ、だが伝える術が分らなかった。  
 
「図星? それにね 誰かが言ってたけど『身体が合い過ぎる』のは良くないって」  
 
ハヤトには理解できなかったが、何となくそんな気はする。  
あざみは丁寧に尻の肉をその中に整えるようにショーツを穿くと、ブラウスに袖を通しながら続けた。  
 
「何でひまわり…抱いてあげないの?」  
「理由は聞いてるんだろ?」  
「バッカみたい…、今のハヤトが ひまわりの成長になんか追いつけるわけないじゃないのよ…」  
 
的確に痛いところを突いてきた。  
ひまわりは、いや、ひまわりだけではない、あざみもしきみも、この3年間でハヤトができないことを次から次へとマスターしていっている。  
 
(俺は何ができる?借金は減らないし自分ひとり喰うので精一杯だ…)  
 
そう考えると情けない顔になった…。  
 
「何よその顔〜、少しは言い返しなさいよ〜」  
 
あざみも言い過ぎたことを後悔した、でも虚勢を張って反論するような男じゃないって所がハヤトの「良さ」なのも理解している。  
あえて煽ってみただけだった。  
それに、彼が毎朝早くから、密かに武智の特訓を受けているのも知っていた。彼なりに『努力』はしているのだ。  
 
「いや、お前の言うとおりだ…情けないが事実だ」  
「じゃぁどうするの?ひまわり一生バージンで終わるわけ?」  
「そんなんだったらアタシ〜小紫でもけしかけちゃうワよ?、マジ可哀そうよ、ひまわり」  
 
小紫がこの2年でかなり背も伸び着実にイケメン化しつつあるのは周知の事実だった。  
 
「そ、そうだな…考えないとな…」  
「考えるって、どう?」  
 
返事ができない。  
 
「じゃ、アタシ帰るね…また今晩来るから…」  
「ええ、ちょ、ちょっと待て、今夜もか?」  
 
驚いたように聞く。  
 
「そうよ、明後日には出発だもん…、ヤリ貯めしておかないとね…」  
 
笑ってそういうとあざみは『シュタっ』と姿を消した。  
 
「コ、コンドーム買いに行かないと…」  
 
なけなしの給料からではあれ、そのくらい負担するのは当たり前だろうが…。  
 

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