「鎖縛っ……!」  
叫び声と、鮮血がほとばしるのが同時だった。  
――油断した。  
倒れこんでくる砂色の髪の捕縛師を抱き止めながら、鎖縛は素早く空間の裂け目を見つけて  
体を割り込ませる。  
 
相手が雑魚だと――命数も二つしか持たぬほどの小鬼だと、はなから馬鹿にしていたから、  
捕縛師である彼女に最低限の補助をかけたあとはもう注意もろくに向けていなかった。  
鎖縛の魔力で実体化した矢を彼女がつがえ、弓を引き絞る――。  
そこまで見届けて、鎖縛はつい油断してしまったのだ。  
目の前で繰り広げられていたのは、死闘と呼ぶことさえ彼にとっては失笑の種でしかない  
ような、たかが小鬼と人間ふぜいの小競り合いだった。  
くだらない……くだらなすぎて吐き気がする。  
魔性の介入無しには、その魔性と戦うことすらできない人間が。  
そこまで無力な存在である人間に与する魔性――護り手、という存在に落ちた自分が。  
そして、決着はついた。あっけなく。  
と、思った瞬間の出来事だった。  
最後まで捕縛されることに抵抗を試みた小鬼が、自分の命を残った最後の力でもって粉砕し、  
無数の刃と化したそれが、特に狙ったわけでもなかったろうが、鎖縛の方へと向かってきた。  
そこまではいいのだ。そんなものでこの自分に傷一つつけられるはずがないとわかっていたから  
あえて鎖縛は避けようともせず、降りかかるにまかせていた。  
「任務には成功したが捕縛にはしくじったな」  
サティンにはそんな軽口でも叩いてやるようなつもりで。  
彼女がそんな行動を取るなどとは、だから思いもよらないことだった。  
 
まさか、守護されるべき立場の捕縛師が――誰よりも鎖縛を憎み忌み嫌い、護り手としての  
利用価値しか自分には見出してないはずのサティンが――その護り手を庇うために、  
とっさに身を乗り出して盾になる、などということは。  
 
「阿保かお前は! どこの世界に魔性を……護り手をかばって怪我をする馬鹿がいるんだ!?」  
本気で叱咤しながら、鎖縛は腕に抱きかかえていたサティンを乱暴に寝台の上へ投げ降ろした。  
取っていた宿へと空間を通って移動してくる間に、あらかたの傷は癒してある。  
ボロ布と化した衣服とあちこちに乾きこびり付いた血の痕だけが、かろうじてサティンが  
受けた傷の痕跡を留めていた。  
「いたたっ……もっと優しく扱ってほしいわ! 仕方ないじゃない、考えるよりとっさに  
体が動いちゃったんだからっ。それより鎖縛、あなた、手抜きしてるんじゃないでしょうね?   
傷口はともかく……痛みがとれていない……みたいなんだけど」  
「贅沢言うなよな。痛いと感じるのは人の心の弱さだ。血の痕や、傷を受けた記憶が、  
痛い『はず』だという錯覚を呼び起こすんだろう。――ようは気のせいってやつだ」  
「気のせい、って……でも、言われてみればそんな気もするわね。  
どっちかというと残り香みたいな感覚っていうか……」  
それにしても痛いのよね、と顔をしかめながらサティンは寝台の上に身を起こした。  
宿の寝具を汚してしまうのが気になるのか、自分が寝かされた辺りを何度も手で払う。  
「気になるなら湯浴みでもしてさっぱりしてきたらどうだ?」  
「あら、あなたも結構気が利くようになってきたじゃない。……そうね、そうするわ。  
依頼主に報告に行くにしたって、この格好じゃあんまりよね」  
私がお風呂に入っている間に寝台の掛布取り替えておいてね、などと、仮にも妖貴たる鎖縛に  
恐ろしいことを平然と言いつけながら、サティンはよろめきつつも部屋の隅に置いておいた  
荷物の中から着替えを取り出している。  
「いい気になりやがって……人使いの荒い女だ」  
鎖縛は怒りを通り越してあきれ返りながら、ふらつく足取りで浴室に消える彼女の背中を  
見つめていた。  
 
「あの……馬鹿が」  
部屋に残された鎖縛は一人呟きながら、何かを堪えるようにぐっと拳を握り締める。  
何故彼女があんな真似をしたのかわからない。  
(とっさに動いてしまった……だと?)  
この自分が、人間なんぞに庇われるほどの弱い存在だとでも……一瞬たりとも本当にそう  
思ったのだろうか。  
見くびられているのか、とも思った。  
――だが。  
(なんなんだよ……この痛みは)  
ほんの気まぐれから――彼女の傷を治癒した時、鎖縛はわざと痛みだけを残し、その痛覚を  
自分に転送させてみたのだ。  
あの程度の攻撃で自分は傷つかない。当然痛みなど感じない。それなのにわざわざ自分を  
庇ったというサティンの――人間の体で感じる痛みというものがどれほどのものなのか、  
興味がわいた。  
そして、人間のもろさに驚いた。  
たかがこれしきの傷で……これほどの痛みを感じるものなのか。  
特殊な事情に生れ落ちたせいで、魔性とはいえ今まで人間を弄りいたぶる事に特別な興味を  
覚えてこなかった鎖縛は、なるほどな、とひとりごちる。  
これほどに無力な存在が、稀に一瞬でも目を惹かれるような輝きを持つ魂を宿していたり、  
雑魚相手とはいえその脅威を退けられるような力を有していたりすれば――力溢れる魔性にとって、  
腹立たしいほどこの上ないはずだ。  
浮城とそこに集う人間どもを目の敵にする魔性がいたのも頷ける。  
それでも、魔性にとっては害虫を駆除する程度の認識でしかなかったのだが――あの  
破妖剣士の少女が現れるまでは。  
 
だが、今の鎖縛はその無力な人間の護り手でしかない。  
そして自分に下された命は『サティンを守る事』に他ならないのだ。  
この命に懸けても。  
 
「くそっ、何だって言うんだ?」  
その相手に自分が庇われてどうする。  
しかもその行動ははっきりいって無意味というよりない。鎖縛には理解不能だった。  
傷を受ければ痛い、という人間にとって当たり前の事を――『とっさに』忘れてしまったという  
サティンの真意を測りかねて、鎖縛は唇を噛む。  
いや。  
わかっているのだ。本当は。サティンがそんな行動を取ったわけを。  
あんなふうに護り手の名を呼んだ、サティンの声を鎖縛は知っている。  
鎖縛ではない、かつての彼女の護り手の名を、悲痛に叫んだあの時のサティンの声を覚えている。  
――『鎖縛っ……!』  
先刻の彼女の声がいつまでも耳に残っているのは、この痛みのせいだろう。  
今感じている痛みは彼女のもの。サティンの体が感じる痛みをこちらに転送させたものだ。  
自らの好奇心が招いた結果とはいえ、鎖縛はその不快感に眉を潜める。  
胸が、痛い。  
「…………何なんだよ…………」  
 
 
今回の依頼主である町の領主は、浮城から派遣された捕縛師の為に宿屋の中でも上等の  
部類に入る部屋を用意してくれていた。  
おかげで、広めの浴室に据え置かれた真鍮の浴槽にはいつでも湯が沸かしてあるという  
贅沢な環境だったのだが、町に到着した早々状況把握やら情報収集などで忙しく駆けずり回り、  
部屋には食事と寝るためだけに戻るという状態だったサティンには、その恩恵に与るヒマがなかった。  
「ふう……やっと一息、と言いたいところだけど……」  
埃を軽く洗い流したところで湯船に浸かり、そっと両手足を伸ばしてみた。  
すっかり傷跡だけは消えている手足や胸元をそっとさすってみる。  
「鎖縛ったら、何が気のせいよ。痛いものは痛いって言ってるっていうのに……  
……あの、陰険手抜き男っ」  
「誰が陰険だって?」  
いきなり頭の上から降ってきたその声に、サティンは心底驚いた。  
慌てて胸を隠すように両膝を抱え、ぶくぶくと顎までも浴槽に沈んでゆく。  
そんなサティンの反応を楽しむように、鎖縛は意地の悪い笑みを浮かべて見下ろしている。  
「な、な、な、何しに来たのよ!」  
「忘れ物を思い出したんだよ」  
平然とした態度を崩さず、鎖縛は膝を折って傍に屈み込んだ。  
そうして、浴槽の縁越しにサティンと目線を合わせる。  
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかった。  
「忘れ物、ですって……?」  
「ああ」  
すっ……と伸ばされた手が、無造作にサティンの髪を撫でたのは、ほんの一瞬のこと。  
今の動作に何の意味があったのかと、サティンが疑問を持つよりも早く、  
鎖縛は無言で立ち上がって飄々と浴室を出て行ってしまった。  
「な……何だったっていうのかしら……まったく……」  
鎖縛の真意がまったく読み取れず、しばらく浴槽の中でしきりに首を捻っていたサティンは、  
ふいに、先ほどまで感じていた疼痛がきれいさっぱり消え失せているのに気づいた。  
「あ、あの男…………! 気のせいだなんて言って、やっぱり手抜きしてたんじゃないのよっ!」  
 
「鎖縛っ!」  
濡れた髪を乾いた布で包み、肌触りのいい布地で仕立てた簡素な部屋着を身につけた  
サティンが、部屋に戻るなり鎖縛を呼びつけた。  
「ずいぶん頭に血が上ってるな。湯あたりでもしたんじゃないのか?」  
「誰のせいだと思っているのよっ!」  
白磁のようなサティンの肌は上気してほんのりと桜色に染まり、火照りが冷めやらぬうちに  
衣服を身に着けたせいで、うなじのあたりがしっとりと汗で濡れている。  
「お前はいつも怒ってばかりだな……。飽きないか?」  
「だから! あーなーたーがーっ、怒らせているんでしょう!?」  
普段『年長組』として仲間内に見せている余裕のある態度とはかけ離れた表情を向けてくる  
サティンが面白くて、鎖縛はのどの奥で笑い声を噛み殺す。  
「俺が何か文句言われるようなことをしたか? 人が張ってやった結界しっかり無視しやがって、  
勝手に敵の自爆受けて大怪我するような馬鹿相手に、これでも結構真面目に護り手とやらを  
勤めていると我ながら感心してるぞ?」  
「だからあれはとっさに体が動いてっ……て、ああもう、わかったわよ!   
余計な手間をかけさせて悪かったわね! 次からは、っていうかもう二度とあんな馬鹿な真似は  
しないわ。約束するわよ。……だから、ろくでもない仕返しはやめてちょうだい」  
「ろくでもない、って?」  
頬に張り付いた一筋の砂色の髪を指先でそっとすくい上げてやる。  
サティンの頬に朱が走るのを鎖縛は見逃さなかった。  
面白い。怒りゆえか、それとも――――。  
浮かびかけた疑念を鎖縛は一瞬で振り落とす。  
いや…………怒り以外になんの理由があると言うのか。  
(まあ、いいさ)  
こんな風に怒っている彼女の顔は嫌いじゃない。その声も。  
 
「な、何のつもりかしら……?」  
「何って何だ? 俺には何のつもりも無いが?」  
何を警戒しているというのか、鎖縛がほんの僅か間合いを詰めれば、  
サティンは数歩後ろへ下がる。  
気がつけばいつの間にか壁際まで追い詰めていた。  
それなら、と、壁に両腕をついて、サティンを腕の間へ閉じ込める。  
お互いの吐息が感じられるほどまでに顔を寄せても、サティンは逸らすことをしない。  
睨みつけるような視線は、それでも鎖縛を捕らえて離さない。  
「……俺を誘惑しようっていうのか?」  
「どうしてそうなるのよ。誘惑してるのは――」  
あなたの方じゃないの、と言葉を紡ごうとしてサティンは慌てて唇を噛む。  
だが、付け入る隙を見逃すほど甘い鎖縛ではなかった。  
「誘惑されている、っていう自覚はあるわけか」  
「だ〜れ〜がああっ、あなたなんかにっ! 放してちょうだい、わたしは依頼主に報告に  
行きたいんだから! 向こうもやきもきして待っているだろうと思うし……。出立は明日  
でもいいと思うのだけど……って、ねえ鎖縛? 聞いてる?」  
「聞いてない」  
髪を包んでいる布をとってやると、生乾きの髪が束になって肩へ落ちる。  
砂色の髪に指を埋め、梳くように毛先へと撫でおろす。  
サティンの白い首筋を伝わって滴り落ちた雫を、鎖縛は自らの唇で受け止めた。  
「ちょ……!な……にっ…………やっ」  
突然与えられた刺激に、サティンは抗うより先に身をすくませる。  
鎖縛は構わずそのまま首筋から耳元へ向けて舌を這わす。  
耳朶を甘く噛んでやると、鎖縛の腕の中で、サティンは悲鳴にも似た声をあげた。  
「やあっ………………鎖縛!」  
 
自分の名を呼ぶ声に弾かれるように、鎖縛は顔を上げた。  
真顔でこちらを見上げてくる彼女を、あらためて正面から覗き込む。  
嫌悪することもせず臆することもなく、ましてや同情でもない――彼女のように自分を見つめる瞳を  
鎖縛は今まで知らない。  
どんな時もまっすぐに自分を呼ぶその声を、今まで知らない。  
「俺を馬鹿にした罰だ」  
からかうような笑みをうまく浮かべられているだろうか、と鎖縛は思う。サティンの目に自分が  
どう映っているのか――サティンの声も表情も真剣すぎてわからない。引きずられそうになる。  
余裕がなくなる。  
「あなたを馬鹿になんか……した覚え、ないわよ?」  
「お前になくてもこっちにあるさ。――人間なんぞに庇ってもらって喜ぶ魔性がどこにいる?」  
違う。言いたいのはこんな言葉ではないような気がする。  
「本当になにも考えてなかったのよ、あの時は」  
ただ……とサティンが言いよどむ。その瞳にかすかな悲しみの色が宿るのを鎖縛は見逃さなかった。  
あの、青い髪の妖鬼――幼い少女の姿をした、かつてのサティンの護り手。  
口にこそ出さないものの、護り手を失った悲しみが未だに色濃くサティンの心に  
影を落としていることを、鎖縛は知っていた。  
絆、などと呼べるような繋がりは鎖縛とサティンの間にはない。  
ただ、かつて護り手を失ったという記憶が、とっさに鎖縛を庇うような真似をさせてしまったのだろう。  
その庇った相手こそが、彼女の最愛の護り手を手にかけた妖貴だとは……何たる運命の皮肉だと、  
サティンも今になって後悔しているのだろうか。  
 
「…………ないな」  
「何ですって?」  
それがサティンの傷をえぐるような行為と知りつつ、鎖縛は言葉を紡ぐ。  
無性にサティンを傷つけ、血を流させてみたくなる――その、心を。  
「面白くないって言ってるんだよ。以前にお前が組んでいた護り手程度ならあれしきの小鬼に  
手こずりもしただろうが……仮にも俺は妖貴だぞ? そんな雑魚と比べるほうが間違ってる」  
「比べてなんてっ……!」  
予想通りのサティンの反応に、鎖縛は苦い笑いを浮かべる。図星か、とも思う。  
「誰が……誰が比べるものですかっ! あなたなんかと……っ」  
勢いよく振り下ろされたサティンの手が、小気味よい音を立てて部屋中に響き渡った。  
 
 
「え!?」  
思いがけなくよく響いたその音に、驚いたのはサティンのほうだった。  
手加減こそなかったものの、本気で力を込めていた風でもなかった様子を見ると、当然、  
よけるものだと思っていたらしい。  
「大胆なことをしてくれる奴だよな」  
打たれた頬を気にするでもなく、苦笑交じりとも取れる声で鎖縛が呟く。  
下ろすことも忘れたままの手首を掴まれ、さしたる抵抗もできずにサティンは再び鎖縛の胸に  
引き寄せられた。  
「大人しくしてりゃ優しくしてやろうって気にもなったものを……」  
「な…………!」  
「相応の覚悟はあるんだろうな?」  
覚悟ってなによ、と抗議の声を上げようとしたサティンの唇を、鎖縛のそれが荒々しく塞ぐ。  
「……………………!」  
抗おうとして振り上げたもう一方の手も軽々と封じ込め、鎖縛はなおも執拗にサティンを貪った。  
酸素を求めてあえぐサティンと同じ真剣さで、鎖縛は彼女の唇を求める。  
苦しそうに顔をしかめながら、それでもサティンは気丈にも目を閉じようとはしない。  
その榛色の瞳に映し出される鎖縛の姿が、奇妙に歪む。  
泣かせた、と思った。だが涙はこぼれることなく、睫毛が縁取る瞳の端にその輝きをたたえたままだ。  
 
長い沈黙の後、鎖縛はようやく彼女の唇を放すと、両の瞼に交互に口付けた。  
塩辛い味のする泪を、舌ですくい取るように舐める。  
手を下ろして拘束を解いてやると、サティンは大きく息をついた。解放されたと思ったのか、  
それとも、抵抗することをあきらめてしまったのか。  
「泣いてみろよ」  
まただ、と鎖縛は思う。どうしても意に反する言葉を紡いでしまう自分に軽い苛立ちを覚える。  
だからといって自分の本意がいったいどこにあるのか、鎖縛にはまだわからない。理解できない。  
そして、行き場のない苛立ちの矛先をサティンへと向ける。  
「でなけりゃ、お得意の虎の威でも借りてきたらどうだ?」  
左手首に連なる金の鈴を見せ付けるように、鎖縛はサティンの目の前でひらひらと  
手を振ってみせる。  
文字通り枷となって鎖縛を縛り付けている忌まわしい拘束具――だが、それこそが、  
自分とサティンをつなぐたった一つの確かな絆と呼べるものかもしれなかった。  
「お前がその気になれば俺は逆らえない…………わかってるんだろう?」  
自嘲気味に鎖縛は呟く。  
サティンが一言、やめろ、と言えばやめるつもりだった。  
むしろそれを望んでいた。受け入れられるとは思っていなかったから、これ以上求めるつもりなんて  
最初からなかった。  
だから、ふいにサティンが自ら胸に飛び込んできたとき――鎖縛は心底驚かずにはいられなかった。  
「……おい…………?」  
「馬鹿ね! 馬鹿よ! あなたってば本っ当に大馬鹿! わたしはまだ……許したわけじゃ  
ないのよっ!?」  
何が、とは聞かなくてもわかる。彼女の半身とも言えた護り手の命を奪ったのは他でもない自分だ。  
サティンにとってもう一つの大切な存在を守るため、という大義名分だけで、  
今の鎖縛は存在を許されている。  
彼女の最愛の護り手であった――架因には、成り代われない。  
 
「本当に……馬鹿、なんだから……」  
いつの間にか背にまわされていた、サティンの両腕に力がこもる。  
「あなたのその卑屈な根性が気に食わないって言っているのよ! どうせ、また自分で  
自分のこと偽者扱いして、勝手にひがんでるってオチなんでしょうけれどっ。  
……どうしたらあなたみたいな馬鹿、架因や……他のひとと比べたりできるっていうのよ。  
自惚れるのも、いい加減にしてちょうだいってば!」  
あなたは、あなたでしかないじゃないの――。  
続くべき言葉は、サティン自身の唇によって封じ込められた。  
 
 
初めて彼女の方から与えられた口付けは、泪の混じったものだった。  
ぎこちないその動きに応えるように、鎖縛はそっとサティンの濡れた髪を撫でる。  
どこかまだためらうような――触れるだけの接吻を、どちらからともなく繰り返す。  
物足りなくて――でも、壊したくなくて。  
鎖縛は硝子細工の置物でも扱うかのように慎重にサティンを抱きかかえ、そろそろと寝台に  
横たえた。  
「……いいのか?」  
この期に及んでまだ問いかけるような響きを含む自分の声に、鎖縛は自分の事ながらつい  
苦笑を漏らしてしまう。  
否と言われて止めるつもりも自信も無いくせに。  
「まさか、わたしに『いいわよ』なんて言わせたいわけじゃないわよね?」  
 
あくまでも強気な態度を崩さない砂色の髪の捕縛師は、そう言って自ら睫毛を伏せた。  
 

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