「おお……これはこれは……」  
 
 本人曰く“ゴミのような”親に育てられ、あげくやくざに売られてしまった少年は、三千院の屋敷の大浴場に入っていった。  
 
「さすが僕の夢。 見事な大浴場だな」  
 
 自他共に認める貧乏少年は着た覚えの無い服を脱ぎ、湯煙が溢れる大浴場の中へと入っていく。  
 本人は臨死体験のせいで夢だと思いこんでいるのだが、彼が体験しているものは紛れもない現実。  
 大浴場にシャンデリアが天井につけられている部屋に様々な骨董品が並べられている長い廊下など、普段の生活と格段と差があったためそう思いこんでおり。  
 夢だ夢だ、と半ば思いこんでいる少年は、夢ならば誰も入っているわけがない、と辺りをよく見回しもせず湯に身を沈めた。  
 風呂は少年が一度も入ったことも見たこともないほど広い。  
 装飾のための岩が邪魔にならない程度に置かれ、一際大きい岩からは新しいお湯が流れ出していた。  
 
 家庭の事情で風呂に滅多に入れないがいつもは銭湯に行っている彼にとって広い風呂というのはあまり珍しくないのか、三千院の大浴場に戸惑いなく、いつもやっている通りに手ぬぐいを頭に乗せて、心地よさに嘆息した。  
 
「は〜、それにしてもここが天国なら死ぬのも悪くないなあ〜。 まあ、一人っきりっていうのは少し寂しいけど……」  
 
 そう独り言を呟く。  
 暖かい湯が誘うやわらかな目を細め、目の前に人がいるというのにも気づかずに。  
 
「…………」  
 
 目を開いてようやく気が付き、思わず言葉を失う。   
 彼の真っ正面に居る人物は……男だったらまだ彼にとって救いがあったのだが……女性。  
 彼の脳が激しく運動し、彼女の名前を導き出す。  
 もちろん彼の頭にその名前は浮かんでこない。  
 なぜなら、まだ知らないからだ。  
 
 とにかく、多くの思惑をはらみつつ、両者は沈黙を続けた。  
 とは言え、相手の目をじっと見つめ何を考えているのか、ということを推理するやりとりやテクニックは一切存在しない。  
 ぼーっと考えたままでも相手を見れば「あー、こいつパニクって何すればいいのかわからなくなってんなー」と簡単に予想がつくのだ。  
 
 少年と向かい合う女性はただひたすらに胸を隠し、身をお湯に沈め、顔を赤らめて少年の顔を見つめていた。  
 
(ナイス、俺の夢! ……じゃなくて、これは夢……だよね?)  
 
 少年はそんなことを考えていた。  
 女性の名前を脳内検索するのを止め、一体何故このような事態であるのかを模索し始め、それも皆目見当が付かなかったため、まずは夢か現実を確かめることにしたのだ。  
 結果は事実は違う『夢』  
 判断はかなり危うい基準で更に少年に備わっている様々な本能が、「これは現実だ! 目を覚ませ」と警告音を発していたが、理性がそれを拒否したのだ。  
 こんなラッキーな展開、絶対夢に決まってる、と。  
 平均的な同い年の人間より遙かに多くの苦労をしていたせいか、まるで竹林で一億円拾ってしまったような幸運を脳が受け付けなかったのだ。  
 
「あ〜え〜〜っ……。 こ、こういう場合ってやっぱり大声出して警察を呼んだ方がいいんでしょうか?」  
 
 もはや現実であることを拒絶してしまった少年より、先に口を開いた。  
 体をなるべく動かさずに、冷静に震えた声を出して。  
 
「さあ……ど……どうでしょう? 僕としては警察は苦手かな、なんて……」  
 
 本能の「これは現実なんだから警察は絶対に呼ばせるな」という命令と、脳の「これはいい夢なんだから絶対に警察に邪魔されるな」という命令が部分的に結託し、少年にその言葉を言わせた。  
 いきなり飛びかかって女性を襲い口をふさぐ、ということをしなかったのは、ただ単に少年が大人しかっただけである。  
 
 お互いこんな状況になったのは生まれて始めてだったので……どうしていいやら……。  
 
 
 再び二人にとって重い沈黙がやってきた。  
 両者とも目をそらしなんとか打開策を頭の中で考え、思いついた案が自分の身にかかるリスクと自分の度胸とを比較して検討し始める。  
 基本的には全ての案は保留という結果に落ち着き、結局はどちらからも動かない。  
 
 ただ、このままずっと黙って風呂に入っているわけにもいかず、再び女性が、少年に話しかけた。  
 
「え〜と、もしかして私……このまま襲われちゃったりするんでしょうか?」  
「やっ!! だ、大丈夫です!! 僕はもう犯罪はこりごりなので!!」  
 
 いきなり、私を襲う? と聞くのは、ある意味危険球だったのだが、相手がよかったのかなんなきを得る。  
 会話はそこでとぎれ、またまた黙り込む二人。  
 
 ふと、少年は目の前の女性の胸に気が付いた。  
 彼の倫理観が、そんなところを見ては駄目だ、と言っているのだが、性的なものとは別に彼を引きつける要因がその胸にはあったのだ。  
 
(……おかしい。 絶対におかしい。 さっきまではほとんど胸がなかったのに、今はちゃんと胸がある。 むしろ巨乳と言ってもいいほどで……)  
 
 あるいはそれは作画に問題があったのだろう。  
 だが、彼女と同じ二次元に属する存在である彼がそんなことに気づくわけがない。  
 その大きくなったり小さくなったりする胸に彼のガクジュツテキなチテキタンキュウシンが刺激され、彼に残るわずかな倫理観を引きはがして、視線が一点に集中する。  
 無論、下心が全くないとは言い切れなかったが。  
 
(大体今時の男の子がこの程度でいいはずがない!! ここはとりあえず行けるところまで行くべきじゃないのか!? なんつーか……、エロパロ的に!!)  
 
 第一普通の人は「警察が苦手かな」と言われた程度で警察を呼ばないはずがない、と少年は自分の都合のいい解釈を採用しはじめた。  
 無論、その思考はある場面では至極もっともで正論ではあるのだが、今回のような特殊ケースでは当てはまらないこともままある。  
 事実と彼の推論が食い違っていようとも、彼の暴走は止まらない。  
 唯一「今見ているものは夢ではなく現実だ」と警告をしていた本能も、急に意見を翻し「これは夢なんだから犯っちまえ」と言い出し始めた。  
 一方今少年を悩ませている女性の方はというと、なにやらそわそわと落ち着かない少年をじっと見るだけで。  
 
 少年は何かに吹っ切れたように、まるでゾンビのようにふらふらとした足取りで女性に近づいていった。  
 少年は自分の妹分でありまた自分の主人である人を助けて貰ったのでまさか本気で襲ってこないだろう、という女性の考えが一瞬、大声を上げることを邪魔した。  
 
 ふにっ、と少年の手が女性の大きさが変幻自在な胸を掴んだ。  
 触れた、でも、触ったでもなく、「掴んだ」のだ。  
 そのおおよそこの世のものとは思えぬ柔らかな感触が、少年の脳をスパークさせた。  
 
「そうかッ! わかったぞ。 これはプリズムなんだ! 角度を変えれば絵が変わるというプリズム……今まで僕が見ていたものは全部偽物で……本当の胸は……本当の胸は……本当の胸は? ……あれ?」  
 
 ふと、自分の頬をつねってみた。  
 夢とは思えぬリアルな胸の感触、そしてどう考えても痛い頬と固くなり過ぎた股間。  
 それらが導き出す答えは、彼の夢見心地を一気に現実に引き戻すものだった。  
 ようやく自分が夢を見ているのではなく、現実で風呂に入っていることを悟った少年は、ふと目の前の女性の顔を覗いてみた。  
 それは、相変わらず美人だ、というイメージとともに、ああ、やっちまった、という後悔をもわき上がらせる表情で。  
 つまりは、半分泣きそうな顔で。  
 
 次の瞬間、少年は本来女性があげるべき悲鳴を上げて、狂ったように走り出した。  
 
「うわああああああああああああああああああ!!! ごめんなさいごめんなさい! 夢じゃなかったとは思わなく……」  
 
 岩に思いっきり激突した。  
 
 本来の彼であれば、鍛えられた筋肉と打たれ慣れた全身でおよそ0,7秒ほどで回復するのだが、今は本調子ではない。  
 ちょうど数時間前に車に跳ねられ、常人以上の回復力で傷を一時的に塞いでいたものの、走ったり、強い衝撃を受けたりして傷口が開かないわけがない。  
 
 
 結局は大浴場に赤い花が咲くわけで。  
 
 
 この三千院の屋敷で唯一のメイドである女性ことマリアは困っていた。  
 さきほどまでハヤテという名の少年と一緒に風呂に入ってなごんだり、胸を揉まれたり、挙げ句の果ては自分が上げようと思っていた悲鳴を上げられ、  
狂ったように走り回られ、自分で岩に激突されて、血まみれになられたりされていたのだが、今ではその少年を自分で服を着せなければならないからだ。  
 彼女もメイドでありその腕は確かなもの。  
 人に服を着せることがもはや仕事のようなものであるはずなのに、下着一枚着せられないでいた。  
 いや、下着だからこそ着せられないのである。  
 
「……大きすぎです……」  
 
 気絶したハヤテは直前まで彼の生殖器を限界まで膨張させており、それがそのまま今そこにある危機と直結していた。  
 あのお風呂場の一連の出来事は、マリアが「全て夢での出来事」としらを切り続けることでどうにかするつもりだったのだが、まさか足と足の間にあるモノが邪魔で服が着せられないとは思ってもみなかった事態であり。  
 昔はよく服を着せていた自分の主人であるナギは体重が今でもまだ三十キロ満たずで、一方ハヤテは五十七キロ。  
 いつもの人のほぼ二倍の体重を持つ気絶した男性を着替えさせるということは結構大変なことである。  
 もっとも、一番の障害であるのはやはりそそり立つモノなのだが。  
 
「や、やっぱり小さくしなきゃ……駄目です……よね……」  
 
 マリアはぐっと唾を飲み込み、改めてハヤテの体を見直してみた。  
 幼さが残り苦労人を思わせる貧困さがにじみ出ているが、それでも好青年と言うことのできる顔。  
 脂肪がほとんど付いていない引き締められた筋肉に覆われている肩。  
 思わず感嘆させられる上腕二頭筋、上腕三頭筋……(中略)……腹筋、その他の筋肉。  
 そして顔に似合わない体をしているハヤテは、彼のモノも顔にそぐわない凶悪なものだったのだ。  
 ソレを直視するたびに気圧されてしまうマリア。  
 身近にいる男性といえば、半分枯れているような執事の倉臼征史郎とたまにやってくる子どもの橘亘だけ。  
 無論男根なんて見ることもない。  
 そんな彼女が、気絶した男のモノを見てうろたえないはずもなく。  
 正直なところ、ソレにあまりさわりたくないし、ハヤテも触られていい気分はしないだろうと思っているのだが、いかんせん下着を着させるのに致命的に邪魔であり。  
 ケンイチ君ばりに鍛えられた下半身の筋肉のせいか、少しずらしてトランクスをはかせようと思っても、とても固く弾力があるソレはことごとくトランクスを拒絶する。  
 あまり長い時間この寒い脱衣所で裸のままハヤテを放っておくことは、ひょっとしたら風邪を引かせることになるかもしれない、と思うマリアにそうそう選択肢は残されてはおらず。  
 
「仕方……ないですよね……」  
 
 壊れたテープレコーダーのように「仕方ない仕方ない」と連呼し続けながら、マリアはそっとハヤテの赤黒い棒に口を近づけた。  
 息がふきかかるほど接近し止まる。  
 彼女の純情さがやはり邪魔をして。  
 風呂の騒動の一件で実はハヤテに胸を揉まれたとき、一瞬だけそのそそり立つ何かしらを垣間見た映像が、マリアの脳裏に深く刻まれていた。  
 あれほど男性を近く感じたのは流石に始めてであり、下手をしたらトラウマになりかねない体験だった。  
 だがしかし、そのような目にあっても、マリアはこのハヤテという少年のことを嫌いになることはなく、むしろ逆にこの少年の発する保護欲を促されるフェロモンに当てられたかのように惹かれてすらいた。  
 彼女は認めたがらないだろうが、この少年をいじめてやりたい、という気持ちも……。  
 
「……しょうがないですね」  
 
 「仕方がない」が「しょうがない」に変わった瞬間だった。  
 それは言葉の意味のみの変化ではなく、「(今の状況がいかんしもがたいから)仕方がない」から「(ハヤテをマズイ状況に追い込みたくないから)しょうがない」という、  
密かなマリア本人ですら気づかないほどの些細な気持ちの変化でもあり。  
 つまりは……。  
 
「うっ……」  
 
 もう戸惑わない、ということである。  
 男の性器など一度も含んだことがない口の中に、ハヤテの毒々しいそれがゆっくりと入っていく。  
 口陰のステップを踏んでいくごとに、ハヤテがぴくりぴくりと跳ねる。  
 マリアは、ちょっと頭から血を吹き出しているハヤテのことにまで気が回らず、ただ無心に口の中で苦い唾液をこねくりまわし、舌でいたずらにハヤテの引っかかりの部分を試しになぞってみたりしていた。  
 
 思えば奇妙な縁だ、とマリアは思った。  
 数時間前に道ですれ違っても気づかないような相手を自転車でひき、いかにも不幸そうな顔をして寒そうだったからマフラーをあげたら号泣され……。  
 なんとかハヤテをなだめることができたと思えば忘れかけていたナギが誘拐されていて……特に恩を受けているわけではないはずのナギを助けようと、  
ハヤテは自動車に自転車で追いつき、挙げ句の果てには跳ねられ、  
ナギの心遣いによって命を助けられた少年が今こうやって大浴場の脱衣所で自分に男性器を舐められているなんて、こんなことを誰が予想していたのだろうか。  
 どうやらナギはこの少年に好意を持っているらしい。  
 ハヤテがナギに対してどう思っているのかわからないが、あのナギがいきなり見知らぬ相手を執事にすると言っている執心ぶりからしてただごとではないのだろう。  
 自分の主人であり妹分であるナギの好いている人物にこのようなことをしてナギは一体どう思うのだろうか。  
 その考えがマリアに背徳感をあおり立て、未だ経験したことのない劣情が沸々と心の奥底からこみあがる。  
 ハヤテのものをくわえているうちにマリアの吐息は段々と熱いものに変わり、股をすりあわせるかのように足をもじもじさせ始める。  
 マリアの動きもより大胆に変化し、最初は先の方をちろちろと舐めるだけだったのが、喉奥まで押し込んでみたり、手を使って玉の方を攻めてみたり、と。  
 マリアがそれほどまでに奉仕しているというのに、ハヤテの方は一向に目覚める気配はない。  
 そして出す気配もない。  
 まるで逆に焦らされているような感覚のマリアは、そっと余った手を自分の足の近くに這わせ……。  
 
「んっ……はぁ……」  
 
 そおっと、スカートごしから秘部をなで上げる。  
 思わぬ刺激に身を捩るマリア。  
 一旦口からハヤテのモノを抜き、息を整えつつも下半身に伸びる手を止めず。  
 
「あ……ふぅ……」  
 
 マリアの口と、ハヤテの肉の棒の先端とで銀色の糸が垂れる。  
 自分を慰める手は止めず、ハヤテのフトモモの付け根に頭を預け、ゆっくりと舌を裏筋に沿って舐め上げた。  
 その微妙な刺激にハヤテは激しく反応を示し、度重なる刺激のせいか射精の前兆を見せていた。  
 漠然ながらマリアはソレを感じ取り、竿をくわえたり、亀の頭の部分だけを口に含んで舌で弄び始める。  
 メイドに備わっていなければならない洞察力が特に鋭いマリアは、ハヤテの感じるところ、感じる方法を探し当て、重点的に責め立てる。  
 
「ああっ……そんな……あああああッ!!」  
 
 気絶していたハヤテが一際大きな声をあげ、遂にイク。  
 白濁液を噴出させ、脈動を繰り返す肉棒。  
 がっちりとくわえこんでいたマリアの口の中に、とてつもなく苦い味が広がった。  
 
「むっ……う……おえっ……」  
 
 とろんと垂れたマリアの目が一瞬にして理性の色を取り戻し、喉奥に発射させられた精液を吐き出す。  
 そのまま咳をし、口の中に残るネバネバをなんとか取ろうとしている。  
 苦い味がマリアの理性を引き戻したのか、名前以外何も知らぬ男のモノをくわえて興奮していたという事実に愕然とし。  
 しかもその男はナギのお気に入りであり。  
 大きな罪悪感がマリアにのしかかる。  
 しかし過ぎてしまったことはしょうがない、とすぐさま自分を取り戻す。  
 フェラチオをしてしまったとはいえ緊急に迫られた行為であったし、途中から気分がノってしまったことは否定できないが、  
これも一つの人命救助のようなもので、人工呼吸でキスするのと同じだ、と自分に言い聞かせるマリア。  
 さっと立ち上がり、服装を整え、顔をティッシュで拭き、深呼吸を一回二回。  
 
「よし、大丈夫。 もう二度とこんなことはせず、私は彼に対して何も思っていません。 だから、大丈夫……」  
 
 一度やってしまった過ちをどう今後に活かすかを重点に考えているマリアは、もう二度とこんなことはしまい、と強く心に誓った。  
 大きく揺れる心を正し、何度も何度も誓いを反復することによって言葉の重さを感じる。  
 濡れてしまったショーツをどうしようか、などと考えながら、マリアはハヤテに服を着させる作業を再開しようとする。  
 ただ、一つ問題だったのは。  
 
「ま、まだ大きいですね……」  
 
 ハヤテが『多産的』な人間だったことであろうか。  
 心の誓いは偉くあっさりと破られ、その後三回連続で気絶したハヤテに奉仕するマリアであった。  
 
 
 
「お目覚めですか? 綾崎ハヤテ君」  
 
 ハヤテが目を覚ましたのは、風呂でも脱衣所でもましてや天国でもなく、どこかの部屋だった。  
 目の前にはさきほど胸を揉んでしまった相手が立って、ほほえみながら自分を見ている。  
 一体何がどうなって今のような状況になっているのか、皆目見当がつかない。  
 
「あ、あなたは……さっきお風呂場で」  
「ずっと!! お屋敷に運ばれてからずっと寝てましたが大丈夫ですか?」  
 
 ハヤテの言葉を遮るように、マリアが大声を上げた。  
 ハヤテは一瞬いぶかしんだが、特に表情を崩さずにしゃべるマリアを見て何も言えなくなり。  
 ただ、一つ確認したいことのみを聞こうとした。  
 
「僕……ずっと寝てました?」  
「もちろん!! ずっと寝てましたよ」  
 
 ひっかかるところがあるものの、「ずっと」を強調するマリアに一応の納得をするハヤテ。  
 それはそれとして、ふと、マリアに気になることが一つあった。  
 
「あの……なんか白っぽいものが頬に付いてますよ」  
 
 マリアの頬には確かに白っぽいものがついてあり、それはぷるぷるして頬にくっついているなにか粘液性のもののようで。  
 そのことを聞いたマリアはものすごい勢いで後ろを向き、身近にあった手鏡で自分の顔を見、手早く頬をぬぐい。  
 
「これも夢ですッ! ですから、何も見なかった……というか記憶を消去してください。 きっちり手早く正確にッ!!!」  
 
 ハヤテに無茶なことを要求したという。  
 
 
 
 
 
 この後、ハヤテは紆余曲折を経て三千院家の新しい執事となる。  
 一方のマリアは、ハヤテに関してこれ以上あまり深い関係になるのはやめよう、と密かに心の中で誓うのであるが、  
「年上と年下、どっちが好みですか?」という問いをしたとき、あからさまに意識して「年上」と答えるハヤテのかわいさに、思わず誓いを破って体を許してしまうのだが……。  
 
 それはまた次回のお話だったり、そうでなかったりする。  
 
 
 【多分続く】  
 
 

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