「なんで他の男となんてデートしたの?」  
 放課後、あたしは嵐士に無理やり体育倉庫に連れ込まれ、ほこりっぽいマットの上で執拗に胸をなぶれて、問い詰められていた。  
 先輩に浮気され、嵐士に犯されたあの最低最悪の日以来、あたしは極力嵐士を避けてたにもかかわらず、昔からの付き合いのためか、  
完全に読まれている行動パターンを先回りされ、結局毎日このように慰み者にされている。  
 
 何度か周りの人に助けを求めた事もあったけど、奴は従兄弟という立場と、周りからの信頼をフルに利用しやがって、うまく切り抜ける。  
親に相談した時ですら、  
「あんた嵐士君の事陥れたいの? だめよそんなわかりきった嘘ついちゃ」  
と、はなからとりあってももらえない。  
 
 最近ではもう半ば諦めていたが、昨日の休日は嵐士が部活だった為、憂さ晴らしに買い物用男の子で束の間の休息を楽しんでいたのだけど、  
どこから聞いたのか嵐士はその事を知っていた。  
 優しげな口調。  
だけど氷のように冷たい視線と、いつもより乱暴なその愛撫に少し怯えを感じるが、あたしは一個も悪い事なんてしてない。  
 
「なんで彼氏でもないあんたにそんな事言われなきゃなんないのさ!」  
 その怯えを絶対に悟られないように、  
いつもの2割り増しで嵐士を睨み付けながら正当であるはずの意見を言った。  
その言葉を聞いた嵐士の口元からフッと失笑が漏れる。  
「彼氏じゃないの? こんなに濡らしといて?」  
 
 嵐士はそう言うと、素早く片手をスカートの中に潜り込ませ、  
ショーツの横から指を滑り込ませる。  
 10分かそこらの愛撫。  
しかも胸を乱暴にこねくりまわされていただけだったのにもかかわらず、  
そこは指の勢いそのまま何の抵抗も無く受け入れてしまうぐらいに濡れそぼっていた。  
 
 それを指摘され、耳までかっと赤くなるのがわかった。  
なんで、こんなになってしまうんだろう。  
優しい愛撫が好きなのに。  
お姫様みたいに大事に扱ってくれる男が好きなはずなのに!  
 
 確かに昔は嵐士の事が好きだった。  
でもそれは紳士で優しくしてくれてたから。  
嵐士のこういう一面も知ってはいたけど、まさかそれが女の子、  
しかも自分に向けられるなんて思っても見なかった。  
こんな嵐士は大っ嫌いだ。  
なのにその気持ちとは裏腹に、体を痛めつけられる度に反応してしまう自分がいる。  
 
「お仕置きしなきゃね」  
 ゾッとするような笑顔で言う嵐士。  
その手には、どこからもってきたのか、犬につけるような首輪とロープが握られていた。  
嵐士は手早くあたしの上着を脱がせ、そのロープで後方に両手を縛り、  
その後はゆっくりと胸を中心に何重にも体に巻きつけるように縛り上げていった。  
そして最後に、首に首輪を取り付ける。  
 
「いい格好だね。めぐみ」  
 両腕の自由を奪われ、自慢の胸はいびつな形で押し出され、  
足こそ自由だが首輪についている紐を嵐士が引っ張っている為、  
少しでも嵐士から遠ざかろうとすると必然的に首が絞まるような体勢にされた。  
 
「そうだな……。政宗先輩はめぐみが浮気したときに  
『語尾にニャーをつけるの刑』  
とかやってたんだって? それやってみてよ」  
「嫌! 絶対嫌!」  
 政宗先輩とは恋人同士だった。  
それにこんな変な格好もさせられてない。  
 
 すると嵐士は手に持っている紐をぐっと引っ張り上げた。  
首輪が持ち上がり、両手を後ろ手に縛られているあたしは  
バランスを崩してその場にうつ伏せに突っ伏した。  
 
「ちょっと! 何すんのよ!」  
 下はマットだったとはいえ、顎を強打しかなり痛い。  
ともすればこの綺麗な顔に傷が付きそうなこの行為にあたしは声を荒げて怒りをぶつける。  
 
「わかってないね。めぐみに拒否する権利なんてないんだよ」  
 しかしそれを完全に無視し、至近距離でひもをぐいぐい引っ張りながら  
嵐士は諭すようにあたしに語りかけた。  
 
「嫌だって言ってんでしょ!」  
「ふーん。あくまで逆らう気なんだ。まあそのくらいの方がこっちとしては面白いけどね」  
 そう言って嵐士はあたしの視界から消えた。  
 
 その直後、おなかの辺りをぐっと引っ張り上げられ、無理やりひざ立ち状態にされる。  
顎と両膝の3点で全体重を支える事になり、かなり苦しい。  
なんとか体勢を戻そうとするが、ひざ裏を嵐士の足で押さえられ、  
紐を引っ張られている状態で、あたしの力では一寸たりとも動かなかった。  
 
「もがいても疲れるだけだと思うよ」  
 嵐士はあたしの短いスカートをピラりと捲り上げ、ショーツをずり下げた。  
ぐしょぐしょに濡れていたショーツを下ろすと、濡れたその部分がひんやりとした空気にさらされ、  
あそこがきゅっと硬直するのがわかる。  
 
「すごいねめぐみ、太ももの方までびちゃびちゃだよ。そんなにいい?」  
 クスクスと笑いながら、嵐士はその愛液をのばすように太ももを触り始めた。  
 
 もう30分くらい経過しただろうか?  
嵐士はさっきからずっと太ももや腰周りをさすり続けているが、肝心なところは絶対に触れない。  
冷たい空気にさらされているはずなのに、あそこは火がついたように熱く、  
先ほどから絶え間なく愛液が溢れ、ヒクヒクと収縮しているのがわかる。  
 
「……も……だめ……」  
 嵐士にそれを求める事はプライドが許さない。  
その気持ちだけでここまで頑張ってきたけど、どうしようもなく耐え切れなくなったあたしは、  
息も絶え絶えに救いの手を求めてしまった。  
 
「なにが? ちゃんと希望を言ってくれないとわからないよ」  
 嵐士は待ってましたとばかりに、そんな台詞を吐く。  
「やめるか……入れるかしてよ!」  
 前半は、プライドのかけら。  
それでも、ここまで言わせられた屈辱に唇をかみ締める。  
 
「やれやれ、さっき言った事もう忘れたの?   
今は『語尾にニャーをつけるの刑』中だよ。それにそれって人に頼む態度じゃないよね」  
 嵐士はとんでもない事を言い出す。  
「……やめるか、入れるかしてくださいニャー」  
 でも、もう我慢できないあたしは、消え入りそうな小さな声で、そう呟いた。  
 
「聞こえなーい」  
「やめるか、入れるかしてくださいニャー」  
 頑張って少し声を大きくする。  
「ん? やめて欲しいの? それに入れるってどこに、何を?」  
 
 どこまでも意地悪な奴。  
「――あたしのあそこに、嵐士のおちんちんを入れてくださいニャー!」  
完全にやけくそになったあたしは、そう叫んだ。  
「良くできました」  
 嵐士に貫かれたあたしは、その一突きだけで盛大にイッてしまった。  
 
 
 このままだと、あたし、おかしくなっちゃう。  
その夜、あたしは先輩の家の前に来ていた。  
大喧嘩したあの日以来、久しぶりだ。  
あの後、学校では嵐士から逃げ回っていたのもあって会わなかったし、  
何度かメールを貰ったけど、返す気もなくて放って置いていた。  
   
 少しためらいながらチャイムを鳴らす。  
するとドタドタと音が聞こえ、飛び出すように先輩が出て来た。  
「めぐみ……!」  
 久しぶりに会った先輩の綺麗な顔は少し憔悴していたけど、  
あたしの顔を見たせいか、目だけは輝いていた。  
 
 その後、先輩の部屋に通されたあたしは開口一番、  
「抱いて」  
 と言った。  
 
 先輩は何か言いたかったっぽかったけど、それよりも一刻も早く、  
先輩の優しい愛撫に溺れたかった。  
 嵐士の痛めつけるだけのSEXなんて綺麗さっぱり忘れられるように――。  
 
 2時間後、あたしは二人の関係が終わった事を肌で感じていた。  
あたしの体は何をされてもカラカラに乾ききっていた。  
あんなにも好きだった先輩の愛撫なのに。  
ついこの間までは体の奥からとろけるように感じていたのに。  
 
 それでも無理やり先輩の唾液で準備し、事に及んだが、  
先輩はプライドを傷つけられたせいか、入れている途中で萎えてしまった。  
それから二人はベッドに横たわっているまま無言だ。  
 
 先輩を見ると少し泣いている様に見えた。  
先輩も同じ事を感じたんだろう。  
 あたしは、静かに服を着て立ち上がり、  
「先輩、さよなら」  
 そう言ってもう二度とこの手で開かないであろうドアをそっと閉じた。  
 
 
 先輩を傷つけ、自分の中の変貌に傷つき、一晩中泣いた日から一週間たった。  
何故かあの日から嵐士はぴたっとあたしに手出ししなくなった。  
クラスでも関係を持つ前と同じような態度。  
 
 まるで昔に戻ったような不思議な感覚。  
だけどあたしの体だけは昔と違っていた。  
授業中に嵐士を見るだけであそこは濡れ、夜になると嵐士を想い一人でする。  
応援部で激を飛ばす嵐士を見て、自分に向けられてるように想像し、学校でしたことすらあった。  
 
(もう、戻れないのならいっそ――)  
 その日あたしは覚悟を決め、通いなれた道を行き、嵐士の家に向かう。  
数分で辿りつく距離なのにもかかわらず、体の奥から絶え間なくしたり落ちる愛液は、  
あたしのお気に入りの靴下までもを濡らしていた。  
 
「待ってたよ」  
 おばさんに通され部屋に着くと、嵐士は優しくそう言って抱きしめてくれた。  
それだけで涙が出るほど嬉しくなる。  
   
 これってもしかしたら、コイなのかもしれない――。  
暖かい嵐士の胸の中で、あたしは幸福感に浸りながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。  
 
完  
 

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