いつもと同じ、何も変わらない。  
朝起きて学校に来て、嫌な先生にバカにされて……でも我慢して……。  
つまらない毎日。  
トラブルを避けて、何を言われても愛想笑いして……ただ平凡に、静かに過ごすためだけの毎日。  
そう思ってたんだけど、この日は少し違ったんだ。  
 
 
 
 
いつもと同じ……そんなことを考えながら昼休みにボンヤリと廊下を歩いていた時、  
前方から段ボール箱二つを抱えてフラフラしている人が歩いてきた。  
危ないな、今にも躓きそうになってる……そう思った瞬間、「きゃあっ!」その人は躓き前のめりに倒れ  
 
「あっ! 危ないっ!!」  
 
そうになったんだけど、咄嗟に動いた僕が正面から段ボール箱を支え、その人が転倒するのを  
何とか防ぐことが出来た。我ながらよく間に合ったなと思う。  
お世辞にも痩せてるとは言えないし、誰に訊いても“デブ”と言われる体型してるから  
こんなに素早く動けるとは思わなかったんだ。  
 
「ま、間に合ったぁ〜っ、大丈夫ですか?」  
「え、ええっ、ありがとう……ええ〜っと、確か一年生の……平野君……だったわね?」  
「は、はいっ、一年の平野コータですっ、」  
 
僕とその人は箱越しに向き合い言葉を交す。  
眼鏡を掛けた少しキツそうな雰囲気の、腰まで届く長い髪を背中で一つに束ねているその人は、  
確か卓球部の顧問の林京子先生だ。  
普段はあまり話す機会の無い先生だけど、この人は誰に対しても等しく厳しい人で、  
特定の誰かを選んで……例えば僕みたいな生徒でも厳しく接する事は有ってもバカにする事はない。  
厳しい先生ではあるけど、僕をバカにする“アイツ”とは大違いだ。  
とにかく困ってるみたいだから手伝おう。  
 
「あの僕っ、運ぶの手伝います、」  
 
持ってみて分かったけど、この箱は凄く重い。  
中には本がギッシリ詰まってたから当たり前なんだけど、これを女の人が運ぶのは結構キツイと思うな。  
林先生って気は強くてもやっぱり女の人だから力はそんなに無いだろうし、二個同時になんて無茶だ。  
 
「平野君ありがとう、助かるわ」  
「い、いえ、」  
 
僕はどちらが重いか確かめて重い方の箱を持ち上げると、林先生の後に付いていった。  
図書室に運ぶみたいだ。  
その後本棚に整理しながら直すとのことだったからそれも手伝ったんだけど、  
なんだか凄く褒められた。大した事をした訳じゃないんだけどね。  
 
「平野君くらいよ、こうやって自発的に手伝ってくれたのは」  
「そうなんですか?」  
「ええ、先生が重そうな荷物を運んでるっていうのに誰一人声を掛けなかったわ、本当に近頃の子は……」  
「はは……」  
 
普段からキツイ雰囲気だから近寄りがたいのかも? って思ったけど口には出さないでおこう。  
それに先生が言ったように見て見ぬふりっていうのは、現代社会じゃ当たり前のようになってて、  
進んで人助けをしようとする人は少ないし、僕だってそういうところ……無い訳じゃない。  
 
「ねえ平野君」  
「何ですか?」  
「良かったらこれからも手伝って貰えない?」  
「本を運ぶのをですか?」  
「ううん、色々とよ。実はこんな感じで昼休みとか放課後に結構する事が有るのだけど、私は卓球部の顧問もしてるから手が足りないの」  
 
雑用みたいなのかなぁ? 確かにこういう重い物とか運ぶのは林先生一人じゃ危ない。  
それに昼休みは基本的に一人だし、放課後も特にやることなんて無いし……  
 
「いいですよ、僕で良かったら手伝います」  
「ありがとう平野君ッ!」  
「あっ、えっ、い、いえ、そんな、」  
 
喜ぶ先生がギュッと手を握ってきたんだけど、女の人に手を握られるのなんて初めてだったから  
思わずドキドキした、林先生みたいな美人なら尚更だ。  
 
 
藤美学園に入学して一ヶ月、普通に生きていたいからと我慢して過ごしていたいつもと変わらない毎日。  
そのいつもと同じ日々に“林先生”が入ったことで、僕の嫌なことだらけだった“いつも”は変化する。  
それが、何を置いても守ろうと誓った、僕の大切な人との時間の始まりだった……  
 
 
 
次の日からほぼ毎日のように昼休みや放課後に手伝いをするようになった僕に、  
林先生は“いつも手伝ってくれてありがとう”とお弁当を作ってきてくれるようになったんだ。  
さすがに悪いと思ったし、恥ずかしいのもあるから断ったんだけど“それじゃ自分の気が済まない”って  
言われたので断るのも悪いと考えを改め、先生のご厚意に甘えることにした。  
実のところ凄く嬉しかったりする。僕なんかが女の人に弁当を作ってもらえるんだから。  
自分のことは自分が一番分かってる。「女の子がお弁当作ってくれるなんて僕に限っては絶対無いッ!」  
悲しいけどそう言い切れる程に……。  
お礼としてではあったけど、良い思い出になりそうだ。  
それにあれ程キツイ、厳しい、怖い、ってイメージがあった林先生だったけど全然そんなことはなくて、  
相談に乗ってくれたり、悩みを聴いてくれたり、こうして毎日お弁当を作ってくれたりと凄く優しい人だった。  
今では学校に於いて何でも話せる唯一の人で、家族以外では一番親しい人となっている。  
学園生活で一番楽しい時間は林先生と過ごしている時間だとハッキリ言える程、  
僕の“いつも”には無くてはならない人になった。  
 
 
 
 
そして夏休みが過ぎ夏の暑い空気が消え、涼しくなり始めたとある休日前の放課後。  
いつものように林先生の頼まれごとをしていたんだけど、  
この日は色々とやることが多かった上に、先生は卓球部の方で手が離せなかったから、  
終わった頃には日が落ちて、もうすっかり暗くなっていた。  
 
「ごめんなさい平野君、すっかり遅くなってしまって……」  
「先生も卓球部の方が忙しいんですから仕方ありませんよ、それに僕は好きで先生のお手伝いしてるんですから」  
「平野君…」  
 
そう、好きでやってるから僕的には何の問題も不満も無い。  
楽しいからこうして毎日お手伝いしている訳で。  
けどそれじゃ先生は納得がいかないみたいだ。  
 
「平野君、この後時間空いてるかしら?」  
「ええ、空いてますけど」  
 
この後は夕食を食べて自分の部屋に帰って寝るだけなので、空いてるかと言われれば空いている。  
 
「良かったぁ〜、それじゃ、お詫びという訳じゃないけれど私の家で夕飯をご馳走するわ」  
「せ、先生の家でですかッ!?」  
「そうよ。何か問題でもあるのかしら?」  
「い、いえ、ありませんッ!!」  
 
本当は教師と生徒が食事って不味いんじゃあとも思うんだけど、先生の作ってくれるお弁当って美味しいから  
先生の手料理を食べてみたいとも思う訳で……。  
というよりも、まさか夕食に誘われるなんて思わなかったよ。  
で、結論としては悩む余地無く夕飯をご馳走してもらうことになった。  
先生のお誘いを断るなんて選択は有り得ない。  
 
 
「ご馳走様でした!」  
「いいのよどうだった、私の手料理?」  
「凄く美味しかったですよッ!」  
 
普段から良く食べる方だけど、あまりに美味しいからいつも以上に食べてしまって、  
動けなくなってしまった。  
でも、その後がちょっと困ったことになったんだ。  
いや、これはラッキーなのか?  
食い過ぎで動けなかったのと、消化してからもついつい長話をしてしまい、  
予想以上に遅い時間になってしまったのだ。  
それで「もう遅いからそろそろ寮に帰ります」って言ったら「今日は泊まっていきなさい」  
と言われてしまい、僕の外泊許可も既に取っているから大丈夫だと伝えられ、  
結局、林先生の家に泊まる事になったという訳なんだけど……。  
さすがに女性の部屋に泊まるなんて想像した事もなかったから、  
嬉しい以上に緊張してしまって、その後の会話がしどろもどろになってしまい、  
ロクに話しが出来なかった。  
 
 
風呂に入らせてもらった後、風呂から上がった僕は寝室に案内され、  
置いてあるベッドを使わせてもらえる事になった。  
疲れているのもあって、早速布団に潜り込み部屋の電気を消す。  
でも疲れている割に直ぐには眠れそうになくて、ベッドの横に置いてあった電気スタンドを付け、  
暫くの間携帯と睨めっこをしていると、入り口のドアが開いて先生が入ってきた。  
 
「平野君……起きてる?」  
 
掛けられる声に対して僕は反射的に寝たふりをしてしまう。  
僕の返事が無いからか、先生は何も言わずに部屋に入ってくると、  
化粧台の前に座って頭に巻いていたタオルを取り、濡れた髪をドライヤーで乾かし始めた。  
湯上がりの先生はバスローブ一枚だけの凄く無防備な後ろ姿を曝している。  
当然身体の前面は見えないけど、普段から先生に接し続けている僕には、  
妄想で十二分に補完出来るから問題ない。  
とまあこんな風に寝たふりをしていた僕は、どうしても気になって少しだけ目を開け、  
先生の後ろ姿を見続けていたんだ。  
盗み見なんてダメだと思っても気になるから仕方ない、僕だって思春期の健全な男だから……。  
ドライヤーのスイッチが切られ、温風に煽られていた髪の揺れが止まった。  
どうやら髪が乾いたようで先生はヘアブラシを手にし、髪を梳いていく。  
“シュッ シュッ”と髪を梳く音だけが静かな部屋で聞こえていたけど、  
その音も数分の間だけで、化粧台の上にブラシが置かれる音がした。  
先生が椅子から立ち上がった瞬間、僕は慌てて目を閉じ、再び寝たふりをする。  
部屋を出るにしろ何にしろ、こっちを振り向くから目を開けていると起きているのがバレてしまうからな。  
僕を起こさないように気を遣ってくれたのか、先生は足音を殺して静かに歩を進めているようで、  
全く何も聞こえない。  
時間を数えて一分くらい、もう大丈夫だろうと目を開けた僕の視界に飛び込んできたのは……  
 
「おはよう、平野君」  
 
ニッコリとステキな笑顔を浮かべている林先生の顔。  
 
「うわァッ! な、なな、どうしてっ?!」  
「さっきドライヤーを当てている時、鏡越しに平野君の目が開いているのが見えたのよ」  
 
思わず布団から飛び起き慌てふためく僕に、悪戯が成功したかのように嬉しそうに説明する先生。  
簡単なトラップに引っ掛かったような気分だ……。  
 
「ご……ごめんなさい……」  
 
たとえ裸じゃなくても女性の姿を盗み見するのは良くないと考え素直に謝る。  
 
「別に謝らなくてもいいのよ、先生は気にしていないから。でも平野君も男の子なのね……」  
 
盗み見した事を気にしないように言う先生は、僕も男なんだと感心するように言った。  
先生は僕の事どう見ていたんだろう……? 僕だって思春期の男なんだから、  
風呂上がりの女の人が近くになんか居たら気が気じゃなくなるし、意識だってする。  
ましてや先生みたいな綺麗な人だと尚更だ。  
 
「でも、三十女の私の身体なんて見ても楽しくないで「そ、そんなことないですっ!!」……え?」  
「その、林先生はとっても美人で、す、スタイルも良くて……」  
 
三十歳だからと自分を見ても意味ないなんて言おうとした先生に大声で言ってしまった。  
しょうがないだろ、僕は先生が素敵な女性だって思うし、  
先生に自分の事をそんな風に言ってほしくないから。  
 
「……平野君……ひょっとして私の身体が見たいの?」  
「ええっ?! い、いえ、そのっ、」  
 
言ってから気づいた、今僕が言ったのは“先生の身体が見たい”のと同義であることに。  
普通なら“そういう意味じゃないです”って否定するところだと思うけど、  
先生が美人、スタイルが良いっていうのは事実だし、確かに先生の身体……見てみたい。  
 
「み…見たいです…」  
 
先生の前では正直な自分で居たいと思う僕は、素直に言った「見たい」と……。  
すると先生は無言でバスローブの紐を解いて脱ぎ捨て、僕の目の前で一糸纏わぬ姿になり、  
その肢体を惜しげもなく見せてくれた。  
 
「……どう?」  
「……」  
「平野君……?」  
「ハッ?! そ、そそその、うう、美しいですッ!!」  
 
いきなりの事と、あまりに綺麗な林先生の身体に見惚れて、口をぽか〜んと開けたまま、バカみたいにボーッとしてて、  
先生の問い掛けに答えるのが遅れてしまい舌まで噛んだ。  
今は解いている腰まで届く艶やかな長い髪は、電気スタンドの明かりに照らされて光沢を帯び、  
僕の手には収まりそうにないメロンみたいに実った大きな胸は、形も良くて張りもあり、  
その頂点に有るピンクの乳首がぷっくりと膨れている。  
流石は卓球部の、運動部の先生らしく、腰や脚にも無駄な肉なんて付いて無くて、  
腰は細く括れ、脚もスラッと伸びていた。  
それでいてお尻の方にはしっかり肉が付いているから不思議だ。  
女の人の裸を生で見るのなんて初めてだけど、とても三十歳だとは思えない。  
モデルでも出来るんじゃないだろうか?  
 
「林先生……」  
 
こんなのを見せられたらいくら僕でもジッとしている事なんて出来なくて、  
花を求める昆虫みたいに吸い寄せられ、たわわに実った大きな膨らみに手の平を乗せていた。  
 
「んっ…」  
 
勝手に胸を触った僕だけど、先生は怒らない。  
ただ小さな声を漏らして自分の胸に触れている僕の手を優しく握り、僕の居るベッドの上に乗ると、  
顔を近づけてきて……そのまま僕の唇は先生の唇に塞がれて(…って!? ええ!!?)  
 
「ん、んっ、ちゅ…」  
 
(き、き、きすっ、きすっ?!)  
いきなりのキスに頭の中が大混乱になる。  
その間、先生は唇を触れ合わせているだけじゃなくて、啄むように動かして、  
積極的なキスを展開、身体を硬直させていた僕に分かったのは、  
先生の唇の柔らかさと、キスというものがとても甘酸っぱく、  
気持ちいいものであるという事だけ……。  
その感触に酔い痴れていると、やがてゆっくりと先生の唇が離れていき、  
僕の湿った唇に部屋の空気が触れた。  
 
「ごめんなさい、いきなりキスなんてして……」  
「そ、そんなっ、僕の方こそ勝手に胸を触って…、」  
 
キスした事を謝る先生、でも僕はキスされて嬉しかったから良いんだ。  
それを言うなら先に先生の胸を勝手に触った僕の方こそ……でも先生は謝る僕を制する。  
 
「別にいいのよ平野君になら……。でもどうしちゃったのかしらね……」  
 
そう言って微笑む先生を見ていると、さっきからドクドクと早鐘を打っている僕の心臓の音が、  
耳に聞こえそうなくらいに大きく強くなってきた。  
 
「他の誰かだったら、こんな恥ずかしくて破廉恥な行為絶対に出来ないし、したくもないのに…」  
 
そこで一度言葉を切った先生に僕は抱き寄せられる。  
服越しに感じる大きな胸の感触は柔らかくて温かい……だけど、今はそれに夢中にはなれない。  
僕の肩に頭を乗せてしな垂れている先生の、次の言葉が気になるから。  
 
「平野君は……。平野君はこんな私をどう思ってるの?」  
「……………せ、先生はとても優しくて、僕みたいな奴でも平等に接して、悩みとか聴いてくれて」  
 
先生が訊いてきた“どう思う?”っていうのは、たぶん今僕が言ってるような事じゃないと思うけど、  
自然と普段から思ってる事が口を突いて出て来た。  
 
「入学してから普通に過ごしたいからって、特定の教師とかクラスメイトにバカにされても我慢し続けて、心から楽しいって思える事が無くてっ、」  
 
こんな事を言いたい訳じゃないのに、半分学園生活の愚痴になってる。  
だけどこれは話さないと、話しておかないといけないんだ。  
 
「でも林先生は、そんな我慢だらけでつまらない毎日を楽しいものに変えてくれたんです」  
 
そんなつまらない学園生活で、唯一にして一番楽しい時間が先生と過ごす時間。  
先生が居るから我慢ばかりの学校が楽しい場所に変わったんだ。  
 
「先生と一緒に居るだけで楽しくて、先生の側に居たくて、その……なんて言ったらいいか……、」  
 
難しく考えなくていいんだ。ただ単純に、シンプルに  
思った事を、心に浮かんだ一つの言葉を口にすればそれでいい。  
どんなに考えても最後に辿り着くのはその感情。  
いつもの僕なら恥ずかしくて言えないその言葉。  
だけど、今言わなかったら二度と言えそうにないし、そうなったら一生後悔する。  
 
「その……、好きですっ! 僕はっ、先生の事が好きですっっ!!」  
 
だから僕は言い切った。“どう思う”その問いに若干遠回りしたけど、  
自分の中に浮かんだまま消えないその感情を先生にぶつけた。  
すると僕の答えを聴いた先生の、僕を抱き締めている腕に力が入る。  
 
「……嬉しい……。ありがとう平野君……でも、私なんかでいいの? こんな三十路の、行き遅れの女で」  
「そんな事言わないでくださいよ。僕は、僕は林先生じゃないとダメなんです。林先生が好きなんですッ!」  
「平野君……んっ」  
「んうっ!?」  
 
不意打ちだった。好きだと言い切る僕の唇は再び先生の唇に塞がれる。  
それもさっきよりも、もっと深い……口の中に舌を入れられて蹂躙されるようなキス。  
 
「んちゅっ、んんっ、あむっ、ンン…っ」  
 
先生の舌が僕の舌に絡みついて、舌の裏側まで貪るように舐められた。  
僕も負けじと舌を絡ませながら、口の中に溜まってきた唾液を先生の口内に送り込む。  
“飲んで欲しい”という僕の意を汲んでくれた先生は、喉を鳴らせて唾を飲み込む。  
唇を重ねたままだと呑みにくいのに先生は唇を決して離したりしないで唾を飲み干すと、  
今度は逆に先生の方から唾液を送り込んできた。  
 
「んんぅ、ん…っ、ゴクっ…ゴクっ…」  
 
ねっとりと粘り気のある唾は喉に絡みついて呑みにくい。  
唇を重ねたままだから尚更だ。  
だけど先生がそうであるように、僕だって唇を離したくなかったからそのまま頑張って飲み干した。  
(美味しいな……)  
特に味がある訳じゃないけど、その唾に先生の味を感じた僕には何よりも美味しく思えた。  
 
それからもう一度舌を絡み合わせた僕達は、名残惜しかったけどゆっくり顔を離す。  
すると“離れたくない”という僕らの思いを表すかのように口の間に唾液が伸びて橋を架けた。  
このまま離れるとこの橋は切れてしまう。  
それがたまらなく嫌に感じた僕は、唾液の糸を辿って先生に軽く口付け、糸を消してから離れる。  
 
「んっ……ふぅぅ…。……私も平野君が好きよ……」  
「あ……。は、はいっ!」  
「でも不思議、最初は良く手伝ってくれる子だとしか思っていなかったのに……」  
 
先生は僕に対する自分の想いを語り始めた。  
 
「困ってたら助けてくれて、お弁当を作ったらホントに嬉しそうに食べてくれて……私も平野君と一緒に居るのが楽しくなっていたの」  
「……先生」  
「生徒だとか関係なく、何時の間にか平野君を一人の男性として意識してた。でも教師と生徒だからって諦めていたわ」  
 
普通ならそうだと思う。だって先生は僕と違って社会的責任も立場も有るから  
感情のままに行動するなんて出来ない。  
 
「だけど、平野君が私を“女”として見ている事が分かって、抑えられなくなったの……こんなに嬉しい事はないわ」  
 
でもそれなら、それなら見方を変えればいい。  
先生も僕も、お互いに好きなのに我慢しなきゃいけないなんて嫌だ。  
先生の言うようにこれは嬉しくて、望んだ通りの結果なんだから。  
 
「先生、僕は先生よりずっと年下ですし、それに生徒と教師です…。でもその前に男と女なんですっ!」  
「キャッ!!」  
 
先生の話しを遮って言い放ち、勢いのまま彼女をベッドに押し倒すと着ていた服を脱いでいく。  
見るだけなんて嫌だ! 触るだけなんて嫌だ!  
先生と繋がりたい、一つになって愛し合いたい!  
僕の中で何かのスイッチが入ったようだ。  
熱病に浮かされるように手早く服を脱ぎ捨て、仰向けでベッドに横たわる先生の脚を開いて抱えた。  
そして先生の裸を見た事、濃厚な口付けを交した事、  
自分と先生の想いが同じである事を知り、次にするのは何かを理解して、硬くそそり立っていた肉棒を  
股間の中央に有る茂みの中の入り口にそっと押し当てた。  
 
「ひ、平野君っ!」  
「入れても、いいですか?」  
 
僕がいきなり積極的になった事に驚く先生だったけど、質問には頷きで答えてくれた。  
 
「先生…、」  
「先生はやめて。……京子って……呼んで」  
 
女の人を下の名前で呼んだことなんて無かったから思わず躊躇ったけど、  
(確かに恋人同士で先生はおかしい)と思い直した僕はお言葉に甘える事にした。  
それにこんな、目を潤ませて訴える先生、……京子さんに申し出られたら断れない。  
 
「じ、じゃあ……京子…さん。えっと、僕のことも名前で呼んでくださいっ、」  
「分かったわ。……コータ君」  
 
早速下の名前で呼び合ってみたけど、その、なんか恥ずかしいな。  
嬉しいんだけど……凄く恥ずかしい……。  
でも慣れないと。これからはずっと“京子さん”って呼ぶんだから。  
 
「あ、あのっ いきますよ京子さんっ!」  
 
宣言と共に腰を前に出して、京子さんの股間に当てていた肉棒を割れ目の中に挿れる。  
“ずぶり”  
 
「アアッ!」  
 
先を中に挿れた瞬間、京子さんが喘ぎ声を上げた。  
ビデオとかで聴くのとは訳が違い、艶めかしい甘美な声が僕の鼓膜を震わせ、  
一種の感動を与えられる。  
でもそれ以上に衝撃を受けたのは、自分の肉棒に感じている柔らかく、そして温かな湿り気を帯びた感触。  
 
「くッ、京子さんの中ッ、気持ちいいッ……」  
 
そんな一言で済ませられる物じゃないけど、他に表現のしようがない。  
吸い付く肉の感触に肉棒の奥の方が熱くなる。  
先っぽを挿れただけでこれじゃ、奥まで挿れたらどうなるんだ?  
奥まで挿れた瞬間に射精なんてしたら…。  
 
「そ、そう……っ、嬉しい……わ、ほら、早く奥に……来てっ、」  
「はっ はいっ!」  
 
あまりの事に動きを止めていた僕は、急かされるままに奥へと進んでいく。  
“ずぶずぶずぶ……”  
 
「んッ、くうぅぅ……ッッ!」  
 
狭い膣内を押し割り入っていくと、京子さんの甘い嬌声は益々大きくなった。  
肉棒の竿の部分がみるみる内に埋没していき膣に入っていくのを視界に収めた僕は、  
気持ち良さと感動にまた動きが止まりそうになる物の、今度は“もっと奥に”と  
自身の欲望に急かされ、中程まで来たところで感じていた引っ掛かりを無理矢理押し切って、  
一番奥に届くように力一杯腰を打ち付けた。  
“ズブゥゥッッ!”  
 
「んあァァッッ!!」  
 
最奥まで届いた先端は子宮口を押し上げる形で停止する。  
僕と京子さんの股間は一切の隙間無く引っ付いて居て、  
肉棒全体が挿入された事を目に見える形で明確に物語っていた。  
そして……“ドクンッ”  
 
「ううッッ!」  
“ドクン ドクン ドクドク”  
「あッ、あああッ?! なっ 何っ? 熱いッ あついィィーーッ!」  
 
急にギュッと膣内が圧迫してきて、肉棒を締め付られる快感に堪えきれなかった僕は、  
挿入したばかりだって言うのに、我慢出来なくて射精してしまった……。  
京子さんの中に出すのはとても気持ちが良かったけど、自分のなさけなさに泣いてしまいそうだ……。  
 
「あつ……いッ……コータ君の……ッ精子ッッ……熱いィッ……ッッ」  
 
でも身体は雄の本能に従って京子さんを抱き寄せて最後の一滴まで出し尽くしてしまう。  
“びゅくん びゅく びゅ”  
 
「あっ……あっ…っっ」  
 
射精が止まった……結構な量が出た。  
子宮に入りきらなかった分が逆流して、膣内がぬるぬるになってる。  
それともこれは京子さんの愛液?  
どんな感じになってるのか確認しようと腰を引いてみると……僕と京子さんの結合部分から、  
白や透明の液体に混じって赤い液体が流れていた。  
こ、これってまさか……血? じ、じゃあ、京子さんは処女!?  
 
「き、京子さんっ、処女だったんですか!?」  
「ええ……そうよ……気持ち悪い…かしら? 三十にもなって……経験してないって」  
「そ、そんなっ! そんな事ないですっ!」  
 
それどころか嬉しいですよ!  
別に初めてだとか、そうじゃないとか気にはしてないし、  
そもそも京子さんくらいの歳の人ならした事あるだろうから、分からない事は教えて貰おうって  
考えてたくらいですから。  
思った事を伝えると京子さんはほっとしたような顔をした。  
けど、それなら……  
 
「い、痛くなかったですか?」  
 
痛かったんじゃないだろうか?   
初めての人は痛いって言うし、こんなに血が出てるし。  
“京子さんは経験者”という勝手な思い込みで痛い想いをさせてしまったんじゃ……。  
 
「ん……少し痛かったけど大丈夫よ。それよりも……熱い方が…気になるわ」  
「あ、あははは。その…気持ち良かったので……我慢出来なかったんです……」  
「いいのよ」  
 
気を遣ってくれているのかとも思ったけど、どうやら本当に大丈夫みたいだ。  
良かった……。でも続く言葉に落ち込んだ僕は京子さんから目をそらす。  
すると彼女は何を思ったのか僕を抱き寄せて「男の子でしょう?」「これぐらいで落ち込むな」と言って頭を撫でられた。  
温かい手で優しく撫でられて凄く落ち着く。  
 
五分くらいそうしていた時だ「んっ…」京子さんが小さな声で喘いだ。  
ふと気になり顔を上げてみると、彼女の頬が紅く染まってきている。  
 
「あっ……あっ、コータ……君、……また、大きくなって、んんっ!」  
 
原因は直ぐに分かった、僕の肉棒が復活して元気になって京子さんの膣内を刺激してるんだ。  
よく考えたら身体は繋がったままだし、頭を撫でられていた時、僕の顔は彼女の胸に押し付けられていたから  
こうなって当たり前だった。  
 
「京子さん……動きますよ」  
 
そして性交を再開させる。  
今度こそ京子さんと一緒に気持ち良くなるんだ!  
ゆっくりというより、やや早めの動きで肉棒を出し入れする。  
“ずっ ずぶっ じゅぶっ”  
 
「んあァっ、あんッ……ッ、あふぁっ…ひぅぅ」  
「気持ちいいですかっ!」  
「イっ イイっ、きもち……いいわっ! ああッ! もっと…っ……突いてェ!」  
 
僕は思い付く限りの方法で抽挿を繰り返す。  
強く突いたり弱くしたりと動きを変えながら京子さんの膣内に肉棒を擦りつける。  
 
「あッ、ああッ、あうぅッ そ、そこッ! ソコをもっとぉッ!」  
「ココですねッ?」  
 
京子さんの脚を抱え上げ、一番感じたところまで深く深く挿入、  
ソコ……子宮口まで挿れてその周りを重点的に擦る。  
 
「ひゃぁぁン ああ…ッ アァッ こ、コータ…ッ……コータくぅんッ!」  
 
訪れているだろうと思われる強く激しい快感に、京子さんは大きな声で喘いで僕を呼び、手を伸ばす。  
僕が彼女の腰と背中に手を回すと、彼女も僕に抱き着いて共に強く抱き締め合う。  
京子さんの大きな胸が僕の身体に押し付けられて、ゴムまりみたいに形を変えた。  
肩口から流れ落ちた彼女の長い髪から漂うシャンプーの香りが鼻を擽り、僕の身体から出ている大量の汗と、  
彼女の身体に浮き出たサラッとした珠のような汗が混じり合って身体の熱を冷まそうとする物の、  
全身で激しく求め合ってる僕達の熱は少しも冷める事はない。  
結合部から聞こえてくる水音と、肉棒と膣肉が擦れる事で生じる言葉に出来ない快感に  
興奮の度合いは急激に増して、熱は逆に上がっていく。  
膣内に溢れる精液と愛液が混ざり合った体液のお陰で非常に滑りも良い。  
 
快楽に酔い痴れ、心地の良い時間を送り続ける僕達。  
“いつまでも繋がって、この時間を過ごしたい”そう思っては居ても、終わりは必ず来る。  
 
「京子さんッ! 僕もうッ ダメですッ!」  
「私もッ! 私もよッ! あッ ああッッ! き、きてッ! きてコータ君ッッ!!」  
 
射精寸前の状態で必死の抽挿をしていた僕は、とっくの昔に我慢の限界は超えていた。  
それでも僕に出来る精一杯の我慢をしていたのは、京子さんと一緒にイクためだ。  
だから京子さんの言葉を聴いた僕は、限界を超えていた肉棒を残った力を振り絞って全力で突き上げ、  
子宮口を押し広げる。  
“ズブゥッ!”  
 
「うああああッッ!!」  
“ドクンッッッ!”  
「あああああああァァァァァァァ――――――ッッッ!!!」  
“ドクンッ ドクンッ ドクンッ”  
 
さっき一回出しているから、もう殆ど入らないとは思うけど、それでも僕は京子さんの子宮の中に  
精子を注ぎ続けて全てを受け取って貰う。  
 
「ッッ……あッ…コータの精液がッ……ッッ……い、いっぱ……いっぱい入って……あッ あッ……ッッ」  
「全部ッ 全部受け取くださいッッ! 京子さんッ、京子ッッ!!」  
 
全て出し切った僕も、全てを受け入れてくれた京子さんも、ここで力尽きた。  
身体を一つにしたまま強く抱き締め合い、脚を絡ませ合ったまま、  
体力を使い果たした事で襲い来る微睡みに身を委ねて、僕らは深い眠りに落ちていった……。  
 
 
 
 
 
 
 
そしてあの時から、あの日から半年と少し経った今、我慢の日々は本当の終わりを告げた……。  
いや、世界の全てが終わったんだ。  
 
 
 
 
世界が終わったあの日、授業をサボっていた小室が教室に飛び込んできて騒いでいた時に  
暴力事件が発生したとの校内放送が流れ、直後スピーカーから聞こえてきた悲鳴を聴いた僕は、  
“彼女”の事が心配になり、教室の後ろのドアから素早く外に出た。  
 
「キャァッ!!」  
 
外に出た瞬間、ドアの外側に立っていた人にぶつかった。  
 
「こ、コータ君ッ!」  
「え!? ど、どうしてココにッ!?」  
 
ぶつかった相手は僕が心配した彼女……。  
何故彼女が2−Bの教室の前に居るのか気になったけど、とにかく今はそんな事を訊いてる場合じゃない。  
急いで外に出ようと彼女の腕を掴んだ瞬間、後ろから声を掛けられた。  
僕らは反射的にビクッとしたけど、声を掛けてきたのは見知った人。  
 
「平野っと……林先生?」  
「たた、高城さん……」  
「お、驚かさないでよ、」  
 
クラスメイトの高城沙耶さんだ。  
 
「しッ! なんで林先生がここに……って、そんな事言ってる場合じゃないわ。逃げるよ二人共」  
 
高城さんは僕と一緒に居る彼女を不思議に思ったようだけど、さすがは天才というところか、  
直ぐに切り替え、僕と同じ判断をして逃げる事を優先した。  
 
逃げる途中で小室や毒島先輩、宮本さん、鞠川先生達と合流し、職員室に一時避難した時に  
訊いてみたら「あの時間、私、受け持ちの授業が無くてコータ君の授業が終わるのを待っていたのよ」という事だった。  
京子さんそれ、何かサボりに近いような……そのお陰で京子さんと無事に合流出来たのは幸いだけど。  
その後、みんなに僕と京子さんの関係を訊かれて、恋人同士だというのがバレてしまったのは誤算だ。  
教師と教え子だから問題になるって卒業までは誰にも知られたくなかったんだけど……。  
でももう、気にする必要もなさそうだ……世界は……終わったんだから。  
 
 
学校を脱出してからバスの中で“アイツ”紫藤に対して初めて切れたり、  
鞠川先生の友達の家でこんな状況なのに、いつものように京子さんと愛し合ったり、  
酔った鞠川先生にホッペにキスされて、京子さんにビンタされたり、  
高城さんの家では高城さんのお父さんが怖いけど凄かったりと色々有った。  
 
 
 
「ねえ、コータ君」  
「なんですか?」  
 
ついさっきまでセックスをしていた京子さんの長い髪を撫でたり、梳いたりと弄んでいた僕に  
彼女は呟くように言った。  
 
「これから……どうなるのかしらね?」  
「……どう……なるんでしょうね……」  
 
それは、分からない……この先、ずっと“奴ら”と闘い続けるのか?  
みんな無事で居られるのか? 答えなんて出ない……。  
 
「でも、これだけは言えます!」  
 
でも、一つだけハッキリ言える事がある。  
 
「何が有っても、僕は京子さんを守るッ!!」  
「コータ君…ッ」  
 
 
窓から見える星空に、月が一つ浮かんでいた。  
世界が終わっても変わらずに、夜空に輝いている。  
変わらない毎日はあっさり壊れてしまったけど、変わらない物もある。  
僕は彼女を守るように抱き締め、いつまでも星空を眺めていた。  
 
 
それから間もなく……彼女のお腹に僕の子供がいる事を知り、“僕はもっと強くなるんだ”と誓いを新たに、  
仲間達と共に、この全てが終わってしまった世界で生き抜いていく事を決意した。  
 
 

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