その日  
羽柴泉水と立花香織は同じ電車で家路についていた  
 
お互い部活後、  
夕方の車内は帰宅途中のサラリーマンやOL、学生達が多く目につき  
ほぼ満員に近かった  
 
つり革につかまってダルそうに立つ泉水  
その右側に 彼の不機嫌そうな顔を斜めに見上げながら楽しそうに立つ香織  
香織は泉水の伏せたまつ毛の長さに感心していた  
(いつ見ても長!! めぐみ並? もっとかも…)  
 
香織にとっては泉水は好きな人の弟、  
一緒にいると 泉水の日常会話から大好きな嵐士の生活を垣間見ることができたり  
大好きな嵐士の情報が他のライバルの娘達よりかなり早く手に入ったりといろいろ都合がいいのだ  
そんな打算的な動機を抜きにしても、女の子のように可愛らしい泉水の外見は  
可愛いもの好きの香織にとって 近くに置いて見つめていたいと思わせる価値のあるものだった  
 
ガタンガタン ガタンガタン  窓の外を見知った景色が過ぎていく  
 
泉水は自分の身長にコンプレックスを持っていた  
双子の兄弟なのに180cmを超える長身の兄に比べ、自分は160cmそこそこ  
隣に立たれると20cmの絶望的な身長差  
京介とかえみかとか兄の嵐士とか とにかく自分より背の高い者が周りに多い中、  
自分より明らかに背の低い香織は 隣に立つと気の休まる存在だ  
普段周囲に対して尖りがちな態度も、香織といると少し丸くなる気がする  
 
お互いそういう心地よさを感じ、  
自然と一緒にいることが多くなる二人だった  
 
―ガタン―― 電車が大きく揺れ 2つ目の駅に停車したところで、またどっと人が乗り込んできた  
 
「うわ…っと、泉水ちゃん大丈夫?」  
香織が泉水を気遣う言葉をかけながら必死でつり革にぶらさがり人垣の圧力に耐える  
「ああ……(おまえこそ大丈夫か?)」  
泉水も言外で香織を気にしつつ 細い足を踏ん張って二人分のスペースを死守しようと頑張る  
夏の薄い制服に包まれた身体と身体がくっついて、なんだか照れくさい   
息苦しい車内の中で 自然と会話は途切れた  
 
(………またかよ……!)  
2つ目の駅を発車して わずか数分後  
背後から不愉快な体温を押し付けてくる何者かの粘っこい気配に、泉水が舌打ちする  
”痴漢”  
泉水にとってはよくあることだ  
 
中身はいたって普通の少年らしい思考を持ち  
愛想悪く口も悪い勝気な性格の泉水だったが、その華奢で人目を惹く外見は  
けしからぬ輩どもに「男でもいい!」と思わせる威力をもっていた  
 
長いまつ毛に大きな瞳  
校内3大美少女に数えられる従姉妹の藤原めぐみとそっくりの愛らしい顔立ち  
ふわふわの猫のような、薄く脱色した長めの髪の毛  
女の子のように細くて白い手足  
小柄でしなやかな身体  
どうにかすると、  
ビジュアルとは裏腹にガサツで乱暴なところのある従姉妹のめぐみよりも  
可愛らしさで褒められたりする  
 
その泉水の尻を、  
明らかに男物の大きな手のひらが覆い やわやわと指を動かし揉んでくる  
耳の後ろで 興奮に高まる荒い息遣いを確かに感じ 鳥肌が立つ  
 
(アホか!!男のケツ触って何が楽しいんだよ!!)  
再び舌打ちして いつものように思い切り手を振り払ってやろうとしたその時  
泉水は隣の香織の様子が変なことに気付いた  
 
顔を下に伏せて肩を震わせている  
結い上げた髪の間から見える耳は真っ赤に染まっている  
 
(……まさか香織も!?)  
 
そういえばいつの間にか自分の尻を撫ぜる手は片手になっている  
細身で小柄な香織と泉水のぴったりくっついた身体の後ろには、大の男なら一人しか立つ余地はない  
(同じ奴に同時に触られてる?!)  
その考えに行きついた時、泉水の股間にズクンと熱が走った  
普段なら絶対に痴漢ごときに触られて起こる反応ではない  
振り払おうとした痴漢の手はそのままに、泉水はつり革を握り締め  
隣で揺れる女友達の細いうなじに見入った  
 
2つ目の駅を出た電車がスピードを上げ始めた頃だっただろうか  
 
初めは後ろの人の荷物が当たっているだけかと思っていた  
しかし今確実に  
スカートの上を自分の尻を狙った何者かの手が這いずり回っている…  
香織は初めて遭遇した痴漢の行為に 声も出せず硬直していた  
 
男に性的な目を向けられ下心で迫られるのに慣れっこのめぐみなら  
衆人環視の中でも「痴漢ウゼェ!!只で触んなよ!!」と1発怒鳴って蹴りでもいれられただろう  
えみかなら痴漢の指の2,3本折っているかもしれない  
頭の中では女友達の勇ましい痴漢撃退想像図がまざまざと浮かび  
「早く抵抗しなくちゃ!」という指令がこだまするのだが、  
香織にできるのは  
自分の身の上に起こった事件を周りに悟られないように大人しく俯き  
泣くのをこらえて もじもじと耐えることだけだった  
隣の泉水の存在も、恐怖と恥ずかしさのあまり、香織の中から消えていた  
 
全く抵抗できない香織の様子に気を大きくしたのか  
痴漢の手は今や短い制服のスカートをめくり上げ  
ショーツ越しに香織の柔らかい尻たぶをすくい上げ小刻みに揺らしたり  
手のひらで全体を包んでいやらしく揉んだりと  
好き放題にその行為をエスカレートさせていた  
 
半袖の白いセーラー服に身を包んだなかなか可愛らしい小柄な少女と  
親しげに傍に立つ半端じゃない美少女顔をしたちょっと生意気そうな美少年、  
その二人を同時に触っていることに痴漢は異様な興奮を覚えていた  
少女の方は初めてのことなのか、真っ赤な顔をして俯いたきり  
肩を震わすだけで可哀想なほど萎縮してしまっている  
少年の方はこういったことには慣れている様子で尻に触れてもビクともしなかったが、  
少女の方も同時に触られていることに気付くと  
焦った顔で彼女の微かな反応に目を奪われている  
 
少女の必死に耐える様も少年のそれを見る表情も  
素晴らしく痴漢の情欲をそそるものだった  
自然と少女を責める手の方に力が入る  
この少女にいやらしい声を出させたら少年はどんな顔をするだろうか…  
 
4つめの駅に停車したとき、二人への痴漢行為はまだまだ続いていた  
 
こんなに痴漢に好きなように触らせてやっているのは  
怖くて何も抵抗ができなかった小学校低学年のとき以来だ…  
今自分の尻の割れ目で上下している指が 隣で香織の同じ部分を同じようにまさぐっているかと思うと、  
泉水のズボンの中で 前がどんどん固く熱く変化していった  
 
しかも、今自分をまさぐっている痴漢の手はおそらく左手  
そして自分の右隣に立つ香織を弄っているのは多分右手  
自分を触る 緩慢で、どこかたどたどしい指使いからして、この男の利き手は十中八九右手  
…香織を触っている右手  
 
香織の身体が 自分をまさぐる手の更に器用な方で弄ばれているかと思うと、  
ズボンの中の泉水がますます硬化する  
 
泉水の勘は当たっていた  
男はより器用な方の手で、香織の下半身をねちねちと嬲っていた  
 
太い中指がショーツの上から尻の割れ目を何度も往復し  
だんだん奥の方へ移動していく  
湿った部分に近づくにしたがって、指の動きは直線的なものから円をえがくように変わる  
指の動きは大きく、今にもショーツのへりを引っ掛けて中へ侵入してきそうだ  
(いやー…!!)  
 
(そんなところ 絶対にいや……!!!!)  
絶体絶命のピンチに、  
意を決した香織のか細い腕が そろそろと上がり  
助けを求めるようにギュッと泉水の制服の半袖を引っ張った  
自分の隣には泉水という頼りになる男の子がいたんだった  
 
「!!」  
我に返った泉水が香織と男の間に身を割り込ませる  
男の手は泉水の身体に進路をさえぎられ、それ以上の侵入をあきらめ後退する  
すんでのところで危機を救われた香織は   
痴漢の顔が見えない程度に控えめに振り向き、ホッとした表情で泉水に感謝の視線を送る  
(何やってんだ俺は……早くこうしろよな…)  
安堵の息をつく香織の肩を見下ろしながら、泉水が唇を噛む  
自己嫌悪で 熱く充血していた前の幹が萎えていくのが分かる  
 
その勢いで、後ろに振り向いて痴漢をキッと睨んだ  
 
香織は、  
子供のころから人より目立つ容姿のせいで痴漢にあったり誘拐されかけたりと  
何かと災難にあってきた自分が珍しく気を許せる希少な友人  
 
(痴漢ごときが触っていい女じゃねーんだよ!!!)  
犯人の顔めがけて殺意のこもった視線を送ってやると  
二人の後ろに陣取っていた20代後半くらいの太り気味の男は  
電車の揺れに乗じてこそこそと身体を動かし姿を隠した  
 
(もう安心だぞ)  
まだ微かに震えている香織をガードするように  
泉水は彼女の背中に重なるようにぴったり寄り添って立った  
(もう誰にも手ぇ出させないから…)  
 
5つめの駅に停車した時だった  
 
入れ替わる人の波に押され、  
前に立つ香織のヒップに泉水のまだ半勃ちの膨らみが触れた  
(うわっ 柔らか……)  
痴漢のせいでお互い敏感になっているところ同士が擦れ合い  
また泉水の前が充血し膨らんできた  
(なに考えてんだ俺!!これじゃ痴漢と一緒だろ!)  
ガタン…!   
「きゃっ!」  
香織から離れなきゃと思いついた瞬間、発車の揺れで   
泉水の身体は意思とは逆の方向に傾いた  
香織の柔らかい尻肉に泉水のすっかり固くなった部分がますますめり込む  
「…っ」  
自分の尻に埋まっている固い異物が泉水の男の部分であることに気付いたのか  
香織のうなじがうっすらと汗をかいて赤く染まる  
短いプリーツスカートは後ろから密着されずり上がり  
剥き出しになったショーツの端と そこから覗くむっちりした香織の白い足のつけねが  
泉水の視界を占領する  
 
鼻先では香織の結い上げたポニーテールが揺れ、泉水の劣情をくすぐる  
(やべぇ…なんかすごい気持ちいい……)  
前の膨らみを香織の尻に挟まれたまま、泉水は  
手をのばして香織の胸に触れたい衝動と戦っていた  
あの控えめな胸をぎゅっと掴んで このまま腰を振って香織の尻に自分の塊を  
ぶつけて擦り上げたら どんなに気持ちいいだろうか  
 
今泉水の陰茎は香織の尻の割れ目に沿って上部分にのしかかっている状態だ  
この固く熱を持った自分の分身を衣服から露出させ  
もう少し下へずらして香織の内股にねじ込んで前後にしごけたら  
どんなに気持ちいいだろうか  
(なに考えてんだ俺は……!変態か!)  
想像だけで発射しそうになりながら、  
泉水が首を振って妄想を打ち払う  
泉水のズボンの中の先端はしたたかに濡れ 内側から下着を汚していた  
 
柔らかい香織の尻肉に  
まだ食いついていたいのを我慢してそろりと身を離すと、  
香織がフーッと長いため息をつく  
うなじはますます透明な汗をうかべてまぶしく光っていた  
肌に張り付いた後れ毛がいつになく艶かしく見え、泉水は生唾を飲み込んだ  
 
冷静になってきた泉水の頭がこの数分を振り返って反芻し 後悔を始める  
事故的接触にしては長くくっつきすぎた  
もしかしたら無意識にグリグリと押し付けるような動きをしてしまったかもしれない  
もしかしたらさっきの痴漢のような無様な息遣いを香織に聞きとられたかもしれない  
香織はいつまでも尻に張り付いていた自分のことをどう思っただろうか  
よりによって香織に  
自分が一番嫌で気持ち悪いと思っている行為をヤッテしまった  
今香織はどんな顔をしているのか…もう口をきいてもらえないかもしれない   
最低なことをした……  
 
いくら美少女然とした外見の泉水だからといって、中身は健康な十代の少年なのだから  
本能としては当たり前の現象と心情と行動だったのだが、  
一方的に性欲を押し付けられる不快さを嫌というほど思い知っている泉水にとって  
それを友人の少女にやってしまったという事実は、絶対に許しがたい愚行なのであった  
激しい罪悪感と、香織が今自分にどういう感情を持っているかという気がかりが  
泉水に暗くのしかかる  
 
泉水が絶望感に苛まれぐるぐる悩んでいるうちに、電車は二人が降りる駅へ滑り込んだ  
 
プシュッ――  
ドアが開くと、同じ駅で降りる人の波が泉水と香織を飲み込んで外へ押し出した  
いつもなら逆流する人垣にぶつかってなかなか出口に近づけない小さな香織の手をとって  
外へ引っ張りだしてやるのが泉水の仕事だった  
しかし今日は顔もまともに確認できない  
視界の端に映るスカートや手提げバッグで 確かに自分の近くにいることは分かるのだが、  
ホームに降り立ち周囲から人の塊が消えてもどうしても  
泉水は顔を上げて香織の顔を見ることができなかった  
いつも自分の前で笑っている香織の顔が、痴漢に便乗したような自分の所業のせいで  
ちょっとでも曇っていたら…と思うと怖くて確かめられない  
自己嫌悪でその辺に落ちている小石にでもなりたい気分だった  
 
「泉水ちゃん」  
優しい声の呼びかけに、  
泉水がハッと顔をあげる  
「………………」  
 
「さっき、助けてくれてありがとね」  
香織は屈託なく微笑んで言った  
「………………」  
 
「…や、別に………。  
ていうか、ごめん………………当たってたろ」  
真っ赤になりながら泉水が応える  
かなり前からちょっと涙目になってたらしい 目の端が熱いのに今頃気づく  
(よかった……香織怒ってねーし 泣いてない)  
 
香織もつられて真っ赤になって首を振る  
「別にっ……狭かったし 電車揺れて動けなかったし それに、  
(泉水ちゃんのはそんな嫌じゃなかったから……)」  
途中で言葉を切る香織に 泉水が不思議そうな目を向ける  
 
(泉水ちゃんもやっぱりちゃんとついてるんだね…)  
赤い顔で更に口に出せない感想を密かに繰り返す香織  
初めて痴漢に遭って怖かった、けれど、泉水が助けてくれた  
やっぱり男の子なんだな って思った  
そのあとくっついてて、何か気持ちよかった  
 
「明日も一緒に帰ろうね!」  
香織が可愛く笑って  
泉水の腕に触れる  
 
「ん…」  
ごく身近な人間にしか分からない程度の嬉しそうな声色で  
泉水がつぶやく  
 
他人に嫌われたらどうしようなんて生まれて初めて考えてしまった  
(らしくねぇ………)  
香織と別れてからも  
長い間治まらない顔の赤らみが泉水を困らせた  
 
-終わり-  
 

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