マリアです。
・・・困りましたわ。今夜はハヤテ君と屋敷で二人きりなのに、あろうことかハヤテ君の部屋で勉強を見てあげる
約束をしてしまいました。
若い男女が狭い部屋で二人きりなんて、いくらなんでも、何かあったりしたら困ります・・・。む〜・・・。
どうしましょうか・・・・・・。あっ、名案を思いつきましたわ♪
これでいきましょう。
「このレベル99の問題集、完璧に解けたら、私の身体、ハヤテ君の好きにしてかまいませんわ」
「・・・・・・」
私は、勉強を始める前に、ハヤテ君にこう言い放ちました。
見るからに引いているハヤテ君。成功ですわ♪
「え・・・と、マジですか?」
「出来るなら、ね。女に二言はありませんわ」
そうなんです。私の思いついた名案とはこれのことでした。
こう言って初めにハヤテ君を引かせておけば、変な雰囲気になってしまう可能性をうんと減らせますし、それに
このLV99の問題集はすごく難しいので、解けないなら手出しはいけません、と、ハヤテくんとの間に線を引くことも
できます。仮に何かありそうな雰囲気になっても、それを理由に拒むこともできますしね。
まあ、問題は、ヘンな女の子って思われてしまうってことでしょうけど、何かあるよりは全然マシですもの。
我ながら名案でしたわ、ふふっ。
と、そう思っていたのですが・・・・・・。
『カリカリカリ・・・、パラパラ、カリカリ・・・ゴシゴシ・・・カリカリ』
ハヤテ君はものすごく真剣な顔で、問題集を解いていきます。
なんと言うのでしょうか、凄まじい気迫、とでも言いましょうか・・・、文字を書くのも消すのも、教科書をめくるのも
ものすごい勢いで真剣そのものです。たとえ解き方が間違っていても即座に違う解き方に切り替えて、次々に正答を
導き出していきます。まあこのLV99の問題集というのは応用問題ばかりなので、教科書を見たところで答えがわかる
というわけではないですから、教科書を参照するのは禁止というわけではないのですけど、それでも、ものすごい
集中力で教科書に書かれていることを理解しながら、難しい応用問題を解いていっています。
そんなハヤテ君を、関心するというよりも、少し引きながら見ている私。
ああ、そういえば、この子も・・・・・・男の子なんでしたわねぇ。
もちろんこのハヤテ君の気迫が、私が初めに言い放った言葉に対しているということは明らかです。
そりゃ、そうですわね。女の子みたいな顔をしていたって、年頃の男の子ですもの。こういうことに興味あって当然
ですわよね。
それにしても、ここまで男の子の煩悩を見せられると、・・・ちょっと恥ずかしい・・・。
私の身体を好きにしたいために、ここまでの気迫を見せるハヤテ君に、恥ずかしくなって顔が赤くなってしまいます。
はっきりいってこの問題集を自力でこれだけ解ければ、白皇でトップクラスの成績が取れてもおかしくはないのです
から。もうここまでかなりの問題数をこなしていますが、どれも非の打ちどころのない完全な解答です。
このままいけば、たぶん、間違いなくハヤテ君の望みは叶えられることでしょう。
・・・そう、ハヤテ君が私の身体を好きにすること。言い換えれば、私と・・・エッチしちゃうこと・・・ですね・・・。
もちろん、今さら約束をはぐらかすわけにはいきません。ここまでのことをされてしまっては。
・・・そっか〜、初めての相手は、ハヤテ君かぁ〜・・・。はぁ・・・。ヘンな約束するんじゃなかったですわ・・・。
何かある、どころか、ハヤテ君に身体をあげてしまうことになるなんて・・・。
真っ赤になって閉口する私・・・。
「あのー・・・」
そのとき、ハヤテ君が呼びました。えっ、もしかしてどうしても解けない問題があるのかしら。それだったら、約束は
なしですよねっ。
「どうしました?」
「ご褒美は、ここじゃなくて、居間でお願いできますか? もちろんマリアさんはメイド服のままで」
・・・・・・。
「まあ、別にかまいませんけど・・・」
「ありがとうございます♪」
ま、まあ・・・、この小さな部屋よりは別のところがいいってのはわかりますわ、といっても私の部屋っていうのも困り
ますし、いつもの寝室は論外ですし、妥当といえばそうなのでしょうけど・・・。なんかマニアックですわね・・・、使用人
が主人の屋敷の居間で、なんて・・・。
そんなことを考えているうちに、ハヤテ君が問題集を解き終えたようです。
「そ、それじゃあ、答え合わせの前にちょっと休憩にしましょうかっ。私お茶いれてくるんでハヤテ君も少し休んでて
いいですよ」
「ありがとうございます」
・・・とは言っても、見ていただけで全部出来ているというのはわかっていたのですけど、心の準備をしないことには、
こんなことできませんもの・・・。
「まったく・・・どうしてこんなことに・・・」
お茶を入れながら、これからしなければならないことに覚悟を決めるつもりでしたが、大ため息が出るばかり。
怖気づいてちょっと泣きそうになったので、すっぱりと観念する意味を込めて髪を下ろしました。
「ハヤテ君だって頑張ったんだから、私も約束は守らないとっ」
そうです。私の言葉を信じてハヤテ君はあんなに頑張ったのだから、私も自分が言ったことには責任を取らないといけま
せんわ。覚悟を決めて、お茶を持ってハヤテ君の部屋に戻りました。
すると、机の前で居眠りをしているハヤテ君。・・・まぁ、ずいぶんと余裕ですのねー・・・。
私がこんなに苦悩しているっていうのに。いっそこのまま明日まで眠ってくれていれば・・・、ってそれでは何の解決にも
なりませんわね。約束が先送りになるだけでしかありませんから。それにしても・・・、
「こうやって寝てると、ほんと女の子みたいなんですけどねー・・・」
私とエッチなことするために、必死に問題を解いた男の子とは思えませんわ。そういえば、男の人はみな羊の皮を被った
狼だ、って言っていたのは誰だったかしら。
「うわ? すみません、髪まで下ろして誘ってくれてるのに、なんか寝ちゃって」
「いえいえ・・・」
べつにそういう意味合いではないのですけど・・・。やっぱり男の子でしたわね。
「でも、あとでちゃんといつもの髪型に戻して下さいね」
「・・・はいはい。全部出来てたら、ですよ」
なんだかよくわからないこだわりをみせるハヤテ君に、少々あきれながら、答え合わせです。
結果はもちろん、完璧に解けた、ということでした。
「・・・・・・で、答えは3、と。これも正解です。・・・おめでとうございます、すべて正解ですわ」
おめでとうの言葉を思い切り横柄に言い放つ私。むぅー・・・。
「はい。ありがとうございます。こんなに勉強ができたのもマリアさんのおかげです♪」
それはどうも・・・。
「ええ、これだけできればもう私の教えることはありませんわ。では頑張って下さいね」
そう言って笑顔でそそくさと部屋を出て行こうとする私。我ながら往生際が悪いです。
「あ、ご褒美はお嬢さまが帰ってきてからなんですね? そんな隠れて気付かれないようにするのがいいなんて、マリア
さんってずいぶん・・・」
「ずいぶん何なんですかっ」
勝手にヘンな女の子にしないで下さいっ、まったくもぉっ。
「じゃあ、今からですよね?」
・・・逃げても仕方ないことはわかっているので、やるしかありません。
「はいはい。わかっています。では行きましょうか」
髪をまとめなおして、ポケットから輪ゴムと髪留めを出して普段の髪型に戻しました。
「はい♪」
笑顔のハヤテ君を恨めしく思いつつ、一緒に部屋を出て居間へと向かいます。はぁ・・・。
ひとつだけ救いがあるとすれば、ハヤテ君がナギを連れて出かけていた間に、お風呂に入っていた、ということでしょう
か・・・。
そして、ハヤテ君のお望み通り、居間でソファーに座りました。
「・・・では、約束ですから。どうぞ、好きにしてください・・・」
そう言い、ハヤテ君を見上げる私。緊張して少し固くなっているのが自分でもわかります。
「はい。では、遠慮なく頂きます」
すごく嬉しそうな表情で言うハヤテ君。やっぱりハヤテ君も男の子だから、エッチなんですわね・・・。
ハヤテ君が身体を私のほうへ近付けてきます。
「・・・やさしく扱ってくれないと、おしおきしちゃいますわ」
強がってそんなふうに言ってみたのですけど、
「はい、わかっています」
そう優しく言いながらハヤテ君は、私が無意識のうちに胸元に置いていた右腕を握って、体の横へよけさせました。
私が内心すごく不安で怯えているのを見透かされているみたいで、恥ずかしい・・・。
そうして無防備になった私の胸元にハヤテ君の両手が伸ばされ、私の胸を触りました。
「・・・やっ・・・」
男の人にこんなふうに触られることなんて初めてなので、すごく恥ずかしいですっ。洋服の生地がそれなりに厚いうえ
に、ブラも着けていますので、触られただけでどうこうとかいうのではないのですけれど、それでも、ハヤテ君の手に
胸を包まれている感触が、とても恥ずかしいです・・・。
「マリアさんの胸って、けっこう大きいですよね」
ハヤテ君はそう言いながら、胸を包んだ手をゆっくりと動かしていきます。うぅ・・・、恥ずかしさで声を出しそうになる
のを懸命に我慢します、けど、胸を揉まれる感触に堪える呼吸の音が、小さな声となって漏れてしまいます。
それからハヤテ君は、左手を私の胸から離すと、私の身体を伝わせながら下へと下ろしていき、スカートの裾から中に
手を入れて、私の内ももを触ってきました。
「ひゃ・・・ぁっ・・・」
素肌に触れられて思わず声を上げてしまいます。
「マリアさんの足って、とっても綺麗です」
スカートを下着が見えそうなくらいまでたくし上げて撫でている私の足を見ながら言うハヤテ君。
もぉ・・・っ、ひとつひとつ感想を言わないで下さいっ。
そのままハヤテ君の手がスカートの中で動かされて私の太ももを撫でていきます。くすぐったいような、ぞくぞくする
ようなへんな感じで鳥肌が立ってしまいます。まだ下着には触らないみたいですけど、恥ずかしいですっ。
そうしてしばらく私の足を撫でたあと、一旦スカートから手が戻されます。胸を触っていた手も離され、そして両手が
私の腰の後ろへ回されて、エプロンの結び目を引きほどきました。
肩ひもも、肩から外されます。そして腕から外そうとしたので、ハヤテ君の思うままに両腕を前に差し出し、そのまま
エプロンを身体から外されました。
うぅっ・・・、エプロンを外されただけなのに、こんなに恥ずかしくてたまらないなんて・・・。
「このメイド服って、エプロンを外しても可愛いですよね〜」
ハヤテ君はそう言いながら楽しそうに少しだけ私の身体を眺めたあと、襟元のブローチとリボンを外しました。
そして、メイド服の上着のボタンを、上から順番に外していきます。
そんなハヤテ君の手の動きを、黙って見ているだけしか出来ないでいる私。口を開いたところで泣き言しか出てこない
気がしますから。
こういうのって、本当に大好きな人が出来て結ばれるときになら、平気になれるものなんでしょうか・・・。今の私には、
わかりません・・・っ。
そして、ハヤテ君の手が一番下のボタンを外し終え、そのまま開いた合わせのやや上のほうに手を掛けて、左右に開き
ました。
ハヤテ君の目の前に私の身体があらわにされます。
「や・・・ぁ・・・・・・っ・・・」
あまりの恥ずかしさに、顔から火が出てしまうくらい真っ赤になってしまいます。
そのまま、スカートのホックとファスナーを外すハヤテ君。スカートが緩められて、もう、ハヤテ君に身を委ねる覚悟を
嫌がおうにもさせられるような気にさせられました。もう、身を包み隠す洋服は、実質的に、ないのですから。
恥ずかしいのや、年下の男の子にいいようにされているのが恥ずかしいのとか、いろんな感情が混じって、目に涙が浮か
んできます・・・。うぅー・・・っ。
そうして、ハヤテ君が私の身体に身を寄せて、顔を胸元に近づけてきました。
そんなハヤテ君の顔をまともに見ていることなんてできずに、思わず身をすくめて、ぎゅっと目をつぶってしまいます。
身をすくめたまま、ハヤテ君が次にしようとしていることをじっと待って・・・・・・。
「マリアさん」
ふいに呼び掛けられて、思わず顔を少し上げてハヤテ君のほうを見る私。すると、ハヤテ君の顔は私の胸元を通り過ぎ
そのまま、私の顔の目の前に・・・。
・・・ちゅ。
え・・・っ?
・・・私の唇に、ハヤテ君の唇が重ねられて・・・・・・。え、これって・・・キス・・・?
そのまま唇を少しの間触れ合わせたあと、ハヤテ君の顔が離されました。そして一旦身体を離すハヤテ君。
・・・突然のキスに、カァァ・・・と顔が真っ赤になって、うろたえながらハヤテ君の顔を見てしまいます。
「・・・あの・・・、ハ・・・ハヤテ君・・・? た、確かに、身体を好きにしていい、とは言いましたけれど・・・、こういうのは、
・・・その、好きな人にするもので・・・」
「僕はマリアさんのこと大好きですよ?」
「だ、だから、そうではなくって! 恋人同士とかでするものですからっ・・・」
唇を奪われる覚悟なんて全く思いもよらずしていなかったので、私ったらすっかりうろたえてしまっています。
そんな私の反応を楽しんでいるのか、にこりと笑みを浮かべるハヤテ君。そして、完全に私から体を離して立つと、背を
向けて顔だけ私のほうに向けて、言いました。
「もう、ここまでにしておきますね」
「え・・・っ? ど・・・、どう・・・して・・・?」
もう、これでおしまい・・・ですか? その言葉に、驚きつつも深い安堵を覚えてしまいながら、ハヤテ君を見る私。
「だって、マリアさん、そんなに震えて、泣いているじゃありませんか」
「え・・・」
そう言われて、目に溜めた涙が溢れて一筋頬を伝っていることに気付きました。
「そんなマリアさんを、どうこうしようなんて、僕にはできませんよ」
背を向けたまま、少し真面目な顔に戻ってハヤテ君は言います。
「それと、僕が知っているマリアさんは、軽率にあんなことを約束するような女性ではないんです。なにか理由があって
あんなことを言い出したっていうのは、わかっていたんですけどね。でも、うかつにあんなことを男の前で言ってしまっ
たのは不適切でよくありませんから、それ、は、僕からの罰です」
それ、と言いながら、ハヤテ君は乱れた私の服に目配せをしました。・・・・・・不適切なことを言った・・・罰・・・。
・・・ああ、全部初めから、私にそんな気がないっていうのもわかっていたうえでやっていたんですのね・・・。
私がおかしなことを言ったから・・・。
「それと、最後のは、ものすごく頑張りましたからご褒美ということで」
顔を赤らめて照れながら笑うハヤテ君。最後の・・・、さっきのあれを思い浮かべて、私も顔が真っ赤になってしまいまし
た。これが約束のご褒美ってことだったんですか・・・。
「実のところ、場所をここにしたのも、うっかり自制心が飛んじゃわないように、なんですよねー。ハハハ・・・。
僕も男ですから、マリアさんに魅了されてしまうと困るので、ここでなら我慢できるかなーなんて」
ハヤテ君は、頭を掻きながら、気恥ずかしそうに笑いました。まぁ、そこまで考えていたなんて・・・。
意外なハヤテ君の計画的犯行に、思わず関心してしまいました。
もしかしてご褒美って、頑張って我慢したから、って意味もあるのかしら・・・。ハヤテ君ったら。
『♪盛るぜぇ〜超盛るぜぇ〜』
ふいにどこからかこんな声が。ビクッとして思わずあたりを見回す私。
「すみません、僕の携帯の着信です。って、アハハ、もうご馳走様のあとですけどねー。あっ、お嬢さまから連絡です。
はい、もしもしハヤテです。えっ?はい、はい。わかりました」
ハヤテ君ったら、ちゃんと携帯まで持ってきていたなんて。本当に最初からその気なんてなかったのね・・・。
「お嬢さまが、もう問題が解決したから帰るそうです。今から迎えに行ってきます」
そう言って、ハヤテ君は振り返り部屋から出て行こうとします。
・・・え、こんなので私ひとりここに残されてしまうんですか・・・? 次にハヤテ君にどんな顔で顔を合わせればいいのか、
わかりませんよ・・・。
「・・・あの」
せめてもう一言だけ、ハヤテ君に言っておきたくて、呼びかけようと手を伸ばしたとき、ハヤテ君が振り返って、
「あと、明日からはいつものマリアさんでお願いします。あとに引きずっちゃうと照れくさいですから、ね」
そう言い、照れ笑いを残して部屋を出て行きます。
言いたいことは、先に言われてしまいました。
伸ばした手を、ゆっくりと戻しながら、静かにため息をつきました。
そっか・・・、ハヤテ君に最初から終わりまで、してやられてしまったみたいですねー・・・。
恥ずかしい思いをずいぶんとさせられてしまいましたが、不思議と悪くない気分でした。
・・・それにしても・・・・・・。
乱れた衣服を直すのも後回しにしたまま、ハヤテ君が触れた唇に指先を触れさせながら、最後のご褒美、のことを思い
浮かべます。
ハヤテ君のそぶりを見るかぎり、ハヤテ君にとってはきっと何気ないことなのでしょうし、特別なことと考える必要も
まったくないっていうのはわかっているんです。けど・・・、
ファースト・キス・・・だったんですけどねー・・・。
胸の奥でトクンとわずかに高鳴る鼓動。
本当に大好きな人が出来て結ばれるときになら・・・・・・。
さっき自分の中に浮かんだ疑問の答えが、すこしだけわかったような気がしました。
・・・・・・さて、いつまでもこの気持ちを引きずっているわけにはいきません。
もうすぐ、ナギとハヤテ君が帰ってきて、変わりないいつもの日常に戻るのですから。
身なりをきちんと整えて。間違ってもナギに何事かあったなんて気付かせてしまうわけにはいけませんわ。
実際、結局のところは本当になんにもなかったんですものね。
まずは、帰ってきたハヤテ君をいつもの私で迎えること、ですわ!
・・・ところが、ナギとハヤテ君は今夜帰って来ませんでした・・・。あらっ・・・?
結局、気持ちに区切りを付けられないまま、私は一人きりのお屋敷でさっきの出来事を思い返しながら悶々と一夜を
過ごすことに・・・。
「うぅ・・・っ、眠れません・・・。二人とも早く帰ってきて下さいよー・・・」
終わり。