東京都練馬区に据えている朝風神社。  
 
練馬区内では一番広大な、由緒正しき神社である。  
鳥居をくぐると、下には砂に覆われた石段が規則正しく敷き詰められ  
小さな石段と賽銭箱とそれらを覆うように、朱色の大きな社がこの神社の象徴を表す。  
年始年末となれば、多くの参拝客や屋台で賑わう。  
また、テレビ局も1年に一度はここに取材で現れ  
年が明けたことを知らせるようにお茶の間に報告をする。  
 
現在は春。  
 
その建物の裏手には今の時季限定の  
溢れんばかりの桜の木々が花を咲かせていた。  
 
 
「それにしても…おじいちゃんもおじいちゃんだ…掃除をしてもきりがない…」  
 
 
桜の木の下で巫女の衣装を着用した、白皇学院2年生の朝風理沙は静かに空気に向かって呟く。  
彼女はお世辞にもテストの成績が良いとは言えず、休みに突入してからも補修の嵐だったが  
なんとかこの春2年生になれた。  
 
今は学生でいうならば春休み。  
 
大抵の休日は友人の花菱美希や瀬川泉と遊んでいるのだが  
最近は家のお手伝いの為に遊ばないことが多い。  
理沙は巫女としての手伝いは小さいころからやっていたし、特に嫌いではなかった。  
それになんといってもお小遣いが貰えるので、それが一番の理由だったりする。  
 
しかし、今日は祖父の言いつけでやっているとは言え  
次から次へと絶え間なく舞い落ちる桜の花弁は、景色としては悪くはないのだが  
砂一面の地面を掃いても掃いても覆いつくすように埋もれ、理沙にとっては苛立ちを募るだけであった。  
 
一旦、竹箒で花弁を掃く動作を止めて  
グッと背伸びをし軽い欠伸をする。  
 
心地よい春風が舞い落ちる花弁とともに、優しく頬を撫でていって気持ちが良かった。  
こんな天気のいい日は早々に切り上げて、サボるのが一番だ。  
 
そう思い立つと、竹箒と塵取りを物置に片付け  
社と自宅が一体となった家に戻ろうとした時であった。  
 
「ん…誰か来る…?」  
 
こちら側にやってくる若い男の子が遠目から確認できた。  
特に理由はないが、思わず建物の柱に寄り添うように隠れ、様子を伺う。  
 
「あれは…ハヤ太君?」  
 
綾崎ハヤテ  
理沙と同じ学校に通っている同級生の子である  
身長は理沙とほとんど変わらず、容姿端麗という訳ではないが  
中性的な顔立ちをしていて、所謂、童顔の可愛い男の子である  
ちなみに同じクラスの三千院ナギの執事でもある。  
 
とまぁ、頭の中でハヤテに関するデータを引っ張り出す  
普段は常に執事服を着用しているのだが、主人から暇を出されたのであろう  
スラックスに薄い白のトレーナー、首からは綺麗な模様をした楕円型のネックレスを身につけていて  
今時のごくごく普通の若い男の子の格好をしていた。  
それはともかく、何故ここにやって来たのであろうか?  
年頃の男の子が、神社に関心があるならともかく、彼からはそのような趣味は聞いたことがない。  
少なくとも、私の神社ということは知っている筈だが、知り合いといえば、おじいちゃんか私しかいない  
私に何か用があってきたのであろうか?  
 
ハヤテは賽銭箱の前に立ち止まり  
スラックスの後ろのポケットから財布を取り出し、硬貨を手に持った  
それをひょいと放り込む  
 
「ん…なんだお参りにでもきたのか…」  
 
てっきり、私に会いに来たのかと思ったが、どうやら違うみたいだ  
それなら悪戯にビックリさせてやろうと理沙は思いついた  
 
理沙は柱から離れ、足音をたてないように、こっそりとハヤテの背後に忍び寄る  
当の本人は、手を合わせ何かを熱心に祈っている最中であった。  
 
「………ふう」  
 
祈願を終え、振り返ろうとした瞬間  
理沙は一気にハヤテに近づいた。  
 
「やあ!」  
 
「うわっ!?」  
 
背中を両手でドンと叩き  
予想通りの反応をみて楽しむ  
 
「もう…本気で驚いたじゃないですかー」  
 
背中をさすりながら、私の方に困り果てた目で見る  
 
「はっはっは、驚かせるためにやったのだからな、で何をしに?」  
 
本当は何をそんなに熱心に祈っていたか聞きたかったが、それは立場上、一応控えた。  
目の前にいるハヤテ改めて理沙の方に見つめ直していた。  
 
「ええとですね、その、朝風さんに会いに」  
 
「私に?」  
 
なんだ、私に何か用でもあったのか  
先ほど考えていたことは外れではなかったらしい  
腰に手を当て、得意気に言ってみる。  
 
 
「じゃあ、春休みの課題でも手伝…」  
 
「違います!」  
 
「じゃあ、私は君には用はない。」  
 
やれやれと長々と溜め息をつきながら  
ハヤテの真後ろに立地している、自宅に戻ろうとする  
ところが、理沙の動きは体を半回転させた所で停止した。  
それは、ハヤテが理沙の肩を掴んでいたからである。  
 
「むっ?」  
 
「あの…良かったら僕と遊びませんか?」  
 
「私と?」  
 
正直、意外だった。  
クラスでは話す程度で、プライベートを共にする相手ではないからだ  
となると、どうやら本当に私に会いに来たらしい。  
 
「そういえば、仕事は?」  
 
今は春休みだ  
執事の仕事に忙しいに決まっている  
今頃は主人のナギの我侭に付き合わせられているに違いないのに  
ハヤテが仕事をサボることは性格上有り得ない話だった。  
 
「今日は予めお休みを貰っていたので…」  
 
「ほう…」  
 
ならば、今日は私と遊ぶために  
わざわざ有給をとったという訳か  
まぁ、私も特に今日は美希達とは遊ぶ約束はしていないし  
相手がハヤ太君だとイジリ甲斐があるというもの  
それに私と遊ぶために有給を取ったなんて言ってくれると  
なんだか凄く可愛いじゃないか。  
 
「わかった、着替えてくるからちょっと待っていたまえ」  
 
そう言い残して、立ち去ろうとすると  
またもや肩を軽く掴まれてしまった  
 
「君は私の肩が好きなのか?」  
 
「違います!―――今日はその…ありがとうございます。」  
 
そこで初めてハヤテの表情に気づいたが  
薄っすらと頬に赤みを帯びていて、やや伏目がちなハヤテの姿があった  
それは…まるで……恋をしている少女みたいな。  
 
「ふふっ女の子みたいだよ、今のハヤ太君」  
 
「え?」  
 
「いや…何でもないよ」  
 
カラカラと笑いながら、巫女服を翻し  
ハヤテの方に背を向け自宅の方に戻っていく  
 
―――季節は春。  
デートするには絶好の日である。  
 
 
雑多ビルが立ち並んでいる、とある一角  
ビル間の少しばかりの距離が開いている  
潰れたダンボールやビール瓶のケースが放置されている片隅にいた。  
 
「くっ……んっ………はあ……ぁ」  
 
ハヤテが腰を動かすたびに理沙は淫らな吐息を漏らした  
聞こえてくるのは、お互いの服が擦れる音と断片的な甘い声だけ  
ダンボールを下敷きにして座り、ハヤテは理沙と一つになるかのように、身体を何度も合わせた。  
 
理沙は黒い半袖に真っ白なミニスカートとシンプルな服装だったが  
今やスカートの下に隠れてある、ハヤテのモノがゆっくりと確実に速さを増し、全身に甘い痺れをもたらす。  
 
「はっ……ハヤテくんっ……!」  
 
迫りくる快楽をハヤテの背中に腕を回し  
堪えようとするが、次第に我慢の限界が近づいてくる  
理沙の声が聞きたいが為に、ハヤテは口はあえて塞がなかった  
 
「っわあ…!?」  
 
首筋につい…と舌を這わせ、彼女の反応を確かめ  
予想通りの声が返ってくることにハヤテは興奮をする。  
お互いに抱き合った身体をハヤテは理沙の太ももに手を伸ばし愛撫する。  
 
そう……何故、このような行為に耽っているかと理沙は  
快楽の中、今日一日を振り返った。  
 
――――――ハヤテ君に告白された。  
 
 
あれから、神社を出発して  
二人で色々なショッピングを楽しんだ後、スキだと言われた。  
途中で手を繋ぎませんか? と言われた。  
流石に私は鈍感じゃないから、もしかして好意をもたれているのかなと考えた。  
手を繋ごうと言ったハヤテ君は凄く顔を真っ赤にして、とても可愛くて、本当の女の子より女の子らしかった。  
途中で私も落ち着かなくて、喋ろうとして噛んだことが何回もあった。  
今まで、異性を好きになったことがない私は、次第に不思議な感覚に陥って  
ハヤテ君のことをもっと知りたいと思うようになった。  
 
彼の笑った顔や私に些細な気を使ってくれたり。  
気づいたら、私は彼に夢中になっていた。  
 
きっと…これが恋なんだと、私は自覚したのだ。  
 
帰り道。  
二人の影が遠く伸びる、時刻になった頃。  
名残惜しいように、手を繋いで黙って歩いていた。  
人気のまばらになった場所で  
私はハヤテ君をビルの路地の片隅に連れ出した。  
 
最初はどういった意図なのか気づいていないようで  
私が彼を抱きしめたら、どうやら気づいたようだ。  
 
「告白の返事……私も……ハヤテ君のことが好きだよ。」  
 
言い終えた後、私はハヤテ君の顔に手を添えてキスをした。  
もちろん、彼もそれに応えてくれて、その後、しばらくの間抱き合っていたけど  
私は、そのうち、したい…と彼の耳元で囁いた。  
 
ハヤテ君なら恥ずかしがって断ると予想をしていたが  
相変わらず顔は赤かったものの、意外にも彼は同意したのであった。  
そして、現在に至る。  
 
人気がない場所とはいえ、いつ他人にバレてもおかしくないという状況の中  
外でのこういう状況下は、二人をある種の緊張感と興奮を高めてくれた。  
ハヤテは理沙の背中から腕を放し、太ももの下に手を忍ばせた。  
女の子座りの体勢から勢いよく理沙の身体を持ち上げる。  
 
「わっ…」  
 
思わず、快楽と一緒に、驚きの声が出てしまう。  
しかし、ハヤテのやりたい事を瞬時に理解していた。  
理沙の身体を断続的に持ち下げをして、再び作業に没頭する。  
 
「んっ……すいま…せんっ……驚かせて」  
 
理沙を持ち上げた本人が、恍惚した表情を浮かべながら語りかける。  
 
「はぁっ……きっ君は……積極的だな………んぐ!?」  
 
壁を背にピッタリと逃げられないように  
理沙の唇を奪う。直ぐに、口を割って口内に舌が進入してきた。  
淫らな水音が顔と下半身に同時に響く。  
 
「んっ…!………んっん……!!…ぷはぁ……」  
 
酸素を求め、互いの顔を離したが  
ハヤテは下半身の動きだけは止めなかったので  
理沙は淫靡な声を上げることとなってしまった。  
 
「もう……っ……駄目……いくっ………っ」  
 
「ぼっ…僕も……っ!」  
 
ハヤテの頭を自分の胸のほうに抱き寄せ  
今一度、強く抱きしめると理沙は果てた  
ビクン、とハヤテのモノが膨らんだかと次の瞬間  
大量の愛液を理沙の膣内にぶちまけた。二人は荒い息を交わしながら、その場に力尽きた。  
 
 
 
――――――その後。  
 
 
 
「……そういえば、ハヤテ君に聞きたいことがあったんだ。」  
 
「何ですか?」  
 
「神社で何を願ったんだい?」  
 
今朝は立場上、聞こうまいと考えていたが  
もう、すっかりと身体関係になったせいか、聞いてもいいかと思った。  
答えたくないなら、答えなくてもいいよ。と言ったが彼は教えてくれた。  
 
 
―――――朝風さんと付き合えますようにと。  
 

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