第四幕 それぞれの決意  
 
第一場  
あの一日が過ぎてから2日が経過した。昼休み、ひまわりはここ2日間で仕上げた「実施プラン」を手に職員室に向かっている。いよいよ今日が提出期限であった。  
職員室。といっても世間の中学、高校で見られる教職員が一同に詰めた大部屋ではなく、個々にパーティションで区切られプライバシーが保護されている。また、それぞれが大会議室を囲むような配置になっており、スイッチ一つでそちらへ移動できる構造になっていた。  
 
”トントン”ドアをノックする音に武蔵坊が答える。  
「どうぞ」  
 
「失礼します」  
 
「日向さん、待っていたわ…」しぐさで中に入るように促す。  
 
「お待たせしてすみません…、あの、こ、これをお持ちしました…」  
 
1枚のコンパクトフラッシュメモリーの入ったケースを差し出す。武蔵坊はそれを受け取ると自動暗号処理装置つきであるメモリカードリーダのスロットにそれを差し込んだ。  
内容が内容だけに校内LANを使っての、メールに添付して提出できるようなものではなかった、提出は手渡しすることになっている。  
 
しばしPCのモニターに視線を走らせると、武蔵坊はひまわりに振り向き、派手なキャンディカラーで彩られた艶めかしい唇を開いた、  
 
「どうやら決心は固まったようね…日向さん。貴方また一歩成長したのよ…先生うれしいわ」  
 
心よりの賛辞と微笑みを示す。  
 
「あ、ありがとうございます…。」  
 
ただ、宿題を提出しただけなのに〜と、武蔵坊の対応にいささか戸惑うひまわり。  
 
「さてと、問題はこれからよ。ちゃんと実施できる? もし、何か分からないことがあれば、先生、力になってあげるから、なんでも聞きに来て…いい?」  
武蔵坊は両手でひまわりの手をつかむと、それを優しく包み込むようにして諭した。  
 
「はい、わかりました…」  
ひまわりは同性であるにも関わらず、彼女の優しい応対に少し胸を高鳴らせてしまった、初めて感じた「官能」であった。  
 
(お姉さま〜ってこんな感じなのかなぁ)職員室を後にし廊下を歩きながらそんなことを考えるひまわりだった。  
 
 
第二場  
ここはロンドン、MI-6の本部がある王立国防統合庁舎。その最高責任者の執務室でインターカムが鳴る。  
 
「なに?」  
 
「ミセスM、プリンセス・ロドネイからご連絡が入っております。」秘書が伝える。  
「あぁ〜、いけない、すっかり忘れていたワ…。こちらで受けます繋いでちょうだい」  
「かしこまりました」  
 
インターカムが切れると、Mは抽斗を開け(紫色の)『専用線』の受話器を取る。  
「私です…、ここへは連絡してはだめだと言ってあるでしょう・・・・」  
「・・・・あぁそれは済まなかったと思っています。・・・・こちらもお国の用事で多忙なのです」  
「・#$%&()〜※〜※〜skjfばlk$bf*jbdk!jbfck」  
 
相手側はかなり大声でまくしたてている。  
 
「わかりました…すぐに手配するから…、追って連絡を入れますからね、いいですね?もう切りますよ」  
 
受話器を戻し、通話を半ば一方的に切ると「ふ〜っ」と一息大きなため息をはく…。  
コード名"プリンセス・ロドネイ"…彼女が本職に就任してからというもの、この決して大きくはないが小さくもないお荷物には、度々手を焼かされていた。  
だが、大抵の事は議会や国防委員会の稟議が必要な大事には至らないで済んでいる。それに、それ位のことをしてやっても当然の義理が大英帝国にはあった。  
 
しばし正面に飾ってあるアドミラル・ネルソンの肖像画を睨みながらMは思惑を巡らせると、インターカムのボタンを押した…。  
 
「ミス・ペニー…大至急"Double-OH-Five"の消息を教えて頂戴…」  
 
 
第三場  
志能備学園男子校。放課後。校庭にある大きなクヌギの木陰で薬学の本に眼を通してるナナフシがいる。  
 
「そこにいるのはアザミだろ?…隠れてないで出てきたらどうだ?」  
「あっは〜、ばれた〜?」  
幹の向こうからアザミが現れる。男子校生スタイルだった。と言っても余り区別はつかないが…。  
 
「何か用か?」  
「用がなきゃ声もかけられないのかねぇ〜…、冷たい御学友だね〜」  
「今、新薬の研究で忙しいんだよ…、お前とバカやってる余裕はないんだ…」  
 
「あ、そっ…。折角しきみに関する最新情報を手に入れたってのに…聞く余裕はないってか?、じゃぁ〜かえろっかなぁ〜」  
 
ページから顔を上げるナナフシ、その瞳孔はカッっと開かれていた。  
 
「どどどどんな情報かによる…」  
 
聞きたいんだね?そう表情で確認するとアザミが続けた  
 
「私の情報によればぁ〜近々 しきみはある男性に処女を捧げるらしいよ〜」  
 
「な、なんだって〜っ」  
余りの大声に、周囲の者たちが一斉に視線を向ける。  
 
「あはっ〜ビックリしたぁ?ね、すごいでしょ〜、もちろんその『お相手』はぁナナフシクン、君じゃないよね〜」  
 
「バカ言うな、だったらぁ、お、驚くもんか…」  
 
伏し目がちに項垂れるナナフシ…。  
 
「そ、その情報は間違いないんだろうな? お前の持ってくるネタは何かと問題が多いと聞いているが…」  
 
「ところがどっこい、間違いようがなんだなぁ〜これが…何故だかわかる?へへ〜」  
 
「ええいっ、じれったいな早く申せ!」  
 
「それは〜武蔵坊の授業でぇ〜全員が課せられた課題だからで〜す」  
 
「か、課題って、課題でエッチさせられるのかよ女子高はぁ〜〜〜?」  
 
「そだよ!、くノ一養成学校だもん…。色仕掛けができないくノ一なんて  
殆ど役に立たないじゃんかさ?」  
 
愛用のライフルを背中から肩に掛け直すと、アザミはナナフシの隣に座り直す。  
 
「まぁ、既に内緒で済ましちゃってる娘もいるからねぇ、どうということもない生徒が実際1/3は居るんだけどさ…。場合によっちゃ私もその一人だけど…」  
 
男子校は強制されなくても、かなりの生徒が初体験を済ませている。もとよりカリキュラムが用意されているわけもない。おまけに男であれば実地レポートに『どこを、どうされれば、どうなるか?』などの内容は隙の無いものを書き連ねることができる。  
 
「しきみを始め、ヒメジ、ゆすらは純粋培養の試験官ベビー…だから、こういう機会が必要なのかもね」  
 
「そうか…、そう言えばそうだな。そんなこと、すっかり頭から消え失せていたよ」  
「あんた、しきみのこと好きなんだろ?」  
「あ、(一瞬躊躇うように視線を泳がせる)そうだよ、薬学に通じた友達としてな…」  
「ゆ うじん…ねぇ」  
 
アザミは脚元の芝生を撫でながら、ナナフシの精一杯の強がりに、敢えて逆らうことを堪えた。  
 
「なぁアザミ…、この世には白黒とハッキリ分けられるようなことが一体どれだけあると思う?」  
 
突然何を言い出すんだこいつはと思った。  
 
「さ、さぁ〜」  
 
「しきみは『物』じゃない…ちゃんと考えて行動する女だ…俺はそれだけは確信している。  
だから、しきみが選んだことならば、それが正しいと、俺はそう思う…それに…」  
 
ナナフシは本を閉じるとスッと立ち上がり、アザミを見て続ける…  
 
「処女性なんて、そんなもの何のアテにもならないさ…」  
 
 
第四場  
志能備学園女子校に戻る。ソフトボール部の練習紅白試合、レギュラーチーム先攻でゲームが開始された。  
初回表、早速1死走者1,3塁のチャンス到来。  
 
『四番、サード 日向』  
 
ネクストバッターズサークルから打席に向かうひまわり…  
 
「ひまわりー!かっ飛ばせ〜〜〜〜!頼むぞ〜!」ベンチからアザミの声。  
「こら、アザミ!一体どこへ行ってたんだ?」  
バックネットで観戦する武智が怒鳴りつける。  
 
「てへ〜すいません〜すっかり遅れちゃって…俺?いつもの打順?」  
傍らのスコアラーに聞く。  
「アザミさん、6番キャッチャーです」  
試合前の練習中にこっそり抜け出したのがバレバレだったが、実戦で結果を残すスラッガーかつ鉄壁の捕手を務めるアザミにはみんな甘い…。  
 
「ちぇ〜また〜DHだと助かるのになぁ〜、だいたい左利きのキャッチャ〜ってどうなのよ?」  
愚痴りながら自分のヘルメットとバットを探す。  
 
「アンタ程 盗塁阻止率の高い捕手が他に居ればね」他のチームメイトが返す。  
 
「言ってくれるね〜やる気がでるよ〜」ウインクして応えるアザミ…。  
 
その時だ、  
”カァァァァァ〜ン”と乾いた快音がとどろくと、打球はレフトの金網を遥かに超えてグラウンドの外に消えた…。ホームランである。  
 
「いぁやっっっっっっったぁ〜〜〜〜〜〜!」  
「ナイバッチ〜〜〜〜!」  
 
ベンチの全員が叫んだ。  
ひまわりも一塁を回ったところで3塁側ベンチへ向け、軽いガッツポーズと笑顔を見せた。  
 
「どうやら問題は解決したみたいだな…」  
 
相変わらずエロ目線でひまわりの短パン姿を追いながら武智が呟いた…。  
傍らで観戦している やつがしらが言う…。  
 
「どうでしょうか、まだ予断は許されませんよ…」  
 
「はい?」武智は訝しげに問う。あの号泣の件を校長は知らない筈…。  
 
「なんでもありません。こちらのことです」  
 
そう言ってやつがしらは淹れ立ての玉露を啜った。  
 
 
第五場  
放課後の雑用の片付けも終わり、そろそろ帰宅しようと荷物を整えるハヤト。そこへ突然武蔵坊が訪ねてきた。  
 
「ハヤトくん、まだ残っていたのね?」  
「わぁぁぁっ!ビックリしたぁぁ!」  
実のところ、"例の件"でハヤトなりに隠密活動中だったところに彼女が現れたものだから本当に驚いている。  
「何してたの?エロ画像検索?」  
「ちちち違う違う! そ、それより何の用だぁ?」  
 
「忘れたのぉ?今日一緒にお食事する約束よ〜」  
「あ、(すっかり忘れていた)そ、そ、そう、だから今迎えに行こうと思ってたところでぇ〜」  
 
それを聞いた武蔵坊、ハヤトの腰に手をまわし、軽いハグの姿勢で大きな胸をハヤトの背中に押しつけながら耳元で囁く  
 
「嘘、私の事なんか、頭の隅にもない癖してぇ〜」  
「む武蔵坊先生〜ちょっと、ここはまずいでしょ〜〜〜〜〜」  
言いながら背中の感触を喜んでいるハヤト…  
「二人だけのときは『ミサ』でしょ?」  
「あぁそうでしたっけ?  と、とにかく離れて…」  
武蔵坊の腕の中でくるりと反転すると両腕で武蔵坊を押しのけた…。すごい香水の匂いだおそらくはシャネルかブルガリか何かだろう…。  
 
「私〜何だかとっても『したい』のよね〜アレが…」  
 
生徒の『実施プラン』を連日連夜読み続けで、スケベな妄想が頭の中で渦を巻く毎日が続いている…なんてことは口が裂けても言えなかった。  
考えたら4〜50人は居る生徒の「秘事」をデーターとして扱わなくてはならない立場も、それはそれで大変な苦労がある。  
 
「あ、あ、アレって、まさか…」  
「そうよぉ〜コレを使ってすることぉ〜」  
そう言うとハヤトのズボンの前を触り、掌を男根部分にあてがい上下させてきた。  
もう、武蔵坊の眼はウルウルで、まるで準備万端たる"秘貝"を代弁しているかのようだ。  
 
ハヤトもその僅かしかない理性が崩壊しかけてきた。と、その時だ「名案」が浮かんだ、  
いや、成否が判らぬ以上そう結論付けるのは気が早いのだが、この状況下では試す価値ありだ…。そう思いながら武蔵坊の唇を自らのそれで塞ぐのだった…。  
 
 
第六場  
霞の里の森の奥。カクノシンの洞窟。  
 
「ゆすらもうアホロートル並みにわけわかんな〜い」  
 
「そんなこと言ったって〜」米澤が答える。  
「第一、いくらゆすらちゃんが操を通したいって思っても〜僕は森の妖精みたいなもんだから〜ゆすらちゃんと交わることなんてできないんだよ〜」  
 
「あ〜ん、どうしよー」  
 
しばらく沈黙していたが、不本意ながらといった表情で米澤が口を開く  
「こうなったら、その『プラン』どおりに、人間の男性と…」  
「止めて!」キッと米澤を睨みつけるゆすら…。  
「米澤君はゆすらが他の男に抱かれちゃっても、なんとも思わないわけぇ〜?」  
「しかし、僕にとっては最初から必要のないものを『取られる』とかって…概念がありませんから〜僕が愛するのはゆすらちゃんの存在そのものなんです…」  
 
「納得できない…」  
 
「な ら ば 何 も せ ん で も 良 い で は な い か」  
 
「だぁぁぁぁ〜」驚いて頭の皿がずれる米澤。  
「つきよ姫〜、酷いわ盗み聞き〜」  
 
「酷 い の は そ な た 達 の 痴 話 喧 嘩 じ ゃ、  
 森 中 の 妖 精 た ち の 耳 に 届 い て お る」  
 
二人の恥らいが表情に現れる。  
 
「そ の 問 題 、   
 わ た し が 手 を 貸 し て や っ て も よ い の だ が?」  
 
二人は顔を見合わせると、再びつきよ姫の方を見やる…沈黙の中、地下水の滴り落ちる音が響いた。  
 
 
第七場  
夕刻、紅白戦の振り返りミーティングを終えたあと、各々が下校の途に就く。シャワーと着替えを済ませたひまわりが、ロッカールームのベンチに腰をかけキャッチャーミットを磨いているアザミを見て止めた。  
 
「アザミちゃん、まだ着替えてなかったんですね…お先にすみません」  
「あ、いいよ〜アタシこれ済んでから帰っから〜」  
 
何となくその姿に見とれてしまったひまわり、何となく彼女と話していたい…そんな風に考える。なんでだろ?  
「アザミちゃん、ミットいつも大切にケアしてますよね?なんかカッコいいです」  
それを聞いて眉間に皺をたててアザミ  
「何よそれ〜、なんか気持ち悪いぞ、あ〜背筋がゾクッと来た」  
顔は笑ってる。  
「カッコいいってのは今日のアンタのホームランみたいなのを言うんだよ〜凄かったな〜」  
「あはぁ、でも練習試合ですから〜」  
「オイオイ、アタシも3打席連続二塁打の大活躍だったんですけど〜?それにケチつける気ぃ?」  
「あ、いえいえ、そんなつもりは…」  
 
「ひまわり、最近変わったな」  
 
アザミはオイルをウェスに染み込ませながらひまわりを見て言った。  
 
「え?」  
 
「なんか大人になった」  
 
「や、やめてくださいよ〜(頬が紅らむ)アザミちゃんこそ気持ち悪い〜〜〜」  
「あ、そうだ夕方から電蔵さんのスペシャル再放送があったんだ、私、先に帰りますね」  
 
「はいよ、いい週末をね〜」  
笑いながらアザミは見送った。  
一通り作業を終え、部屋の蛍光灯にミットかざしながら塗り残しがないか確認しながら…  
 
「あいつ、可愛いよなぁ〜〜〜」  
 
第四幕 終わり  
 
 

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