薬研が草をすりつぶす音がする。志能備学園女子寮の一室、しきみの部屋からである。  
彼女の周りには大量の古びた書物と見慣れない草、何やら黒っぽい粉末、それにヤモリをはじめとした各種黒焼きの欠片が山と積まれていた。  
(ふう。後は混ぜ合わせて固めるだけね)  
一息つくと、額ににじんだ汗を拭った。  
窓より差し込む月明かりは、既に傾きを増し始めている。  
(もうこんな時間か)  
本来ならわざわざ深夜、人目につかないようにする必要などなかった。忍びが薬草の調合をして咎められるわけがないからである。  
ただ、今回は少々事情が異なる。使う草に問題があった。  
あまり大っぴらにすべきではないものが混じっている。  
(ふふ。門外不出の秘薬、効果は如何なものかしら……?)  
すりつぶした粉末を混ぜ、少しばかりの水にその他諸々を加えて丸薬とする。  
この辺りは手馴れたものである。  
(興奮剤ににているけど……)  
薬の効果のほどに思いを馳せながら、しきみは黙々と作業を続けていた。  
 
翌朝、しきみは珍しく授業中に居眠りをしていた。一限はハヤトの一般教養であったから、気が緩んでしまったのかもしれない。  
その気持ち良さそうな寝顔を、ヒメジ達が興味深げに眺めていた。  
「しきみが居眠りなんて珍しいでありんす」  
「本当、正座するペンギン並にレアねー!」  
ペンギンが正座出来るのか、は禁句である。  
「私の情報によれば、しきみ。昨日の夜、遅くまで起きて何かを作っていたみたいね」  
「何かってなんでありんす?」  
「……さあ、そこまでは」  
「そこが分からないんじゃあ、意味がないでありんすよぅ」  
「きゅうりのぬか漬けかしらー?」  
それはない、とあざみとヒメジが声を揃えていった。  
 
「もう、皆さんハヤト殿の授業もちゃんと聞かないとダメですよっ!」  
ヒメジ達の雑談が止む気配のないのを見かねて、ひまわりが小声で注意した。  
が、それで真面目に授業へ取り組むようなヒメジ達ではない。  
「ひまわり、牛丼の作り方をそんな熱心に聞いてどうする気でありんす?」  
「もちろんいっつもお腹を空かせてるハヤトに作ってあげるのよねー。愛だわー!」  
「ちち、違いますっ! 私はただ立派な忍者に……」  
「わらわは牛丼なんかよりRPG七型でも貰った方が嬉しいでありんす! あれさえあればもう何でも木っ端微塵でありんす!」  
「ヒメジ、あんた……。忍者があんな目立つもん持っててどうしようって言うの?」  
「私も米澤君に牛丼作ってあげようかしらー?」  
「牛丼よりカラシニコフさん木製ストックのがいいでありんす!」  
「いや。だからヒメジ、あんた自分が欲しいもんから離れなさいよ?」  
「あのー。皆さん、だから授業を……」  
「でも牛丼よりもやっぱりきゅうりよねー! 今度は何漬けにしようかしらー?」  
ひまわりの抗議も空しく、ヒメジ達の雑談は終鈴が鳴るまで途切れることはなかった。  
 
その日の夜。  
あざみは件の煙筒の下、ハヤトが掘った温泉に来ていた。一日の授業が終わった後、しきみに呼び出されたのである。  
口上は単刀直入、温泉に行きたいから付き合え、であった。  
しかし、肝心のしきみの姿が見えない。約束の刻限はもう過ぎているはずである。  
「まったく、人を呼んでおきながら遅刻するなんて」  
あざみは一通り愚痴をこぼすと、物陰で装束を解きはじめた。どうやら先に浸かっていることにしたらしい。  
素肌の上に一枚、大きな布を巻きつけた。こうしてみると案外華奢なのが分かる。  
「ま、先に浸かってるくらいは良いよね」  
足取りも軽く温泉の隅へ近づくと、ゆっくりと足先より入った。  
「やっぱ、寮の風呂より広いから気持ちいいなぁ」  
そう呟くと、両腕を大きく広げて伸びをした。  
空には満月を少し過ぎた月が浮かんでいる。山の端から顔を出したばかりの月は、まだ少し赤みがかっていた。  
あざみはそのまま暫く月に見入っていたが、あるとき湯が不自然に揺れているのに気が付いた。  
「……遅くなってごめんなさい」  
「うわぁっ!!」  
驚いて振り向いた瞬間、しきみが景色の中から浮かび上がってきた。  
何のことはない、見慣れたしきみの隠形なのだが、油断している時にやられたら流石に驚くのが人情というものである。  
「し、しきみぃ。脅かさないでよー」  
「あら、そんなつもりはなかったんだけど?」  
と、しきみが少しずれていた眼鏡を直しながら答えた。  
「もう、わざわざ姿を隠して背後に寄るなんて悪趣味だよ」  
「爆竹でも鳴らして脅かすよりはいいでしょ」  
「あんた……ヒメジじゃあるまいし」  
「たとえば、の話よ」  
 
二人はそのままヒメジやゆすら、ひまわりに関する他愛もない話を続けた。  
しかし話の途中、しきみは切れ長の目を細めてあざみを見た。  
「そういえば、あなた」  
「ん、なに?」  
「胸」  
「……胸が、どうかした?」  
「前から思っていたのだけど、ちょっと無さすぎる気がするのよね。ゆすらより小さいでしょう?」  
全く無いとも言うけど、と心中で思ったのは秘密である。  
もちろんその理由などしきみは百も承知であったが、今はさも怪訝そうな表情を作りながら水面の下より手を伸ばした。  
が、あざみの体を覆う一枚布の目前で彼女の手は阻まれてしまった。  
「うるさいなぁ。どうせ私は胸、小さいよぅ」  
あざみは少し拗ねたような色を浮かべると、しきみの手を押し戻した。  
羞恥ゆえか、頬の赤みが増しているようにも見える。  
「ふ〜ん?」  
今が良い、としきみは思った。横座りのまま、あざみの方へゆっくりと擦り寄っていく。  
両の二の腕に挟まれた柔肉が仄かに色付き、殊更女を強調しているようにみえた。  
それに気が付いたのか、あざみが小さく後ずさった。  
「あら、なんで離れるの?」  
「あ、あんまりくっつくと……その、うん。のぼせちゃうでしょ」  
「そう? だけど、もっとくっつかないとよく触れないじゃない?」  
「えぇ? 触るって――」  
言い終わるより早く、あざみの首にやわらかな二本の腕が絡みついた。  
緩やかにしなだれかかるしきみの柔肉が、あざみの腕へ体へと押しつけられている。  
あざみは耳の先まで真っ赤に染めているが、敢えて振り払おうとまではしなかった。  
恐らく、動きたくても動けない状態になってしまっているのであろう。  
変に初なところが可愛い、としきみは思った。或いは「そういう」経験が殆どなかったのかもしれない。  
「ししし、しきみっ! ええと……その。暑いから、ちょっと離れてくれない?」  
「嫌よ」  
しきみは左手を水面の下へと沈めると、布越しにあざみの体を撫で始めた。  
「ひぁっ!」  
「ずいぶんと敏感なのね」  
「わわわ、私はそういう趣味はないってばっ!?」  
「あら? そうなの……」  
些か芝居がかった悲しげな語調で――表情はその限りではないが――しきみが小さく呟いた。  
しかしその間も指先はあざみの引き締まった太ももをなぞり上げ、固く閉じられた内股を掠めるように撫で上げている。  
止める気は毛頭ないらしい。  
 
「ところで、そういう趣味って具体的に何のことか教えてくれない?」  
「……何のって。お、女の子同士で……あぅっ」  
「――そうね。女性同士で、というのは一般的ではないかもしれない」  
意味深な笑みを浮かべながら、あざみの眼を覗きこんだ。  
「分かってるなら……んぁっ、止めてって……!」  
「あら、止めちゃっていいの?」  
あざみの内股に触れるか触れないかといったところを柔らかな指先が滑ると、彼の体全体に痙攣にも似た震えが駆け巡った。  
「もっとしたいでしょう?」  
「そんな……んぅっ、そんなことな……ひゃあっ!」  
「うそつき」  
しきみがあざみの耳元で囁いた。  
耳元と内股を同時に責められ、息も絶え絶えといった風にあざみが喘ぐ。  
「し……あぅ、んっ、はぁっ……しきみっ、お願いだから……!」  
「大丈夫よ、止めないから」  
しきみはあざみの首筋に舌を這わせると、同時に布の合わせ目から手を滑り込ませて直に体を弄び始めた。  
「ち、ちがうっ……! しきみっ、本当に……あっ、だめだって、あぁぁっ!」  
あざみの嬌声が一際甲高くなった瞬間、しきみの指が一切の動きを止めてしまった。  
同時に、首筋から顔を離した。  
「あふぅ、ふぁ……し、しきみ? どうしたってのさ、なんか変だよ」  
その問いには答えず、しきみは自らあざみの唇を奪った。  
「――!?」  
あざみが驚いて何か言おうとするも、唇を塞がれていてはどうしようもない。  
やがて苦しげな呻きは熱っぽい吐息へと変わり、眼からは微かに残っていた抵抗の意思が消えていった。  
しきみの舌があざみの舌を絡め取り、口腔中を嬲り尽くしている。  
少しやり過ぎかしら、と最初しきみは思った。しかしあざみの様子からすると、特にやり過ぎといったことはないようにも思われた。  
あざみの方から舌を絡めてくることはなかったが、さりとて拒む様子も見られないのである。  
恍惚としたあざみの吐息が、何よりの受容の印であった。  
しばらくして、しきみがゆっくりと唇を離した。  
あざみの唇から溢れた唾液が、口許を淫靡に彩っている。  
「ぁ……」  
「どうだった?」  
「え。えと……その、すごい甘かった。本当に、ものすごく」  
「そうね、そういう味がして然るべきだもの」  
「――?」  
「結構苦労したのよ。そのままだと不味くて――ううん、それより」  
「しきみ……わ、私」  
あざみが細い腕を伸ばし、ゆっくりとしきみを抱き寄せた。だけでなく、その体を隠す布の合わせ目を解いてしまった。  
「あ、あざみっ?」  
「私、もう我慢出来ない、かも……」  
そう呟くと、しきみの股間に手を伸ばした。  
「やっ、止めっ」  
指が触れた瞬間、あざみが少し驚いたような表情を浮かべた。  
「しきみ……もしかして、つるつる?」  
「――っっ!」  
しきみの顔が一時に赤くなる。  
「ここここ、このばかっ、わざわざ言うなっ!!」  
「可愛い」  
あざみが愛おしげにこぼすと、しきみを抱く腕に力をこめた。  
最初は暴れていたしきみであったが、一分も経つうちには大人しくなった。  
「しきみ。その……」  
言い淀んだあざみであったが、しきみはただ一度だけ小さく頷いて返した。  
野暮なことは聞くな、といったところであろうか。  
あざみはもう一度強くしきみを抱き締めてから、ゆっくりと彼女を抱きかかえて立ち上がった。  
 
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あざみは覚束ない足取りで温泉の縁まで歩くと、柔らかな苔に覆われた大きな岩の上にしきみを下ろした。  
一糸纏わぬしきみの体を、柔らかな光が包んでいる。  
元々色白な肌が、ますます以って白く透き通って見えた。  
「綺麗……」  
あざみが呆けた風にこぼすと、しきみは照れくさそうに視線を逸らした。  
(本当に綺麗……)  
張りのある胸にそっと手を添えると、しきみの体が小さく一度だけ震えた。  
首筋にくちづけを降らせ、胸をそっと撫でる。声こそ出さなかったが、しきみは時折体を震わせて応えた。  
しきみの紅潮した首筋があざみの劣情を激しくそそり、愛撫の熱は徐々に高まっていった。  
「ん……しきみ。足、開いてよ?」  
しきみは顔を赤らめ、いやいやと頭を振るばかりである。  
それだけでもあざみは堪らない思いがしたが、しかしこのままでは続きのしようがない。  
(……そうだ)  
しきみの首筋に舌を這わせ、同時に脇腹を指先でくすぐるように撫で上げた。  
「ひゃっ!?」  
しきみの足から力が抜けた瞬間を逃さず、あざみは自分の足を滑り込ませた。  
「あ、あざみっ!?」  
「へへ、私の情報によれば……」  
と、再度しきみの脇腹を撫で上げる。  
「あぅっ!」  
「しきみはここが弱いかもしれないって、ね?」  
と、更にもう一度撫で上げた。どうも反応が気に入ったらしい。  
「もう、バカっ」  
しきみは顔を真っ赤にして抗議したが、こうなってはもう後の祭である。  
あざみはゆっくりと体の位置をずらしながらしきみの足を押し広げると、濡れそぼった彼女の芯へ舌を這わせた。  
「あっ、ちょっと待っ……んっ!」  
「さっきのお返し」  
顔を上げて無邪気に笑むと、今度は肉芽を舌先で軽く突っつき始めた。  
「んぁっ! あっ、んぅっ、やっ、だっ、だめぇ!」  
あざみは更に舌の動きを早めた。卑猥な水音としきみの嬌声だけが、場に満ちている。  
そうするうちに、しきみの声音が徐々に切迫したものとなっていった。あざみは半ば本能的に、しきみのなだらかな曲線を描く腰を押さえつけた。  
しきみは腰をくねらせて逃れようとしたが、あざみの劣情を掻き立てる以上の験は得られなかった。  
肉芽の上を這い回る舌の動きがさらに激しくなる。  
「んんぅ、ひぁ! やっ! あっ、あぁっ、あぅ――っ!」  
嬌声が途切れると同時に、痙攣の波がしきみの体を襲った。背を仰け反らせ、無意識にあざみの頭をぎゅっと押さえつける。  
いくつかの大波小波が過ぎ去った後、糸の切れた傀儡人形のようにしきみの体から力が抜けた。  
「はぁ……あざ……みぃ……」  
しきみが湿った声で呼びかける。その相手は、もう限界をとうに超えていた。  
共に、蕩け切った眼をしている。  
「……いい、よぅ」  
しきみの精一杯であろう一言にあざみは軽いくちづけを返してから、既にこれ以上ないほど濡れきったしきみの芯に己を擦り付けた。  
 
「ん、ちが……もうちょっと、下……」  
手で導いてやった刹那、あざみの男がしきみを一気に貫いた。  
二人の口から歓喜の吐息が漏れる。そうしてもう一度しきみにくちづけてから、あざみは動き始めた。  
「あ……あっ、あぁっ、待っ……もっと、ゆっく、り……ひぁぁ!」  
しきみの懇願もむなしく、あざみは一心不乱にしきみの中を掻きまわし続けた。  
この期に及んであざみに加減を期待するのは、些か酷というものであったろう。それほどに、彼の頭の中は白濁としていた。  
「はぅっ! やっ、ひぁっ、あぁっ! だめっ、あっ、あぁぁっ!」  
あざみの腰にしきみの足が絡みついた。加えてしきみの中が急激に狭くなり、あざみの男を淫らに締め上げ始めた。  
「んっ、しきみっ……そんな締め付けたら……っ!」  
「んぁっ、いっ、いい……からっ! はぅっ、あぁっ……のままっ、来て……あふぁ! ああぁぁぁっ!」  
その願いを聞いた刹那、神経を焼け切りそうな電流があざみの脳髄に走った。声にならない喘ぎが漏れ、迸りをしきみの奥へと放った。  
数度では終わらぬ、長い余韻があざみの脳髄を焼き続ける。  
「ふぁ……っ、熱……いぃ……」  
焦点の定まらない目でしきみがこぼす。結合部から自然と溢れ出すほどの子種が、彼女の内奥を満たしていた。  
その上に、あざみが力尽きたように覆い被さってきた。  
気こそ失ってはいなかったが、会話も出来ぬほどに疲弊している。その点はしきみも同様であったらしい。二人はしばらくそのままでいた。  
その間も繋がったままである。  
しばらくしてどちらからともなくくちづけを交わし、互いの唇を貪りあった。  
「ん……あざみ、意外と激しいのね……」  
「あはは、我慢出来なくって。しきみの中、すっごく気持ち良かったから」  
「……ばか」  
顔を背けたしきみの頬にくちづける。  
そうやって戯れ合っているうちに、あざみは再び満ちてくるのを感じた。  
「えーと……。あー、もう一回、してもいい?」  
どこか気恥ずかしさの混じった声であざみが言った。しきみは目を背けたまま、顔を真っ赤にしながら小さく頷いただけである。  
それを見てあざみはしきみの腰と頭に手を添えて抱き起こすと、座ったままの自分に跨らせた。  
「あ、あざみ?」  
しきみが問うのに耳を貸さず、あざみは下から突き上げ始めた。だけでなく、胸を舌で愛撫もした。  
透き通った肌と淡い桜色を舌先でころがしながら味わう。少し白濁の晴れた頭の片隅で、あざみはこの上ない充足感を覚えていた。  
「んぅ、胸、ばかりぃ……くぅ……ん、もう!」  
と、しきみが俄かに腰を使いだした。これにはあざみが驚いたが、同時に激しく想念が燃え上がるのも感じた。  
しかしあまり余裕は無い。気を抜けばすぐにでも達してしまいそうな快感が彼を追い込んでいく。  
「し、しきみっ!?……うぁ……ああぁ……!」  
彼女の下半身は恐ろしいほどに滑らかに動き、淫らな舞を舞っているようにすら見えた。  
結合部は二人の愛欲に塗れ、体はうっすらと汗ばんでいる。  
月明かりに隈取られたしきみの肢体すら、今のあざみには危険極まりない刺激をもたらしていた。  
「あぁっ、うぁ、しきみぃ……! あぁぁっ!」  
達する瞬間、無意識にしきみの腰を押さえ込んだ。  
既に子種と愛液で満ち満ちていたしきみの奥へ、さらに自身の欲望を吐き出す。  
二度目というのに、その勢いも量も一度目に引けを取らないほどであった。  
行き場をなくした愛欲が溢れる音と、しきみの嬌態のみが頭の中を占めている。気の狂いそうな思いがした。  
 
「はぁ……ふふ、まだまだ、ね……」  
しきみが肩で息をしながら、あざみの額にくちづけた。  
しかしあざみの男は殆ど勢いを失わずにいた。いや、くちづけを受けて再び勢いづいたと言うべきか。  
あざみの負けず嫌いに火がついた。  
「しきみ、そのまま後ろ向いてくれる?」  
「?」  
「いいから」  
しきみは不審そうにしていたが特に何か問うこともなく、体勢を変えようと動き出した。  
すぐに済んだのは運動神経の良さゆえであろうか。  
ともかく、あざみがしきみのことを後ろから抱きかかえるような体勢になった。  
「……?」  
「大丈夫。じゃ、前に手をついてみて?」  
要は後背位をとろうとしているのである。  
ようやくしきみも気が付いたのか、耳朶を真っ赤に染めながら抵抗を始めた。  
「ちょっと……! やだっ、あざみ!?」  
「ダメダメ。このままじゃあ私の気が収まらないもん」  
単にまだしたいだけなのか、それとも遣られっぱなしでは気が収まらないのか、どちらとも取れる。  
我ながら変な台詞だな――とあざみは口許に小さく苦笑を浮かべると、ゆっくり体を前に倒した。  
一転して下になったしきみであったが、手をつかなかったので腰だけを高く突き上げる格好となった。  
しきみは身をよじって抵抗を続けていたが、あざみは気にせず丸く肉付きの良い尻肉をゆっくりと突き始めた。  
時に浅く、時に深く突き上げる。  
「あぅっ! んっ、だ、だめぇっ!」  
恥ずかしいと途切れ途切れに漏らすも、あざみが聞き入れるはずもない。  
しきみを苔の上に組み敷いたまま、尚も激しく責め立てる。  
「はふぅ、あぁっ、やっ……、あざ、み、あざみぃ!」  
何度も名前を呼ばれるうち、あざみは無意識に責めをさらに加速させていった。  
そうして限界に達しようとしていた時、不意にあざみの男がしきみの芯から抜けてしまった。  
開いたままのしきみの芯から、二人の愛欲が止めど無く溢れ出してくる。  
あざみはそのまま続きを為そうとしたが、  
「ん……待ってぇ……」  
しきみはそれを拒むと、気だるそうに体を起こして仰向けになった。  
「やっぱり、前から……お願い……」  
蚊の鳴くような声で言うと、自分の腕で顔を隠した。  
あざみは自分の動悸を聞いたような気がした。脳が沸騰する、とはこのことかもしれない。  
自分でも驚くほどの弾んだ声でしきみの名を呼ぶと、顔を隠す腕をそっとどかした。  
額に、先ほどのくちづけの返礼をする。  
今度もすんなりとしきみはあざみの男を受け入れた。愛欲越しに粘膜が擦れ合い、堪え難い快感を双方にもたらす。  
しきみの唇を貪りながら、あざみは同時に彼女の奥の奥を掻き回した。  
「あっ、ふぁっ、死ん、じゃうぅっ!」  
唇を離したしきみは、あざみの首に腕を腰に足を絡み付けた。  
あざみもそれに応えるかのごとく、彼女を抱く腕に力をこめた。細いしきみの体が、腕の中で小さく痙攣しているのがわかる。  
共に限界は近かった。  
数瞬の後、しきみが先に達した。今までにないほど強烈にあざみを締め上げ、意識が飛びそうになるほどの快感をもたらす。  
しかし、あざみは堪えた。少しでも長くこのまま繋がっていたいと思った。  
が、それも長くは続かない。  
「あ……ん、ふぁぁっ! あぁっ、待っ……あぁっ! あざみぃぃっ、らめぇぇぇっ!」  
しきみが呂律の回らなくなった喘ぎをあげる。  
全身を震わせての嬌態に、ついにあざみの我慢も限界に達した。  
「んんっ、しっ、しきみぃぃぃっ!」  
しきみの最も深いところで、あざみは三度目の迸りを放った。  
前二回よりも多いのではないかと思うほどの量が、しきみの子宮を焼いていく。夢現で、あざみは今日何度目かのくちづけをしきみに与えた。  
 
 
「ん……」  
「目が覚めた?」  
大きな苔むした岩の上で、あざみが目を開けた。  
「あれ、しきみ……?」  
傍らに座るしきみは既に服を着た後であった。気を失っている間にしきみが着せたのか、あざみも普段の忍装束姿となっている。  
「まったく、加減を知らないんだから」  
「え?」  
「あんなに激しくしたら……その……気も失うってものよ」  
あざみはしばらく呆けたように虚空を見つめていたが、やがて合点がいったのか気恥ずかしそうに頬を掻いた。  
「えー……しきみ? その……」  
「余計なことは言わないの」  
野暮ね、とは口に出さない。代わりに頭を撫でてやった。  
「でも、次はもっと優しくしなきゃダメよ?」  
嫋やかに微笑むと、あざみに寄り添うように寝転がった。  
(まあ、いいか……)  
薬の効果のほどは分からなかったが、結果的には良かったのかもしれない。  
「しきみ」  
「ん?」  
「……いまさらだけど、大好きだよ」  
改めて、長いくちづけを交わした。  
 
 
<おしまい>  
 
 
 
(おまけ的後日談)  
 
 
 
あざみは机に突っ伏し、いかにもだるそうな風体であった。妙に元気なしきみとは対照的である。  
「あら、あざみ大丈夫?」  
しきみがやけにつやつやした顔で問い掛けるも、その返答に普段の力はなかった。  
「あ、あざみちゃん! 顔が土気色してますよ!」  
「某漫画で言うところの死体の顔、ってところでありんすなぁ」  
「某漫画ー?」  
「ふむ、つまりこれだな」  
と、いきなり月夜姫が現れた。どこから出てきたのかは愚問である。  
ゆすらが味噌汁を覗きこむと、そこには某さいとう氏の漫画のある頁が映り込んでいた。ゆすらが二度、三度と納得したように頷いて見せる。  
「へぇ、これのことなの。確かにアユモドキ並にそっくりねー!」  
「ヒメジ……あんたなんでそんなこと――」  
しきみが怪訝そうに問い掛けたが、途中で止めた。聞くまでもない、と思ったのであろう。  
「イェーッヒャッヒャッヒャッヒャッ! わらわもあれくらい強くなりたいもんでありんす!」  
「皆さん! それよりあざみちゃんが!」  
「大丈夫よ、ひまわり。……死にはしないから」  
よもや荒淫でへばっているだけとは言えない。しきみが普段通りの声音で諭した。  
「そうでありんすよひまわり。あざみはちょっとしきみに搾り取られすぎただけでありんす」  
「そ! 猿並に盛っただけだもんねー!」  
と、ヒメジとゆすらがとんでもないことを喋り始めた。  
「ああああああんた達っ、なっ、なんで!?」  
珍しくしきみが取り乱した。  
が、ヒメジとゆすらはにやにやしながら尚も暴露を続ける。  
「何のことはないでありんす。ただの勘でありんすよ?」  
「私はモモ太の報せーっ! えへへへへ?」  
「盛るってなんですか?」  
「って言うかあざみは激しすぎでありんす。いくら薬を盛られてても、あれはやりすぎでありんす」  
「激しい? 何がですか?」  
「ああん、若いって素晴らしいわぁー!」  
「あ、あのー。お話がさっぱり……」  
「この……こんのっ、変態出歯亀がーっ!」  
しきみが焙烙玉に手裏剣、目潰しなどの武器をありったけ取り出し、ヒメジ達に向けて投げつけた。  
が、肝心のヒメジとゆすらはさっさと逃げてしまい、話が分からず右往左往していたひまわりだけが巻き込まれてしまった。  
「ひ、ひまわりっ!?」  
「はぅあー、何でぇ……?」  
しきみはしまったと思ったが時既に遅し、黒焦げひまわりがばったり倒れこんだ。  
介抱しようか出歯亀を追おうか迷うしきみであったが、その顔はどことなく楽しそうであった。  
 
 
<今度こそおしまい>  
 

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