その日、私は体育館に呼び出された。靴箱に名前のない手紙が入っていたのだ。
友達には「モコ危ないよ!」って言われたけど、約束を破るのはよくない。
約束の時間は午後6時で、部活をしてない私からすればちょっと考えて欲しい時間だった。
冬が近づいているからだろうか、辺りは少し薄暗い。私は急に心細くなってきた。
(竜次君には先に帰ってって言って置いたけどやっぱり待ってて貰えば良かったかな…)
(いつもは騒がしい学校も夕方になると寂しいんだな…)
「さっさとすませちゃお」
思わず呟いた私の声は、だれもいない廊下に響いた。
本当に怖くなってきて、ほとんど走るように体育館に向かった。
そのため、着くころには息が切れ掛かっていた。
「誰も…居ない?」
少しだけドアを開けて伺うように覗いてみたけど、誰も居ないようだった。
確認するために私は重たい体育館のドアをもう少しだけ開けてみることにした。
「やっぱり居ない…イタズラだったのかな…」
最後に一応、念のために私は体育館の中に入った。
「着てくれて嬉しいよ モコちゃん」
後ろから急に声がして、慌てて私は振り返った。
そこにはクラスメイトの山田君がいた。
私は先週山田君に告白されたことを思い出した。でもちゃんと返事はしたはずだ。
「山田君、私山田君の気持ちにはこたえられないよ。」
「でもモコちゃん俺のこと知らないでしょ?もっと知ってもらいたいとおもって呼んだんだ。」
伸ばされた手に後ずさるが、ムダだったみたいで、腕をつかまれた。
やっぱり私は女の子で、こんなとき何もできない。
「やだ…触らないで!誰か!誰か助けて!……竜次君!」
「こんなときまで竜次の名前かよ…頼むから俺を見てくれ」
彼の手が私の顎にのばされる。ジョリと音がして、汚らわしいその手は私の髭に触れた。
こんなところ竜次君以外に触られたくなかった。嫌悪感で思わず鳥肌が立つ。
愛おしげに触れるその手に私は噛み付いた。
「なんだよ。そこも竜次のものってか?」
狂ったように笑いながら彼は私を押し倒した。
冷たい床に押し付けられて、反動でめくれあがったスカートさえ元に戻せない。
「やだ!やめて!」
「ねえ、モコちゃん。 モコちゃんから髭が無くなっても竜次は君の事好きかな?」
手に握られた剃刀が彼の本気を物語っていて、私はなす術も無くただ泣く事しかできなかった。