第三幕 オリエンテーション
第一場
新造なった志能備学園本校舎、校長室。既に時計は21時を回ってると云うのに、
件の話で校長に抗議に来たハヤトだったが全く受け入れてもらえない…。
「万里小路先生ぇ、先ほどから何度も申し上げている通り、ここはくノ一養成学校です。世俗的なモラルとか道徳とか社会規範とは乖離した独自の教育方針があるのですよ?」
「だぁ〜〜〜っもう、そうじゃなくてですねぇ、実践を無理強いするような、その人権を無視するような方法をとらなくとも、何かやりようがあるじゃないですか〜〜〜〜」
「具体的に仰ってください」
「あ〜…だからそのビデオを見せるとか、武蔵坊先生が実演して見せるとか実施以外でも伝える方法が…」
「ビデオなら既にハイビジョン映像のブルーレイディスクを配布済みです…。ですがあくまでも教材の一つに過ぎません…、こと男女の交わりに関しては実際に経験する以外に最良の道はないのです。万里小路先生?貴方も童貞でなければお解りではないですか?」
そういうと一口お茶を啜る。
「だぁぁぁぁぁっ、そ〜じゃなくてですねぇ〜」
頭を掻き毟りながら、同じフレーズを繰り返し、この取り付く島のない状態で悪あがきを繰り返すだけのハヤトだった。
こういうときの問題解決能力が全くないこの男の、一体どこに織田信長のDNAが存在するというのであろうか?
「ところで先生ぇ、本件は極秘中の極秘の筈…。特に男性教員に対しても特別の権限レベルを持った方しか知りえない情報…。一体どこで耳にしたというのです?事と次第によっては厳重処分を考慮せねばなりません…」
しまったぁ〜と気付いた時には遅かった、筆の子に聞いたとは死んでも云えない…
「あぁ、っとそれは〜(くそっどうしよう〜〜〜)女子更衣室の窓から話声が漏れていたのをですね〜その〜」
キラリとやつがしらのメガネが光る…
「万里小路先生ぇ?まさか更衣室を覗き見していたとでも云うのでしょうか?破廉恥な…」
「えぇ、まぁ(この際仕方ないか…トホホまたこれで減俸かぁ〜)」
でも、あんなカリキュラムの学校で覗きが破廉恥とか…云えるかよぉ〜。
「まぁいいでしょう。貴方も独り身で寂しい夜を過ごす身です。性欲の赴くまま多少のハメを外すのも構いませんが、見つからないようにしてくださいね…。一応貴方も教職にある身…生徒に示しがつきませんから」
「は〜い、以後気をつけます…」(よかった〜処分はなしだ〜)
「話は以上です。おやすみなさい万里小路先生ぇ」云い終わらぬうちに やつがしら は台座のカラクリ人形共々姿を消した。
「ちぇ〜、結局はイイ様に丸めこまれちゃったかぁぁぁぁ」
校長室を追い出されたハヤトは、自分の無力さに今さらながら落胆したのだった…。
「ひまわり…ごめんな…」
そう呟くハヤトだが、これから始まるとてつもない事には当然気付くわけもないのであった。
第二場
霞の里の駅前にあるラブホテル「霞隠館」5016号室…。
既に一戦交えた後の若い男女がベットに横たわってた。
「ふーっ、ご主人様ぁ、一体どうされたのですぅ?…今日のご主人様ったら濃厚で椿はもう腰が抜けそうです」
「そんな商売女のように情事の内容を反芻するでない!…」
鬱陶しそうに椿の手を振りほどくと、武智は傍らのコップにビールを注ぐとグイッと一気に飲み干した。ええい、俺が抱きたい娘はお前じゃないんだ!そう言いそうになるのをこらえて
「お前は俺と婚わうのが望みであったのだろう?その望みを叶えてやってるだけだ…」
毎度の台詞に答えもせず、椿は
「私も喉乾いたな〜、飲んじゃおうっと」そう云うとグラスを手に取った…。
「ダメだ」そう怒鳴ると彼女の手からグラスをもぎ取ると、彼女はもんどりうって床に倒れる…。
「お前はまだ未成年だろう!」
(って、未成年とsexしておきながらその言い草はないな…俺は鬼畜だ)武智はそう思うと自嘲気味に笑った。
「す、すみませんご主人様〜」
椿は尻餅をついた恰好で上身を起こすと、M字に開いた脚と秘部に武智の視線を感じた。
「ご主人様…」
そう言って艶めかしい目つきと半開きの唇から桃色の舌をチョロりと覗かせると左手で陰唇を開いて見せた…。
「まるで隠売女だ…」
武智は椿の股間に跪き、既に淫液があふれた秘腔に舌を這わせる…
『そして俺は外道だ…』心の中で続けると、今抱いてる少女は「ひまわり」だと心に言い聞かせるのだった…。
快感に眉間をこわばらせ小刻みに震える椿…。
彼女は自分だけが武蔵坊の宿題に呵責なく回答を出せると云う事を、よく理解していたのだった…
「ご主人様ぁぁぁぁぁ」やがて激しい唸りに少女の声はかき消される…。
第三場
ひまわり自室。テレビの映像をじっと見つめる…。ブルーレイディスク再生機能付きの薄型42インチだったが、こんなものを見るためにばっちゃが買ってくれたんじゃないっ…。
そう思いながらひまわりは画面で繰り広げられている男女の交わりを見つめてる。
しきみが帰った後、寝つけずにいる彼女は、ついに決心を固め、配布されたくノ一SEXテクニックのビデオ教材を見ることにしたのだ…。
最初は気持ち悪い…ただそう思うだけだったが、無修正の映像は思春期の少女には刺激的である一方、内に秘めた好奇心を掻き立てるには充分すぎる内容だった。
それにこの女優たちの快感に身を投げる表情に、演技と言うには余りにもリアルなものを感じざるに居られなかった。
物心ついた頃から ばっちゃ の女手一つで育てられたひまわりにとって、男性性器そのものが神秘だったし、ましてやそれが怒張し、勃起し、女性器と結合する映像を繰り返し見せつけられれば、嫌でも眼が釘付けになる…。
ひまわりは先ほどから、冒頭の「尺八攻め」のパートを繰り返し、繰り返し見ていた…。
『「男性のペニスは最もかつ直接的に相手の性感に寄与する器官です。貴女はこれをあらゆる手段を講じて刺激し、その技で男性を虜にしなくてはなりません。
さすれば、相手はその技の要求を繰り返すことで貴女の支配下に落ち、必要な情報を獲得したり、思い通りの行動に誘導することが可能となります。』
画面はよく日焼けした筋肉質の男がそそり立つペニスを女優の前に突き出している。
(ハヤト殿もこんなになってるのかなぁ)
ひまわりは画面を見つめながら男優の画像がハヤトの映像に重ねて見えてきた…。
無機質なナレーションが続く…。
『貴方はまず濃厚なキスで男性をその気にさせる必要があります。キスの方法に関しては
第3巻疑似愛編で詳しく述べられていますので参考にしてください。この場面ではディープキスという技法が用いられています』
画面の男女はキスと言うより舌の吸い合いといった感じだったが、何故か判らぬが、女優の舌の周囲を男優の舌がグルグルとまるで生き物のように巻きついている映像を見て
「気持ち良さそう…」そんな風に感じた…。
『キスで刺激された男性の脳は、勃起中枢に信号を送ります。ですが、手慣れた男性はその程度では勃起しません。
そこで貴女は左右どちらの手を使用しても構いませんが、まず着衣の上から股間を刺激しましょう』
第四場
放課後の筆の子との情事のこともあって少々疲労したハヤトだったが、校長との交渉でさらに疲弊していたので部屋に着くなり着替えもしないでベットに崩れ落ちていた。
「ひまわり〜…むにゃむにゃ」
一体この男の彼女への想いは、どこまで真摯なものか測りかねる…。
いつしか夜も明けようとしている。
朝が来ればまたいつもと変わらぬ学園の日常が始まる…。
武蔵坊への「実施プラン」提出期限までは3日…。
「実施レポート」提出期限までは13日を残すのであった…。
第五場
志能備学園の一日が始まる。しきみはいつものように早めに来て教室の隅々まで点検を行い、異常がないことを確認する。
こうして授業に備えるのが彼女の日課となっていた。この辺の抜かりなさは級長としての義務感からではなく、彼女が真のくノ一であることの証しだ。
間もなくクラスメイト達が登校してくる…。
ドヤガヤと現れる級友たちに中にひまわりの姿をみとめると、しきみは彼女の席に歩み寄った。
「あ、しきみさん…おはようございます…」
蚊の鳴くような声でひまわり…。いつもの明朗さは消え失せていた。しかも目を合わせようとしない…。
「おはよう…。ひまわり、大丈夫?かなりやつれて見えるけど?」
「あ、そうですかぁ…でもぉ、大丈夫。昨夜は眠れなくて…で、ビデオを見ていたら夜が明けてしまいましたぁ」精一杯の微笑みを返すひまわり…。
ビデオ?しきみは訝った…いつものビデオ映像のことであれば、ひまわりなら「電蔵さんのDVD」という筈だった…まさか…。
「そう、ならいいけど…昨日の今日だから…余り無理はしないで」穏やかにそう言うと しきみは自席に戻った。
”パン、パン、パン!”と手をたたく音とともに一時限目の教師が現れる…。
「さーみなさん、お喋りはその辺にして席につきなさ〜い」
今日の一時限目は武蔵坊の「一般教養B」だった、聞こえはいいが単なる「女向け色情事」の手ほどきに過ぎない…。
「起〜立、礼っ!、着席!」しきみがハキハキと礼式を進める。
「出欠を確認します…」武蔵坊はそう言うといつものように『いろは順』に生徒を呼び始め出席者を確認すると授業が開始される。
例によって つきよ姫 は居なかったがいつものことだ、誰も気にしない。
「みなさん、今日からはいよいよ奸計学実践のためのオリエンテーションプログラムが始まりますぅ〜。
今回は、やつがしら校長先生自らお越しいただいてお話を伺います。いいですか?みなさん心して拝聴するのですよ…」
噂には聞いていたが、これから やつがしら の「集団睡眠術」が開始される…しきみは姿勢を正した。
かってのナチスドイツのヒトラーの演説を例とするならば、人は大きな嘘ほど騙されやすい…。
これから やつがしら の話すことの真偽はともかく、我ら生徒が術中に落ちるのは火を見るよりも明らかだ、結果は決まっていた。
どうせ避けられぬ道、催眠でも何でも構わないから心の中の蟠りを取り除いてくれるのなら大歓迎だわ…しきみはそう思うのだった。
第三幕 終わり。