「いいんですか?……このままで?」  
「………」  
「はぁ、しょうがないですね…」  
 
それから、数日経ったころ、ナギの心には、ハヤテを思う気持ちと、申し訳なさがあふれてきた。  
「…クラウス、私だ。大至急、調査と手配してもらいたい物がある」  
「――畏まりました。ですが、数日過ぎたあとですので、少々時間がかかりますがよろしいですか?」  
「かまわん。ハヤテなら必ず生きている。だが、できるだけはやくしろ」  
「わかりました」  
 
しかし、調査の結果は芳しくなく、あの後運ばれた倉庫、ハヤテを捕らえたヤクザの足取りはつかめても  
肝心のハヤテの居場所はわからなかった。ヤクザに問いただしてみても、あのヤクザの管轄はハヤテを売りさばくまでだった  
 
「ハヤテ………」  
そうして、3年の月日が流れていった  
 
 
「ナギ」  
「ああ、分かっている。イタリアの親戚の家まで挨拶に行かなきゃならないんだろ?  
まったく、あのジジイが死んでからというもの、ろくなことがない」  
「愚痴ってないで、さっさと行きますよ」  
 
この3年の間に、ナギは卒業し、三千院帝は他界して、ナギは三千院家の頭首となった  
本人はあまり乗り気ではなかったが、こればっかりはどうしようもなかった。  
 
「しかし……イタリアか…いつ以来だろうな」  
「幼少期を過ごして以来ではないですか?まぁ、あなたの生活はどこへ行っても変わりませんけど」  
「うるさい!」  
 
「これはこれは、ナギ様。遠いところをよくぞいらっしゃいました」  
「ああ、久しぶりだな」  
「長旅でお疲れでしょう。部屋は用意してあります。夕食まで休んではいかがですか?」  
「そうさせてもらうよ」  
「分かりました。では、ハヤテ、荷物を部屋まで」  
「畏まりましたマスター。では、荷物をこちらに」  
「……………」  
「……………」  
「ナギ様、どうなされました?マリア様まで」  
「……ハ……ヤ……………テ……」  
「ハ………ヤ……テ……君…」  
「おや?知っておられるのですか?」  
「あ……ああ、三年前のクリスマスイブに私を助けてくれてそのまま私の執事にした男だ」  
「ですが、その後ナギが些細なことで追い出してしまい、そのままヤクザに捕まって、消息がつかめなかった子ですわ」  
「些細なことではない!あれは自信作だったんだぞ」  
「そうでしたか…ハヤテ、このことは…?」  
「申し訳ありませんマスター。私はあの場所にいた以前の記憶を持っていませんので」  
「あの場所…?」  
「はぁ…この子は、おそらくそのヤクザに捕まった後でしょう。売られて、イタリアの地下にいたのです」  
「地下に…?なぜだ」  
「……日本の帝●グループをご存知ですか?」  
「ああ、知っている。あの違法金利のゴミ共か」  
「はい。その●愛の地下帝国の建設に使われていたのです」  
「地下帝国……」  
「はい。ハヤテに聞いたところ、その地下帝国は先進国各国にあるらしく…その建設を…」  
「本当なのか?ハヤテ!」  
「本当でございます。私は1年前まであそこで労働していました」  
「それで……記憶がないというのは…?」  
「そのことなのですが…どうやら、労働環境が劣悪らしく、常人では1年ともたずに廃人に…、ハヤテもおそらくは…」  
「私は、1日外出券を使い、外にでた瞬間正気に戻り、そのまま逃げてきたのです  
ですが、それ以前のことは未だ思い出せません」  
「そ……ん…な……」  
バタッ  
「ナギ!」  
「ナギ様!、ハヤテ、すぐにナギ様を部屋へ!」  
「畏まりましたマスター」  
 
三年ぶりにあった衝撃と、知った真実の重さ。その結果、ナギは倒れてしまった。  
それから1夜経つも、ナギはうなされたままだった。  
 
 
「…ねぇ、ハヤテ君」  
「何かご用でしょうか、マリア様」  
「とりあえず、その マリア様 というのをやめてくれませんか?」  
「畏まりました。では何とお呼びしましょうか?」  
「昔と同じ、 マリアさん と呼んでくれませんか?」  
「申し訳ありませんが、それはできません。マリア様はお客様ですので」  
「……本当に忘れてしまったのですね。」  
「申し訳ありません。思い出す努力はしているのですが」  
「こんなことになるなんて…すいませんでした」  
「マリア様?頭をおあげください。」  
「元はといえば、ナギと私が原因です。このようなことになるなんて…本当に…」  
「いいえ、ナギ様にもマリア様にも、何の落ち度はございません。  
結果があれば原因があり、原因があれば結果がある。あのようなところで働かされるのは、よほど私が悪いことをしでかしたから  
でしょう。因果応報です。ですので、頭をおあげください」  
「ハヤテ君違います。あなたが売られたのは…」  
「すいません、そろそろ仕事ですので、失礼します。」  
 
 
「ハヤテをもう一度私の執事にしようと思う」  
「ナギ?おきたんですか?」  
「ああ、それで、聞いていたのか?」  
「はい…聞いてましたけど…」  
「私の屋敷で働かせることによって、すこしでも記憶がよみがえるかもしれない」  
「……」  
「少なくとも、逃げた地下帝国があるイタリアよりも、日本につれてかえったほうがハヤテにとって安全だ」  
「そうですけど…」  
「とりあえず、許可をとっておくか」  
 
「―― 分かりました。ナギ様がそうおっしゃるのなら」  
「ああ、すまないな。」  
「いえ、そのほうがあの子にとっても幸せでしょうし…では、ハヤテをつれてきましょう。ハヤテ!」  
「お呼びですか?マスター」  
「ああ、詳しくはナギ様から聞いてくれ」  
「ハヤテ…」  
「なんでしょう。ナギ様」  
「お前は、本当になにもおぼえていないんだな?」  
「はい。前々から申し上げるとおりです」  
「なら…お前がいた日本には、お前の覚えている景色や文化があると思うんだ」  
「日本…」  
「逃げた地下帝国があるイタリアよりも、日本のほうがハヤテにとって安全だと思う  
それで…だから…  
私の執事をやらないか?」  
 
 
私の執事をやらないか?  
わたしのしつじをやらないか?  
ワタシノシツジヲヤラナイカ?  
 
………バタッ  
 
「ハヤテっ!」  
「ハヤテ君!」  
「ハヤテ!」  
 
 
「「私の執事をやらないか?」」  
どこか聞いた気がする。でも…どこで?  
日本…僕が住んでいた場所…  
ナギ様…ナギ…  
お…嬢……さ…  
 
 
「う、うぅ」  
ここは……僕は……  
「ハヤテ、おきたのか?」  
 
 
 
「おはようございます。お嬢様」  
 

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