第五幕 Execute
第一場
既に人っ子一人居ない筈の志能備学園女子校々舎。だが下げれたブラインドの微かな隙間から室内の明かりが漏れている部屋が、一つだけあることが判る。
さすがに音波盗聴装置さえも効かぬように工夫された職員室の一つだ、外部からでは中で繰り広げられていることの断片すら伺えることができない。
そこで男女の秘め事が行われていようと、もはや誰にもわからない…。
「あぁぁぁん、いっ、いっ!いいわぁ〜ハヤトく〜ん」
そのことを知ってか知らぬか、ハヤトの舌技に応え、武蔵坊ミサは大きな声で遠慮なく叫ぶ。
机の上に後ろ手で上体を支えるように着座し、大きく開脚して局部をさらけ出し、
ハヤトのクンニリングスに悶絶しながら、彼の頭を片方の手で掻き毟って快感に身を委ねている…。
息も絶え絶えに…。
「も、駄目、も、駄目、も〜〜〜〜〜駄ぁぁぁ目ぇぇぇぇっ〜」
ハヤトはレロレロと鋭く尖らせた舌先を、時に強く押しつけながら、
時に素早く円を描くようにして、包皮と陰核の境目をなぞる様に刺激を繰り返す。
「い、いっちゃう〜」と叫んだその時だ、ハヤトはぴたりと動作をやめた。
「え〜〜〜〜〜〜〜っ何でぇ〜〜〜〜?」
腰をくねらせながら抗議する武蔵坊ミサ…。
「お願いだ!続けて欲しいならっひまわりの提出した資料を見せてくれ、ミサちゃん!」
「あ〜〜〜〜んそれだけは駄目ぇ〜〜〜」
ミサは逝きかけた身体の状態を取り戻そうと、自分の指でコトを続けた…。
「うううんっ!」とうなると股を閉じるように太ももを重ねて肩を2,3回大きく振動させ…絶頂に達した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
心拍に呼応するようなテンポで激しく呼吸を繰り返すと
「駄目、絶対に見せられない…あ、あれは生徒たちの『操』の『死刑宣告書』だもの…はぁ、はぁ、」
そう言って机の上にガックリと倒れこんだ…。
「何だって?…」
「はぁ、はぁ、ハヤトくんに、はぁ、はぁ、その意味が解る?、解る訳ないわよね、…はぁ…」
「ど、どんな事情があっても…はぁ、はぁ、同じ"くノ一"の私からは…絶対に見せられないわ…」
「くそぉ〜、もういい!わかったよ!」
作戦は失敗した。
そう悟るとハヤトはブリーフを下ろし、赤黒く猛り狂った己の怒張を、目の前の濡れそぼった紫色の肉の合わせ目に向け、
先端を『ヌルリ』と潜り込ませると、
一気に刺し貫いた。
次の瞬間、溢れた肉汁が、彼女とハヤトの大腿の触れあう場所にまで滴り出るのを感じた。
「あぁ、いゃ〜ん…」
背骨を伝わって感電するような快感が走り、ミサはハヤトの動きに合わせて細やかに腰を揺する。ピチャピチャと淫らな音が無機質に響き渡る。
ハヤトは片方の脚だけを抱きかかえるようにして腰をグラインドさせミサの自由を奪う。
その脚の太腿から脹脛が一直線に伸び、ハヤトの顔の脇でラメ入りパンプスを履いたままの足がクルクル踊っていた。
ハヤトはガチガチに固まった己の分身が、ミサの女陰の秘肉を巻き込みながら
『ゴッポゴッポ』音を上げて抜き差しされる「絵」を眺めつつも意識は別にあった…。
やがて動きに速度を増したハヤトの腰が、今一度捻るようにしてひと衝きを加えた時、
誇らしげに張り出している彼の雁首が、激しくミサの膣壁を抉った。
その瞬間彼女は悲鳴に近いような大声で果てた事を告げたのだった…。
ハヤトは熱く膨れ上がった肉茎を『バフっ』という音と共にミサの胎内から抜き去ると、
間断なく、机から半分ダラリと垂れ落ちそうになっていた彼女の頭をつかみ、
その赤く潤んだ唇を己の亀頭でこじ開けた。
彼女が肉茎に手を添え、ミサの舌腹が先端の柔らかい部分に吸いつくのを感じると
『ブルッ』と腰を震わせた。
「ンぐっ、ンぐっ、ンぐっ、ンぐっ」
ミサは喉を鳴らしながらハヤトの脈動に呼応する。
言い知れぬ快感に酔いながらハヤトは思う。
『本当、どうしよう…』
第二場
明けて土曜日の朝。本日は休校日である。久しぶりの土日連休とあって、各自思い思いの週末を過ごすであろうことは想像に難くない…幾人かの問題を抱えた者達を除いて。
しきみの部屋。
彼女にとって、これから起ころうとしていることは、云わば「作戦」の遂行にすぎない。したがっていつものように冷静沈着に事を運べばいい…ただそれだけのことの筈なのに、何故かうまくいかない…。
既に左目のアイライン…3度もしくじっっている。
「嫌だわ、私、緊張している…」(柄にもないじゃない!しっかりして しきみ!)
武蔵坊の授業では誰よりも早く丁寧で美しいメーキャップをして見せた…その力を実戦で発揮できないなんて…意味ないじゃないの!
気合いを入れ直し、何とかルージュを仕上げるところまでたどり着く…。
しまった。メークに20分も使ってしまった。
クローゼットから普段滅多に使わないブラックのスーツを取り出すと壁にかけ、一呼吸置くと下着を収納してある抽斗を開けた…。
かなり派手目のフリルのついたショーツと揃いのブラを手に取ると、つい口を開いてしまった…。
「こんな日に、着けるつもりで買ったわけじゃないのにね…」
何故かフッっと笑いがこぼれるのだった。
第三場
ここは霞の里を何百kmと離れた土地、アジア最大のカジノ街を有する中華人民共和国の経済特区マカオ。
メインストリート沿いにある大きなホテルのロビー・ラウンジ。すぐそばではカジノの入り口にスロットマシーンが居並ぶ…。朝の8時だというのに既に混雑は始まっていた。
ボリオーニのスーツをナチュラルに着こなしているその男は、香港版ニューズウィークを眺めながら、左腕にはめたオメガ・シーマスターの針の位置を気にしている。
もう予定の時刻は1時間も過ぎている…。『客』の飛行機は定刻通り到着…、遅れていない筈だった。
傍をギャルソンが通りかかると、男はドライマティーニのお代わりを注文した。
カジノのいいところは朝っぱらからスピリッツをたしなもうと、とやかく言われることがない点だ。
だが、このペースじゃぁ昼飯の前にほろ酔い加減になっちまう…。
すると『フォン、フォン、フォォォォォォン』と、聞き覚えのあるイタリア製3.6リッターV8エンジンの甲高い音が近づいてきた。彼は職業柄、悪い予感を察した…。
音の方に眼をやると、ドギツイ紫色の360モデナが、その後輪をけたたましくホイルスピンさせながらホテルの車寄せに滑り込んできた。
駐車係がドアを開けると、これまたパステルカラーの薄いパープル地に、濃い紫のチェックが入ったボディコンシャスのマイクロワンピースを身につけ、今時どこで買えるのかといったサイズの鼈甲フレームのサングラスをかけた浅黒い肌の大女が降りてきた。
「なんて趣味の悪い…」
云うまでもない、この評価は運転の仕方から始まり彼女の全てを示すものだ。
男は悪態をついた後、残りのマティーニを一気に飲み干し、米ドル紙幣を数枚テーブルに置き立ち上がった。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜 わらわはちゃんとフェラーリが運転できない駐車係には、車を預けられないと、そう言ってるんでありんす〜〜〜〜」
「ですがマァム…こちらに停められたままでは、他のお客様に御迷惑になりますんでぇ」
何やらホテルの前で騒ぎを起こさんとしている大女が件の「ゲスト」である事に間違いないことを確認すると、男はやれやれといった表情でポーターと女の間に割って入った。
「失礼…」甘いマスクを彼女に向けるとポーターに振り向いて男は云った。
「あ、君…悪いんだけど、ミスター周を呼んでくれ、彼ならセミオートマのフェラーリを扱えるから…」そういって1$紙幣をさりげなく渡す…。
「かしこまりました、ミスター…」
「マックスウェル…、ジェームス・マックスウェルだ…」
「ご親切にどうも、マックスウェル様」
ポーターは深々と頭を下げ早足で立ち去った。
「ふ〜っ」溜息もつかの間、紫色の大女に近寄る…
「今ので、自己紹介は省略させてもらっても…いいかな?プリンセス・ロドネイ…」
突然現れてこともなげにトラブルを片づけてくれた紳士に、半ば茫然としていたプリンセス・ロドネイことヒメジ…。
「あ、じゃぁ、貴方がわらわのお相手でありんすか〜〜〜?ヒャ〜〜〜〜滅茶カッコいいでありんすぅぅぅぅ〜」眼がハートマークになっている。
おまけに声が大きい。
何事が始まったのかと人垣が出来かかってきたホテルのメインゲート…、ジェームスは周りに笑顔を振りまきながら、ヒメジを抱えて強引にホテルの回天ドアに彼女を引っ張り込む…。
(いったい何なんだこの娘は〜〜〜〜)
「きゃ〜いきなりホテルでありんすか〜〜〜〜わらわは観光とかもしたいで あ り ん す 〜〜〜〜」
(頼むから静かにしてくれよぉ)
ジェームスのハンサムな顔が、いささか引きつり気味に曇っていくのだった。
第四場
霞の里。ダウンタウンに相当する駅前通りにある喫茶店。
目立たない奥のテーブルで一人待つしきみ…。
注文したコーヒーは、既にすっかり冷めきっていた。
「遅い…」
待ち人の時間観念の無さには既に慣れているつもりだったが、いつもとは状況が違うだけに余計に苛立ちが募る…。
"チリーン、チリーン"
「いらっしゃいませぇ〜」
どうせまた違う人物だろう…、もう5回は裏切られている…、期待せずに入口の方に視線を向けると、そこには待ち望んでいた見慣れた男の姿があった。
万里小路ハヤト である…。
「いやぁぁぁぁ、スマン、スマンすっかり寝坊しちまって〜まぁ〜慌てて走ってきちゃったから…あ、この水いいかな?」
しきみが返事をする暇もなく、ハヤトはオヒヤの水をゴクリゴクリと一気に飲み干した。
(こんなデリカシーの無い奴…滅多にいない…)悪態をつきかけたがぐっと堪えた。
「ひゃーホント、こういうとき自転車でもあれば便利なんだけどなぁ〜〜〜ゴメンゴメン」言い訳ばかりでしきみに話をする切っ掛けすら与えないハヤト。
「いらっしゃいませ」いい具合にウエイトレスが現れた…。が…
「あ、ひょっとしてモーニングサービスってまだある?ある?あっそっ!じゃそれ、
あ〜慌てて出てきちゃったもんだから、何も食ってなくてさ、しきみぃ いいよな?」
「か、構いませんっ」(殺意が湧いてきた…)
しばらくハヤトが落ち着くのを待ってから話を切り出そう…そう思いながら
ハヤトのコーヒーとモーニングセットが来るまでの時間、彼の話に聞き入るふりをして過ごすことにした。
一方のハヤトは、昨夜は校舎での続きを、深夜まで武蔵坊のアパートでハメ狂いながら過ごしていたために寝坊したとも云えない事情があるにはあったので、必死に弁解をでっち上げて話している…そんな必然性は全く無いにも拘らず…。
「ところで〜俺に用事って…何だ?」
コーヒーをずずっと啜りながらハヤトが聞く…。
「せ、先生を男と見込んで頼みたいことがあります…」
「ふん、ふん(トーストにサラダのトマトとレタスを載せている)」
「実は、武蔵坊先生の授業で必要な『関連知識』を得たいので、一回ラブホテルというものを見学したいのです」
「な、なぁにぃぃぃ?」
(ったく、武蔵坊の奴ってば一体生徒に何を教えてるんだぁぁぁ)ハヤトは天井を仰ぐ…。
「早い話、一人では無理…だから万里小路先生にカップルを装ってご一緒して頂こうかと…」
「・・・・」もぐもぐと口を動かしながらハヤトは頷く…。
「あ、あれは?」しきみは窓の外を見やりながら云った…
「ん?何だ」ハヤトが振り返った隙に、しきみは素早く2つの丸薬をハヤトのコーヒーに投げ入れた。
「すみません、学園の方向に狼煙が見えたような気がして…」
「んん、そうか〜気のせいだろう?今日は他の先生たちも出払ってるはずだし…」
そんなことはお前に云われなくても分かっているわよ…そう思いながらハヤトがコーヒーを飲む口元を確認するしきみ
「それはそうと…ご一緒して頂けるのでしょうか?」
ハヤトは暫く考え込むと、ある想いが浮かんだ…これはひょっとすると『件の実施プラン』と何か関係あるかも知れないな と…
(んん、そういえばぁしきみの奴…薄化粧なんかしちゃって、しかも今日はコンタクトか?眼鏡もしていない…それにパリッとスーツなんか着込んじゃって…とても女子高生には見えない…まるで女子アナって感じだ…)今頃気づくアンポンタンぶりだった。
「OK!いいよ。ただし、ホテル代はそっち持ちだぞ〜」
「当然です…私からお願いするわけですから…」
(ったく、お金のことだけはしっかりしてるんだから…)
「では…それを飲んだら行きましょうか…」
ハヤトのカップにはまだ3分目くらいコーヒーが残っていた…。
第五場
ここは霞の森。つきよ姫の東屋…。
相も変わらず御膳の前で味噌汁を啜っているつきよ姫が居る。
「 来 た か ・・・」
そう云う間もなく、ゆすらが二羽の大鷹の脚にぶら下がりながら飛来すると屋根にさしかかったところで手を離した。
「大鷹さんたち〜サンキュ〜〜〜」
ガサガサっと藁葺きをかき分け、ゆすらが天井から顔を突き出す…。
「お待たせ〜〜〜〜」
「こ ら、ワ ザ ワ ザ 人 の 家 を 破 壊 す る よ う な 手 段 で 訪 ね る で な い …」
「ゴメン〜、約束の時間に遅れそうだったんで〜つい…ハイ!持ってきたよ、これ」
ゆすらは毛皮のブーツからSDカードの入った小さなケースを取り出す…。
「そ こ へ 置 け」
つきよ姫は御膳の向こうにあるヒノキの盆を指差した。
云われるままに、ゆすらはそれを置いた…。
「で?どうするわけ?」
「 見 届 け あ れ 」
そう云うと、人差し指を立て左手を正面に、右手を天にかざすと念仏のようなものを唱え始めた…
「 オン ア ウン ラ ケン ソウ カ、 オン ア ウン ラ ケン ソウ カ、」
「 オン ア ビラ ウン ケン、 オン ア ビラ ウン ケン、」
「 ナウ マク サ マン ダァ バァ ザラ ダン カン、
ナウ マク サ マン ダァ バァ ザラ ダン カン、
ナウ マク サ マン ダァ バァ ザラ ダン カ〜〜〜〜〜〜〜ンっ 」
「 やぁぁぁぁっぁ〜!」
次の瞬間稲光が走ると、青白い閃光が藁ぶき屋根を貫いてSDカード目がけて突き刺さる。
「ひゃー〜〜〜なにこれ〜〜〜ホワイトタイガー並みにイリュージョ〜〜〜〜ン」
「 終 わ っ た 」
「 そ れ を 武 蔵 坊 の と こ ろ に 持 っ て い け 」
「ホント〜ホントに大丈夫なの?このメモリー?」
「 信 じ ろ 」
つきよ姫はそう言うと、また一口味噌汁を啜るのであった。
第六場
ここは志能備学園の旧校舎管理人室…。新校舎再建なる以前、臨時校舎として半年ほど再び使用されてはいたが、新校舎も半分が竣工なった今はまた、再び元の資料館としてのみ存在する建物に落ち着いている。
武智はここの責任者として夜半及び休校日にはここで暮らしていたのであった…。
後付けの設備だけあって、管理人室だけは一応近代的設備が充実しているので、教職員宿舎よりは便利が良かった。
志能備学園の教諭陣の中にあって、特にストイックさにおいては群を抜く武智だった。
毎朝のジョギングは日課になっていたし、休校日の土曜も例外ではなく、もちろん忍術の修練にも余念がない。
一通りのメニューをこなし終えたところで、シャワーで汗を流そうと部屋に戻る途上、旧校舎の校門前にひまわりが膝を抱えて座っていたのに気付く…。
「あ、武智先生っ…」ひまわりは立ち上がると
「おはようございます」
スウェット姿の武智に丁寧に挨拶をした。
立ち上がる際、またしてもスカートの奥が武智の眼を貫く…。この娘ときたら、そのような所作には全く無防備がすぎる…。
「うむ、おはよう…。 こんな所で何をしている?」
「先生をお待ちしていました…本当はジョギングに出かけられる前に来るつもりだったんですけどぉ、…寝坊しちゃって…」
ニコリと微笑むとそう言って舌を出した。
(か、可愛い…)
「俺に何か用か?」
「はい、実は…先生にお願いしたいことがあって参りました…」
「ふむ…何だ? 申してみよ」
「ここでは〜ちょっと〜」
何だかモジモジしている。
「では、中の応接室に通す…シャワーが済むまで待てるなら、そこで聞こう、それでよいか?」
「は、はい。待ちます!何時間でも!」
まるで宝くじでも当たったかのような破顔ぶりだ…。
こういう喜怒哀楽が屈託なく出せるところがこの娘の最大の魅力だった…。
だが、それはくノ一を目指す者には聊か弊害であることも事実…。
「では、付いて来るがいい…」
そう言うと武智は校門脇にある通用口のカギを開けにかかった。
第五幕 終わり