「なあ、マリア」  
「なんですか、ナギ」  
 
朝食が終わった三千院家のどっかの部屋。  
学校とかぶっちぎったナギは、マリアとハヤテと過ごしている。  
ナギの手には週刊少年ジャンプ。  
本当に紙面の都合とか考えないお嬢様である。だがそこがいい。  
 
「ハヤテがぼーっとしているな」  
「ハヤテくん、ぼーっとしてますね」  
 
SQから出張してきたギャグ漫画から視線を上げ、ハヤテを見る。  
そこには、別に台所でもないのにグラスを磨いている執事の姿があった。  
 
あまりにぼーっとしているものだから冗談で渡してみたのだが、以来延々と磨き続けている。  
かれこれ30分は経つだろうか。そろそろ磨り減りはしないか心配になってしまう。  
 
「まるで回想シーンに入っているかのようだ。しかもこの長さ。週刊誌で言うと三話分ほどあるに違いない」  
「またそんないい加減なことを……」  
 
キラ☆ と瞳の端を光らせていうナギに、マリアが苦笑する。  
だが言われてみると、悩んでいるというよりは、物思いに耽っている感じだ。  
きっと当たらずしも遠からずといったところなのだろう。  
 
「なんだか、何をしても起きなさそうですねー」  
「うむ。髪型でも変えて遊ぼうか」  
「……それはいいですね」  
 
こく、こく、と肯きあう二人。長年連れ添ってるだけあってアイコンタクトもバッチリだ。  
櫛と髪留めゴムを用意して、椅子に座らせたハヤテの後ろに陣取る。  
ハヤテはまだぼーっとしたままグラスを磨いている。関係ないが、なにげに数百万のシロモノだ。  
 
「あら、可愛らしい髪留めばかりですね」  
「うむ。パンダにウサギにイルカに、ひぐらしをやってから使わなくなったオットセイ、まだまだあるぞ」  
「あら、それじゃ、微妙な発現はさておいて、ハヤテ君の頭を動物園と水族館にしちゃいましょうか♪」  
 
ナギとマリアの手がハヤテの水色の髪に伸びあれこれとイジり始める。  
ハヤテは焦点の合わない瞳でグラスを磨きながら、掃除の仕方をぶつぶつ呟いたりしていた。  
 
「サラサラですよねー、ハヤテくんの髪。ホント、男の子にしておくのが勿体無いですね」  
「うむ、まったくだな! ……おお、うなじが見えると雰囲気が変わるな。これはこれで……」  
 
30分ほど経過すると、二十に達するほどの小さな髪房をぴょこぴょこ生やしたハヤテが出来上がった。  
前髪から後ろ髪からのべつまくなしに留められていて、元気のないパイナップルみたいになっている。  
二人はその出来栄えに声を殺して笑っていたが、ハヤテからの反応がないためイマイチ盛り上がらない。  
 
「むー……反応がないとつまらんな。涙目になって許しを請うてくれないと盛り上がらん」  
「……字面だけで見ると凄い鬼畜な発言ですが……、その、同感です」  
 
相変わらずグラスを磨き続けるおでこ丸出しのハヤテをジト目で覗くと、ナギはため息をついた。  
櫛と余った髪留めをマリアに渡し、伸びをして遊びの終了を告げる。  
マリアがそれを片付けに部屋の外に出ると、ナギはパイナップルハヤテの正面に立った。  
金髪ツインテ少女が、ミニスカ絶対領域姿で腕を組んで仁王立ち。なんというツンデレの構え。  
 
「まったく! お前はアレか! 暗黒騎士ランスロットに拷問を受けた後の聖騎士ランスロットか!  
 オルゴールか! オルゴールが必要なのか! どうなんだ!!」  
 
ぷんぷん怒りながらグラスとふきんを奪い取り、膝を床についてハヤテの顔を見上げる。  
まったくもって正気を取り戻す気配がない。だらしのない顔だが、近くで見てると顔が赤くなってくる。  
恋とは盲目なものなのだ。ごくりと咽喉が鳴り、少しずつ顔を近づけていく。何をしても起きないなら  
 
「あれ、どうしましたお嬢様」  
 
しかしここで唐突に目を覚ますのが三千院家の執事のクオリティだった。  
お約束の発動に、目を瞑ってマジでキスする五秒前のお嬢様がギシッと固まる。  
 
ぷるぷる、ガタガタと噴火直前の火山よろしく震えていた三千院ナギお嬢様は、  
片付けを終えたマリアが部屋に入ったのと同時に大噴火した。  
 
「バカ! もうバカ!! 板的に空気読めこのバカーーー!! 黙ってこの私にキスされたりするか、  
 回想シーンと重ね合わせて情熱的にキスを返してきてこっちをビックリさせるイベントを発動させるとか、  
 あわよくばオットセイからなんか出るまでされるがままになるべきだろうがこのバカーーーー!!」  
 
漫画的表現によって背後に炎を背負い、手にしたグラスをぶち割って、チャイナ服になったナギが龍と化す。  
三千院アパカッからツインテールで小威力の追い討ち、必殺技の三千烈脚から超必殺技の三千世界へ繋げる。  
空気を読まない水色パイナポーをフルボッコにしたナギは、背中に天の文字を光らせながら声を荒らげた。  
 
「そんなに回想したいならずっとしてるがいいさ! バーカバーカバァァァァカ!!」  
 
ふんっと鼻息荒く踵を返し、きょとんとしているマリアをぐいぐい押して部屋を後にする。  
後に残された執事は床の上でブスブスと焼け焦げたまま、ぼーっとした表情で回想シーンを再開していた。  
 
          そんなわけで、アーたん編はもうちょっとだけ続くんじゃ。  
          そしてついでに小ネタももうちょっとだけ続けてみたんじゃ。  
 
三千院家の浴室。三ゲージ技を発動して疲れたナギは、マリアとお風呂に入ることにしていた。  
白いタオルを身体に巻いたマリアからわしゃわしゃと頭を洗われながら、唇を尖らせる。  
 
「まったく! ハヤテはまったく! いったいなんなのだ! 恋人の私を差し置いて……!!」  
 
そんなナギの姿が可愛らしくて、マリアはクスクスと笑いながら悪戯心を出してしまう。  
両手にシャンプーの泡をつけたまま、後ろから一糸纏わぬナギの身体を抱きしめる。  
 
「ふふ、本当は、ハヤテ君に構って欲しかったんですよね? ナギ……」  
「うわ、ちょ、マリア!?」  
 
泡まみれの手でなだらかなお腹を撫で上げられて、ビクッと身体を震わせる。  
マリアは耳元に細い吐息を吹きかけながら、指先をふくらみかけた乳房の先端に触れさせた。  
 
「ひゃ、あっ……! マ、マリア!? ふざけるのは……ふあ、やぁ……」  
 
反論しようとするナギの言葉を、乳首の下側をくりくりとこすって甘い悲鳴に変えさせる。  
泡にぬらつく手による愛撫は、幼い官能を傷付けることなく花開かせていく。  
 
「こうして、優しく可愛がって欲しかったんですよね……」  
「ふぁ、やめ、そこっ、こりこりする、なぁっ……ひあ、ひゃぅぅぅ!!」  
 
薄い耳たぶを甘く噛みながら、マリアの手は内股に閉じられた足の隙間に入り込む。  
閉じた太ももと恥丘の三角地帯にぬるりと入り込んだ手は、すっかり火照っている幼裂に触れる。  
硬く存在を主張していた陰核を捕らえると、人差し指と親指でこしゅこしゅと優しくしごきあげた。  
 
「ふあああっ!! あひぃぃぃっ!! や、やめ、マリアっ、まりあぁっ! ひや、ああああうっ!!」  
 
耳と、胸の突起と、クリトリス。三箇所への責めでナギは瞬く間に達してしまう。  
疲労とフラストレーションは、頭が真っ白になる感覚と共にどこかへと消え去ってしまったようだった。  
絶頂の余韻にカタカタと震える幼い主の身体を優しく抱きとめながら、マリアは耳元にキスをして囁く。  
 
「ハヤテ君が戻ってきたら、きっと優しく構ってくれますよ。だから元気を出してくださいね」  
 
金色の髪を伝って落ちるシャンプーの泡が、敏感になった肌をぬらりと撫でていく感触が心地良い。  
拗ねていたことを見抜かれたナギは、少し恥ずかしがりながら、こくんと肯くのだった。おしまい。  
 

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