第二幕 忍者さん
第一場
夕刻、ソフトボール部のロッカールーム。
ひまわりは練習後の汗を流すためシャワールームにいる。
といっても、胸から腰辺りがようやく隠れるようなドアに囲まれた作りのものだから、アザミにはどこに彼女が居るのかを見つけるのは簡単なことだった…。
「よっ!ひまわり〜」
「あ、アザミちゃん…、待って、もうすぐ上がるから」
「サンキューあ、でも私はいいよ〜寮の部屋でお風呂入るからさ…。
それより今日アンタちょっとおかしくない?」
ドアに両手を添えながら覗き込むように問いかけるアザミ。彼女にはひまわりの身体が少し眩しく映る。
「そ、そうですか?…そういえばミスが多かったかな?へへっ」相変わらず誤魔化しが下手糞なひまわり。こんなんでまともな"くノ一"になれんのかな?そう思いながらアザミは本題に入る。
「ま、いいか、で、武智に伝言を頼まれたんだけど〜着替えたらすぐ顧問控室に来るようにって…。私の情…ってか勘によればぁ〜アンタ間違いなく絞られるよ」
「え、えええっ〜〜〜〜そんなぁ〜」
今日は先生に叱られてばかりの日〜〜〜と、自己嫌悪に陥りかけるひまわり…。
「アハハ、そうしょげなさんなって、私の情報によればぁ〜武智はひまわりがお気に入りだから、そう怒鳴れるようなことはないと思うねぇ〜、まぁアンタの出かた次第でもあるけどさー」。そう言い残すと出口の方へ向かう…
『うひょ〜ひまわりってば前より少し胸が膨らんでた〜』内心そう呟くアザミも男である…。
「お気に入りって?どういうこと〜」ひまわりは武智には風間椿という「従人」が居ることを思い出しながら、アザミの言ったことに矛盾を感じざるを得なかった。
制服に着替え、ひまわりは武智のいる顧問控室に向う。途中、そもそも武智が自分を助けたことが切っ掛けで、この里に来る運命が開けたことを今更ながら思い出し、一瞬閃光が閃いたかのように一つの考えが浮かんだ…。
『そうよ、そうするしかない!だってハヤト殿をお相手に選ぶことはできないんですもの!』
そう心中で叫ぶと、一目散に駆け出すひまわりであった。
第二場
ハヤトの部屋。
汗だくになって絡み合う筆の子とハヤト…。
既にお互い一度果てたというのにまるで十年振りでセックスをするかのように貪り合う二人だった。
正上位、帆掛け舟、松葉崩しに対面座位と一連のラーゲを楽しんだのち、フィニッシュを後背位で迎えようという状況だった。
「筆の子先生っ、筆の子先生っ、ハァ〜、ハァ〜、おおぉぉぉぉ俺もう…」
「い、いいわっ〜来て、来て、万理小路センセ〜来てぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ」
筆の子の腰を引き寄せる手に力が加わり、挿入した肉茎の先端が深く子宮口の側面を撫でるように抉ると、快感が一気に押し寄せ本日二度目の脈動を感じることとなった。
ハヤトは、半開きになった口から涎が滴り落ちんばかりの恍惚の表情。その刹那、筆の子の方も、膣壁は小刻みに収縮を繰り返し、まるでポンプのようにハヤトの漢汁を吸い込むのだった。
「ハァ、ハァ、筆、ハァ、の子、ハァ、ハァ、〜センセ〜ハァ、ハァ、中出しハァ、ハァ、っしちゃいましたけど、ハァ、ハァ、だ、ハァ、大丈夫で、ハァ、すか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、だ、大丈〜夫はぁ、あ、安・全・日〜はぁ、だから…」
「ハァ、ハァ、それにしても、ハァ、筆の子先生のま●こって気持ち良いっすね〜…」
「はぁ、はぁ、わ、私だって一応 くノ一…はぁ、それなりの訓練は はぁ、受けてますわぁ…、ハヤト先生の はぁ、 教え子たちも、いずれは…」
「ハァ?、そ、そうか〜 ハァ、そうでしたねぇ〜それは失礼…」
そういいながら、ハヤトはあのあどけない顔のひまわりも、こうやって男に抱かれて喜声を上げるようになるんだなぁ〜と考えながら複雑な気持ちになるのだった…。
その時、は?っと思うと、ベッドに上半身を預けながら事後の陶酔感に浸りきった表情の筆の子を抱えあげると彼女を引き寄せてこう言った…
「せ、先生っ、その訓練て?どんな?」
まだ"ハヤト自身"は筆の子の胎内で半分怒張し続けたままだが、そんなことも忘れたかのような真顔で聞く。
「あぁんっ!」
まだ痺れが続いてる秘腔の入口に快感を覚えながらも筆の子は答える。
「そ、そんな、学園の極秘中の極秘、授業内容は担当外の万理小路先生にも話せませんわ…」
「そ、そんなぁ〜ひまわりたちはどうなるんだ?」
意図せぬものの、筆の子の膣内で怒張を取り戻したハヤトの如意棒が、これまた意図せぬに関わらず、筆の子の秘孔を衝いたらしい…
「あぅぅ!いや止めてくださいっ!そ、そこは…とても」
何だかわからぬが有意なポジションを得たらしいことは、ハヤトでも察しがついた。
「じゃ、話せ、ひまわりたちはどうなるんだ?」そういうとハヤトは腰を捻った。
「あぁぁぁぁ、わ、わかったわ、話す、話すわよ〜但し技以外のことにしてっ」
筆の子は背後からハヤトの「真剣」に刺し貫かれたまま、上半身を羽交い絞めにされ身動きが取れない状態だ。
「あの子たちは、武蔵坊先生の授業で、初体験の相手を決めさせられ、その相手に処女を捧げるの…」。
「それからその内容を詳細に報告させ、「男を陥れるためにはどうすればいいか」というテーマでその具体策を研究させる…、これが「女体奸計学」の導入カリキュラムなの…」
聞くか聞き終わらぬうちにハヤトは余りの驚愕で筆の子から手を離す…。
振りほどかれた彼女はドサっとベットに身を崩すとその拍子にハヤトの肉茎が『ゴボっ』と音を立てて女陰から抜けた。解き放たれた筆の子は上目使いにハヤトを見やる。
「そ、そんな、相手は誰が決めるんだ?」
「だ、だから本人に決めさせるって…そう言ったでしょ?。自由度は低いの、本来誑かす相手をシミュレートするわけだから好意を寄せている相手や理想の相手はご法度…」
大きく口を開いた筆の子の欲深い洞窟から先ほどハヤトが放ったばかりの滴りがこぼれ出る…
「これ以上は言えないワ…」
大胆にも男の眼の前で股間の粘液を指で絡め取ると、その指をペロリと舐め、悪戯っぽく微笑む筆の子を見下ろしながらハヤトが答える…
「それだけ聞いたら十分だよ…」
第三場
既にすっかり陽が沈み、里にも夜が訪れようとしている。
体育館と同じ棟にある、各運動部顧問の事務室が並ぶ通称"顧問控室"、その「ソフトボール部担当」と書かれたドアの前で一人佇むひまわり…。
考えるより行動が先走る彼女、果たしてここまで一目散に跳んできたが、ノックをする前で今一度逡巡する…。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、ど〜〜〜しよ〜〜〜〜う」
愚にもつかない独り言を呟くひまわり、だが、そこまでうろたえていては気配を悟られぬどころか、ドアの向こうの武智には「丸見え」だった。
「日向だな?何してる入れ!」
いっけないっ!彼はただの教師ではない。超一流の忍者だったことを思い出し、ひまわりは我に返った。
「は、はいっ!」
ドアを開け、恐る恐る武智を見やる…、まず、何よりもここへは武智から呼び出されたのだ。叱られるために…、とりあえず自分の思いをどうするかは、それが済んでから考えるとしよう…。
そう思ったひまわりは幾分気も楽になり、ふうっっと一息つくと
「た、武智先生!日向向日葵只今出頭いたしましたぁっ!」
と半ば叫ぶように直立不動の姿勢を取る。
机に向かってPCのマウスを握ってた武智はひまわりの方を振り向いた…。
「休め!」
どうやら表情を見る限り怒ってる様子はない、またひとつ緊張の材料が消えた。
武智はひまわりに傍らの椅子に座るよう促すと、後ろ手にドアを閉めた。ただし女生徒と1対1になったときの礼として、2cm程空けた状態で完全に密室にすることはしなかった。
(武智先生って紳士だなぁ〜)そう思うと同時に(あ、こんな私でもレディとして扱ってくれてるのかな?)などと浮付いた考えも頭に擡げたのに気付き、勝手に頬を紅らめるおバカぶりだったが…。
「日向…、今日のあのざまは何だ!お前は一応「4番サード」を任されたチームの旗頭だぞ?」
「あんな身の入れ方では他のメンバーに示しがつかん。一体何があったというのだ?」
「あぁぁ」(やっぱりお小言が始まったぁ〜)心中でそう溢しながら
「す、すみませんっ!ちょっと考え事をしてしまってぇ〜本当にすみません!」
(え〜ん泣きそう…こんなんじゃ、例の頼み事も、云うに云えない〜〜〜っ)
いつになく落胆したひまわりを見て武智は
(カワイイ…なんて可愛いんだ…あ、いや!これは只事ではないな)と思った。
「か、考え事って…深刻な問題なのか?」
(当たり前だ、あ〜〜〜何を聞いてるんだ俺という奴はぁぁぁぁぁ)内心では頭を抱ながら武智はひまわりの方を見やった…。
「ば、ばんでぼがりまぜんぅぅぅぅぅぅぅ(何でもありません)」
半泣きだった…。
「おぉぉぉ、おい、泣くな!誤解されるではないか!」
柄にもなく狼狽える武智…。もう遅い、ひまわりは堰を切ったように号泣し始めた…。
「あ〜判った判った、判ったから泣くな」
こうなったら紳士協定も糞もない、武智はドアを閉め、ひまわりの声が廊下に響くのを防いだ。
「お、俺に話せることなら聞くぞ?ん?」
一息ついたひまわりにティッシュBOXを渡すと、武智は優しい声でそう言って彼女の顔を覗き込んだ。涙にうるんだ愛くるしい大きな眼が自分を映していた。
(ああ、なんて美しい眼をしてるんだ…)武智は今にもこの少女を抱きしめたい欲望に駆られ下腹部に血液が集まるのを自覚した…、だが手は出せない…。
「そんば、ぜんぜびにがだぜどぅぼどでばばでぃばぜむ!」
「え?」
「ぜんぜいにはだぜうおどでばがりばぜんっ!!!」
多分『先生に話せることではない』って言っている(あ、そうか、そうだな)
「話せないのか?」
ひまわりはこくりと頷いた…。
「よし、判った、今日のところはもういいから、寮に帰れ。いいな」
「ばい、ぜんぜび…」
ひまわりはそう言って立ち上がると、瞬間捲れ上がったスカートの奥が武智の眼を射ぬいた。
「じづでいじばず」
そう言ってぺこりと頭を下げるとひまわりは部屋を出て行った。
「ああ、堪らん…」
そういうと武智は電話の受話器を取り、掛けなれた番号を押した。
第四場
寮へのわずかな距離の帰り道、一通り泣きじゃくって少し疲れたひまわり…
「本当にどうしよう…好きでもない人とエッチするのなんか嫌だよう…」
思わず本音を漏らしたひまわりだった、だが直ぐに
(あ、しまった)と、溢した本音を後悔した。何故なら自分の部屋の前にしきみが立っていたのに気がついたからだ…。流石しきみ…気配の消し方が半端じゃない。
「しきみさぁん…」
「日向向日葵…待ったわよ」
第五場
部屋にしきみを通すと、洗面所に行き顔を洗いながらいつものように溌剌とした声で
「今〜お茶入れますね〜」とひまわり。いくら優等生のしきみだからといって、自分の悩みを悟られるようなことはすまいと、気合いを入れ直す。
「お構いなく…宵の口のお茶は体に良くない」
「宵の口って、まだ7時前ですけど…」
「ふふ、そうだったわね…そういえば、まだ夕ご飯も食べてない…ってそんな事どうでもいいのよ!」
「しきみさん、最近ノリ突っ込み上手になりましたね〜」ひまわりに笑顔が戻った。
「バカ!そ〜じゃなくてぇ〜、話があるのよ」
(あ〜何でこの娘と話すとこうイラつくのかなぁ…修行が足りないワ)
「はい、何でしょう?」
ひまわりは屈託ない顔でしきみを見つめると、幾分罪悪感を感じたのかしきみは眼をそらし、彼女の顔を見ずに云った。
「私の処女は万里小路ハヤトに捧げることにしたの、だから貴方に一言断っておこうかと…」
「・・・・・・・・・」
ひまわりは声も出ず、ただ唖然と口を開けて放心状態に陥った…。
「正直すまないと思っているのよ…貴方の彼を想う気持ちを知らないわけじゃなし…」
「・・・・・・・・・」
「でも、誑かす相手として、抱かれても私が絶対に気持ちの動かない相手として彼しか考えられなかったのよ…、あ、悪口言ってるわけではないのよ、ごめんなさい…でも…」
「いいでずよ(グスッ)」枯れたはずの涙がまた湧き出てくる…。
「わだしはぁ〜ハヤトどどとは主従のがんげいでず!ガレがぁだでのジョジョをうばぼうと、ばだじのじった事でばありばぜん!」大粒の涙がひまわりの頬をつたって落ちる。
内心去来するものをぐっと堪え、しきみはひまわりの手を取ると
「解ってくれてありがとう…ひまわり…」
そう言って立ち上がる…。
「しきびざんっ!ばってくだざい!」
ひまわりは鼻声ながらも、かなり大きな声で、自室に戻ろうとするしきみを呼び留めた、
驚いて振り向いたしきみだったが、そこには厳しい視線を向けながらティッシュペーパーで顔を覆ったひまわりが座っている!次の瞬間「ジュルジュルル〜〜〜〜〜」っと鼻をかむ余り愉快でない音が部屋を満たしたかと思うと間断なくひまわりが口を開いた…。
「しきみさん!誓ってください!絶対にハヤト殿を好きになったりしないですよね?
いくらタイプじゃないって解ってても、でも、でも、女の子が初めての相手を絶対に気にならないなんてこと、私には想像できません!」
「もし、もし、しきみさんがハヤト殿を好きになったりしちゃったら、私なんか、私なんか絶対にかなわない!敵うわけない!」
「だから、だからここで誓ってください!お願いしますっ しきみさん」
言い終わると、また号泣が始まった。
こんな迫力あるひまわりを見るのは初めてだった…、正直、しきみ自身も驚くほど感情的なひまわりの訴えだった。
しきみはワンワンと泣いているひまわりに正対し、
「ひまわり、ちゃんと見て…」そういうと右手を上げ、
「私、しきみは何が起ころうと絶対に万里小路ハヤトに恋愛感情を抱くことがないと
ここに誓います」とハッキリと言った…。
「ひまわり、これでいい?」
しゃくり上げながら一回こくりと頷くと
「ばりがどう」と一言だけ口にした…彼女には精一杯だった。
「でもね、ひまわり…あなた甘いわよ…」
ひまわりには彼女が何を言っているか解らなかった…。涙が止まらない…。
「私にだって…本当に心から抱かれたいって、望む男が居ないわけじゃないんだから…」
「これで貴方との友情もこれっきりになってしまうのだって…私には受け入れ難いことなのよ?それだけは解って…ひまわり」
そう言ってしきみは部屋を出て行った。
云われて、ハタと気付いたひまわりだったが、謝罪を受け入れてくれる人はもうそこには居なかった。
第二幕 終わり