眠れない。  
 三千院ナギはいつもは寝つきは悪くないほうなのに、今夜だけはハヤテの言葉が  
耳に残ってどうしても眠ることができないでいた。  
 
 今日起こった出来事。  
 ロボットに命を狙われてもうだめかと思ったとき。  
 そんな絶体絶命の危機に、ハヤテは現れてくれた。  
 
 伊澄に一億五千万で売っちゃったのに。あんなに酷いことを言ったのに。  
 それでもハヤテは助けてくれた。名前を呼んだら現れてくれた。  
 そしてそのあとの言葉。  
 
「いくら嫌われても、僕がお嬢さまを大切に想う気持ちに、変わりはないですから」  
 
 その言葉を思い出すたびにナギの小さな胸の一番奥は熱くなる。  
 何かに締め付けられてしまうような気持ち。  
 息が苦しくなってるくらい、熱を帯びてしまう。  
 
 シーツの波の中、ナギは目を開いた。  
 伝えないと。  
 やっぱり…ハヤテに伝えないといけない。  
 小さな胸の中の固い決意は次第に熱を帯びてくる。  
――ハヤテに、今日のお礼と、ごめんなさいをしないといけない。  
――ハヤテは私を守ってくれたんだから。  
――ハヤテは約束を守ってくれたんだから。  
 ナギは決意した。  
 
 ナギは隣で眠っているマリアを起こさないよう、足を忍ばせて寝台から降りる。  
 抜き足差し足で寝室から廊下へ。ドアも音が出ないようにこっそりと細く開け、  
廊下に出る。  
 
 暗い廊下を歩きながら、ナギは思う。  
――まだ、ハヤテにゴメンって言ってない。  
――勝手に誤解して、クビにして売っちゃったのに、私は謝ってない。  
 
 きっとナギがこんなに素直になったのは生まれて初めてのことだろう。  
 それくらい、このひねくれた生粋のお嬢さまは今や執事の少年のことを  
大切に思っていた。  
 
――許してくれるだろうか。  
 あの優しいハヤテのことだから、きっと許してくれるだろう。  
 そう思ってはいても、ナギはどこかしら不安で、そしてなにか  
期待に近い想いも抱いていた。  
 こんな夜中に、こっそりと好きな男の子の部屋に赴くのだ。  
 ドキドキしないわけがない。  
 廊下を一歩一歩歩く足取りもどこかフワフワして落ち着かない。  
 
 
 ナギは執事居室のドアの前に立った。  
 いまやナギの小さな胸の動悸は静まるどころかより激しさを増してしまっている。  
 
 そっとドアを開けると、暗い室内に廊下の明かりが細く差し込んだ。  
 
 窓のカーテンを閉めていないせいで薄い月明かりが部屋のなかをうっすらと  
照らし出している。  
 ナギは抜き足でベッドに近づく。  
 
 ハヤテの匂いがする。  
 
 ハヤテの匂いがする。  
 汗と、貧乏の匂い。  
 でもそれは嫌いじゃない。  
 心臓が勝手にドキドキと高鳴りだす。  
 胸が熱くて、胸が苦しくて、涙が出そうになる。  
 ハヤテ…ハヤテ…  
 ハヤテの寝顔。  
 ナギはそれを目にしただけで深緑色の瞳にうっすらと涙を浮かべてしまう。  
 
 ハヤテ。ハヤテ。ハヤテ。  
 
 ハヤテの髪の毛に触ってみると、それはフワフワで、とても柔らかい。  
 ハヤテはやっぱりどこまでも折り目正しく、真上を向いてすうすう寝ている。  
 
――やっぱりハヤテはカッコイイ。  
 ナギは高鳴る胸の中でそう思った。  
 月明かりに照らされたハヤテの目元や鼻筋にナギは魅入られていた。  
 女の子みたいに優しげで、でも男の子っぽい凛々しさも兼ね備えている。  
 そんなハヤテの寝顔からナギは目を離せない。  
 胸いっぱいにハヤテの匂いを吸い込むだけで。  
 つややかなハヤテの寝顔を見つめるだけで。  
 ナギの小さな胸は高鳴り、瞳からひとりでに涙がこぼれそうになってしまう。  
 
「……ハヤテ…」  
 ナギはそう口にする。大好きな執事の名前を口にすると、胸の中の溢れそうな想いは  
さらに熱く激しくなってしまう。  
「ハヤテ…ハヤテ…ハヤテッ!!」  
 唇の中でその名を転がす。  
 一言ごとに、ナギの胸の中の想いは加熱し、どうしようもないくらい渦巻いて  
少女の全身をブルブルと震わせていく。  
 
 少女の気配に感ずいたのか、ハヤテは目を覚ました。  
 ハヤテがまず最初に気づいたのは、目の前で泣いている雇い主の少女だった。  
 
「お嬢さま!? お嬢さま、怖い夢でも見たんですか?」  
 どこまでも真面目な執事のハヤテはまず主人を気遣った言葉を口にした。  
 深夜に自分の居室にナギが居るという事実は二の次で、ただ雇い主の少女を気遣うあたりが  
ハヤテの生真面目さなのだろう。  
 
 
 ハヤテの声を聞いただけで、ナギは胸の奥が痛くなる。  
「ハヤテ…ハヤテぇ…」  
 ただ名前を口にしながらナギはハヤテの胸に飛び込んだ。  
 涙が勝手に溢れてきてナギの瞳の淵が涙に濡れる。  
 
 
 よくわからないが、ハヤテはとにかくナギを落ち着かせようと頭を撫でる。  
「うう゛ー、ハヤテぇ…」  
「お嬢さま、落ち着いてください」  
 
 お嬢様らしい綺麗でまっすぐな髪の毛を撫でられて、ナギは心底自分がどれだけ  
この執事の少年を好きかということを自覚した。  
――私はハヤテが好きだ。  
――ハヤテが大好きだ。  
――ハヤテだけいればいい。  
――ハヤテがいてくれれば、それだけでいい。  
――ハヤテがいなくなるのは、もうイヤだ…  
 
「わ、わ、私、ハヤテに、ハヤテに、あ、あやまら、なきゃって、ハ、ハヤテェ…  
わ゛、わた、私のこと、き゛、きら゛いに…な゛らないで」  
 
 嗚咽交じりにナギはただそれだけを口にする。  
 大好きな少年に謝罪して誤解されないために赤心を晒す。  
 ナギがこんなに素直になったことはその人生のなかでなかったことだ。  
 
 ハヤテは戸惑いながらも微妙に感動していた。  
 いつも大人ぶってるお嬢さまにも、こんな幼い一面があるんだな。  
 ナギにとってあまり嬉しくないことに、ハヤテは兄モードに入ってしまっている。  
 
「お嬢さま」  
 胸に抱きついているナギの耳元にハヤテは囁いた。  
 耳朶をくすぐるハヤテの声に、ナギは背筋を震えさせる。  
 ハヤテの声。  
 大好きな、執事の少年の声。  
 それだけで、ナギの慎ましやかな胸の中は温かな感情で満たされてしまう。  
「僕が大好きなお嬢さまをキライになることなんてありませんから」  
 続くハヤテの言葉に、ナギは平衡感覚を喪ってしまうほどの衝撃を受けた。  
――好き。  
――大好き。  
――ハヤテが大好き、って言ってくれた。  
――大好きって。  
 ナギは今まで感じたことのない多幸感に包まれながら、ただ歓喜の涙を流すことしか  
できない。  
 
「お嬢さま、泣かないで下さい。せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」  
 
『可愛い顔』  
 可愛い。  
 今までそう言われてもなんとも思わなかった言葉がナギの心臓を撃ちぬいた。  
 ハヤテが、自分に「可愛い」って言ってくれた。  
 可愛い。かわいい。  
 桃色の波動がナギの心臓からどんどん沸いてきて、全身を柔らかく温かく  
包み込む。  
 
「どうしました、お嬢さま?」  
 ハヤテの優しい目。貧乏で苦労ばかりしてきたのに、曲がった所が全然ない、  
真っ直ぐな目。  
 ナギはハヤテのこの目が大好きだ。  
 貧しいかもしれないが絶対に卑しくない。  
 どんな苦境にあっても、どんなに辛くても、絶対にだれかを恨んだりしない、  
そんな目だ。  
 
 その目で見つめられると、ナギは体の芯が熱くなってしまう。  
 頬が火照り、耳まで熱くなるほど顔が真っ赤になってしまう。  
 
「ハヤテぇっ」  
 ナギはもう何も考えられない。  
 ただ、この大好きな執事の少年の胸に再び飛び込んで抱きつくことしかできなかった。  
「ハ、ハヤテぇ…」  
 こんなにもハヤテのことが好きだ。  
 その想いを伝えたい。  
 でも三千院ナギという少女はどうしようもなく、感情表現が苦手なのだ。  
 生まれてこのかた、異性に好きと言ったことがない。  
 どうすれば好きという気持ちが伝わるかすら判っていない。  
 
 切ない気持ちだけがナギの中に溜まってきて、ハヤテを好きな気持ちが  
行き場を失って胸の中でぎゅんぎゅんと暴走してしまっている。  
 苦しい。とても苦しい。  
 この気持ちを伝えたい。伝えたい。  
 
 ナギの火照った耳がハヤテの頬に触れる。  
 恥ずかしい。なぜだかわからないが、ものすごく恥ずかしい。  
 ナギは異性と触れ合うこと自体が生まれて初めてのことなのだ。  
 
   
 ハヤテは途惑いつつもこんな素直なナギは初めてだなあ、と思いながら  
胸の中に飛び込んできている大切なご主人さまの頭を撫で続けた。  
 
 ハヤテはナギとは別の種類の感慨にとらわれている。  
 借金に追われて生活してきたハヤテにとって、真心で尽くせば  
ちゃんと応えてくれる仕事というものはいままでしたことがなかった。  
 だから、ナギというご主人さまに尽くせばこんな風に応えてくれる、  
執事という仕事をして良かった、と心の底から感じていた。  
 そしてそんなやりがいのある仕事を与えてくれた三千院ナギという  
少女に対する敬愛と感謝の念も。  
 
 
 
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-  
≪ハヤテ君、ハヤテ君ー≫  
「なんですかいきなり」  
≪ここってエロパロ板だって知ってましたー?≫  
「…まあ、たしかにそうですけど」  
≪だからですねー、18禁なことをしないと怒られちゃうんですよ≫  
「・・・・・・へ?」  
≪だから、ナギにそういうコトをしないとこの板から追い出されちゃうんですって≫  
「そ、そういうコト、って!? なに言ってるんですか!  
 お嬢さまにそんなことできるわけないじゃないですか」  
≪そんなこと?…私はべつにどんなコトとも言ってないですけど…≫  
「……!」  
≪でも、この場合はハヤテ君の想像のとおりですよ?≫  
「え?」  
≪えっちなことをナギにしないと、この板から追い出されちゃうんです≫  
「なっ、エッチなことって! そんなのムリですよ!!」  
≪できないんですか?≫  
「できませんよ!! だいたい、お嬢さまはまだ13歳なんですよ!?」  
≪じゃあしょうがありませんね。主役は鬼畜ハヤテ君に代わってもらって  
 ナギお嬢さまを容赦なくいたぶってもらいましょうか≫  
「なっ、…ダメ! ダメですそんなのは!」  
≪鬼畜ハヤテ君は酷いですからねー。きっとナギが泣いてもわめいても無理矢理乱暴に  
しちゃうんでしょうねー≫  
「ダメです! 鬼畜な僕だなんてとんでもないですよ!」  
≪じゃあハヤテ君がしますか?≫  
「…な、いや、それはだってダメですよ」  
≪…鬼畜ハヤテ君はきっとお嬢さまにトラウマが残るくらい酷い  
 レイプをするんじゃないかな……≫  
「……」  
≪ハヤテ君がやさしくえっちしさえしてくれれば、ナギも泣かずに済むのに…≫  
「…」  
≪…≫  
「わかりました! やります! 僕がやればいいんでしょう!?」  
≪さすがハヤテ君は物分りがいいですねー≫  
「…」  
≪じゃあ、続きをお願いしますねー≫  
「……」  
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-  
 
 
 
――さてどうしよう。  
 
 ハヤテは困惑していた。  
 
 天の声(なんかマリアさんの声にすごくよく似ていたのは気のせいだろう)には  
ああ言ったものの、ハヤテにとっては三千院ナギという少女は愛情の対象では  
あっても性欲の対象にはなったことがなかったのである。一度も。  
 
 そんなわけで、胸の中で泣きじゃくる少女を見ながらハヤテは困惑していた。  
――18禁なことって言われてもなあ…どうしよう。とりあえずキスでなんとか…  
キスでも18禁になれるかもしれないし。  
 
「お嬢さま」  
 
 意を決したハヤテはナギの頬に手を当てると、そっと上向かせた。  
 
 ナギの涙を溜めた瞳はすこしだけ大人びて見えて、ハヤテは一瞬ドキっとした。  
 幼いとばかり思っていたナギの表情の中にはかすかな、だが毎日毎日雇い主を  
見ているハヤテにとってははっきりとわかる明らかな「色気」が隠されていた。  
 
 ハヤテにはピンと来てないが、実は三千院ナギという少女はソッチ系の方には  
たまらないタイプの美幼……美少女であり、もう3〜4年経てば誰の目にも明らかな  
絶世の美少女になる予定のそんな女の子なのである。  
 傲慢で偉そうな物腰で隠れてしまってはいるがつぶらな瞳に端整な鼻筋、  
薄くて形のよい唇。ふっくらとして可愛らしい頬、どれ一つとっても美よ…  
美少女の資格は充分にある。  
 
 いわばその美少女の未来予定図の原形のようなもの、それを頬を染めながら上目遣いで  
好きな男の子を見つめるナギの表情の中にハヤテは発見してしまった。  
 
 深い色の瞳は真っ直ぐに熱っぽくハヤテを見つめている。  
 生まれたての子犬のように、疑いを知らない色で、ただ真っ直ぐに。  
 
 ナギが涙をたたえた瞳で上を向き、ハヤテの顔を見つめる。  
 寝巻きの襟から覗く細い肩。細い首筋。白い肌。  
 それを見たハヤテの胸がどきりと鼓動する。  
 
 ハヤテはすべすべのナギの頬を掌で撫でた。  
――お嬢さまのほっぺたって…熱くて、すごくスベスベしてる…  
 
「ハヤテ……」  
 ナギの桜色の小さな唇がそう動いた。  
 薄桃色に火照ったやわらかそうな頬の中に、ほの赤く色づいている唇はハヤテの理性を瞬時に蒸発させた。  
 可愛らしく盛り上がった小鼻。スラリと伸びた鼻筋。  
 涙の粒をまとったつぶらな瞳。  
 
――お嬢さま、可愛い…  
――唇、柔らかそうだな…  
――キスしたらどんな感触なんだろう  
 そんな想像が脳裏に渦巻き、ハヤテはふっくらと膨らんだやわらかそうな、  
そしてつややかなナギの唇から目を離せない。  
 
 ハヤテはナギの頬に両手を添えて、そっと上向かせた。  
 掌に伝わるナギの柔らかく、すべすべな肌の感触がハヤテを昂ぶらせる。  
 
 ハヤテはそんなナギの頬に伝う涙のしずくをそっと指で拭い、大切な雇い主で、  
今や愛の対象になっている少女に対して正面から想いを告げた。  
 
「お嬢さま、大好きです」  
 
 年下の少女に愛を伝えるにはあまりに朴訥な、そんな言葉しかハヤテには  
言うことができなかった。  
 
 
 そしてそれだけで十分だった。  
 
 
 大好きな少年が、優しい笑みを浮かべたまま瞳を見つめながらそう言ってくれた。  
 ナギはその一言を聞いただけで激しくその顔を高潮させてしまう。  
 人間がこれほど顔を赤くできるのかと思えてしまうくらい激しく。  
 そのつぶらな瞳からは涙がこんこんと湧き出て流れ出し、頬に添えられた  
ハヤテの掌を濡らす。  
 ナギの心臓が破裂しそうなほど、激しく鼓動をはじめる。  
 
 ハヤテにはナギの鼓動が掌に直接伝わってくる。  
 このままでは死んでしまうのではないかと思えるほどの激しい鼓動。  
「お嬢さま?」  
 大丈夫ですか、と続けようとしたハヤテだが、ナギはその声を聞くとすぐに  
涙であふれた瞳を閉じてしまった。  
 
 顔を上向きに、唇をまっすぐハヤテに向け、なにかを待ち受けるような表情で。  
 ハヤテはもう天の声に言われたことなどすっかり忘れ去ってしまった。  
 ただこの少女がいとおしい。  
 ハヤテの胸の中にはその想いしかなかった。  
 だからハヤテはそっと、この世界で誰よりも大切な少女に口づけた。  
 
 マシマロよりも柔らかく、糖蜜よりも甘い。  
 ハヤテはそう感じた。愛しい少女の唇は熱く、甘く、脳天にしびれるほどの  
柔らかさを感じさせた。  
 そんな感覚がナギの頬に添えられた掌に力を入れさせてしまう。  
 
――ハヤテの、口、すごい…  
 ナギの脳は沸騰寸前だった。  
 生まれて初めてのキス。それを大好きな男の子としているのだ。  
 
 まず感じるのは唇の柔らかさ。  
 そして味。唾液の味は、ハヤテのにおいと同じで、男のにおいと、貧乏の味がした。  
 大好きな執事の匂いが数百倍にも濃縮された味と香り。  
 唇から伝わる熱も、頬に添えられた掌の感触も、ナギの心臓を破裂させてしまいそうになる。  
 
 ナギの合わせた唇の間にハヤテの舌が割り込んでくる。  
 唇とは違う、しっとりとした暖かく柔らかな感触にナギは驚き震えた。  
 
 ハヤテの舌は薄いナギの唇をなぞり、唾液を塗りこめながら閉じた薄桃色の  
粘膜を押し開いた。  
 
――お嬢さまはキスなんて初めてだろうに、優しくしなきゃダメだよな・・・  
 ハヤテの中の冷静な部分はそう思ったが、でもハヤテは止まれなかった。  
 滑らかな唇の感触と、かすかに香るどことなく乳臭い、ミルクのようなナギの  
体臭がハヤテを昂ぶらせている。  
 
 ハヤテの舌先がナギの唇を割り、口内に入り込む。  
 唇の内側の柔らかな粘膜をハヤテの舌がなぞり、歯茎を柔らかく愛撫する。  
 滑らかな歯列の感触を味わいながら、それをそっとこじ開ける。  
 吸い付くようなナギの口の粘膜をハヤテは舌で撫で回した。  
 ナギの熱くてサラサラした唾液を吸い、少女の小さく薄い舌に自分の舌を絡める。  
 
――熱い。  
 体温が高いのか、ナギの口の中は驚くほど熱く、粘膜を愛撫するハヤテの舌は  
痺れるような熱をしだいに帯びていく。  
 
「んくっ、んっ」  
 苦しげにもがくナギに気づき、ハヤテは唇を離した。  
 ハァハァと荒く息をつくナギ。  
 キスの間ずっと息を止めていたのだろう。  
「お嬢さま、鼻で息をするんですよ」  
 ハヤテはナギの耳にそう囁いた。  
 
 上気した頬。真っ赤になった耳たぶ。潤んだ瞳。  
 ハヤテの腕の中の少女は全身から力が抜けたようになりハヤテに掴まっている。  
 汗ばんだ絹の寝巻き越しにナギの熱い体温が伝わってくる。  
「…ハヤテ……」  
 ナギはとろんとした瞳でハヤテを見つめてきている。  
「ハヤテ…」  
 ナギはその言葉をもう一度口の中でつぶやくと、  
「……脱がして、欲しい」  
とだけ言った。  
 
「まずい」とか「ヤバい」などといったことを思いつく前にハヤテは  
この女の子の肌を見たい一心で、  
「はい、お嬢さま」  
と答えてしまっている。  
 
 脱がしたらどうなるのか。  
 脱がしたそのあとでどうしたらいいのか。  
 
 そんなことは今のハヤテの頭の中には無い。  
 
 ただ、腕の中の可愛らしい少女の、生まれたままの姿が見たい。  
 その一心で、ハヤテはナギのシルクのネグリジェの背中のリボンをそっと摘まんだ。  
 するする、という滑らかな感触とともにリボンはほどけてしまう。  
 絹の光沢が剥けてその中から現れるのは透けるような輝くような白い肌。  
 月の明かりが照らす青暗い室内のなかに、そこだけ白く輝くナギの身体が別世界の  
存在であるかのように浮かび上がる。  
 すらりとした細長い手足と、ほっそりとした腰周り。  
 微妙に陰影のできる、膨らみ始めた胸。  
 少女になりかけの途上のその肉体は、まるでこの世のものではないような  
美しさをハヤテに感じさせる。  
 ナギの身体を覆うのは、白いショーツだけだ。  
 小さな女の子の姿に見とれているハヤテ。  
 
「ハヤテ……」  
 それだけを口にしてナギはハヤテの胸に頭を預けてきた。  
 
――どうしよう。  
 今更になってハヤテは困惑していた。  
 どう考えても、お嬢さまとシてしまうのは犯罪だ。  
 たとえ切羽詰って誘拐はしでかしてしまっても、ヘンなところで律儀なのが  
綾崎ハヤテという少年だったりする。  
 心の底から大興奮していても、それでも「ナギを傷つけてはいけない」ということを  
最初に考えてしまう。  
 しかし透き通りそうなほど真っ白なナギの肌を見ているだけでハヤテの心臓はバクバクと  
音を立てて暴れだし、抱きしめただけで折れてしまいそうなほど細いナギの身体の感触は  
ハヤテの股間を熱くいきり立たせてしまう。  
 ハヤテだって健康な16歳なのだ。  
 そんなものを目の当たりにして平静でいられるほど棒っきれではない。  
 
――さ、触る…だけだったら…  
 
 ハヤテはナギをベッドの上に座らせると、小ぶりな乳房に指を這わせる。  
 小さくはあっても、やはり女の子である。  
 薄いながらも、そこだけは明らかに肋骨の感触はない。  
 
 ナギが口を開いた。  
「…ハヤテ」  
「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」  
「いや、痛いんじゃなくて……その……」  
 ナギはハヤテから視線をそらしながらも口ごもった。  
「…ち、小さくて…スマン」  
 うつむいたナギは蚊の鳴くような声で、恥ずかしそうにそれだけを言う。  
 
 
 ナギは今まで自分の容姿を意識したことがなかった。  
 皆が可愛いと言ってくれるのでそうなんだろうな、とは思っていたがそれだけだった。  
 マリアのおっぱいは大きいな、とかTVに出てくるアイドルの体つきは豊満だな、とは  
思っても、自分がそうなりたいなどとは思ったことがなかった。  
 しかし今は自分の貧弱な体が恨めしい。  
 もしもマリアみたいな豊満な胸があれば、ハヤテを柔らかく抱きしめてあげられるのに。  
 
 
「僕はお嬢さまの胸、好きですけど?」  
「ハヤテはホ、ホントは……マリアみたいなおっきなおっぱいが好きなんだろ?」  
 ハヤテはうつむきながら呟くナギに答えた。  
「そんなことはないですよ」  
 そう言ってナギの乳房に唇を寄せるハヤテ。  
 苺の背丈ほどの厚みしかないナギの小ぶりな胸のふくらみにキスをして、ハヤテは言った。  
「大きいとか小さいじゃないんです。お嬢さまの胸だから好きなんです」  
「・・・っ」  
 それを聞いたナギの身体が小さく震えた。  
 ハヤテの言葉を聞いた途端。ナギの胸の奥から熱い波が生まれて全身を温かく包み込んだ。  
 全身の毛が一瞬だけ逆立ち、力なく崩れるようにハヤテの胸に倒れこむ。  
 その蜜のような甘い暖かな波は背筋を這い登りナギの顔を真っ赤に染め上げる。  
 
 
 ハヤテの掌は気持ちいい。ナギはそれを全身で感じていた。  
 温かくて、柔らかくて、でも力強くて、優しい。  
 触れている所から痛いくらいの熱が伝わってくる。  
 頭を撫でられただけで感極まってしまいそうな。  
 腰に手を当てられただけで腰が抜けてしまいそうな。  
 膨らみかけの乳房に触れられただけで痙攣してしまいそうな。  
 
 
 好きになりすぎて、ナギは怖くなった。  
 ハヤテがいなくなったら…  
 ハヤテの笑顔がどこかに行ってしまったら…  
 今までの幸せな気持ちが夢のようになくなってしまったら…  
 考えただけでナギは怖くなった。  
 
 
「ハヤテ…」  
「なんですか、お嬢さま」  
「行っちゃイヤだ」  
「?」  
 微笑みを浮かべながら首をかしげるハヤテ。  
「もう、どこにも、行っちゃイヤだ。行かないでくれ」  
「…」  
「わ、私の前からいなくなっちゃ…イヤだ」  
 まるで幼子のように、泣きじゃくりながらそう言いつのるナギ。  
 ハヤテはこの少女を安心させることが自分の仕事だと思った。  
 
「お嬢さまが望む限り…いや、たとえ望まなくても。  
僕はいつまでもお嬢さまのお側にいますよ」  
 ナギの頬を優しく撫でながら、ハヤテは小さなご主人さまの耳に囁いた。  
 
「大好きです、お嬢さま」  
 
 
 とても大切な人、一番大好きな人に「好き」と言われる。  
 ナギの十三年間の人生の中で、一番幸せな瞬間が訪れていた。  
 ナギの心の中に、火が灯ったような温かさが生まれる。  
 涙の代わりに、胸の奥から熱い何かが湧き上がってくる。  
 
 とろんとした瞳のナギの胸、まだ小さいが、それでも膨らみかけのその胸に  
ハヤテは唇で吸い付いた。  
 乳暈を唇で撫でまわし、乳頭を舌先で転がす。  
「…っ!」  
 ナギは声にならない声をあげ、背筋を弓なりに反らせてしまう。  
「お嬢さま、くすぐったいですか?」  
「…!!」  
 声を出せないままナギは必死に首を左右に振る。  
 
 はむっ  
 唇で乳首を軽く食まれると、ナギは細い身体を限界まで弓反らせて痙攣する。  
 
「ハ…ハヤテッ、あっ、ハ、ハヤッ」  
 半開きの唇からよだれを垂らしたまま、ナギは焦点の定まらない瞳を虚空にさまよわせる。  
胸に吸い付いている執事の頭を両手で抱きしめ、言葉にならない声を漏らしていく。  
 
 小さな乳房全体を口の中に吸い込まれ、乳首を軽く噛まれる。  
 乳暈をハヤテの熱い舌で舐められる。  
 ハヤテの歯が膨らみかけの乳房に食い込み刺激される。  
 
 生まれて初めて好きになった男の子に肌を舐められ、吸われ、噛まれる。  
 ナギの脳天からシャワーのように快楽の粒子が降り注ぎ、  
「……っひっ、あっ、ヤテッ、ハヤっ――」  
 
 ナギの小さな体が痙攣する。  
 瘧に掛かったようにピクピクと身体を痙攣させたナギはそのまま崩れるように  
仰向けにシーツの上に倒れた。  
 
 ぷしゃ、という音と共にナギの股間から熱い飛沫が漏れる。  
 あまりの興奮と快感で、少女の尿道は弛緩してしまったらしい。  
 
 しゃあああ、と可愛らしい音を上げてナギの下腹部から銀色の曲線が噴きだした。  
「ひああっ、ダメ、だ、だめええええええっ」  
 そう叫びながらもナギは自分の尿をとめることができない。  
 しょああああ、という音とともにハヤテのベッドに吸い込まれる尿は、  
後半からは素早く脱いだハヤテのパジャマに吸い取られるものの、  
ナギはとうとう最後の一滴まで失禁を止めることができなかった。  
 
「う、うううぁあぁぁぁぁ」  
 泣きじゃくるナギ。  
 大好きな執事の前で、お漏らしをしてしまった。  
 
――嫌われる  
――嫌われてしまう  
――一番好きなひとに、嫌われてしまう  
 
 ボロボロと瞳から涙をこぼしながら、ナギは必死にハヤテに懇願する。  
「めんな、ゴメンナサイ、ヤテ、ハヤェ、き、ン、き゛ら゛い゛に、  
キライになら゛、な゛ら゛ないで」  
 鼻声で懇願するナギ。  
 
 ハヤテは有能な執事らしく、どこからともなくタオルを取り出してベッドの上についた  
ナギのお漏らしの跡に敷くと、別のタオルでナギの太股を拭き始める。  
 そしてすこしだけ躊躇すると、ナギの下着に手を掛ける。  
 するする、と器用にそれを脱がすと、尿で濡れた秘密の部分を優しく拭っていく。  
 
 ナギの右足を抱えあげるようにして股を開かせると、その一番奥にはうっすらと  
産毛しか生えていない陰裂がある。  
 
――見られてる。  
――見られちゃってる…  
 生まれて初めて、こんな姿を他人に見せているナギは心臓が破裂しそうになっていた。  
 
 
 
――どうすれば泣き止んでもらえるだろう?  
 ハヤテは思い悩みつつも、一つの答えにたどり着いた。  
 
 ぬらり。  
 ハヤテの舌がナギの割れ目を舐めあげる。  
 潮吹きの液体に塗れた陰部を丹念に。  
 
「あ゛っ、ダメ、ハヤテ、そんなきたな、いッ」  
 白目を剥きかけたまま喘ぐように叫ぶナギ。  
 
 
 ハヤテは唇をナギの恥丘から離すと、キッパリと言った。  
「お嬢さまの身体に、きたないところなんてありません」  
 
「…ひぐッ」  
 ナギの胸の中はハヤテの言葉でいっぱいになる。  
 
 ハヤテは尿道に残った液体を吸い取り、陰裂にたまった雫を舐め取る。  
 太股についた拭きのこしの尿を舌で丁寧に拭き取る。  
 
 薄桃色の肉の割れ目を両手で押し広げる。  
 穢れを知らない粘膜が押し広げられ、  
 ハヤテの舌はナギの処女地を舐めあげ、ねぶり、ナギのいままで誰にも  
触れさせた事のない大切な場所を思うままに触りまくった。  
 

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