「あ・・・脱ぎ終わりましたか・・・ で・・・では出口と思われる方に・・・」  
「ええ・・・」  
 
「ち・・・ちなみに万が一振り返ってしまったら僕は・・・」  
「まぁ 故意ではない場合もあるでしょうし・・・私のドジが原因でもあるわけですから・・・」  
 
「逮捕・・・くらいでなんとか・・・」  
逮捕!! リアル・ケーサツ沙汰!!!  
こ・・・これは自分の未来的にも・・・ なによりマリアさんの気持ち的にも絶対に振り返るわけには!!  
 
・・・・・・  
バタン  
「えっ!?」  
「マ!!マリアさん!?」  
「どうしました!?マリアさん!?」  
 
返事が無い!! まさかここで気絶!?  
 
ど・・・!!どうする!?  
振り返って助け起こすべきか!? けど絶対に振り返るなって言われたし、  
これは・・・なんだか究極的な選択だー!!  
(ここまで思考0.1秒。)  
いやしかし!!ここはやっぱり人命第一!!振り返ったって見なければいいんだ!!  
目を閉じて!!決して開かないよう強く閉じて!  
 
「マリアさん!!」  
目を閉じて振り返りつつ叫ぶハヤテ。  
だが、やはりマリアからの返事は無い。  
やっぱりマリアさんは気絶しているのか!! 早く助け起こさないと!!  
どこだ!? マリアさんはこの辺か!?  
目を閉じているので、どこにどう倒れているのか全くわからない。  
地面にしゃがみこみ、マリアが倒れたと思われるあたりに手を伸ばす。  
「あ、いた!」  
ハヤテの手にマリアの身体が触った。・・・が、  
え・・・と、これはマリアさんの身体のどこなんだ?  
なんだか手触りのいい布地に、柔らかな感触。メイド服の生地ではない。・・・とすると。  
こ・・・これはまさか・・・!! マリアさんのおしり!?  
「うわあぁ!!」  
慌てて立ち上がり、後ろを向いて、真っ赤になって動揺するハヤテ。  
おしりを触ってしまった手を胸に当てて感触を消しつつ、心臓のドキドキを抑える。  
 
ま・・・待て、落ち着け僕!! 事態は一刻を争うんだ! 今は動揺している場合じゃない!!  
早く気絶したマリアさんを助け起こして、サウナの外に連れ出す、それが自分がしなければならないこと!  
 
そう胸に刻み込み、再びマリアの方を振り返る。  
 
目を閉じるのは無理だ! さっきのような事故が起こりかねない!!  
マリアさんに怒られても、今はマリアさんを助けるのが優先だ!!  
できるかぎり見ないようにする! ここはそれで!!  
 
今度は目を開けてしゃがみこむ。暗闇の中にうっすらとだが、向こう向きに倒れているマリアの姿が見える。  
さっき触ったのが、確かにちょうど自分の目の前に・・・という思考を、頭を激しく振ってかき消しつつ、  
倒れているマリアの上体を抱き起こす。  
「マリアさん!! 大丈夫ですか!?」  
大きな声で呼びかけるが、マリアの反応はない。息苦しそうな呼吸の音だけが聞こえる。  
「これはまずいぞ! 急いでここから出ないと!」  
ハヤテはマリアを抱き上げると、大急ぎで出口を探して歩き出した。  
 
「くっ! こっちも行き止まりか!」  
だが、暗闇の中、サウナの蒸気が立ち込める中でたった一つの出口を探し出すのは困難を極めた。  
木々が生い茂り、山肌のような作りになっているサウナの内部は、真っ暗闇の中では迷路そのものだ。  
「早く・・・早くしないといけないのにっ!」  
腕の中で、はぁはぁと息苦しそうな呼吸をしているマリアの顔を見る。これは本格的にやばい状況だ。  
だが、かといって出口がもうすぐ見つかるという自信もない。  
「仕方ない・・・。ここはもう、こうするしかない!」  
ハヤテはマリアを地面に下ろすと、上体だけを腕で抱き起こした状態にした。  
「ごめんなさい、マリアさん!! すみません!!」  
そうマリアに謝りながら、ハヤテはマリアの胸元に手を掛けた。  
少しでも熱さによる影響を和らげるために、上着の合わせを開かせることにしたのだ。  
マリアの身体を見ないように、あさっての方向を向く。  
胸のブローチを外し、リボンを外すと、ボタンを上から外していく。  
手にマリアの胸の膨らみの感触がするのを、必死に思考から除外する。  
「かっ・・・考えるな!! すみません、マリアさんっ!!」  
そしてボタンを外し終え、マリアの上着の合わせを開かせた。これで少しはマシになる、はず。  
ハヤテは今までよりもさらにマリアの身体を見ないように注意して、マリアを抱き上げ出口を探し始めた。  
 
そして、それから少し歩いたときに、  
「あ・・・私、いつの間に気を・・・」  
マリアが意識を取り戻した。上着を開かせたのが功を奏したのか、ハヤテはマリアが危険な状態でないことに  
ほっと安心する。  
「あ、気が付かれましたか?」  
「え? ハヤテ君?」  
自分がハヤテに抱きかかえられていることに、びっくりするマリア。  
それに確か、今はスカートを脱いでいるはずじゃ、と、自分の状況を確認する。  
「きゃっ!! ちょっ、これ!?」  
スカートどころか上着まではだけさせられて、下着姿そのものでハヤテに抱きかかえられていることが  
わかる。慌てて上着の合わせを閉じて押さえた。  
「すみません、マリアさん。マリアさんの意識がずっとなかったので、この熱さの中、危険かと思いまして  
上着を開かせてもらいました。後で、ケーサツでも何でも甘んじて受けます。  
でも今は、一刻も早くマリアさんを出口にお連れしてここから出るのが先ですから」  
真剣な眼差しで歩いている方向のみを見据えるハヤテ。そんなハヤテの顔を間近に見てマリアは、  
自分が気を失っていた間に、ハヤテがどれほど自分を心配し気遣ってくれたのかをその表情から感じ取って、  
照れて頬が少し赤く染まる。  
けれど、照れ隠しと、自分の知らない間に服をはだけさせられたことがそれでも恥ずかしいのとで、  
つい意地悪なことを言ってしまう。  
「でも確か、絶対にこっちを見ないように、って言っておいたはずですけれど?」  
「そ・・・それはっ。さ、最初は目をつぶって助けようとしたんですけど、そしたら、その・・・、マリアさんの  
おしりを触ってしまいましてっ。すみませんっ! でも、助けないわけにはいきませんし! だから、  
できる限り見ないようにしましたので! ホントにほとんど見てませんからっ!」  
真っ赤な顔で必死に弁解するハヤテ。そんなハヤテの誠実さは伝わってくるものの、知らない間におしりまで  
触ったという言葉が聞き捨てならず、マリアはさらに意地悪に続ける。  
「もぉ・・・、ハヤテ君はエッチですねー・・・」  
その言葉にハヤテは頭をガツンと殴られたようなダメージを受ける。  
「で、ですから! 後でケーサツでもっ」  
大混乱して必死になって詫びるハヤテ。でもマリアは、  
「でも、まぁ・・・ 私のためを思ってしてくれたことですから・・・」  
そう言いながら頬に当てた人差し指を、ハヤテの顔の前に差し出してハヤテの口に軽く当て、  
侘びの言葉はもういいですと、口を閉じさせる。  
思わずマリアの顔を見るハヤテに、ウィンクを返して、  
「情状酌量ということで、大目に見てあげますわ」  
「・・・、・・・マリアさん」  
マリアのその言葉に、ハヤテは救われる思いがした。  
「でも、何でもバカ正直に話すのはちょっと考えたほうがいいかもしれませんよ・・・?」  
「・・・ハハ・・・」  
おしりのことかな、と苦笑いする。と、そのとき、  
 
「あっ、ハヤテ君、あそこ」  
マリアが指を差す。そこにはわずかだが、小さな光が見えていた。出口の引き戸から光が漏れているらしい。  
幸運にも浴室側はどうやら電気が付いていたみたいだ。  
「あれが出口みたいですね!」  
でも、光の方向は今歩いている道の方向とはやや逸れている。すこし迂回しないといけないようだ。  
「ハヤテ君、あとは自分で行きますので、降ろしてもらえ・・・」  
「よーし!もう一気に行きますよ!!マリアさん、しっかりつかまっていて下さいね!!」  
「えっ!? ちょっと、ハヤテ君!? おっ、降ろして」  
「うおおおぉぉぉっ!!!」  
ハヤテは必殺技を発動し、強烈な風とともに一筋の矢となって、出口へ向かって突撃した!  
 
ドゴーン!!  
 
出口の引き戸を吹き飛ばし、見事、ハヤテは浴室の床に着地した。  
 
「マリアさん! もう大丈夫ですよ!!」  
やっとマリアを安全な場所へ連れ出せた喜びから、つい腕の中のマリアを見るハヤテ。  
そこには、今の必殺技の風圧に成すすべも無く上着がはだけて下着姿をあられもなくあらわにされ、  
顔を引きつらせたマリアの姿が・・・。  
「あ・・・、あれ?」  
「ハ・・・・・・、ハヤテくーーーーーーん!!!!!」  
マリアの怒号が響き渡り、哀れ、ハヤテは地下牢に投獄刑となりましたとさ。  
 
■『サウナは健康によさそうですが、地下牢は健康に悪いので、執事の方々はくれぐれもご注意下さい。』  
 
おわり  
 

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