顔と身体を上気させたかおりの息があがっている。  
いつも一緒にいるめぐみと違い普段は女の色香というものに欠けているかおりだけに、  
その姿は扇情的だ。  
しかし、そのあられもない姿を見てさえ、泉水の脳裏には冷静な部分が残っていた。  
 
(・・・前、めぐみに貰ったヤツがあったけど)  
かおりの細い首筋に唇を這わせながら、泉水は箪笥の一番上の左の小引き出しを気にした。  
正確には、その中にある避妊具に。  
「泉水ちゃーん、これなぁんだ?余ったからあげるぅ」と、サディスティックな笑み―――それは凄みすら感じられる悪魔の美貌であったのだが―――を浮かべた  
従姉妹がからかい半分にくれたものだった。  
使い道が特にないまま取っておいたのは、別にこんな日を想定していたわけではなかったけれど。  
それでも、捨てておかなかったことを泉水は自分自身に感謝した。  
かおりが傷つく可能性があることがわかっていて、無しでは抱けない。  
 
でも。  
でも、肝心なものが欠けている。  
かおりの秘所は熱く潤っていたし、泉水の自身もしっかりと上を向いていたし、コンドームもある。  
ついでに言えば、意図していたわけでは全くなかったけれど、羽柴家には今誰もいない。状況もバッチリだ。  
けれど、一番大事なものが、無い。  
 
「なぁ、かおり。嫌だったらはっきり言ってくれ。このままだと、俺本当に襲っちまうから。  
 やっぱり嵐士が好きなんだったら」  
胸のあたりがちくりと痛んだ。  
かおりが嵐士を好きなことなど、前から知っていたのに。応援さえしていたのに。  
息苦しいほど、動悸が激しくなる。  
その胸の痛みと鼓動が、泉水に自分の気持ちを教えた。  
 
(なんだ・・・俺、かおりが好きだったのか)  
 
でも、やっぱり。だから。無理強いなど、出来ない。  
「嵐士が好きなんだったら、俺」  
言葉が出てこない。  
言いたいことははっきりしているのに、喉の奥で気持ちが固まったまま詰まっている気がする。  
正直言って抱きたいけど、このまま無理矢理でも抱いてしまいたいけれど、  
かおりの悲しい顔を見るのは絶対に嫌だった。  
 
そうだ。嵐士に贈るプレゼントやチョコを選ぶのに何軒も何軒も店を回ったのも。  
映画に行くのに、嵐士をうまく誘い出したのも。  
甘いものが嫌いな嵐士にかおりの手作りチョコを食べさせたのも。  
 
かおりの笑顔が見たかったから。  
 
だからその笑顔を曇らせるようなことは、どうしてもしたくなかった。  
何でこんな大事なこと、今頃気づくんだ。俺はバカなんじゃないのか。  
 
「俺」  
「・・・いよ」  
泉水の言葉を遮って、かおりの小さな声がした。  
真っ赤になって、子犬のような瞳を潤ませて、小さな声で泉水の名を呼ぶ。  
「かおり?」  
「泉水ちゃんなら、いいよ・・・泉水ちゃんがいいの」  
自らの言葉に恥ずかしくなったのか、かおりは顔を隠すように泉水の首筋に手を回した。  
触れた頬が、腕が、指先が、デコルテラインが、胸が、・・・どこもかしこもが。  
熱くて、眩暈がする。  
 
「知らねえぞ。・・・でも、やっぱり嫌だと思ったら、ちゃんと言えよ」  
かおりの耳たぶを甘噛みし、左手で乳首をこねこねと触る。  
「ぁ・・・いず、みちゃ・・・あぁんっ!」  
切ない声で呼ばれた名が、泉水の身体の最奥に火を点ける。もう、我慢できない。  
「電気消すから、待ってろよ」  
ドアの脇のスイッチを押す。カーテンを閉めた泉水の部屋が、薄暗い色に染まる。  
泉水は箪笥に隠していたコンドームを取りだし、掌に隠す。  
かおりはと言うと、シャツはすっかりボタンが外れてシーツ状態になっていたし、  
ジーンズも膝のあたりでくしゃくしゃになっている。  
(うわ、エロ・・・)  
「泉水ちゃん、あたしばっかり恥ずかしいんだから!!泉水ちゃんも脱いでよぉ・・・」  
「脱ぐけど!・・・あんま見るなよ」  
学ランを脱ぎ、シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、靴下もついでに脱ぎ。  
最後に、トランクスも脱いだ。  
ゴムを開封する。思っていたよりずっとぬるぬるしたそれが手に触れた瞬間、「あぁ、ゴムだからゴムって言うんだな」とどうでもいいことを実感した。  
 
「泉水ちゃんの、おっき・・・」  
かおりは初めて見る異性の性器に、大きな目を見開いていた。  
小さい頃父親と一緒にお風呂に入ったときに見たものと、全然違う。向きも大きさも。  
知識としては知っていたけど。こんな風になるものなんだ。  
「怖いか?」  
すると、泉水の心配そうな顔が視界に入った。  
優しい泉水。めぐみはいつも、男なんてケダモノだから気をつけろというけれど。  
泉水ちゃんは違うんだから。  
何故だか誇らしいような気持ちになりながら、かおりは笑った。  
「泉水ちゃんと一緒だから、怖くないよ」  
 
その笑顔がやっぱり誰より可愛くて。  
泉水はかおりにキスをした。かおりの秘所に手を伸ばせば、先ほど装着したゴムよりももっとぬるぬると熱い。  
それが嬉しくて、やっぱり可愛くて。  
人差し指を挿れてみる。かおりの中は指が蕩けそうに熱い。  
「あ・・・やぁん・・・ぁ」  
親指でクリトリスをそっと刺激しながら人差し指を抜き差ししてみると、かおりの声が少し高くなる。  
中指も一緒に挿れてみたら、キツイかと思ったけれど意外にすんなりと飲み込まれた。  
「あっあっ・・・あぁっ・・・んっ」  
「きもち、い?」  
泉水の問いに、かおりはやはり赤い顔と潤んだ瞳で泉水を見つめながら  
小さく、でもはっきりと頷いた。  
 
いつもめぐみと政宗が屋上で何をしてるのか知っていたから、  
京介が浮気相手の女の子といつも何をしてるのか知っていたから、  
かおりにも男と女がセックスするという概念はわかっていた。  
でも、それが自分に訪れるなんてどうしても実感が湧かない。  
告白したりされたりして彼氏が出来て、キスをして、それから。  
そうだと思っていた。  
いや、深く考えたことすらなかったのかもしれない。  
だって気持ちがいいのも目の前に裸の泉水がいるのもどこか夢の世界の出来事のような気がして。  
 
「かおり、力抜いて」  
膝を割って泉水の身体がかおりの両脚の間に入る。  
「え、あ、や・・・っ」  
恥ずかしい。そう思い咄嗟に脚を閉じようとする。  
しかし泉水の身体がそれを邪魔する。ゆっくりと身体を傾けて、泉水はかおりの唇を塞いだ。  
「ふぅ・・・んっ」  
甘い甘いキスの味。唇を離して目を開けた。そこには見慣れた泉水の顔。  
白い肌が少し紅潮して、下―――つまり自身の身体の下にいるかおりを見ているために  
額にかかる脱色しているの髪はさらさらで、長い睫毛の下の眼差しは優しくて。  
ああ。  
嵐士じゃなかったんだ。  
はじめに一目惚れしたのは嵐士だったけれど、あたしがずっと好きだったのは。  
・・・あたしがずっと好きだったのは、泉水ちゃんと一緒にいることだったんだ。  
 
そう気づいた瞬間、身体の力がふっと抜けた。  
 
「・・・行くぞ」  
自分の秘所に何かがあてがわれているのを感じる。あったかくて硬いそれが、ゆっくりと自分の中に向かってくる。  
途端、ものすごい痛みが下半身を襲う。  
「・・・っ!!」  
痛い。畳に座らされて、思いっきり引きずられたような、擦れたような痛み。  
「かおり、・・・大丈夫か?」  
「だい・・・じょぶ・・・でも、しばらく動いちゃダメ・・・!」  
心配そうな泉水の顔。  
怖くない。だって泉水ちゃんがこんなにそばにいてくれるんだから。  
かおりの上の泉水は、そのまま動かなかった。  
ただ、かおりの髪を撫で、頬を撫で、首筋に唇を這わせて、キスをしてくれた。  
だんだんと痛みはひいていく。  
ほらね、だって泉水ちゃんがこんなにそばにいてくれるんだから。  
「泉水ちゃん、ゆっくり・・・」  
目と目が合った。  
そのことがとても嬉しかった。  
 
「ゆっくりにして・・・」  
目をきゅっとつぶったかおりが小さくな声でささやいた。  
細い身体に思うまま腰を打ち付けて果ててしまいたいという気持ちが、ないと言ったら嘘になる。  
それでも泉水がそれをしなかったのは、ひとえに目の前の少女が大切だったから。  
「じゃあ、ゆっくりな。奥まで入れていい?」  
「え!!奥までって」  
かおりが目をぱちくりとさせている。  
「もう全部入ったんじゃないの!?」  
「や・・・ごめん、まだ先っぽだけ・・・」  
「そうなの?分かった・・・でもゆっくり・・・」  
かおりが再びきゅっと目を閉じる。  
その仕草が破瓜の痛みを男の泉水にも想像させる。  
もうやめようかとも思う。でも、それが出来る自信がない。かおりがあまりにかわいくて。  
そろそろと身体を押し進める。  
ゆっくりゆっくり、かおりの奥深くに進入していく。  
「ぁ・・・」  
かおりの細い指が、泉水の二の腕を掴んで爪の痕をつける。  
「いず、みちゃん・・・!」  
きゅうっと握られた二の腕と同じように、泉水の心臓がきゅうっと締め付けられた。ような、気がした。  
 
「まだ先っぽだけ」であれだけ痛かったのだから、残りが挿入されるのがどれだけの痛みを伴うのかと、  
かおりは内心戦々恐々としていたのだけれど、それほどの痛みはないままついにすっかり飲み込んでしまったらしい。  
鋭い痛みは鈍い痛み―――鈍い違和感に変わっている。  
「泉水ちゃん、ぜんぶ・・・?」  
「ん・・・全部。痛い?」  
泉水の問いに、かおりはふるふると顔を振った。  
「大丈夫。泉水ちゃん、好き・・・」  
その表情とその言葉、息遣いだけで泉水は絶頂を迎えそうな自分に気づく。  
俺はこんなに、こいつが好きだったのか。・・・本当にバカだ。  
「俺も好きだった」  
今まで好きだった女は、全て嵐士にくれてやった。  
だけど、こいつは。  
かおりだけは。  
嵐士にだって、渡さない。渡せない。  
「かおり・・・!」  
泉水はやはりゆっくりと腰を動かした。そろそろと引き抜き、完全に抜けてしまう手前で折り返す。  
「あ・・・あ・・・っ・・・んっ」  
かおりの腕が首に絡まる。吐息が近づく。  
「泉水ちゃ・・・んあぁっ」  
吐息に少しだけ、嬌声が混じる。痛みに、快楽が混じる声。  
「かおり・・・かおりっ・・・!!」  
泉水は少しずつ腰のグラインドを早くしていく。気持ちいいのは、身体なのか心なのか。  
「あ、あっ・・・!」  
自分の動きにあわせて、かおりの控えめな胸が揺れる。  
白い乳房の上の突起を甘噛みすると、かおりの声が上がる。  
「や・・・泉水ちゃん・・・!あっ・・・きゃ、あ、あんっ」  
首にまわしたかおりの手に力が入る。  
かおりの声、かおりの温度、かおりの湿度、かおりの。  
泉水はだんだんと頭が白くなっていくのを感じる。  
「かおり・・・す、きだ・・・っ」  
そして泉水は、かおりの身体の最奥で、爆ぜた。  
 
 
「ごめん、俺、早かったかも」  
裸のまま布団をかけて、泉水とかおりはベッドの中で寄り添っていた。  
かおりの頭を撫でながら、泉水がもごもごとつぶやく。  
「そうかも。好きっていうより先にしちゃったもんね」  
無邪気ににこにこと嬉しそうに笑っているかおりに、  
そういう意味の「早い」じゃないんだけどなとも言えず、本日もう何度目かわからないキスをした。  
「泉水ちゃん、明日も一緒にかえろうね」  
「ああ、一緒に帰ろうな」  
 
椅子の背に掛けてあった泉水の学ランのポケットから、財布がどさりと床に落ちた。  
長財布からちらりと見える、はじめからこういう関係だったかのように見えるツーショットプリクラ。  
そこに書かれた日付、2005/12/9。  
色んな記念日になっちまったなと、泉水は思った。  
 
 
 
END  
 

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