「いや〜…。お嬢さまがあんなに綺麗なられるとは、ほんとにビックリでしたよ!ね、マリアさん」  
「そう…、ですね…」  
 
早朝からずっと着っぱなしだった礼服の襟元を寛げながらソファーにゆっくりと腰を降ろすハヤテの言葉に、  
やはり礼服姿のマリアは、ぎこちない返事をする他はなかった。  
今日一日をかけて各界の著名人の多数の参列の元で執り行われた西沢一樹とナギの結婚式は無事に終了し、  
今頃両人は、明朝からの二週間に及ぶヨーロッパへの新婚旅行を前に、  
式場となったホテルの最上級スイートで初めての二人きりの夜を過ごしているはずだ。  
 
「お嬢さまが、ほんとはあれ程までお美しいんだってことを知っていたら、ダメ元で口説いておけばよかったなぁ!」  
「…」  
 
ハヤテは、もう主人が帰ってくることは無い屋敷の居間で軽口を叩きながら机の上からティーセットを取り上げると、  
ホテルの乾いた空気にまだヒリ付いている喉元へと紅茶を流し込むが、それを用意してくれたマリアの表情の複雑さには、  
まだ気付いていなかった。  
 
「冗談ですよ!冗談!!お嬢さまに借金がある身で、お嬢さまを口説くなんて!」  
 
クルリとこちらを振り返りながらまだ軽口を続けるハヤテの屈託の無い笑顔に、マリアも反射的に一応微笑み返すけれど、  
しかし、その内心は期待と不安では散れそうになっていたのだ。  
 
「ハヤテ君…」  
「はい」  
 
只ならぬ表情と声音でのマリアの呼び掛けに思わずハヤテはそのまま固まってしまうが、  
その「どうしたんですか?」と言いかけたハヤテの機先をマリアが制する。  
 
「ハヤテ君には、好きな人はいますか?」  
「えっ!?」  
 
元の主人のウエディングドレス姿が羨ましくなったのかな?とマリアの複雑な表情を慎重に観察しながら思案を巡らすハヤテに、  
年上の美しいメイドは静かに言葉を繋ぐ。  
 
「つまり、恋人はいるのですか?そうで無くても、『この人!』と思うような、気になる異性が」  
「どういうことですか…?」  
「とても大切なことなんです。教えて下さい」  
「それは…」  
 
西沢歩から告白され交際を迫られたことはあるが、ハヤテにとって歩は『大切なクラスメイト』の範疇を出なかったし、  
桂ヒナギクの気持ちになど全く気付いていなかったハヤテは、出会ってからずっと憧れていた聡明で優しい年上のメイドに、  
今の自分の身の上と心の内を正直に答えた。  
 
「いいえ。誰もいません」  
 
この返事を聞いたマリアの顔が、一息にまるで太陽のように輝きだしたのを見て、ハヤテはおおよその事情を理解し始める。  
 
「じゃあ、私とお付き合いして下さいますか?」  
「はい!喜んで!!」  
 
ソファーからすっくと立ち上がったハヤテは、憧れの女性に静かに歩み寄ると、その華奢な身体を優しく抱き締めた。  
 
「僕は、マリアさんに出会った時から…、あのクリスマスの夜、マフラーを貸してもらった瞬間から、ずっとずっと好きでした」  
「ハヤテ君…」  
 
緊張を強いられながら長丁場をこなした身体から伝わってくる互いの濃い匂いと体温に、二人は不思議な癒しを感じながら、  
しばらくの間、僅かな身動ぎも惜しんで身体をくっつけあった。  
 
疲れた身体を寄せ合ってソファーに預け、マリアが淹れ直してくれた紅茶を飲みながら二人は四方山の話をする。  
これまでのこと、今のこと、そして、これからのこと…  
 
「マリアさんが僕のことを男性として意識してくれるようになったのは、何時頃からですか?」  
「そうですね〜…」  
「深夜にビリヤード勝負をした時からですか?」  
「え〜と…」  
「あ!白皇の生徒証を渡してくれた時じゃないですか?」  
「…、そうかもしれませんね…」  
 
こんなにまでハヤテを愛しく思う気持ちが生まれた瞬間についてマリアは記憶の糸を慎重に辿っていくが、  
ハヤテを独り占めにしたいという強い願いがようやく叶ったマリアには、そんな昔のことはとても思い出せそうにも無かった。  
 
「でも…」  
「はい?」  
「どうして、僕に告白する日を今日にしようと思ったんですか?」  
「だって、ナギが幸せになる前に私が想いを遂げてはあの子に申し訳ありませんから」  
「マリアさんは、優しいですね」  
「有り難うございます」  
 
ハヤテの素直な言葉にマリアの胸は一瞬キリリと痛んだが、しかし全ては上手くいっているのだから、  
それももうすぐ感じなくて済むようになるだろう。  
ホテルにいるナギたちは、今頃最初の交歓に燃えているのか、それとも二人仲よく寝入ってしまったのか?  
チラリ心を過ぎるそんなつまらない詮索はさっさと中断して、マリアはハヤテに一石二鳥の美味しい提案をする。  
 
「お風呂に入りましょうか」  
「はい」  
「二人で…」  
「え!いいんですか!?」  
「ええ。勿論です!」  
「マリアさん…」  
 
なるほど、これなら互いの身体を思うさま愛撫しながら今日一日の疲れと汚れをきれいに洗い落とすことができるだろう。  
張り切りすぎてかえって疲れないように、その“洗い方”には十分に自制を効かせなければならないだろうが、  
しかし、ハヤテは心の中で、両想いになったばかりの美しいメイドの頭の良さに改めて敬意を覚えたのだった。  
 
男女に分かれた脱衣所で、二人はそれぞれ汗の匂いが染みついた礼服をなれた手つきで脱ぐと、それを丁寧にたたんでから、  
まだ慎み深く大事なところをタオルで隠しながら初々しく恥ずかしげな仕草で大浴場に入っていった。  
 
「ハヤテ君…」  
「マリアさん…」  
 
趣のある引き戸を出てすぐに互いを見つけた二人は、服を脱ぐ間の数分の別離を埋め合わせるかのように、小走りに歩み寄る。  
 
「優しく洗って下さいね」  
 
湯気に視界を邪魔されない距離にまで近付いたことを確認して、マリアが、その魅力的な身体を包んでいるタオルの前の袷を、  
静々と開けていく。  
 
「わぁ…」  
 
目の前に露わになった憧れの女性の見事な肢体に、ハヤテはマリアの言葉への返事も忘れて息を呑む。  
 
「では…、お願いします」  
「はい」  
 
汗が匂う身体を近付けるのが恥ずかしいのはお互いさまだった。  
ハヤテは躊躇わずにマリアの手を優しく取り上げると、そのままカランのところまでエスコートして行く。  
 
「じゃあ、ここに座って下さい」  
「ええ」  
 
今や完全にその素肌が露わになった年上の恋人を丁寧にバスチェアーに座らせてから、  
シャワーの飛沫が届かぬ位置にバスタオルを置いて戻ってきたハヤテは、  
先ほどから湯気に蒸されていたマリアの肌からは、馥郁とした大人の女の匂いが漂い上り初めているのに気が付いた。  
 
「マリアさん、とってもいい匂いですよ」  
「恥ずかしいですから、早く洗って下さい!」  
 
経ち膝になって背中から抱き付き、髪や首筋にその鼻先を這わせながら、  
元気よく自己主張をし始めた牡を、腰に巻いたタオル越しにマリアの背中に押し当てて来るハヤテを、マリアが甘い声で叱る。  
 
「ちょっとだけ…」  
「ダメです!」  
 
隙を付いて乳房を弄り始めたハヤテの手を、「オイタを止めるまで、これはお預け!」とばかりにマリアの手が軽く払い除けるが…  
 
「マリアさんは僕のことが好きなんですよね?」  
「?」  
「ですよね?」  
「ええ…」  
「じゃあ、僕のどこが好きなんですか?」  
 
ちょっと真剣な声でのいきなりの質問に、マリアは困った。  
マリアのハヤテへの想いは永い時間を掛けて育まれてきたものだけに、それを一点に絞る事なんてそう簡単には出来やしない。  
悪戯な恋人の意地悪な問いに、マリアは仕方なく思っていることをそのまま口に出す。  
 
「全部、です…」  
 
次の瞬間、ハヤテの腕に優しく、しかしちょっと怖いくらいの力がぎゅっと篭り、  
そうしてきつくきつく抱き締められたマリアの耳元に、年下の恋人の熱くて甘い囁きがそっと吹き付けられた。  
 
「僕も、です。だから…」  
 
ハヤテはそこから先を敢えて口にせず、その鼻先を、まだ纏めたままのマリアの栗色の髪の一番豊かな厚みのある部分に差し入れ、  
大きくゆっくりと息を吸い込んだ。  
 
「ああ…」  
 
マリアの身体からすうっと力が抜けていくのと平行して、ハヤテの腕も緩んでいく。  
 
「マリアさんの匂い…、とっても素敵ですよ…」  
「もう!」  
 
髪から離れたハヤテの鼻先が、今度はマリアのうなじをゆっくりゆっくり降りて行く。  
 
「くすぐったいですよ…」  
 
マリアからの余り本気で無い苦情に返事をしないハヤテは、両の乳房の前で攻防戦を繰り広げていた手の片方を戦線から引き上げ、  
それでマリアの肘先をそっと持ち上げにかかる。  
 
「えっ…!」  
 
ハヤテの作戦の意図にマリアが気付いた頃には、既に肘は完全に上へと持ち上げられており、  
そうして露わになった腋窩には、司令部直属ともいうべきハヤテの鼻先が差し込まれていた。  
 
「ちょっと!ハヤテ君ッ!!」  
 
マリアは余りの恥ずかしさに軽い悲鳴を上げながらハヤテを制止しようとするが、時既に遅し。  
そこを這い廻り始めたハヤテの生暖かい舌先は、そこに溜まっている濃い汗を丹念に舐め取りながら、  
マリアにとっては絶対相手にその存在を知られてはならない極秘の地雷原である生えかけの腋毛のざら付きを敏感に探知すると、  
すぐにそれをくまなく掃討していく。  
 
「ああん!」  
 
ムズムズと高まる不思議な感覚に切なく身を捩っての抵抗も空しく、息を荒げるハヤテに片腋をあっという間に陥れられたマリアは、  
敗戦者の哀しさを我が身にひしひしと感じながら、ハヤテからの「反対側を…」という囁きに、  
熱い溜め息を一つついただけで、唯々諾々ともう片方の腋を年下の占領軍司令官の眼前に晒した。  
 
自分自身で見せようとしない限り普通外からは見えない、恥ずかしい匂いと毛のある合わせ目を、  
熱く滑るハヤテの舌先でいいように蹂躙されるマリアは、羞恥が容赦なく倍増させる快感に更に激しくくねくねと身を捩る。  
 
「ああ…、あッ…!」  
「マリアさん…、とっても、美味しいですよ…」  
「嫌ぁ…」  
 
永い間想い合ってきた二人だけに、一旦外れた理性の箍は当然もう元へは戻らず、  
マリアの両腋をシャワーを全く使わずにきれいにしたハヤテは、継続中だった豊かな乳房への攻撃を更に加速させながら、  
さっきまで年上の恋人の肘先を支えていた手を、今度は臍へ配置した。  
 
「はぁ…、はぁ…」  
 
すぐ近くの壁から反響する自分たちの荒い息遣いに煽られるように、二人の腕は縦横に絡み合い、  
そんな中、ハヤテの指は、既に赤く痼り尖り始めているマリアの小さめの乳首を、ほんの軽くきゅっと摘むように揉みあげた。  
 
「あんッ!」  
 
素直なマリアの反応に気をよくしたハヤテは、その指使いはそのままに、左右の乳首を交互に責め始める。  
 
「ああ…!そこ、ダメッ…!!」  
「痛かったら言って下さいね。もっとソフトにしますから…」  
「…、…」  
 
快感で声が詰まり、うん、うん、と大きく頷くだけのマリアの背中にぴたりとくっつき直したハヤテは、  
臍に配置していた片手を静かに下降させ始めるが、これに気付いたマリアは、  
両乳房を防御していた両腕の内の一方を下腹部に派遣して防御に当たらせると共に、腰全体を大きくくねらせて最後の抵抗に出た。  
 
「あッ!ま、マリアさん!?ちょっと…!!」  
 
これに泡を食ったのがハヤテだ。  
この動きに、丁度マリアの尻の辺りに押し付けていた牡を捏ねられてしまったハヤテが甘い悲鳴を上げたのを、  
しかし、マリアは聞き逃さなかった。  
 
「女性を困らせるような悪い人は、こうです!」  
 
マリアは、身体の前面の防御を全て放棄して両腕を背中に廻すと、  
あろうことかそれでハヤテの腰をがっしりと自分の背中に固定し、バスチェアが軽く軋むほどに腰の動きを大きく速くする。  
 
「マッ…!マリアさんッ!!」  
 
年下の恋人の悲鳴のような喘ぎにも全く動じないマリアの腰の動きに翻弄されるまま、  
その腰の一揺すり毎にぐにぐにと押し潰される自分の牡の付け根にできた熱い欲望の塊がどんどん大きく膨らんでいくのを、  
最初、ハヤテは為すすべなく只感じているだけだったが、先程までの仕打ちに対するマリアの報復の意志が強固であることを知ると、  
今度は一転して、その腰の動きに同調してそこにグイグイと自らの腰をリズミカルにしゃくりながら擦り付け始めた。  
 
「はッ、…、うッ!…、んッ」  
 
自分の背中に取り付いたまま懸命に腰を擦り付けてくる年下の恋人が耳元に吹き付けて来るリズミカルな喘ぎが、  
マリアの腰の動きをどんどん加速させていく。  
 
「マリアさん!は…、離れないと、お尻に…、かかっちゃいますッ…!」  
 
切羽詰った警告にも腰を掴んでいる手を離そうとはしないマリアに、とうとうハヤテは、情けない詫びを入れる他なくなってしまう。  
 
「もう…、もう、もう出ちゃいますッ…!ごめんなさい!!」  
 
マリアの返事も待てずに、くッ…!ああッ!!という短い喘ぎに続いてガクガクと頼りなげに腰をビクつかせたハヤテは、  
その後暫くの間、何時もの二人の関係とは全く逆に、マリアの細い背中に縋り付きながら、  
憧れの年上の女性によって初めて我が身にもたらされたえも言われぬ快感の余韻にうっとりと浸っていた。  
 
「こんなになっちゃいました…」  
「オイタが過ぎるからですよ!えいッ!!」  
「あ!」  
 
つまらない悪戯の顛末を大好きな母親に恥ずかしながらも報告する幼子のように、  
ハヤテはマリアの前におずおずと進み出ると、腰に巻いたタオルを取り、白濁に塗れてしょんぼりと半立ちになっている牡を晒し、  
その、まだ赤く腫れたままの敏感そうな先端を、マリアは白くて細い指先でツン!と突付いた。  
 
「えへへへ…」  
「うふふふ…」  
 
柔らかい笑顔で微笑みあった二人は、暫くの間「僕が先に」「いえ、私が」と先陣争いをしていたが、  
ハヤテのキスで唇を塞がれてしまったマリアがついに降参して、ハヤテから身体を洗ってもらうことになった。  
 
「じゃあ、今度は真剣に洗わせてもらいますね」  
「宜しくお願いします」  
 
髪を洗うときは単にシャワーヘッドの保持だけを担当するに留まったハヤテだが、  
よく泡立てた石鹸を塗ったその大きな掌で、顔から首筋、鎖骨、腕…、と優しくマッサージするように洗われていくマリアの口元から、  
少しずつ少しずつ、熱い溜め息が漏れ始める。  
 
「ハヤテ君…、上手ですよ…」  
「マリアさんの身体…、どこも全部素敵ですね…」  
「有り難うございます…」  
 
乳房を揉み解すように洗うハヤテの手にマリアの手がそっと添えられ、それは次第に腕全体の絡め合いになっていく。  
 
「ああ…、そ、そこ…」  
 
やはり一番感じる部分なのか、  
ハヤテの掌が硬く痼る乳首の上を微かに擦りながら通過するたびに、マリアの背中がピクリと反り返り、  
恥ずかしげなおねだりの囁きがハヤテの耳元に届く。  
 
「ここですね…」  
 
両の乳首を同時にクリッと摘み上げながら確認をとるハヤテに、マリアは只コクンと頷いて答える。  
 
「じゃあ、ここは特に念入りに洗いましょう」  
 
マリアが小さく「ふぅ…」と溜め息を漏らしたのを合図に、ハヤテは、最初はそっと、だが次第にきゅっきゅっと力を入れて、  
マリアの乳首全体を、その痼り具合を確認するようにしながら優しく慎重にゆっくりとゆっくりと万遍なく揉み潰していく。  
 
「ひ…、あ…、ああッ…!」  
 
幸か不幸か、女性と肌を合わせるのは正真正銘今日が初めてのハヤテは、マリアが示し始めた良反応をそのまま放置して、  
今度は、鳩尾から下腹部に掛けてを丁寧な手つきで洗い始める。  
 
「はぁ…、はぁ…」  
 
桜色に染まった瞼を軽く閉じて息を荒くしているマリアも、そうと意識して異性に自らの裸体を晒したのは今日が初めてだったから、  
ハヤテの優しい掌が、自分の身体にどのような変化をもたらしてくれているのかについては、余り正確に理解してはいなかった。  
 

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