「ただいまー。ん、いい匂いだな」  
「おかえり。今日の夕飯は秋刀魚の塩焼きの予定だ。楽しみにしてくれ」  
「ありがとうございます。毒島先輩。僕なんかのために」  
「気にしないでくれ。私が好きでやっていることだからな。そ・れ・と……冴子って呼んでくれ」  
「え、えっと……少しまだ難しいです。せめて毒島先輩が卒業したらで……」  
「そうか。まあ仕方ない。楽しみに待っているからな」  
 そういって料理を再開する。制服姿で料理しているのはなぜかグッと来る。  
(森田のこといえないな。僕も)  
「先にシャワー浴びてきますね」  
 僕は逃げ込むように風呂場に逃げ込む。  
 服を脱ぎ、洗濯機の中に入れる。  
 少し前に毒島先輩が入っていたらしい。仄かに暖かい。  
「う、やばい……勃起しそう……」  
(平常心……平常心……)  
 それにしても毒島先輩はどうして僕なんかにここまでしてくれるのだろう。  
 二学年になってから少し荒れてしまったが今では毒島先輩のおかげでまた真面目に暮らすことが出来ている。  
 今になってみれば凄くありがたかった。その……毒島先輩とも付き合うことも出来たし……  
 でも僕は毒島先輩に何もしてあげれていない。つまり毒島先輩にはメリットがないのだ。  
 どうしてなんだろう。疑問に思ってしまう。出会った日になにかあっただろうか?  
 悩んでも仕方ない……情け無いけど聞いてみよう。  
 
「いただきます」  
「どうぞ召し上がれ」  
 テーブルにはさっきも言っていた秋刀魚の塩焼きのほかにほうれん草のおひたし、ごぼうの甘辛煮、豚汁だ。  
 うん、これほど素晴らしい日本食はないだろう。ボリュームは少ないけれども味がある。  
 食べていくとどれもしっかり味がついており噛むと味が染み出て楽しくなってくる。  
 昔は噛まずに食べていたが噛んで食べるのがここまでおいしいとは想いもしなかった。  
 でもそう思うにつれて少し心が締め付けられる。  
 僕なんかが一緒にいてもいいのかと。  
「毒島先輩……」  
「どうかしたのか? もしかして味付けが可笑しかったのか?」  
「いいえ、違います。どうして僕なんかと一緒にいるんですか。幼馴染でさえ僕に愛想を尽かしていたというのに」  
 毒島先輩は一瞬悩んだがすぐに答えを見つけたらしく口を開く。  
「簡単なことだ。私のことを受け入れてくれた。それだけでも好きになる理由は十分だと思う」  
「受け入れた……? あ……」  
 思い出した。あれは毒島先輩と始めてあった頃のことだ。  
 
「小室! これから屋上いかないか?」  
 僕の友人みたいな存在の森田が廊下を歩いているときに声をかけてきた。  
「屋上か……今日は違う場所にするよ」  
 いつものようにサボりポイントに集まる算段を立てていたのだが、今日は一人になりたかったため誘いを断った。  
 そのあとふらふらしていたら道場を発見して中に入って寝ようとしたら毒島先輩に遭遇したんだ。  
「授業いいんですか?」  
「ああ、私は大丈夫だ。私的には君の方が危険だと思うが」  
「……どうでもいいだろ」  
「そうかもしれないな」  
 そこから無言のまま時間が過ぎていく。お互いに道場の中にある柱を背にして。  
「君……名前は」  
「小室孝」  
「そうか。私の名前は毒島冴子だ」  
「ええ、わかっていますよ。有名ですから」  
 また沈黙が続いていく。  
「そういえば孝……」  
「なんですか」  
 また急に話しかけてきた。  
「人を傷つけることに快楽を覚えた女ってどう思うのだ?」  
 人を傷つけることに快楽を覚えた女ねぇ……  
「いいんじゃないですか。俺はありだと思います。  
「どうしてだ」  
「だれしも狂気はもっていますよ。でもそれを抑えれるのなら快楽を得ても大丈夫だと思う  
「そうか……ありがとうな。孝」  
「いや、そうでもないさ。僕は傷心中だから気にしないでくれ」  
 
「こんなこともあったな。でもここだけじゃ受け入れて無い気もするけど」  
「そうだな。あのあとからもっと私は慰められてる、受け入れてもらってるから」  
「そうか。でも安心したよ。僕も毒島さんに何か出来ていたんだ」  
「そんなことを気にしていたのか。かわいいものだ」  
 毒島先輩は僕の唇に近寄っていく。そしてキスを……  
 

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