第六幕 初体験  
 
第一場  
ここは霞の里では最もリッチなラブホテル"ラ・ミラージュ"(と言ってもこの町には武智と椿が常用する「霞隠館」と2軒しかないが)のフロント。  
さすがに土曜の朝とあって設備のいい部屋でさえも全て空いていた。  
 
「さ、どれにする?好きなのを選ぶんだ…」  
 
ハヤトが部屋の写真と値段が示された格子状のパネルの前でしきみに尋ねる。しきみは最も煌びやかそうで値段の高い部屋のパネルを指差した。『3H:\7800』と書かれている。  
 
「こ、ここがいいわ…」  
 
「ふん、じゃぁ、まぁ〜参りますか…」  
 
そう言うとハヤトはその「715」と書かれているパネルのボタンを押す。するとパネルの下に設けられたスロットからカードキーが『スっ』と出てきた。  
 
「これで、チェックイン完了〜な、簡単だろ?」  
「そうね…」  
 
実は武蔵坊の授業で知っていた初歩的な知識だが、ハヤトが彼なりに親切を示しているのに、わざわざ水をさすようなしきみではなかった。二人はエレベータに向かう。  
 
最上階…、715室のドアを慣れた手つきで開けると、ハヤトは さ、どうぞ とばかりにしきみに促した。  
しきみがハヤトのすぐ傍を横切り入室する時、ほのかなファンデーションの香りが彼の嗅覚に刺激を与えた。  
おそらくは肩紐で吊るだけのタンクトップ型なんであろうブラウスかキャミソールの胸元からは、透き通った肌の彼女の胸がチラリと覗いている。  
しきみはサラシで胸の膨らみを隠すことが多かったが、今日はいつもと違って見えた。  
何だろう?こんな気持ちは彼女に感じたこと一度もなかったのに…なんか変だ…。  
みるみる下腹部が熱をおびてきた…。  
 
『なんかヤバそう…』  
 
ハヤトにはそれが、しきみの飲ませた2つの丸薬のうちの一つ『筒立たせ』の薬効のせいであるとは思いもつかなかった。  
成分は殆どバイアグラと同じ…それに理性をつかさどる脳の働きを抑制してしまう効能も持ち合わせていたのだから彼の反応は当たり前だった…。  
 
TV、音響/照明調整、カラオケ、ベッドの機能など設備の案内を一通り済ませる…  
 
「まぁ、だいたいはこんなところかな?」  
 
「これは?」  
しきみが指差した方向にはハヤトがわざと案内を避けた自動販売機があった。  
 
「あぁぁ、そ、それはだなぁ(チクショ〜まいったな)自販機だよ…」  
「このイボイボの付いた奴…何だか男性性器がモチーフになってるみたいですね…」  
こんな分析をこともなげに言ってのけられるのはしきみくらいだろう…。  
 
「そ、そう?  何だ、解ってるんじゃないか…」  
焦るハヤト。  
 
「この奥にあるのも…」  
そう言うと、床に四つん這いになり自販機の奥を覘こうとするしきみ。  
だいたいこの手の自販機は床に直置きなのだった。  
ハヤトはしきみの姿に眼を奪われる、何故なら彼女の黒のミニスカートからは、  
際どい状態でスレンダーな太ももが露出しているのだ。  
さらに驚いたのは彼女が履いているのはパンティーホース型ではないガーター式のストッキングであることが判明したことだった。ハイティーンの子の趣味にしてはエロが過ぎる。  
ハヤトは視点を高くしているとマズイと思い、同じく四つん這いになって覗き込む。  
 
「どどど、どれ?どれ? あ、これ?これはぁ まぁ ある特殊な趣味のカップルが使う〜」  
「涎玉…ですよね」  
 
「・・・・・ あ、そう、そうそう、それ・・・・」  
 
(武蔵坊め…俺の生徒を汚しまくってるなぁあいつは〜〜〜)  
自分も武蔵坊を性奴隷のように扱っててよく言えたものである…。  
 
「さて…」  
しきみは起き上がると…部屋を見回し…  
 
「お風呂って?どうなっているのかしら…?」  
「あ、そーかーぁ忘れてたな〜風呂風呂〜確かこっち…アレ」  
 
しきみは既にバスルームの中を覗き込んでいた。  
 
「フーン、結構広いのね…それに、ジャグジー付だわ…」  
「そうそう、結構気持ち良いんだ、これが〜」  
 
向こうむきにしゃがんでるしきみだったが、ハヤトの眼には鏡に映ったスカートの中身が丸見えだった。ピンクゴールドの「三角形」が彼の眼を射る。  
(うぁ! まいったなぁ…)  
 
「先生、つかって見せてください」  
一瞬きょとんとするハヤト…。  
 
「え?…俺が?」  
「はい」  
「な、なんで?」  
「実際使って見せてくれなければ、いろいろ判らないことを探せないと思いますから…」  
 
(くそまじめな奴だ…)  
「わかった、わかった…じゃ脱ぐから外で待っててくれ」  
(ほんとにもーメンドくさいなぁ〜)  
 
 
第二場  
再び場面は旧校舎に戻る。応接室。  
と言っても月の輪熊だの、白頭鷲だのの剥製が立ち並んでて、かなりの薄気味悪さである。  
武智がバスタオルで頭を拭き掻きながら現れた。  
普段は鬢付油で異様なヘヤースタイルを維持している武智だが、洗いざらしの髪は自然な流れをたなびかせていて新鮮に見える。  
 
「すまぬ、待たせたな…」  
「あ、先生…お疲れ様です」(一体何が?)  
 
「で?話というのは何だ?」  
 
「あの〜…、せんせ…武智先生…男の人って、好きでもない女の子とでもエッチできるって本当でしょうか?」  
 
「ブ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」  
武智は飲みかけたコーヒー牛乳を吹いた。  
 
「だぁ!出し抜けに何だ?もう〜〜〜〜〜〜?」  
「すみません、すみません、すみません」  
ハンカチを差し出すひまわり…。  
 
「そ、そうだなぁ…男って『生き物』は多分にそういう点があるな…」  
濡れた口元をバスタオルで拭いながら言う…  
「だ、だが〜相手がその男にとって『魅力的な場合』…だろう、たいていは…」  
「誰でもいいって奴は〜少ないと思うぞ…」  
 
大きな眼を瞬かせてひまわりが訊く…  
「せんせ、先生に 私はぁ〜魅力的に見えますか?」(顔から火が出そ〜〜〜ぅ)  
 
「ブ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」  
武智は再び飲みかけたコーヒー牛乳を吹いた。もう瓶には何も残っていない。  
 
「・・・・・」涙目でひまわりを振り向く武智…。言葉も出ない。  
「す、すいま せん」  
 
しばしの沈黙…。  
ひまわりはまるでリンゴのように顔を紅らめてうつむいている。  
 
「あ、あのな、日向…どんなに鈍い男でも、それだけ言われたらお前が俺に『抱いてくれるか?』って聞いてるのだと…そう思うぞ…」  
 
「そ、その通りです…」  
「そのとおりじゃな〜〜〜〜〜い!」バンっ!とテーブルをたたく武智…。  
なんか興奮している。そう、嬉しいのだ。喜ばしいのだ。夢が叶うまでそう遠くないのだ…。  
考えてみれば、この娘を爆発寸前の保育装置から救い出し、命を繋げたのはこの自分だ…自分がこの娘の柔肌に最初に触れた男なのだ、さすれば抱く権利があって当然だ!  
あああああ、何を躊躇することがある!さぁ抱け!今すぐにでも!  
 
突っ込みどころ満載だが、考えだけが独り歩きしていた。  
 
「じ、事情があるんです〜〜〜。」  
「ああ、聞いている…。武蔵坊の科目のことだな…違うか?」  
 
武智の持つ極秘情報アクセス権限は校長と同じレベルだった。  
 
「はい…」こっくりと頷いたひまわり…。  
 
なるほど、件の号泣はこれが原因だったんだな…そう武智は納得した。  
こうなるとちょっと事情が変わってくる…武智は喜んでいる場合ではなかった…。  
 
「と、いうことはだ… 貴様は『恋愛対象から俺を外してる』と宣言してるわけだ?違うか?」  
 
「・・・・・」  
 
「違うか?」  
 
「すみません」  
 
「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」  
 
そうか、そうなのか…そう心の中で呟くと少し落胆した。深々とソファーに腰を沈める。  
くノ一に恋はご法度!とかなんとか押し付ける側にあって、  
それでいて自分が密かに想いを寄せている『くノ一のタマゴ』が、自分を全く度外視している事実に失望するとは…。  
矛盾を通り越して外道の域に達している…。  
 
「で、でも…武智先生は命の恩人です。別の意味でお慕い申しております…ですから恩返しの意味も込めて…、その〜私の…」  
「みなまで言わんで良い!」  
 
武智は心臓が爆発するくらいの羞恥心を押し殺して、精一杯必要なことはハッキリ伝えようとするひまわりの健気さに感動を覚えた…  
言葉を遮る形で助け船を出す位の気を利かせてやりたかった。  
 
「よし…わかった。抱いてやろう…」  
「ほ、本当ですか?」  
「だが、俺にとってこれで『最初で最後』になる。しからば完全な形で行いたい…意味わかるな?」  
「はぁ…何となく…」  
「最後の『月のもの』が訪れた日を申せ…」  
武智はテーブルの上のカレンダーを突き付ける…。  
 
「こ、この日が最後です…」  
 
ひまわりはその日付に指先を置いた…。  
 
「お前は順調な方か?」  
「は、はい、いつも28日間隔で…」(恥ずかしいっ!)  
 
武智は指を折って数える…。  
 
「よし…、次の水曜日…練習が終わった晩ここへ参れ…。もちろん他言無用、よいな?」  
「はいっ!」  
 
「では…」武智が立ち上がりかけると  
 
「あの、お願いがあります!」  
「まだ何かあるのか?」  
 
「・・・・・」  
「ハッキリ申せ!」  
 
「で、できれば  その、ハヤ…いえ、万里小路先生に変装して頂いて…はだめでしょうか?」  
 
武智はフライパンで後頭部を殴られたような衝撃を覚えた…  
(や、やっぱりそうか…。  
この娘は、主従、主従と言いながら、実のところ間違いなく万里小路を愛しておるのだ…。  
何たる侮辱…、えええぇい此処までバカにされたことが、かつてあっただろうか?  
今すぐこの場で犯してその首掻き切ってしまおうぞぉぉぉぉ〜)  
 
あ、いや、本来抱かせてもらう権利すらないんだからそれは言い過ぎだ…。  
 
武智はすばやくソファーの背後に回り、ひまわりをの頭をつかんで上を向かせ、思いっきりのディープキスをくれてやった。  
彼女は驚きのあまり身動きができず、武智の太くて長い舌を挿入され、貪られるようにしてキスを受け入れた。  
(あ〜これが〜…何だか気持ち良い…)  
同時に下半身に熱いものを感じ、あのビデオを見ながら感じてしまった感覚が再び呼び起されるのを覚えた。  
 
武智は彼女の唇を解放すると、再び出口に踵を返し背中を向けたまま告げた。  
 
「お前の願いについては承知した…完璧な変装で迎えてやろう…」  
 
ひまわりは惚けたような顔でまだ天井を見ている。  
 
「に、にんじゃさぁん…」  
 
 
第三場  
ホテル"ラ・ミラージュ"。715号室。浴室。  
ハヤトはタオルを腰に巻きつけたままの姿で、浴槽にお湯が溜まるのを待っている。湯温はいつもの通り38℃…。湯加減を確かめるように手を浴槽内でぐるぐる回す…  
 
「あ〜あ、ったく何やってんだ俺は〜〜〜〜」  
 
そう言いながらも、脳内では先ほど来からのしきみの『お宝画像』を反芻しつつ涎が出てくるのを必死で拭う。ハヤトの『逸物』は既にカッチンカッチンに固まってしまっていた。  
普段なら別のことを考えれば直ぐに治まるのに…今日はいつもと違うな…  
 
「でもまぁジャグジーなら泡で隠せるし、いいかぁ」そう独り語散るとドボーンと浴槽につかり、ジャグジーのコックを"H"の印に合わせて捻った。  
二つの穴から勢いよく噴流が沸き立った。浴槽が見る見るバブル状態になっていく…。  
 
「ひょ〜極楽〜〜〜、お〜い、しきみ〜〜〜もういいぞ〜〜〜」  
 
ガチャリと扉が開くと、驚いたことに しきみはシルバーグレイのキャミソールに、先ほどのピンクゴールドのビキニショーツといった恰好で現れた。  
髪は後頭部でまとめている。  
 
「おあぁぁぁぁぁっ!」  
 
驚いて浴槽に沈みかけるハヤト。  
 
「なんだ、なんだ、なんだぁ〜〜〜〜」  
「はい?」  
「か、か、仮にも女生徒がだなぁ〜そんな恰好で…教師の前を〜」  
「あら、先生とは以前皆と交えて温泉にご一緒したことがあった筈…、半裸の私を見るのは初めてではないでしょう?」  
 
確かにそうだが〜  
 
「折角ですから、お背中でも流そうかと…」  
 
しきみも例の薬が効いてきたのか、だんだんすることが大胆になってきた。  
(ふ、不覚…、ハヤトがイケメンに見えてきたわ…)  
というか、もともとハヤトは別に醜男ではないのだが…。  
しきみは圧縮されたスポンジの入った封を破くと、それにボディシャンプーを付け、  
蛇口からお湯をまぶす。  
その一連の動作をハヤトは浴槽から見上げ、彼女の下着姿に魅了されていた。ひまわりもそうだが、しきみの脚線美もなかなかのものだった。  
 
(あいや〜〜これじゃまるでソープランドだ…)  
 
「はい、せんせい立って、お背中をこちらに…」  
 
(立って…て、もう立ってる…あ、いや、立ち上がったら起ってるのがバレル…)  
 
仕方なく中腰になり、クルリと背中を向けた。  
 
「これでいいか?」  
 
返事はなかったが、浴槽の淵に腰をかけると、しきみは丁寧にハヤトの背中を擦り始めた。  
しきみの左手は彼の肩に掛けられて支えている。  
ハヤトは腰に巻いたタオルが妙な形になっていないかとチラチラ確認しながらも、しきみの心地よい『サービス』に身を預けた…。  
 
「先生の背中、結構逞しいわ…」  
 
しきみは本当にそう思った。  
 
「た、逞しいったって…さ、サルトビ先生なんかの方が…」  
「あれは駄目…、あんなにマッチョじゃ隠密活動には向かない…その点、先生の方が実戦向きよ…」  
 
スポンジは段々と下の方に場所を移動してくる。  
 
「そ、そうかなぁ〜ダハぁ〜でも〜俺、忍者に興味ないしぃ〜」  
「でも、くノ一には興味があるんでしょ?」  
 
その時…、浴槽の淵に立てていた入浴剤のミニボトルが、しきみの肘に当たりドボンと泡で覆われた水面に消えた…。  
 
「あ、いけない…」  
「おぁっと」  
 
すばやい反応でハヤトがボトルをつかんだとき、同じ意図で左手を浴槽に差し入れたしきみは、タイミングが悪かったのか『別の堅いモノ』をつかんでしまった…。  
 
「・・・・・」  
 
想像を遥かに超えた弾性と剛性を掌に感じたしきみは一気に身体の中に炎が立ち上がるのを覚えた。それは逞しく脈を打っている…。薬効のせいか本能のせいか判断がつかないが未経験の筈のしきみであってさえ『これが欲しい』そんな気分にさせられた…。  
 
「そ、それは…ボトルじゃない…」  
 
見つめ合うハヤトとしきみ…。お互いの鼓動を感じ合った二人は、激しいキスへとなだれ込んだ…。  
 
 
第四場  
場面は再び遠くマカオに移る。ホテルのスカイラウンジではMI-6エージェント、コードネーム"Double-OH-Five"がヒメジに少々早めのランチをふるまっている…。  
 
「うっ、ひゃ、ひゃっ、ひゃ、(パクパク、モグモグ)うっ、ひゃ、ひゃっ、ひゃ、」  
「うぉぉぉぉぉ〜〜〜〜い し い〜〜〜〜で あ〜り〜ん〜す〜〜ぅ」  
既に3皿目のカモの照り焼きを食い散らかしている…。  
 
ジェームスは疎らではあるが何人かの客が他に居ることもあって、周りに気を使いながら、少し彼女の方に身を乗り出すようにして小声で話しかける…。  
 
「ちょ、ぷ、プリンセス・ロドネイ…頼むから、もう少し静かに召し上がってくれると助かるんだけどな…」  
「わ ら わ は 食事中は周りが眼に入らないんで あ り ん す よ 〜」  
「いや、それは分かってるんだけどね(しょうがないなもう…)、第一、そんな食べ方じゃ身体に良くないよ…」  
 
言ってる傍から、飲茶の笊が12段重ねくらいの量で運ばれてきた…。  
彼はそれを眺めながら、あ〜しまった〜ルームサービスにしときゃ良かったなぁ〜と後悔するのだった…。  
スカイラウンジで景色を楽しんでもらうつもりだったが、ヒメジには食事が全てだった。  
 
考えたら、今回の任務…。理解に苦しむ。この娘と会って寝るだけで良い…なんて…。  
 
「どうかしてるね…全く…」  
「(もぐもぐ) う?、何か言ったでありんすか?」  
「いや、こっちのこと…」  
 
ジェームスはすっかり食欲を失い、仕方なくワインを口に注ぐ…。通りかかった日本人らしきカップルがヒメジの食いっぷりを怪訝そうに見てるのに気付くと…  
 
「彼女の顔に何かついてるかい?」  
 
そう言って追い払った。  
アレで人のマナーを批判してるつもりだろうが、それこそがエチケットに反することを彼らはまるで理解していない。  
知らん顔して通り過ぎられない彼らの行動原理そのものがイギリス人の彼には全く理解できなかった…。  
 
彼女の食うに任せてそんな事を思っていると、ヒメジが突然唸りだした…  
 
「なんだ?」  
ヒメジは眼を丸く見開いて、必死に胸ををドンドン叩きもがいていた。どうやらチキンを喉に詰めたらしい。ジェームスが慌ててスパークリング・ウォーターの入ったグラスをつかむと、一秒早くヒメジは既にワインボトルを手にしてラッパ飲みし始めた。  
 
「うぁ〜そ、それは〜〜〜〜」  
「ゴキュン、ゴキュン、ゴキュン」  
 
ヒメジの喉が脈打ってるのを見て、どうやら危機は脱したことを確認するにはしたのだが…  
 
「ぷっはぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」  
「く る し か っ た で あ り  ん ・・・・」  
 
そこまで言うと、『ドサッ』っという音を立てて、このブロンドの大女はそのまま床に転がった…。  
 
ジェームスは腰を下ろすと頭をたれ、眉間を撫でながら上目使いにその方向を見やった…。  
 
「だからよく噛んで食べろと…」  
 
 
第五場 
ハヤトとはしきみを両腕で抱きかかえると、いわゆる「お姫様だっこ」のままベッドの上に降ろした。  
 
既にキャミソールは脱げかかっており、浴室での激しい抱擁の所為でところどころ濡れている。ハヤトは腰に巻いたバスタオルを外すと、それでしきみの身体を拭ってやった。  
露わになったハヤトの「男の主張」を薄目越しに見入るしきみ。生で臨戦態勢のソレを見るのはもちろん初めてのことである。なぜか生唾が溢れる…。  
 
「せんせい…や、やさしくしてくださいね」  
 
おそらく彼女からは一度もリスペクトされたことのないハヤトだったが、しきみのこの物言いには聊か驚きを隠せない。第一俺を先生なんて言うのだって極めて稀なことなのだ…。  
 
「あぁ、分かってるよ」そう言うと横になって彼女の髪の毛を解いてやった。  
「本当に、俺なんかでいいんだな?」  
「・・・・は・・・い」  
 
僅かに震えてるしきみの腹に手を置くと、薄いシルクの生地の上からツツーと小指と薬指だけを使い胸に向かって滑らせる。やがて胸の谷に達すると、小ぶりだが確かに膨らんでいる二つの丘の一つを優しく手で包むように撫でる。  
指先で感じるブラジャーの形を確認すると、ちょうど乳首の収まるあたりに指を這わせてみた…。  
ハヤトの経験では、しきみが今身につけてるショーツのデザインから、おそらくペアであろうブラのその部分は、間違いなく薄手の生地になっている筈だった。  
その予想通りキャミソールの上からであってもハッキリとその「隆起」を感じ取ることができた。しきみの乳頭はすでに興奮を表すに充分の状態を示している。  
 
ハヤトは高まる興奮を何とかこらえながら指先でそれを捏ねる。  
 
「はァァァァんっ」かすかで控えめだがしきみが反応の声を上げた。  
初めての異性の愛撫を受けて快感を覚える自分の体が憎らしかった…。  
 
愛撫を続けられる間、しきみは身体を捩じらせ太ももをぐっと捻らせながら悶える…。  
 
「我慢するな…声を上げてもいいんだぞ」ハヤトは少し意地の悪いことを云う…。  
指は既にキャミソールを潜り、ブラジャーの中に入っていた。  
 
「そ、そんな、恥ずかしい…」  
「もう、そんな仲じゃないだろう?」そう言ってまた彼女の柔らかいプリンのような唇を吸いにかかる。  
キスの官能的な味を知ってしまったしきみは進んでハヤトの舌を迎え入れ、自分の舌で彼の唾液を絡め取る。  
 
(上手いもんだ…、頭の良い女ってのは、何にやらせても直ぐコツを掴むんだな…)  
 
ハヤトはそう心中で呟くと、右手をしきみの背中にまわし巧みにホックを外した。  
しきみもしきみで先ほどから左手をハヤトの『子袋』を弄っている。  
 
(垂れさがったり縮みあがったり面白い器官だわ…)  
 
その行為がまた一つ、ハヤトの理性の箍を外しにかかる。  
 
ゆっくり時間をかけてしきみの緊張を解きほぐしてやるとハヤトはショーツの脇に両手を滑らせて素早く脱がせにかかる。  
しきみは眼をつぶってじっと横を向いている。  
 
僅かに茂った陰丘は、贅肉の無いすらりと平らな下腹部からみれば、まるでフェアウエイから望むグリーンといった感じだった。  
 
(さて、いよいよだな…)そう心中で呟くと、彼女の膝で8の字になったショーツを膝の向こう側に滑らせる。立膝の恰好だったからあとは引力が面倒を見てくれた。  
しきみは足首にストンと落ちたショーツの感触を知ると、自分でそれを蹴り飛ばした。文字通り彼女は一糸まとわぬ姿になった。  
 
ハヤトは、揃えていた彼女の膝を引き寄せつつ左右に割る。俗に言う「半マングリ返し」の状態を作ると、遠慮なくその僅かに濡れそぼったクレバスに舌を這わせてやった…。  
 
「うっ・・・くぅ・・・」  
 
一瞬こそばゆい感覚に襲われながらも、云い知れぬ快感を覚えると、しきみは思わず唸った。  
(ハヤト…恐るべし…)  
 
両ももを閉じて悶絶したい位の激しい快感の波が押し寄せる…。  
だが両膝はがっちりとハヤトが掴んでおり、しきみは腰を前後に揺らすくらいしか動きようがなかった…。  
それでもハヤトの舌は的確に狙いを外すことなく追従してきたのだった…。  
 
(な、何とかしないと…)  
 
一体何と戦っているつもりなのか、しきみは受け身に任せてる状況に抵抗感を覚えた。  
左手は既にハヤトの化身をまさぐっていた。  
竿をしごきつつ親指で先端の柔らかいところを弄ればよい、そう教えられた通りに実行しているが、ハヤトの反応では効果が判断できない…。  
そんなことを想いながらも、しきみの脳の快楽中枢は股間からの刺激で満たされつつあった。  
 
(く、悔しい)  
 
(こ、こうなったら)  
 
処女であり、かつ、これまで男女の性交渉が如何なるものであるかに興味すらなかった少女にとって、オーラルセックスほど嫌悪感を覚えるものはなかった…。  
だが、教材の映像や、歴史的背景から始まるあらゆる資料に眼を通してきた結果、それを論理的にも  
 
『とても良いものである』  
 
と認めざるを得ない…。そう考えていたしきみだった。  
そうであってもやったことがなければ、やはり抵抗がある。  
だが、一方ではハヤトは私の性器を舐めている  
。そしてその快感に身を震わせている自分が居る…。  
 
しきみは快感を堪えながら、少し上半身をひねり起こすとハヤトのそそり立ったペニスを見た。  
 
(あんなの、普段から触ってるトカゲや蛇に比べたら…グロテスクでも何でもないわぁ)  
 
その瞬間、しきみは器用に上体をくねらせると、頭をハヤトの股間の下に潜り込ませる。  
勢いでハヤトの右手がしきみの膝から離れると、バランスを崩した彼は頭を太腿にサンドイッチされた格好で横臥位の態勢にさせられてしまった。  
 
眼の前に長いペニスが突きだされる格好になると、しきみは躊躇なく両手でそれを掴み、  
眼を瞑って思い切り口に咥えこんだ…。  
 
「おぁぁぁぁ痛い痛い痛い!」ハヤトが叫ぶと。慌ててそれを吐き出すしきみ…。  
 
「ご、ごめんなさいっ」  
ペニスを握ったままハヤトの方を向き直って謝るしきみ  
 
「ち、違う違うコレ、コレっ…」  
 
ハヤトは左腕が妙な方向で捻れてその先にしきみの腰が乗っかってるのを指差した。  
 
「『69』するんなら、ちょっと態勢変えよう」  
 
そう言うと、今度はハヤトがしきみの股の間に潜り込むようにして仰向けになった。  
 
自分のフェラチオが失敗だったわけではないことに安堵したしきみは、下半身をハヤトの顔面に丸晒ししていることも忘れて、今度は上からやり直すのだった。  
 
右手で茎の根元を固定し、余り向こう側へ倒さないように気をつけながらまずは舌の腹に亀頭を載せるような感覚で頬張る…ここまでは教科書通り。  
上唇を伸ばして歯を立てないようにカバーする…、そうしてゆっくり吸い込むようにする…。  
 
(「入れ歯を外したお婆ちゃん」の顔を連想してやるんだったけ?)  
 
「ん、んんっ」  
「ああ、気持ちいいぞぉ  しきみ…」  
 
(やった!)しきみは脳内でガッツポーズを決める。  
 
(あとは空いてる手で『子袋』を刺激したり、竿をしごくんだったっけ?)  
 
しきみは必死に教材ビデオで見た通りの技を反芻して実施した。  
ハヤトも負けじと舌と指とで応戦する。  
やがてしきみは「尿意」に似た不思議な感覚が高まってくるのを感じた。  
それを一生懸命に振り払おうとしきみも頭を振る  
 
(だめ…眼が回る…)  
 
そのうち、ハヤトの腰の方が勝手にグラインドするようになってきた…その動きが徐々に速度を増す。しきみはただ口と舌をそれに合わせてポジションするだけで、頭の中は股間の感覚に支配されるに任せた…。  
 
(あ、な、ななにコレ…変よ、変…)  
 
ハヤトももう口での愛撫は放棄しており、股間の感触を楽しみながら指で内と外からしきみのクリトリスとGスポットを刺激しているだけだった。  
 
「あはぁ、しきみ で、出そうだ、出すぞ…」  
 
(え?なになに、あ〜〜〜〜〜〜〜っ)  
 
その瞬間、尿道口のあたりからジワーっとした高まりが一気に押し寄せてしきみの頭の中は真っ白になった…。  
次の瞬間口腔内を熱い粘液が満たし、ハヤトが射精したことに気がついた。  
反射的にペニスを奥に引き込んでしまったため殆どの精液を飲み込んでしまっていた…。  
おそらくは、「オルガスムス」というものをフェラチオと局部への愛撫で感じてしまったことに驚いたしきみには、そんなことは二の次三の次だった…。  
 
(私って淫乱???  ち、違うわ…これはきっと薬の所為よ!)  
 
振り返るとしきみの尻の向こうに、天井を仰ぎ恍惚の表情を浮かべているハヤトの顔が見えた。次の瞬間しきみは気を失った…。  
 
しきみは眼を覚ます、先ほど逝ったばかりで敏感になっている部分に、さらなる快感を感じているからだが、案の定、彼女の股間には必死の形相でクンニリングスを続けているハヤトの顔があった。  
 
「き、気が付いたか?」  
 
(頭がボーっとしている)  
 
「最初のペッティングで同時に果てるなんて、あ、お前逝ったんだよな?…そう、何か俺達身体の相性いいみたいだ…それから...逝った後なら処女膜破れても痛くないって…  
だから、時間置かずに行くぞ!いいな?」  
 
(頭がボーっとしている)  
 
ハヤトは返事も待たず、ペニスにコンドームを装着するとしきみの上に重なった。  
 
「しきみ〜愛してるぞ…」  
 
いい加減なことを言うな〜〜〜  
 
(頭がぼーっとしている)  
 
「うっ…」ハヤトが一言唸る…  
 
股間に異物感を感じたしきみだったが、ペニスの先端が雁首のあたりまでツルンと入ってしまうと、その感触がたまらなく気持ちよかった。  
 
(すごい…痛くないわぁ)  
 
やがてヌルヌルヌルっとゆっくり本体の方が入ってきた、一瞬ピリっと違和感が伝わったが直ぐに消えた…。  
 
(き、気持ちいいわ…)  
 
はやる気持ちを必死で堪えハヤトはゆっくり、ゆっくりと、歩を進めた。ハヤトの方も十二分に快感を得ていた。流石に処女…少し巨根気味のハヤトには狭い膣腔だった…  
 
充分差し込んだと思われるところから、退きにかかる。コンドーム越しだが開いた雁がしきみの膣壁をまんべんなく引っ掻いていく。  
 
「あうぅぅっ」  
「大丈夫か?」少し心配になって動きを止めた。  
「や、やめないで…、もっと動いて…」  
(感じてる…こいつ…初めてなのに感じてる)  
 
ならばと、遠慮なくハヤトは徐々に腰のスピードを速めて行った…。  
 
「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、」  
ハヤトが突くたびにそれに呼応してしきみは声を上げる。ハヤトは昇り詰めかけるとペースを下げ、また上げ、を繰り返し、この成熟を迎えつつある少女の肉体を堪能した。  
彼はしきみの股間を突きながらも、キスや乳房への愛撫をも丹念に行う。  
時々薄目を開けてこちらの表情を見ようとするしきみに、微笑みかけ、そのたびに深く突きたてると、しきみは眼を閉じて眉間に皺を寄せて悶絶する。それを繰り返し繰り返し楽しんだ。ハヤトの腰に巻きついたしきみの手に力がこもる。  
 
「あ、だめっ!いっちゃうぅ…」  
「もう少し、もう少し」ハヤトも追いかける。  
「ダメ…、ああぁいやん…」  
「ううう、し、しきみ」  
 
しきみの下腹部にかかる力を感じる。  
 
「あぁぁぁ、おれ、もう」  
「はぁ、は、はやとぉ…せんっ」  
 
そこまで言いかけるとしきみは下腹部を突き上げるような感じで海老反った…。  
 
「せいっ!」  
「むぅうううううっ」  
 
大量の精液が放たれた。しきみはその脈動を膣壁で感じると、先ほどとはまた違った快感で果てたのだった。  
 
ハヤトは、とてつもない愛おしさを感じると、彼女をきつく抱きしめた。  
しきみも彼の腕に抱かれて心地よい疲労感に暫し、身を浸した。  
 
 
第六場  
 
物語はリアルタイムに進行する…。  
 
っというわけではないが、マカオ、ヒメジ達にアサインされたロイヤルスイートルーム。  
ようやく午後の眩しい太陽が、オープンスペースに設けられたプールに心地よい日差しを投げかける時刻となった。  
ヒメジの診察を終えた医師を帰したあと、この後の算段を練るMI-6エージェント…、ジェームス・マックスウェル…。  
 
『まったく、とんだお荷物を預けられたもんだ』  
ハバナ産の葉巻を燻らせて柄にもなく悪態をつく…。  
 
ドアのチャイムが鳴る。  
 
ドアの方を振り向くと、彼はアロハシャツの裏、スラックスの腰に挿してあるベレッタを手にした。  
スライドを数ミリ後退させ、装弾を確認する。  
用心するシチュエーションではないが、もはや習慣づいていたのでしかたがない。  
 
「どなた?」  
「Mrマックスウエル…、ご注文のビールをお持ちしました」  
「御苦労…」  
 
知った声とカメラの映像で危険の無いことを確認するとドアを開けた。  
見慣れた顔が笑みを浮かべて立っている。  
銃を腰に仕舞いながらジェームスが言う  
 
「わざわざ済まない、Mrフェイ…ちょっと待っててくれ」  
その香港人男性は笑顔を返し軽く会釈で答えた。  
 
「このラップトップに入ってる全ての情報を読めるようにしておいてくれ、殆どが日本語で書かれていて俺にはさっぱり解らん…。一部は結構高度なセキュリティが掛けられている…見たことないコードだ…どのくらいでできる?」  
「ファイルの総容量は?」  
「大したことはない、5〜6GBもないだろう…」  
「かしこまりました、夕刻…そう1800にはお持ちできるかと…」  
「OK、それでいい」  
 
Mrフェイは、ビールの瓶とグラスをテーブルに置き、代わりにラップトップを盆の上に載せてその上にクロスをかぶせる。  
 
「それではマックスエル様…また、後ほど」  
「ああ、たのむよ…」  
 
 
第七場  
 
しきみはベットに腰を掛けながら乱れた髪を直していた。既に下着を身につけている。時計の針は入室してから有に2時間半を経過していた。  
とりあえず此処まではうまく運んでいる…。  
しきみは自分の立てた計画の完璧性を実施で証明できていることが何よりも気分が良かった。だが、まだ最後の難関は越えていない…。  
 
ハヤトに飲ませたもう一つの白い丸薬…。通称『白昼夢』…その薬効を確かめる時が来た。  
服用し効果が始まってから最初の睡眠に入るまでの体験や記憶が、全て意識下の奥に消えて取り出せなくなるという優れものだ。  
仮に断片的に思い出しはしても、睡眠中の『夢』と全く区別がつかないことからこの名が与えられた秘薬だった…。  
 
本来は自白剤対策の薬、万が一任務中に捕えられても瞬時に睡眠薬を飲んで眠りについてしまえば、敵方の拷問にあっても自白させられることがない…。何しろ本人は覚えていないのだから。  
 
スカートを履き、ジャケットを羽織ると、腰にタオルを巻いた姿でベットに横たわるハヤトの顔に気つけ薬の匂いを嗅がせる。  
 
「うっ…、うぅぅ」  
「気がついた?…」  
 
「う、あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜しきみ????」  
 
しきみを見て驚くハヤト…  
 
「あ、あっれぇぇぇぇ…ここは〜」  
「ラブホテルです…覚えてないの?」  
「あ〜そうだったっけ?…あれ〜」  
 
何となく部屋を案内していた辺りまでのことは記憶にあった…だがそこからのことが全く覚えにない…。  
 
「お、おれ〜何でこんな恰好…」  
「先生、バスルームで転倒されたみたいですよ…、で、気絶を…私がジャグジーの実演をお願いしたばっかりに…申し訳ありませんでした」  
 
「そ?そうなの?」  
その割にはどこにも打ちつけた痕跡がないのに、しきみの言うことだからと…疑いもしないハヤト…。  
 
しきみは(よかった、うまくいきそうだわ)と内心で安堵した。ハヤトを利用して処女を捨てることに対する抵抗感の殆どは、『ハヤトがしきみを抱いたことを覚えている』ということが嫌だったからだ…。その記憶さえなければ、事実はしきみの中に残るものだけだ。  
 
「そろそろ時間です、帰りましょう…」  
 
残る仕事は武蔵坊へのレポートだけだった。  
 
 
第八場  
霞の里のもんじゃ屋。  
アザミは遅めの昼食にお好み焼きでもと来店、ゆすらも一緒だった。  
相変わらずアザミはその「裏返し技」にてこずっている。  
 
「アザミったら〜本当、いつまでたってもヤンバルクイナ並みに不器用なんだから〜」  
「文句言うならゆすらがやんなさいよ〜、もう、いつもはひまわりかしきみに任せっきりだからしかたないじゃ〜ん」  
 
はみ出た具をコテで戻しながら  
 
「そういえば、ヒメジは?昨夜から見かけないけど…」  
「武蔵坊のレポートを口実に外出許可もらったらしいよ〜ゆうべ出かけたみたーい」  
「ふーん…、そうかその手があったよね〜アタシもそうすりゃよかった」  
「ほーんと、コウモリ並みに抜け駆けよね〜」  
 
アザミは焼きあがった豚玉チーズを8等分すると、一切れを齧った。  
 
「今頃、どこかのイケメンと〜ラブラブなひと時ね〜」ゆすら眼がハートマーク。  
「どうだろ〜? ところでゆすら、アンタどうするの?」  
「ナイショ〜〜〜」  
「そういうアザミは〜〜〜?」  
「ないしょ〜〜〜」  
 
引きつった笑顔で見合う二人…。  
 
 
第九場  
(日本時間夕刻)  
ロンドン。MI-6本部のある統合庁舎。Mのオフイスにちょうど彼女が出勤してきたところだ。もちろん一般のオフイスワーカーなどよりもべらぼうに早い時刻である。  
 
「おはようマニー」  
「おはようございますマァム」  
「今日の予定は?」  
「10時に国防副長官とそのスタッフを囲んで会食、そのあとは午後の参謀本部会議まで予定はございません」  
「あそう、今日はゆっくりできそうね…」  
 
そう言って自室のドアノブに手をかけると  
 
「あのぉ、」ばつの悪そうな表情を見せる秘書…。  
 
長い付き合いなのでMはおおよその見当はついた…  
 
「マック…いえ、マックスウェル中佐からお電話が入ってます…」申し訳なさそうに言う。  
 
Mはしばらく固まった状態で秘書の顔を見つめると言う…  
 
「繋いで」  
 
勢いよくバタンとドアを閉める。  
 
「私です」  
「マァム!!何ですかありゃ、なんとかしてください、一体今回の任務は…」  
「落ち着きなさいマック!順序立てて解るように話しなさい」  
 
(Mは彼をジェームスとは呼ばない、他にもう一人居るから区別するためだ)  
 
「『客』は倒れました…任務遂行は不可能です」  
「倒れたって、マック!貴方まさか?」  
「殺してませんよ!勝手にワインをがぶ飲みして急性アルコール中毒になったんです!(まったくもう)」  
「マック!貴方、彼女は未成年なのよ!」  
「判ってますよもー(泣きたくなってきた)」  
「で?容体は?」  
「大丈夫です。胃洗浄して、点滴打って一晩過ごせば回復するとホテルの医者は言ってました」  
「そう、(Mはとりあえず安堵の胸をなでおろした)それは良かった…」  
「良くないです。任務はどうするんです?」  
「彼女は何か問題を抱えてるようだわ、それを突き止めなさい」  
「ちょ、何・・・・(ブツッ)」  
 
Mは回線を切った。  
 
マカオでは、途方に暮れたジェームス・マックスウェルが、虚しい信号音だけを放つノキア製セルラーフォンを片手にして、傍らのベッドで横たわる色黒の大女を眺めているのであった。  
 
「いいですよ…こっちは既に手は打っていますから…」  
 
そう言うと、彼は電話をポケットに仕舞った。  
 
第六幕 終わり  
 
 

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