「くそー、ハヤテの奴、今日も子供扱いしおって・・・!」
「・・・またハヤテくんの誘惑に失敗したのかしら?」
「またって言うな! 折角、恥じを忍んで色気に訴えたと言うのに!」
「・・・色気?」
「そ、そんなものが何処にあるか一生懸命に探すような目で見るな!
ただそのだな・・・あ、頭の悪そうな女に見られそうで嫌だったのだが、
私にも少しくらい隙があった方が、ハヤテだって取っ付き易いだろうと思ってだな!
・・・そ、それで少し胸を肌蹴た感じにしてみたのだが・・・」
「・・・“お嬢様、この時期にそんな格好をされては、お屋敷の中とは言え、風邪を引いてしまいますよ”とでも?」
「っぐ! マリアも同じだと思うのか!」
「い、いえいえ! ただハヤテくんならそう言いそうだなぁ、と・・・」
「まったく失礼な奴め!
大体、いくら控えめとは言え、年頃の女性の胸元がちょっとダイタンに肌蹴ているというのに、
全く関心を示さないとはどういう事だ!?
・・・まさか、既にクラウスに・・・」
「・・・控えめ? ・・・年頃・・・?」
「そ、そこに突っ込むな!」
「まあ・・・クラウスさんに付いては知りませんが・・・
やはり、服の上からでもわかるような膨らみがないことには、ハヤテくんとしても意識のしようがないような・・・」
「お、お前まで私をバカにするのか!」
「逆にナギの年であまり胸がありすぎるのもどうかと思うけど・・・そうだ、バストアップ体操でも試してみましょうか?」
「バストアップ? なんだそれは?」
「ええ、確かこうやって、両手のひらを胸の前でお祈りするみたいに合わせて、左右から力を込めて押してあげると・・・」
「む、こうか? なるほど、アイソメトリック運動という奴だな。
これで大胸筋を鍛えて胸を強調するというわけか・・・運動は嫌いだが・・・
まあ、主人がこういう努力をしているのを目の当たりにすれば、ハヤテとて意識しないわけには行くまい!」
「・・・そういう努力は影でするものなんですが・・・」
「う、うるさい! さんざ子供扱いしてくれた意趣返しだ! 思い切り見せ付けてやるのだ!」
(・・・はぁ、相変わらずこの子は・・・まあでも、運動のきっかけが出来たという意味では、よかったのかしらねぇ?)
翌朝。
ハヤテがいつものように朝食作りにキッチンへ向かうと―――
「あれ、おはようございますお嬢様! ・・・今日はお早い・・・というか、一体何を・・・?」
そこには早速バストアップ体操をこれみよがしに実行しているナギ。
テーブルの上にはビン牛乳。
そして後方にちょっと困った感じの笑顔のマリア。
「ふん、見てわからんのか、これはバストア・・・」
「あ、思い出しました! 胸を鍛える“筋トレ”ですね!?」
「・・・き、筋トレ?」
「前に通ってた学校の友達が、一年間それやって、すっかり“厚い胸板”になってましたよ、継続は力なり、ですね!」
「・・・厚い・・・胸板・・・?」
「それにしてもお嬢様が肉体派に転向するとは意外でしたが・・・それならそれで、僕も協力・・・って、あれ?
お嬢様どうしまし・・・」
がしゃーんっ
「ええいもう知らん! 部屋に戻るから食事をもってこい!」
ずかずかずか、ばたーんっ
「ええとマリアさん・・・なんで僕は牛乳ビンをぶつけられているんでしょう?」
「う〜ん、まあなんというか、相変わらずズレていますねぇ、あなた方は、というか・・・」
「は、はぁ」
「まあでも、この方が良かったのかもしれませんね・・・」
こうして、ナギの微乳は無事、守られたのでした。
めでたし、めでたし。