温泉が発掘されてから数日後の夜。あざみとしきみは、二人で温泉に来ていた。
――数時間前。
「私の情報によれば、今夜は満月らしいよ」
あざみはいつものように、まるでスクープ性のない情報を得意げに披露していた。
新聞やニュースを見れば誰にでも、しかも随分と前から知り得たことを、
号外にしてばら撒きかねない程の最新情報だと言わんばかりに、自慢顔でクラスメートに語っている。
「何を今更」
あざみの隣で夕食を摂っていたしきみが、いつもの硬い表情で無愛想に答える。
既に日は沈み、とっくに月は輝きを放っていた。いくらあざみとは言え、何故いきなり、
見れば分かるようなことを言い出したのか。不思議に思ったしきみは、あざみに視線を向ける。
「いやー、だってさー、温泉に浸かりながら桜と満月を眺めたら、綺麗だろうなーって思ってさ」
少女のように瞳を輝かせながら、乙女チックなことをぬかすあざみ。
「そうね……。なら、行ってみる?」
あざみがこのような話題を振ってきた訳を理解したしきみは、あざみの望む返事をしてやる。
「ホントに?! じゃあ、ご飯食べた後、一緒に行こっか!」
――
「うっはぁ、綺麗な満月ー……」
温泉に浸かり、夜空を見上げながら、感嘆の声を漏らすあざみ。
「確かに、綺麗ね……」
満月なんて見慣れたもの。でも温泉に浸かり、桜越しに見える月は、決して見飽きることはない。
「ひまわり達も来ればよかったのにねー」
月を見上げるしきみの顔を横目で見ながら、あざみが呟く。
夕食後、ひまわり、ゆすら、ヒメジの3人にも声を掛けたが、
それぞれに用事があるという理由で断られたのだ。
「夕食も別だったし、あの子達はあの子達で忙しいんでしょう」
表情はいつも通りだが、その声色はどこか寂しそうなしきみ。
「まぁでも、たまには二人で静かにってのも悪くないわよね」
言って、再び月を見上げるあざみ。
「そうね……」
しきみが視線を上げたままで答える。
とは言ったものの、元々お喋り好きのあざみには、
いつまでも無言で満月と夜桜を愉しむことなど出来るはずもなく、
「ナナフシ君も今頃、この月をみてるのかなー……っとか思ってる?」
雰囲気を盛り上げようと、にやけた表情でしきみをからかう。
「五月蝿いっ……!」
のぼせているせいもあるのだろうが、顔を真っ赤にして照れるしきみ。
「ほーんと、しきみってば、ナナフシ君のこととなると弱いねー」
あざみがころころと笑いながら、照れるしきみを見やる。
「……あ……」
しきみは照れを隠すためにそっぽを向いており、あざみの視界に飛び込んできたのは、
蒸気し汗に濡れる、ピンクがかった白いうなじであった。
ドクリっ!と、一瞬心音が跳ね上がり、鼓動が速くなるのがわかる。
(お、女の肌なんて、いつも見慣れてるハズなのに……。おかしいな……。
そ、そうだ! のぼせちゃったんだ。うんうん。)
少し身体の熱を冷ますために、立ち上がろうとするあざみ。
しかし、身体のある部分が変化していることに気付き、再度、勢いよく肩まで湯に浸かる。
(や、やっばぁー! こ、こんなんじゃ、男だってバレちゃうじゃん!)
さすが忍者というべきか、今まで着替えや入浴時は何とか誤魔化していたのだが、
下半身が膨張することは想定していなかったのか、今は自らの性別を猛烈にアピールしてしまっている。
「……?どうかした?」
あざみの異変に気付いたしきみが、不思議そうに尋ねる。
「えっ?い、いやぁあ、な、なんでもないよっ、なんでも……!あ、あははははぁ……」
必死に誤魔化そうとするが、全く誤魔化しきれておらず、むしろしきみに不信感を抱かせる。
「何を隠しているの?」
メガネを外しているため鋭くなっている目つきを、より鋭利なものにして問いただす。
「だ、だからぁ、何でもないってば。しきみの気のせいだって」
言いつつも、下半身の一点を押さえ続けているあざみ。
「そこね……!」
照準を絞り、間髪を入れず手を伸ばすしきみ。
「あ、ちょ、まっ……!」
あざみはしきみの突然の行動に反応しきれず、しきみの指が、あざみが隠していたモノに触れる。
「……? なにかしら?」
しきみはタオル越しに、硬く、それでいて軟らかい奇妙な表面を持つ熱い棒状のモノを優しく握り、
文字通りの手探りで、ソレが何であるかを確かめる。
「し、しきみッ……! だ、ダメっ……、は、放しテッ……!」
今まで自分以外、誰にも触られたことのない部分を、よりにもよって、
一番敏感になっている時に初めて他人にまさぐられ、その事が快感となり、より血液が凝縮する。
「さっきより硬く、大きくなった……?」
先程より硬化し、反りが増したソレを強く握り、手元へと引き寄せるように引っ張る。
「だ、ダメだからっ!は、早くッ!早く離してえッ!」
「いったい何が駄目だと言うの? 貴方のほうこそ放しなさい」
「だ、だから、そ、ソレ……! わ、わたしのっ……!
あ、アッ! ダ、めぇ、も、もォッ……!」
――
数回。しきみの手に収まっているソレが大きく痙攣した。
同時に、あざみがきつく瞼を閉じ、唇をかみ締め、何かに耐えるような表情を見せる。
「な、なに?」
訳が分からず驚きの声を上げるしきみ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
紅潮した顔で、涙目になっているあざみが荒く呼吸している。
「い、いったい、どうし……?」
尋ねようとする途中で、湯船に何やら漂っているのが目に入る。
(湯の花? でも、以前はこんなの……)
そこでしきみははたと気付く、先程まで手中にあった硬い棒状のモノが、一転、
軟体生物の如くしなやかさを発揮していたのである。
「何なの、いったい……ま、ま、まさ、か……」
しきみの顔色が急激に紅く染まる。同時に触れていたモノから手を放し、反転してあざみから距離をとる。
「な、なな、何故もっと早く言わなかったのっ!」
珍しく声を荒げるしきみ。
「私はやめてって言ったと思うけど……? しきみが勝手に……」
呼吸を整えたあざみが、少し落ち込み加減で反論する。
「そ、そんなこと……。分かるわけないじゃないっ……」
優秀で知識も豊富なしきみだが、こと性や恋愛にはとことん疎く、
頭の片隅にある記憶を引っ張り出し、ようやく事を(済んだ後だけど)把握することが出来たのである。
「でも……、これでバレちゃったんだね……。私が男だって……」
――
「いや、バレてたから……」
「Σ(゚д゚|||)」