最終幕 運命(さだめ)  
 
第一場 
 
しきみは自室の勉強机に突っ伏し、先ほどからジ〜〜〜ッとPCのモニターに映し出された化学式を睨んでる…。  
 
「あ〜やっぱりテストしないでぶっつけ本番はまずかったのね…」  
 
そう、独り語散ると、組まれた腕の上で頭を振った…。  
秘薬『棄嫌歓来』を処方するとき、記憶の消去に寄与する成分を少なめに配合したことがまずかったことに気がついたからであった…。  
しかしながら、事後にレポートを作成しなければならない都合上、その判断は決して間違っていなかったわけだが…。  
こうなるとその決断に後悔する。  
だが、今回の場合ぶっつけ本番になってしまうのは仕方がない筈だった。  
 
しきみはハヤト…というより、『ハヤトのペニス』が忘れられない…。  
 
(感情的な想いは消去し、論理的な記憶だけが残るような薬があればいいのに…)  
そんな薬は当分実現しそうにない…。  
 
そんな愚にもつかぬ想いを巡らせてると何やら気配を察した…  
 
「こんばんは〜」  
 
ドアも開けずにアザミが室内に侵入してきた…。背中にバックパックを下げていた。  
何が入ってるかは歴然だった。  
彼女はベッドサイドにそれを下ろすと悪戯っぽい表情で言った。  
 
「待ったぁ? ボクのかわいこちゃ〜ん」  
 
笑みを返すしきみ…。  
 
女子校の制服を着た美形のアザミが『ボク』などという一人称を使うとワケもなく萌えてしまう輩も多いだろう…。しきみは別の意味でその彼女の『演出』に興奮した…。  
 
「どうしたの?…そんなとこじゃ〜何もできないよ…」  
 
しきみは『あぁ!』とばかり、椅子から立ち上がりアザミの方に歩み寄った…。  
アザミはしきみの肩を抱くとそっと引き寄せる…。  
 
「怖がらないで〜」彼女はそう言うとしきみのメガネを丁寧に外す…。  
 
「前から感じてたけど〜しきみの素顔…っとっても色っぽいよ…」  
 
しきみは先ほどからうるんだ目でアザミを見つめてる…  
アザミの顔をこんなに近くで見ることなんて初めてだから…  
(しきみってば宝塚女優みたい…こんなにハンサムだったかしら)そんな風に思いながら彼女は眼を閉じる…。  
 
二人の唇が重なる…。最初は軽く…、僅かに交差させるとアザミは静かに、そ〜っと舌でそれを抉じ開ける…。  
互いの舌で押したり引いたりを繰り返し、やがて互いの興奮が高まるとそれを激しく吸い合う様になる。  
息遣いが荒くなる…。しきみは既に下半身に熱い火照りを覚えた…。  
 
アザミも気持ちの高ぶりが隠せないよ、きつく しきみを抱きしめると、彼女の耳や項を舌で責め始めた…。  
 
「ああ、しきみ…奇麗だよ…たまんない…」  
 
アザミは荒々しい手つきでしきみの制服のトップスをたくしあげ、左腕を潜り込ませるとブラジャーを外しにかかった(言うまでもないがアザミは左利きだ…)。  
まるで男にされているような感覚で、興奮が高まる…しきみは声が出ない…。  
 
白い乳房を露わにすると、アザミは激しい息遣いでそれを掴んで貪った…。  
 
「ああぁ いゃん…」  
 
まるで猫がミルクを飲むかのように、彼女の舌は高回転でしきみの乳首を掬いまくる…。  
その攻撃に耐えられなくなったしきみはヘナヘナと腰の力が抜け、バランスが崩れた二人はドサッとそのままベッドに転げ落ちた。  
 
アザミは横たわるしきみの腰のあたりにぺたりと尻をつけて座ると、しきみの胸を愛撫しながら自分のスカートをたくしあげ、ショーツに右手を突っ込んだ…、  
 
「ぅんっ!」っと声にならない程度に一瞬唸って頭を振ると、左手でしきみのスカートのホックを外し、スカートと腹の間に隙間を設けそこへ其のまま手を差し込んだ。  
下着越しに微かな茂みの感触を楽しむと、さらにその『向こう側』へと指を進める…。  
そうしながらも自身の右手はアザミの最も敏感な部分を弄り快感を全身に送っていた…。  
 
しきみはふと薄目を開け、その仕草を見つけるとアザミの太ももに手を置き意思を伝達する…。  
 
「…はぁ、はぁ…、し、しきみ は、まだ何もしなくていいよ…」  
 
アザミが掠れがちな声で言い笑みを投げる。  
彼女の指は、既にしきみのクレバスに届いており、そのフチの凹凸を確かめるように何度も何度もなぞっていた…。  
 
「ア、アザミ早く、来てぇ…」呻くように言うと、しきみは彼女の手を股に挟むような格好で右ひざを立て、腰をひねる…。  
 
返事もせず、アザミは股間の愛撫のテンポを増す…。  
下着の上からの愛撫は、それ自身乾いているからこそ、滑らかに指を滑らせることが可能なため効果が得られるが、しきみの泉は既にその意味を失わせるに十分な湿り気を与え始めている。  
それを察知すると、アザミの指はショーツの脇から中にもぐりこみ、ウネウネとまるで蜘蛛が這うかのような指遣いでしきみの花弁を弄び始めた…。  
 
「…どう?…気持ちいでしょう…」  
その筈だ、同性の行う愛撫に間違いがある筈がない…。  
微かではあるが、荒い息遣いと、「チャクッ、クチュッ」っといった音だけが隠微に響き渡る。  
 
「しきみ、だから…」  
「ダメダメ、ここで入れたって詰まんないよ…もっと楽しもう…」  
「で、でもぉ…」しきみは眉を寄せて拗ねる…。  
 
しきみはまだ一度しか体験がない…それしか知らなければそれだけを欲しがる…  
だからアザミはもっと他にも美味しいものを食べよう〜といっているんだが、しきみは我慢できない。  
ベッドサイドに転がってるバックパックに手を突っ込むと、アザミが持ってきたペニスバンドのディルドを引っ張りだした…。  
 
「アハー…しきみってば〜大胆〜」  
 
それを面白がって茶化すアザミ…。左手の指先はグショグショになったしきみの肉壺を掻きまわし続けている。微かに指先の皮膚がふやけてきていた。  
『ジュップ!ポップッ!』  
堪らぬしきみはディルドを口に入れる…無意味な行為に見えたがこれは紛れもなく『代理行為』として成立するものだった。  
 
皮膚に浮かんだ血管一本一本までリアルに再現されたその『張形』は薄明かりの部屋で見れば本物と見紛うばかりの仕上がりであり、  
それを少女が美しい顔を歪めてフェラチオしている絵を見せられれば誰でも興奮を覚えるだろう…アザミとて例外ではない。  
 
しきみは下腹部から快感を送られ続けながらも、執拗に この疑似ペニスに愛情を注ぎこんだ…。  
 
(ああ、愛おしい…、コレがとても愛おしいワ…)  
 
そんな想いだけが脳内を満たす…。  
他のことなどどうでもいい…早く誰か私にブチ込んでぇ〜。なんて乱暴な言葉…、心の叫びでしか使えない…  
 
「ぁ…あ…ふ〜ぅんっ…」  
 
しきみが悶え狂う中、アザミは先に軽く逝ってしまった…  
 
微かに左手の動きがフリーズしたことでしきみがそれに気づく…  
 
「ご、ごめ〜ん…、なんか久しぶりだったんで…」ペロリと舌をだす。  
 
「それに、しきみの顔〜物凄く色っぽいんだもん〜感じた〜」  
 
しきみはいいから早く〜といった顔でアザミを見つめる…  
アザミはショーツとスカートを脱ぐと、しきみの口からそっとペニスバンドを奪い、  
その裏側に突出している衝撃吸収型ゴムで覆われた突起が、自分のベストポジションに来るように丁寧に装着した。  
そしてしきみの胸のあたりにまたがる…  
 
「どう?男みたい?…」  
「…う…うん…凄いエッチな眺め…」  
 
実際そうだろう、168cm程度の華奢な美少年に丸太のようなペニスがぶら下がっていたとしよう…そんな絵は世界中の「ショタコン」に絶賛される筈だ…。  
(いや、どうだろう?)  
 
「舐めて…」  
 
アザミが言うよりも早く、しきみはそれを口に含み、音を立てながら吸いまくってる。  
行為の際伝わる振動は、的確にアザミの局部を刺激している…。  
先ほど『カル逝き』したアザミには結構な刺激だった。  
 
「あ〜〜感じるよ〜しきみちゃ〜ん」  
 
アザミも自分の良いように腰を使い始める…。  
一通り楽しむと、アザミは態勢を変え、しきみの着衣を全て取り去った。  
 
「本物と違うからね…ちょっと準備が要るんだ…」  
そう言うとアザミはしきみの両腿を割り、すっかり様子の変わってしまった彼女の肉壺を眼にした。  
普段はバイ菌や異物の侵入を防ぐためにしっかりと閉じる構造の器官も、これから繁殖のための行為に及ばんという状況に合わせ、ぱっくりと開いてそのピンク色の入り口をのぞかせていた…。  
彼女はそこへそっと舌を這わせる。  
一瞬大きく眼を開いて衝撃を受け取ったしきみだが、その表情は数秒を待たず陶酔の表情に変わっていく…。  
 
「あぁん、あぁん、あぁん、あぁん、あぁん、あぁん、あぁん、あぁん、」  
 
アザミの舌使いにイチイチ声を上げるしきみだったが、正直にいえばハヤトのそれを上回る気持ちよさだった…。  
ハヤトは舌先でクリトリスを包み込むような圧迫型だったが、アザミはおそらく舌先を極端に尖らせることができる体質らしく、ピンポイントで攻撃する擽り型だった…。  
これでは『イク』ことは出来ないだろうが、しきみにはこちらの快感の方が心地よかった…。  
さらなる快感で泉が湧きたつ…このぐらい濡らせてみないことには、軟化型合成樹脂製のペニスだと激しく摩擦ができない。  
 
「さぁて、お待たせしました〜」  
 
そう言うとアザミは自分の『仮のモノ』をしきみの玉門にあてがい、その雌汁を先端にまぶすように付けながら、彼女の陰核のまわりをグルグルグルグルと捏ねる。  
 
「しきみお譲ちゃ〜〜ん、どう?気持ちいい?…気持ちよかったらちゃんと口に出して言うんだよ〜〜〜」  
 
『お前はエロオヤジか?』そう突っ込みたくなるようなアザミの振る舞いに、可笑しさがこみ上げてくる。  
 
「はやく〜〜〜〜」  
「入れて〜〜〜イレテ、イレテイレテイレテイレテイレテイレテ〜」  
 
もう、クラス委員とか、学年首席とかのいつものしきみはそこにいなかった…。  
 
「でへへへぇ〜〜〜〜、何、何を入れて欲しいか ちゃんと言ってくれないと〜  
アタシどうしていいか判んないな〜」  
 
もう、完全にオヤヂである…。  
普段は何事につけ『仕切り役』は しきみだったが、ベッドの中ではオレ様の出番ヨ!とばかり微妙に立ち位置が入れ換わったことを楽しんでいるアザミだった。  
 
「アザミ!いい加減にしてぇ〜〜」  
「やだよ…言わないと入れてやんない〜〜〜」  
「も〜〜〜」  
 
ウリウリどうすんだ、どうすんだ、とアザミはさらにこねくり回す…。  
 
「その…オチ○チンみたいなのを…入れてください…(きゃ恥ずかしい)」  
「だめ『みたい』余計…ちゃんと丁寧に『ご主人様の、その逞しいチ○ポコを私のオ○ン○に入れてください』っていうの!」  
 
安物のAVの見過ぎである…。  
 
「アザミ〜〜〜」  
 
一瞬だけ普段のしきみが顔をだす…が、すぐにグリグリされると腰が蕩けそうになり、しきみは観念した…。  
 
「ご、ご主人様…の…、その逞しくそそり起った見事なポ○チ○を、この下等動物の淫らに濡れそぼった腐れマ○コにブチ込んでください…」  
 
かなり細部が違ったが、出来はアザミのリクエストした内容より、洗練されかつ秀逸だった…、流石は学年首席だけのことはある。  
 
「よ、よし、よく云った!」  
 
アザミは早速グチョグチョと、まるで煮立った『モツ煮』のようにドロドロになったしきみの秘貝を、先端で分け入る様にし、雁首の入るところまで没入させた。  
 
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜んっ」  
 
しきみは(これよ!この感触!)そう叫びそうになるのを堪えてディルドを受け入れた…。  
思えばしきみは「生の陰茎の感触」を知らない…。  
ハヤトのモノはあくまでもコンドーム越しだったからだ…。  
 
「気、気持ちいい?」  
 
そう言うとアザミはより深く挿入する…。もちろん先端に神経があるわけではないから、アザミには中の感触を楽しんだり、臨界点を感じたりすることは叶わぬが、根元の圧迫間でどこが限界かはおおよその見当がつく…。  
何度か抜き差しし、ストローク可能な範囲としきみがより反応を高める部位のデータを蓄積したアザミは、徐々に腰の回転速度を高めていった。  
その運動は、しきみの感じるものとは異質であるがアザミの性器にも快感を与えている。  
 
アザミは暫く上体を立てて抽送をしていたが、やがて上体をしきみの方に重ね、肘で支えるようにして脇の下から手を差し込み彼女を抱いた。  
 
小ぶりだったアザミの乳房も引力の手を借りて聊か目立つようになり、当然のように存立した乳首が時々しきみのそれにぶつかると、背筋に電気が走る…。  
 
『グッポ、ジュッポ、グッポ、ジュポ』  
というしきみの股間が発する淫音と、ベッドがきしむ  
『ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、』という二つの音だけがリズミカルに響き渡る…。  
 
「はぁ、はぁ、いい?、いいの?しきみ…」  
 
快感に酔いながらも気遣ってアザミが問えばうんうんとばかり頷いて見せるしきみ…。  
アザミの細い体にはしきみの腕がしっかりと巻きついて離さない…。  
大きく開かれた両足は、まるでカエルを裏返したような形になり、膝から下はアザミの動きに連動して、ただ、ただブランブランと振り回されているだけだった。  
間にディルドを介してお互いの恥骨をぶつけ合う二人…。  
 
アザミは自分があと数分もしないで達するだろうなと…そう思うとラーゲの変更をしたい衝動に駆られたが、しきみがこれだけ感じていて、しかもアザミの体をしっかり抱きしめてるので、このままフィニッシュすることにした…。  
(まァいいよね…いずれまたチャンスはある…)  
そう思うと、ベルトに装着された「疑似射精装置」のスイッチボックスを手にし、収納されたリモコンのリード線を引っ張ると、また再びしきみの首の下にまわす…。  
 
しきみの胎内では、精巧に作られた人工雁首が、退く度にめくれ上がりながら膣の『引っ掛かるところ』を掻き毟る…。  
そうして蓄積された快感の波はほぼ臨界点に達しつつあり、彼女のバルトリン氏腺液の放出は止め処が無く、あふれ出たそれらは肛門のあたりで白く泡立ちながら毀れ、既にシーツに染みを作るまでに達していた。  
 
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あ〜〜〜〜〜っ!」  
「いっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 くっっぅ〜〜〜」  
 
大きく声を漏らすと、アザミが慌てて口でそれをふさぎ、その時の腰のひねりが留めを指す形でアザミ自身も大きく腰を震わす。自然に「疑似射精装置」のスイッチも押してしまった。  
瞬間、人工的とは思えない自然なさざ波を伴ってしきみは胎内に熱い流動を感じる。  
(あぁ、なんて気持ちいいんだろう…)  
 
疑似とはいえ初めての「中だし」である。温かい液体が、子宮と膣壁の作る「死角」にでさえ毛細管現象を持ち出すまでもなく浸み込みわたり、ペニスが行き渡らず相手にされなかった残りの感覚細胞に、まるで感謝でもするかのごとく快楽を伝える…。  
妊娠する危険を顧みず、それでもなお女性の殆どが「中出し」を好む理由はそこにあった…。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」  
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、」  
 
呼吸が整うまで二人は体を重ねたままベッドに突っ伏したままでいた。  
 
アザミは汗びっしょりだ、男役もつらい…。  
 
壁の方を向いていた彼女は枕の上でくるりとしきみの方を見やると  
脇下の向こうに、腕を額に当てて眼を閉じ、事後感に浸ってる彼女の顔が見えた…。  
 
「どう?…」  
「・・・・わ、悪くない…」  
 
そう言ってしきみは横目でアザミを見つめる…。口元は笑みを浮かべていた…。  
 
 
第二場 
 
同じころ、夜の闇に包まれて不気味な佇まいを見せる旧校舎前。  
下手な化粧で「チンドン屋」のような顔になってしまったひまわりが、キョロキョロと周りを伺いながら通用口の扉の暗証番号を押す。  
もちろん武智から聞いた清掃業者が使用するコードだ…。  
 
ここさえ超えれば後は宿直室に直行するだけだから簡単だった。  
約束の時間は30分も過ぎていた…。  
 
ひまわりは言いつけどおり、忍者服から、武智の用意したオレンジイエローのニットのワンピースに着替えた。  
サイズが合ってない…。ひざ下3cmくらいだし、ピタッとしている…。  
そうひまわりには思えたが、彼女に武智の趣味は判らなかったのだろう…。  
これまたリクエストにあったストレートロングのヘアピースを被ると、それらを入れていた鞄を木陰に隠した。  
 
コンコンっとドアをノックして彼が出るのを待っていたが一向に開く気配がない…。  
窓から中を除くと、しっかりハヤトに変身していた武智が布団の中で横になっているのが見えた。  
 
「いっけな〜い、遅刻したせいでぇ先生…寝てしまったんだわ〜」  
 
そう思うと、泣きそうになりながらしゃがみ込んでしまった。  
 
「そうだ、こういう時こそ『くノ一の腕』が試されるんじゃない!」  
「『忍びの者たち』第19作:『据え膳食わぬは男の名折れ』でもこのような場面で電蔵さんが…」  
 
そう言うと、ひまわりは勝手口に回り、ヘヤピンで鍵穴を抉じ開けようとする…。  
 
「あれ?」  
 
隙間から見える筈の鍵のロッドが出ていないことを見てとる。  
 
「不用心ですよ…お勝手のカギが開いています…」  
 
そう独り語散て中に入った…。  
 
ひまわりは台所の照明を点けると、廊下に出て寝室に向かった。  
 
「へー結構中は奇麗なんですね…」  
 
これからしようとすることを考えればなんか余裕の発言だ…。  
和室とリビングを隔てている襖を開けると、微かな鼾をかいて武智が…  
というかどこから見ても万里小路ハヤトが眠っていた…。  
 
最初はこちらを向いていたが「うう〜ん」と唸ると窓の方に寝返りを打った。  
 
「センセ…」っと言いかけて、武智との約束を思い出し、慌てて口を塞ぐ…。  
 
「ハ、ハヤト殿…」  
 
目覚める様子がない…。  
 
「ハヤト殿〜!日向向日葵、只今操を捧げに参上しました〜〜〜〜」「た〜〜」「た〜」  
 
今度は山にコダマするほどの大声で言った。  
 
「ぬなぁ〜〜〜〜〜? 何だ何だ何だぁぁぁぁぁぁ〜」  
 
跳び起きたハヤト。凄い…リアクションまでそっくりだ、武智先生って本当にすごい…。  
 
「あ〜〜〜〜〜〜〜っ、ひ、ひ、ひ、ひまわり? 何だお前?何してんだ?仮装パーティか?」  
 
マジで凄い…、まるで本人だわ…自分で指示しておきながら、本当に何も知らなかったような演技…。  
 
「ハ、ハヤト殿…、遅くなって大変申し訳ありませんでした…、その、お化粧に時間がかかり過ぎてしまってぇ」  
 
ひまわりは正座すると深々と頭を下げて謝罪する。  
 
「な、何を言ってんだよ遅刻とかって…俺は〜」  
 
そこまで言うと、正座したひまわりの丸見えになってる真紅の下着に目線を奪われる…。  
 
「そ、そ、それに何だそのフィリピン・パブみたいな恰好はぁぁ」  
 
言いながら、目線はさっきから1mmも動いていない…。  
 
なんか様子が違うな〜と思いながらも…ひまわりは、ハヤトに成り切ってる武智を傷つけまいと即興で合わせることにした。  
 
「こ、これは、秘密を握ったエロ工作員を誑かし、見事に毒牙にかけ絡め取って任務を果たすように派遣された女スパイの格好です!」  
「それ、おまえ絶対趣味が悪いっての…俺の母親が20代の頃流行ってた恰好だぞ?」  
「でも〜」  
「しかもその『エロ工作員』って何だよ!」  
 
ひまわりはハヤトを指差した。  
 
「んがぇええええええぇ〜〜〜〜っ!  お、俺かぁ〜〜〜〜」  
 
「ですからぁ、始めますよ!」  
 
ひまわりはキッとハヤトを見つめると、膝立ちになってワンピースを脱ぎ始めた。  
 
「んん、ちょ、ん、脱ぎにくいなぁ」  
 
普通は大きく開いた背中のクビレを利用して肩から脱げば簡単なのに、ひまわりはTシャツと同じ方法で脱ぎにかかったから上手くいかない…。  
腰のあたりでストリングに繋がる部分だけが黒く彩色された、小さなフリルのついた真っ赤なシルクのショーツが、艶めかしくハヤトの眼の前で踊っている…。  
 
「お、おぉ〜い、ひまわり、一体何をやってんだよぉ〜〜〜」  
 
眼はしっかりひまわりの股の膨らみを追いかけている…。  
 
「なこと言ってないで〜〜〜ぇ、ハヤト殿も手伝ってくださぁぁい!」  
 
シチュエーション無視でヘルプを要求するひまわり。中で鬘が脱げかかって収拾のつかない状態になっている…。  
 
「ホントにも〜何なんだよ〜」  
 
ハヤトは跳び起きると仕方なく詰め寄った。  
 
「とにかく、落ち着けひまわり…まず袖から抜いてみろ…」  
 
一旦頭をだして、肩をすぼめて右、左と袖から腕を抜いた…。  
オレンジ色のワンピースがクシャクシャになって、まるで腹巻のようになっていた。  
露出した部分は真赤なブラとショーツに薄橙色のストッキングがガータベルトのクリップに吊るされている…。  
筆舌に尽くし難い異様さを呈していた。  
 
「プッ……、うっ ひゃひゃひゃひゃ 」  
堪え切れず爆笑するハヤト。  
 
「何 はぁ〜んだぁ、そ の 格 好 はぁぁぁ〜 うひゃ、うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ…」  
 
「酷い…、あ、あんまり…よ…、酷い…」  
ひまわりはそのままヘナヘナと崩れ落ち、ペタンと尻をついた。股は丸見えである。  
 
都会で暮らし、当たり前のように婦人向けファッション雑誌に眼を通す、標準的な女子学生ならば、武智に渡された妙なマテリアルであっても、それなりに微調整を入れて見られるようにして来ただろう…。  
だが、ひまわりにはそこまで要求するのは少し荷が勝ち過ぎていた…武智の思惑は見事に逆の目に出てしまった。  
 
「グズっ…」  
 
泣きだすひまわり…。  
 
「うひゃ・・・・ってか、ひまわり…」  
「ぜっがぐ、がんばっで、おしゃでじでぎたのび…」  
 
大げさに引いたアイラインとマスカラの所為で眼の周りがパンダになっている…。  
 
「う、ぁ、あああ、す、すまん!笑い過ぎた…」  
「ぜ、ぜんぜいに…いばれだどうでぃでぃび…、しでぎだんでずよ…そでをぉ…」  
 
「ってか、俺全然関係ないだろう?…おれは、た、武智先生が〜夜の街に〜内緒で繰り出すからってんで代わりを頼まれたんだよ〜」  
 
「びぇ?」  
 
「いや、だから〜留守番頼まれたんだ…」  
 
「だげじぜんぜびど へんぞぶでば だいどでずが?」  
 
解読が面倒くせぇから先ずは鼻をかめとばかり、ティッシュを渡すハヤト。  
 
「おれは本物だよ、ほれ〜」そう言って首のアザを見せる。  
 
ハヤトの手裏剣模様は真っ直ぐな十字形、もし武智だとするならば、それは少しカギ十字のように曲がっていたはずだった…。  
 
「うぁぁぁぁぁ!ホ、ホンモノ〜〜〜〜〜〜!」  
 
「ピ〜〜〜〜ヒュ〜〜〜〜〜〜っ」  
 
ヤカンがお湯を沸騰させたことを告げると、ハヤトはコックをひねって火を消す。  
ココアの粉を入れてある二つのマグカップに湯を注ぎこみながら…  
 
「そうか〜…それで武智先生は一杯喰わしたってことだな…」  
「・・・・・・・」  
 
ひまわりはハヤトのカッターシャツを着て体育座りしてうつむいている…。  
 
「からかわれたんだな…、あんまり人をバカにした要求だったんでさ…」  
 
「どうしてですか〜〜〜〜?」  
「男の人って…、好きではなくても女の人から誘われたら…エッチできるんですよねぇ?」  
「『忍びの者たち』』第19作:『据え膳食わぬは男の名折れ』でも電蔵さんが…」  
「た、武智先生が、もし、おまえを好きだったとしたら話が違うだろうがぁ?」  
ハヤトは少し語気を荒げた…。  
 
「ぁ…」  
 
ひまわりはただでさえ大きめの眼をさらに見開いて愕然とした…。  
 
「お前はまだぁ、高校性だからぁ、そう言う『機微』に疎いのも仕方がないけど…  
忍者になりたいってくらいの奴がぁ、あらゆる可能性を考慮しないで行動してどうする…」  
 
ひまわりにココアを渡すハヤト。  
 
「あたし…、しきみさんにハヤト殿を取られるかもしれないって思って… そんな考える余裕もなくって、なんかヤケッパチになっちゃって…」  
 
一筋、涙が頬を伝う。  
 
「俺はしきみとは寝てない!」(嘘だったが本人は全くその自覚がない…)  
 
「えぇ?、本当ですか〜〜〜〜?」  
 
「いやまぁ〜今思えばぁそれに近い状況には誘い込まれたんだろうがぁ〜なんか、奴も途中で嫌になったんじゃないかなぁ〜」(風呂場で転倒したもんなぁ…)  
「とにかくぅ〜俺は、しきみに指一本触れてないからな!」(嘘である…、以下同文…)  
 
「ハヤト殿ぉぉぉぉ」  
喜びのあまり、飛びついてハヤトに抱きついたひまわり…。  
ドサリとそのまま布団に転がる二人…。  
 
「こら、よせぇ〜」  
ハヤトはひまわりの下敷きにされ、もがく。  
 
「わたし、スッゴク嬉しいです、うれしー、うれしー、うれしー、うれしー、うれし〜〜〜〜ぃ」  
 
ハヤトの上で脚をバタつかせて喜ぶひまわり、シャツがはだけ、赤い下着が丸見えになっている。もちろんTストリングスのボトムだから尻は殆ど丸見えだった。  
 
「ちょ、ちょっと、よせ、静かにしろ!ひまわり〜〜」  
「ごしゅじんさまー スキスキスキスキ、だい好きぃぃぃぃ〜」  
ハヤトの顔にキスの乱れ撃ちをする。  
 
「ばかやろー」  
そう怒鳴ると、一転ひまわりの肩を掴んで押しのけると、逆にひまわりの方を仰向けにして布団に押しつける…。  
「そんなことすると…俺だって…俺だって…」  
「お前を ど う に か したくなっちまうじゃないかよっ!」  
 
両肩にハヤトの力を感じても、そのまま黙って見上げるひまわり…。  
 
「お前は、お前は、…男の気持ちなんて…これっぽっちも理解してない…」  
 
見つめ合う二人…。  
 
「…じゃ ぁ… わたしに  それを  教えてください  ハヤト殿ぉ… 」  
 
そう言うと大きな瞳を閉じるひまわり…。  
その意味を理解したハヤトは、彼女の唇に自らのそれを合わせた…。  
 
やがてそれは激しい抱擁になり、ひまわりもいつしかハヤトの背中に手をまわして互いの舌を絡めあう…。  
 
長い、長〜い口づけが終わると、ひまわりのか細い体を抱きよせハヤトが言った…  
 
「今日で、主従の関係は終わらせよう、ひまわり…いいよな…」  
「…ハ イ…」  
「俺はお前を愛している…」  
「 は い 」  
 
「だが、俺は教師でお前は生徒だ…」  
「は…い?」  
「今、お前を抱いたら俺は一生後悔するかもしれない…」  
「はぁ…?」  
 
そこまで言うと、ハヤトはひまわりを座らせて、自分も正対して正座した。  
 
「お前が今日覚悟を決めてきたのはよく分かってる…。だがな、お前も俺が好きならこんな大事なことはちゃんと相談してから行動に移せ…」  
「それに…いくら"くノ一"の授業の課題だからって、身も心もズタズタにしてまで、やることはないよ、お前だって…最初は悩んだんだろう?」  
 
「はい…」  
 
「とにかく、こんな形で、チャンスとばかり飛びつけるほど、お前は俺には軽い存在じゃない…」  
「先の事は分からないけど、俺だってまだまだこんな食うや食わずの生活だし、お前にふさわしい男か?と言われたら…正直、自信はない…」  
「でも、将来もお前が俺を今のまま好きでいてくれるなら、それに応えられるように頑張るよ…そしたら、その時こそ『本当の契り』を交わそう…」  
「…俺はそう思ってる…」  
 
(ハヤト殿〜)ひまわりは彼の本心を聞いて心底、彼を慕ってきた自分に間違いはなかった…そういう確信を持てたことが嬉しかった…。  
 
しばし和みの空気を楽しむ二人だったが、暫くして ひまわりはココアを啜りながらあることに気がついた…  
 
「あ〜〜〜〜〜〜〜っ!」  
「っんな、なんだぁ〜急にぃ〜」  
 
「…武蔵坊先生に出すレポートが〜」  
 
しょげ返るひまわり…。  
 
「な、なんだぁ〜  そんなことかぁ〜 そんなもん、俺が手伝ってやるよぉ…」  
「いいんですか?先生がそんなことをしてぇ…」  
「構わん、もともと無茶苦茶な宿題なんだから、こっちも無茶苦茶してやればいい!」  
 
そう言うと、ハヤトは大声で笑う…  
ひまわりも笑顔で応える  
 
 
第三場  
 
あれからひと月が過ぎた…。例の成績表をまとめ、既に校長に提出済みだった武蔵坊がその承認を貰うために校長室を訪れた。  
 
「今年も全員が無事提出したわけですね。大変結構な指導ぶりですよ武蔵坊先生ぇ…」  
 
抹茶を啜りながら、やつがしら が言う。  
 
「いえ、全員ではありませんワ、つきよ姫が未提出です…」  
 
「彼女は特待生です…だいたい『妖術』が使える特殊なくノ一ですよ?色仕掛けの修練など元々不要な生徒…問題ありません…」  
 
「数人、事実とは違うと思われる内容のものを提出した生徒が居りましたが…如何いたしましょう?」  
 
「武蔵坊先生ぇ…。内容の真偽より、本来、生徒の問題解決能力を見定めるための課題です…」  
「くノ一にとって、手段より結果が全てです…提出した生徒には全てB+以上の評価を与えるのは当前です。その中で甲乙つけるのは先生のお仕事です…」  
 
「真剣に身を捧げた生徒がいることを思うと、少々納得がいきません…」  
 
キラリと やつがしら のメガネが光る…。  
 
「全ては、生徒一人一人の対応能力の現れです…。貴方の仕事はそれを見極めて個々の進路指導に生かすことだけですよ…」  
「本校の卒業生全てが、諜報活動に従事するわけではないのです…、要人護衛官、特殊工作部員、麻薬捜査官…彼女たちをリソースとして必要とする政府機関は腐るほどあるのですから…」  
 
「承知いたしました、過ぎたことを申し上げて、済みませんでした…」  
 
 
第四場  
 
「ええぃ! やぁ〜! たぁーっ」  
 
『カッ カッ カッ カッ』乾いた音を立てて手裏剣が的木を噛む…。  
 
修練場で汗を流すひまわり…。今日は調子がいい…。  
 
「ひまわりー」  
 
ハヤトが自転車を押しながらやってきた。  
 
「ハヤト殿〜」  
 
シュタタタと素早くハヤトのもとに移動し、しゃがんで首を垂れる…。  
 
「これからぁ〜もんじゃ屋に行くんだが〜一緒にどうだ?」  
「ハイ、是非お供させてください!」  
 
荷台に腰をかけるとしっかりとハヤトに掴まるひまわり…。  
 
「じゃ、行こうか…」そう言うと、ハヤトはゆっくりと漕ぎだした。  
 
新緑の香りが心地よい穏やかな風が  
まるで二人を後押しするかのように吹いていた。  
 
 
最終幕 終わり  
 
エピローグ  
 
ばっちゃ、お元気ですか?  
梅干し、ありがとう!さっそく万里小路先生にお分けしたら、とっても喜んでいただけました。  
お友達の しきみさん、アザミちゃん、ゆすらちゃん、ヒメジさんもよろしくお伝えくださいって…。  
あ、そうそう、先週、東京にある強豪女子校との対抗戦で私とアザミちゃんがアベックホームランを打ってで快勝したんだよ!凄いでしょ?  
その時に珍しくしきみさんが応援に来ていてとても喜んでました。何故か抱きつかれたのはアザミちゃんだけだったけど〜。  
皆、いつかはばっちゃのお家に遊びに行きたいって言ってます。その時が来たらよろしくお願いしますね、一人物凄く食べる子がいるんで大変だとは思うけど…。  
 
では、また。  
 
日向 向日葵  
 
 
完  
 

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