満月の夜。インテグラの寝室にも青白い月光がさしこんでいた。
夜族の気配にヘルシング家当主は目を覚ました。半人前の気配――
「セラス・ヴィクトリアか。何だ」
「い、インテグラ様…なんだか…眠れなくて…あのう…」
歯切れの悪い台詞に少々苛立ちながらインテグラは眼鏡をかけ、寝台を出た。
「いま、開ける」
言いながら扉へ向かい、入れ、と招いた。
扉のすき間から赤く燃える双眸が見えたかと思うと、インテグラは吹き飛ばされた。
目を開くと、もとの寝台の上だった。しかし、セラスに跨がられていた。
部屋の端をみると、扉の鍵は再びかかっていた。器用にもセラスは鍵をかけながら彼女を寝台に運び去ったらしい。
「なん、のつもりだ、婦警」
身体の上にのしかかられながらインテグラは切れ切れにいった。
セラスは、にやり、と笑う。唇の端が耳までつり上がるようにインテグラには見えた。
「インテグラ様って、意外とだまされやすいんですね、すみません」
そう云われて、思考回路が動き出す。
吸血鬼は(例え半人前でも)夜に眠れないのなど当然だということ。
そして吸血鬼のもう一つの習性。招かれない家には入れない――しかもヘルシング家当主の私室とだけあって様々な結界がしかれている。
「私としたことが――」
インテグラは屈辱に震えた。
セラスはインテグラを見下ろし、笑んだ。人間は非力だ。とくに、夜には。
で、とインテグラは言った。
「で、何が望みだ?こんなことをして、只で済むと思っているのか?」
セラスは三たび、笑んだ。
「ごほうびをください。ヘルシングのためなこんなに尽くしているのに、死んでいるからって給料がないなんて、ひどいです。人権上難アリです」
「だから、ごほうびをください」
そう言って、セラスはインテグラの顔に顔を寄せる。慌てながらインテグラはそれをとどめようとする。
「ま、待て、解ったから、噛むのは、噛むのは無しだ――!」
噛みやしませんよ、とセラスは呟き、インテグラの唇に唇をかさねた。
吸う。下唇を自身の唇ではさんで引っぱり、もてあそぶ。歯列をなぞる。舌と舌を絡める。
インテグラは顔をしかめ、震える手でシーツを握った。
目尻から涙がこぼれる。セラスはそれを目ざとく見つけ、舌で拭い取った。
「うふふ、可愛いです、インテグラ様」
セラスは耳元に囁いた。
その吐息にインテグラはかっと頬がもえるのを感じた。
「こんなことをして、只で済むと――」
インテグラは解放された唇で言い放とうとしたが、再び唇はふさがれた。
口内を犯すセラスの舌を噛んでやろうとするがそれはとどめられた。
「人間が吸血鬼の血を飲むとその眷属になってしまうんですよね?」
セラスは唇を放し、言う。それはインテグラには言われるまでもなくよく知っている事だった。
「私の眼を見てください、インテグラ様」
インテグラは顔を背け紅い光芒を見ないようにしたが、セラスの両掌で頬を挟まれて顔を固定されていたので無理だった。
――まずい。
吸血鬼の能力――人を視線で魅了して、意のままに動かす――にとらわれてしまう。
インテグラがいやいやをするように首を振ると、セラスはあっさりと手を放した。
セラスはインテグラの首筋を吸血鬼特有の鋭利な爪でなぞる。血が赤く滲んでゆく。
噛まなければいいんですね、と呟いてセラスは唇をあてた。舌を這わせ、血液を舐めとる。
――甘い。
セラスは快楽に身を震わせた。鼻を鳴らすようにしながら獣のように吸血行為をした。
インテグラも同様にケラクを感じていた。妹か娘のように思っていたセラス、彼女になら血を与えても良いと思えた。
同時に吸血鬼狩り一族の当主が吸血鬼に血を奪われながら感じてしまっているという背徳感をも覚えていた。
セラスは最後の一滴をチュッと音をたてて吸い込み、傷口を指で撫でた。
傷口はすぐにふさがり、みみずばれのような桃色の痕のみが残った。
インテグラはほっと一息ついた。が、次のセラスの台詞に身を固くする。
「まだ終わらせませんよ、インテグラ様」
ひんやりとした感覚に、下を向くと自分の身体がさらけだされているのがわかった。吸血されている間に夜着を剥かれてしまっていたのだ。
セラスも上身をあらわにしていた。ゆたかな乳房にインテグラは思わず息を呑んだ。
セラスは身を屈めその巨乳をインテグラの、セラスに比せばないも同然の乳房にこすりつけた。
ひゃん、と思わず喉から声が出てしまう。
「気持ちいいんですか?」
セラスの尋ねにインテグラは顔を赤らめて左右に振った。
「そんなわけ、ある……んあっ!」
セラスは勃ってきた乳首同士をこすりあわせる。そうしながら指でインテグラの褐色の、腰から太腿にかけての肌を愛撫した。
インテグラは死人特有の指の冷たさに悶えた。
セラスはインテグラの上に覆いかぶさり髪の香をすいこんだ。葉巻の匂いがした。
「インテグラ様の髪…すごくいい匂いがします…」
インテグラはシーツを握っていた手をあげて、セラスの短髪を撫でてやった。
「セラ、ス……」
こんな形で辱められることを望んではいなかったが、インテグラはたしかにセラスを愛しく思っていた。
しかし。
セラスの指はインテグラの脚の付け根をまさぐりはじめていた。そこはすでに湿っていた。
セラスは月光に照らされたインテグラの裸身をうっとりと眺め、うっすらとしたプラチナ色の陰毛におおわれた部分にセラスはくちづけた。
「……んあ!」
インテグラは甘さの混じった嬌声をあげる。
セラスはインテグラの秘所を舌で責めつづけた。
転がし、しゃぶり、舐めあげ、内奥から溢れて来た蜜をわざと音をたてて下品にすする。
恥辱と快楽にインテグラは震え、恥ずかしさを打ち消すように自身の股間に位置するセラスの頭をかき撫でた。
時折セラスはインテグラの薄紅いろに尖った乳首をぴん、と弾く。そのたびにインテグラの秘所はきゅうと収縮し、蜜を吐き出すのだった。
じわじわとなぶるようなセラスの責めに、インテグラはじらされていた。つい、口に出してしまう。
「セ、セラス……もう…」
セラスは唇を放し、ぷは、と息をついた。
「イキたいんですか、インテグラ様」
インテグラは頬を赤くしてうなづいた。
「セラス、わ、私をイカせておくれ」
「素直で可愛いですね、インテグラ様」
セラスはふっと息を吹き掛け、責めを再開する。
激しく蜜のしたたる穴を擦りあげ、とどめとばかりに秘芯を弾く。
「んあっ!あっ!いい――」
インテグラは果てた。
セラスはインテグラの唇に接吻を落とした。
向こう一週間、主に反抗的なドラキュリーナにはニンニク料理が饗されたそうな――