白皇学院の中心に聳える時計塔の最上部の豪華な調度を誇る生徒会室では、  
今年、10歳で高等部に飛び級入学し、生徒会選挙で満票で生徒会長に選出されたマリアが、  
その真ん中に設えられたコタツにひとり、あたっていた。  
 
「ちびっ子会長!私が開発したこのマイクに向かって、何か話し掛けてくれませんか?」  
「な!いきなりそんな事言ってもダメです!」  
 
そこに、中等部から飛び級で入学し、副会長に選ばれた牧村が駆け込んできて、そのコタツに滑り込むと、  
茶色い小さなマツタケのような物を突き付けるようにマリアの鼻先に差し出す。  
 
「このマイクは、人の耳が心地よく感じる音を捉えると、大きく膨んでそれを知らせるようになっているんです」  
「嫌です!そんなの恥ずかしいです。いくら牧村副会長にお願いされても、私は何もしゃべりません!」  
「そんな〜!一言だけでもいいですから…」  
「嫌だと言ったら嫌です!ダメと言ったらダメですっ!!」  
「え〜…。ちびっ子会長の声、皆に『とっても可愛い』って評判なのになあ…」  
「いい加減にしないと、手が滑りますよ?」  
 
しゅんと悄気る牧村の傍に、介護用ロボ実験体一号がジーコジーコとぎこちなく歩み寄ってくる。  
 
「アノ…、マキムラサン」  
「あっ!いけない。論文の発表があったんだ!じゃあ、マリアちゃん。又あとで!」  
「はいは〜い…」  
 
牧村が戻ってくる気配がない事を確かめると、  
マリアは、牧村がコタツの天板の上に放り出していったマイクのようなものを、そっと取り上げた。  
 
「これ、何だか柔らかいですね…」  
 
まあいいか…、と好奇心の強いマリアは早速そのマイクを幼い両手でしっかりと握り締めながら、  
生徒会選挙の演説の時とは全く違うたどたどしい口調で話し始めた。  
 
「あ…、あ〜、マリアです。えーと、えーと…、生徒会長をやっています…。あらら…?」  
 
握り締めるマリアのその細い指を押し返すように、マイクの柄の部分が脈打ちながら太さを増していく。  
 
「ほんとに膨らんできたわ…。おもしろい!」  
 
面白くなったマリアは、エヘン!と一つ咳払いをして喉を開けると、軽く目を閉じて気持ちよさそうに歌いはじめた。  
 
「え〜、では、マリアで、ちょっと歌います!♪マリアの『マ』は〜…。きゃあ!!」  
 
見る見るうちにその色を真っ赤に変えたマイクは、歌うマリアの掌と指一杯に膨らんだかと思うと、  
ピクンピクンと伸縮しながら、その天辺に一筋走るスリットから白い半透明の液体を何度も噴き出した。  
 
「一体何なんでしょうか、これは…」  
 
その白くて生暖かい液体はマリアの顔と前髪に粘着きながら絡み付いたが、  
マリアが反射的に止めた呼吸を恐る恐る再開すると、それが何とも甘い香りを放っているということがわかった。  
 
「あ!甘くて美味しいわ!」  
 
そのヌルヌルを指先に絡めて口に含んでみたマリアが、ニコニコと微笑みながら無邪気な喜びの声を上げる。  
 
「ああ…、とっても美味しい…」  
 
年齢と全く不釣合いな厭らしい桃色に頬を染めながらうっとりと顔中の白濁液を指先でこそげては口元に運び、  
それが一通り終わって、仕上げに、上目遣いに前髪にこびりついたそれを指でしごき取り始めたマリアの姿を、  
防寒服を着込んだ牧村がベランダから撮影していたという事に、もちろんマリアは全く気付いてはいなかった。  
 
「うう…、とってもさぶいですが、これも動画研究部の活動の一環ですからね。辛抱、辛抱…」  
 

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