「……続きを、しよう」
そう言うと、祐一は珠紀の身体を抱き上げ、壁際の机の上に座らせた。
「あ、えと……せ、先輩!?」
机の上に乗せられた珠紀は、祐一の顔を見上げて当惑する。
……突然、何が起きたのか、分からなかった。
いつも、授業が終わると、校門で待ち合わせて一緒に帰る約束になっている。
しかし、この日は珠紀が当番で遅くなるので、昼休みに「先に帰ってていいですよ」と告げると、祐一は「では迎えにいくから」と答えたのだった。
約束通り、放課後、祐一は珠紀の教室に迎えに来てくれた。
そして、誰もいない室内に入ってきた途端、彼は珠紀を抱きしめて……。
「……だって、この間、続きをしようと言っただろう?」
祐一は穏やかな瞳で、珠紀を見下ろして言った。
その途端、珠紀は思い出す。
あの、図書館で……祐一に、身体を触られた時のこと。
「で、でも、先輩、ここは、教室で、学校で……あの、い、いつ人が来るかわからな…」
そう言いかけた珠紀の唇が、突如塞がれた。
綺麗で形のいい祐一の唇が、珠紀のに重なる。直接彼の熱と吐息が伝わり……珠紀は、思わず祐一の腕にしがみついた。
祐一は、キスがうまい。
特に激しいというわけではないが……重ねられただけで、頭の芯がとろけるように熱くなってくるのだ。
「……あっ……」
少し長く口付けた後、祐一は珠紀から顔を離した。
珠紀の頬に手を当て、ゆるく微笑む。
「……瞳が潤んでるな」
そう呟くと祐一は、珠紀の制服の上着の胸についている、組紐の端に手をかけた。
す、とそれを引っ張る。
「せんぱ……だめです……」
珠紀の弱弱しい制止も聞かず、祐一は彼女の上着をはだけさせた。
そして、その下に着ていたワンピースのボタンに指を伸ばす。
……一つ、二つ。
ボタンが外されていくたび、露にされた珠紀の肌が、祐一の目の前に晒される。
ワンピースの前がすっかり開けられ、白いブラだけになった時、珠紀はたまらずうつむいた。
「や……だ、先輩、見ないでください……」
「そんなことはできない」
静かな声で言うと、祐一は珠紀の背に手を回した。
カチ、とブラのホックを外す。
緩んだブラを祐一が上に押し上げると、彼の目の前に、珠紀の二つのふくらみが露出した。
白く、やわらかなその胸に、祐一は黙って視線を落とす。
「だから……っ、見ないでって、言ってるのにっ……」
珠紀は半泣きになった。
大好きな人に、こんな風に眼で犯されるのは……たまらない。
祐一は、珠紀の髪をそっと撫でた。
「……恥ずかしがることは、ない。珠紀の身体は……とても、かわいい」
――穏やかな、声。
祐一のその声を聞いただけで……何か、自分の中で凝り固まっていたものが、消えていくようで。
珠紀の身体からすっと力が抜け、そのまま背後の壁によりかかった。
「珠紀は、白くて……やわらかいな……」
祐一は床に膝をつき、珠紀の臍の上に口付けた。
軽く吸うと、ほんのりと紅く痕が残る。祐一は舌を伸ばし、つ、と珠紀の肌を上まで舐め上げた。
「……あっ……」
珠紀が身を捩って反応する。男に舐められることで、感じているのだ。
珠紀の火照って赤みを帯びた肌の上に、祐一の唾液の痕が光る。
祐一は、舌を珠紀の胸の谷間に這わせると、両手でその乳房を掴んだ。
「あ、嫌、先輩……っ」
祐一は、強い力で珠紀の胸を揉む。与えられる刺激の強さに、珠紀は俯いたまま身体を震わせた。
「気持ちいいな……珠紀の胸は、とても心地いい……」
静かな声でそう言いながら、祐一は珠紀の右の乳首に吸い付いた。
舌を使い、ねっとりと先端を舐める。
祐一の口の中で、柔らかかったその部分が、堅くとがっていった。
「……ゆういち、先輩……」
珠紀の喘ぎ声が、甘く教室に響く。
祐一は更に左手の指先で、残った乳房の先を捏ねた。ほどなく、そちらの乳首も屹立する。
「あ……ああっ……」
窓際のカーテンの陰で、珠紀は唇を噛みながら、祐一の執拗な愛撫に耐えていた。
……ずいぶん長い間、胸を揉まれた後。
祐一は、ふと珠紀の乳房から手を離した。
「……センパイ?」
訝しげに問う、珠紀の声は掠れている。だが祐一は答えず、いきなり珠紀のスカートを捲り上げた。
「せ、先輩!」
珠紀の顔が、新たな羞恥に染まる。祐一の視線は、珠紀の下半身に注がれた。
そこには、露出した下着があり……祐一は、その端に手をかける。
「や、やめてください、せんぱいっ」
珠紀は思わず手を伸ばす。しかし、それより先に、祐一の手が珠紀の下着を腰から引きずり下ろした。
「いやっ……」
珠紀はたまらず両手で顔を覆う。
祐一の手が、するすると下着をひき下ろす……しかし、その動きが、途中で止まった。
「……糸を、引いてるな」
祐一は、淡々と呟く。
声に引かれるようにして、珠紀もそちらを見た。
自分の秘部と、脱がされた下着の間に……粘る蜜が、糸を引いている。
「……どれくらい、濡らしてしまったんだ?」
下着を膝に残したまま、祐一の手が、珠紀の花芯に触れてきた。
これまでの愛撫によって溢れていた蜜を、その指でじっくりとたしかめる。
「ああ……いい感じだな。これなら、もう……」
祐一は満足そうに眼を伏せ――そして、一気にその指を、珠紀の中に突きこんだ。
「……っ……!!」
珠紀の唇から、悲鳴にならない悲鳴が漏れる。
それまでの、甘い愛撫とは違う。――自分の中が、祐一の長い指にゆって抉られていく。
こんな感触は、今まで知らない。
――痛い……痛い!!
「いやあ……先輩、いたいっ……」
珠紀は思わず、祐一の首にすがりついた。
痛さのあまり、ぎゅっと閉じた瞳から、涙がこぼれ出る。
「珠紀……」
祐一は左腕で珠紀の身体を抱きしめ、舌で彼女の涙を舐めた。
「すまない……珠紀……」
そういいながらも、祐一は彼女の中を突く力を弱めることはなく……それから更に、もう二本指を挿しこんだ。
……誰もいない教室に、淫猥な音が響く。
珠紀の身体は、大分祐一の指を受け入れ……痛みよりも、悦びのほうが強くなってきていた。
「……先輩、私、もう……っ」
自身の中をいじられ続けた珠紀は、上気した顔で、切羽詰ったように叫んだ。
「……ああ。俺も……お前の中に、入りたい」
珠紀の言葉を受け、祐一もそう答える。
――彼女の身体に触れ。その肌を存分に愛撫し。乱れた声を聞き、陶然とした瞳で見つめられて。
散々劣情を刺激された祐一自身もまた、既に限界に来ていた。
祐一は、珠紀の中から指を引き抜くと、膝でとまっていた彼女の下着を、濡れた手で引き下ろした。
無理に脱がされた下着は、珠紀の左足首に絡まってとまる。
祐一は、珠紀の両膝を掴み、足を大きく開かせた。
そして己の制服を緩めると、その下から自分自身を取り出す。
固く張り詰めたそれを、珠紀の濡れきった秘部に押し当て、祐一は両腕で彼女の身体を抱いた。
「……入るぞ、珠紀」
そう言うと、祐一は一気に珠紀の中を突き上げた。
「ひっ……」
珠紀の唇から、ひきつった声が漏れる。
指で充分ならしておいたはずなのに、初めて男のものを受け入れる珠紀の中は、やはりかなりきつかった。
震えながら涙をながす珠紀をかわいそうに思う一方、祐一は自身の欲を制御することができず、激しく彼女の中を穿ってゆく。
奥へ。もっと深く、彼女の中へ……。
――その時、だった。
「……祐一? こっちにいんのかー?」
教室の扉を開けて、真弘が中に入ってきた。
行為に陶酔していた珠紀は、思わず現実に引き戻され、目を開く。
祐一と教室でこんなことをしている所を……真弘に見られて、しまったら。
「……おっかしーなー。誰もいねーのか? ……クラスの女子が、こっち行ったって言ってたのになー」
頭をひねりながら、真弘は教室の中を歩き回る。
真弘は、まったく珠紀たちに気付いた様子がない。
……そんな、バカな。
いくらカーテンの陰とはいえ、こんな狭い教室で、真弘に自分たちの姿が見えないはずはない。
「……?」
眼で問う珠紀に、祐一はそっと頷き返した。
(……そうか、祐一先輩の、結界!)
珠紀は、はっと気付いた。
これは、祐一の幻術だ。
多分、真弘が入ってきた瞬間、祐一が結界を張り、自分たちを真弘の目から見えないように隠したのだろう。
珠紀がホッ……とすると同時に、突然、中にいた祐一が激しく動いた。
「……っ……!」
思わず声が漏れそうになる珠紀の口を、祐一が片手で塞ぐ。
見開いた珠紀の目に、苦しげに引き結んだ祐一の唇と、細められたその瞳が映った。
その瞬間、珠紀は理解する。
このままでいるのは……祐一も、辛いのだ。
祐一を、楽にしてあげたい……そう思うと同時に、珠紀の身体から力が抜けた。
途端、祐一は珠紀の最奥を突く。
その激しさに、珠紀は思わず祐一の指を噛んでしまった。
カタン、と机が動いた。
「……誰か、いんのか?」
不振に思った真弘が、珠紀たちの側まで歩みよる。
……いくら、幻術で、隠されているとはいえ。
半裸でつながった自分と祐一の傍らに、真弘が――。
珠紀の理性は焼き切れそうになった。
「いねーよなあ。風か?」
カーテンの陰が無人なのを確かめると、真弘はわずかに開いていた窓を閉め、珠紀たちに背を向けた。
(真弘先輩……ごめんなさい…)
珠紀の心は、何故か罪悪感でいっぱいになる。
しかし、そんな珠紀の注意を強引に自分に引き戻させるように、祐一は再び珠紀を強く突いた。
「あ……っ……」
顔から手が外され、自由になった唇から声が漏れる。
「……くっ……」
祐一は、珠紀の上で苦しそうに一瞬眉をゆがめ……。
――そして、珠紀の中に、己の精を吐き出した。
教室での行為が終わった後、少し休んでから、二人は一緒に家に向かって帰っていた。
いつものように、手を繋ぐ。
「……気持ち悪くは、ないか?」
珠紀を見下ろして、祐一は気遣うように言った。
その言葉の意味を悟り、珠紀は赤くなる。
終わった後。祐一は、珠紀の身体を綺麗に拭いてくれたが……それでも、己の蜜で濡れてしまった下着は湿ったままだったし……珠紀の身体の奥には、吐き出された祐一の精の残滓があった。
「よければ、一度俺の家に寄って風呂にでも……」
「い、いい、大丈夫、平気です!!」
祐一のとんでもない提案を、珠紀は即座に否定した。
そんなことをして帰ったら……家人に、なんて思われるか。
大体、祐一の家族に見つかったら、どうするつもりなんだろう。
「……先輩」
これは、一度きちんといわねばならない、と意を決して、珠紀は口を開いた。
「なんだ?」
「私、先輩のこと大好きで……こういうのも、い、いやではないですけど……」
そこで一度言葉を切り、珠紀は勇気を奮った。
「あの、次からは……もっと、時とか、場所、とか、あの……選んで、くださいね……」珠紀は思い切ったつもりだったが、それでも、結局最後のほうは、もごもごとした小声になってしまった。
「……そうか……わかった」
意外にも、祐一はあっさりと頷く。珠紀はホッとする……が。
「珠紀は、どこがいいんだ?」
祐一は、何気ない調子で聞いてくる。
珠紀は、思わず転びそうになった。
どこ、とは……ば、場所のこと、だろうか……?
(答えられない質問ばかり……する人なんだから……!)
珠紀は、キッと祐一を見上げて言った。
「先輩のイジワル! そんな質問には、答えられませんっ」
「……すまない」
珠紀が頬を膨らませると、祐一は困ったように笑う。
その祐一の微笑みは、珠紀の中の全てを溶かす。……逆らえなく、なってしまう。
(反則だわ、もう)
怒った顔をしたまま、珠紀はすたすたと歩いた。
――「大好き」っていうことは。
相手の全てを受け入れてしまう、呪いみたいなものかもしれない。
……それは、とても、心地のいい……。
【終】