【賭博師マリア】  
 
 
ある冬の寒い日の事。夜中に一人で三千院家屋敷を徘徊する者がいた。  
静寂な屋敷内にその人物の足音だけがこだまする。  
「…ふぅ。今日も屋敷には異常はなしと…。」  
赤髪の男はどうやら屋敷を見回っていたようだ。  
決して夜だからと言って怪しい事をしていたわけではない。  
「今日は金曜日か…。今日こそマリアに【敗北】をプレゼントしてやるとするかな。」  
赤髪の少年は自らの仕事を終えると楽しそうに娯楽室へと向かった。  
彼女とビリヤードで対決するために…。  
 
 
娯楽室の扉の前に来て見ると予想通り部屋の中からは明かりが漏れている。  
カーンと球同士がぶつかり合った乾いた音が響いている。  
「マリア。見回りは終わったぜ。」  
「あら?早かったですね姫神君。…まさか手を抜いていませんよね?」  
「そんな事はしない。それより今日こそお前に【敗北】を味あわせてやる。」  
「はぁ…何度聞きましたっけ?そのセリフ。」  
マリアは呆れたような素振りを見せた。  
彼らの戦績は0勝999敗で、もちろん姫神の黒星。  
マリアは一度もビリヤードで負けた事が無かった。  
それどころか今日で姫神に1000敗目を味合わせてあげる事が出来るのだ。  
「今までの俺とは違う!俺はお前が練習していないときも必死で1日中練習したのだからな。」  
「執事の仕事をしてくださいよ姫神君。道理で最近屋敷に埃が溜まっていたわけですねぇ。」  
(・・・おっと仕事をサボってしまった事をバラしてしまったな。)  
マリアが冷たい目で見てくるので姫神は慌てて言葉をつなぐ。  
「ま、まあ…今日勝てば明日からは真面目に働けそうだな。…勝負だマリア!」  
「ええ。でも姫神君、ただ打つだけでは面白味に欠けますし今回は私が勝つ事が出来れば姫神君は1000回目の敗北と言う事で何か、私の言う事をひとつ聞いてもらえませんか?」  
「え!?」  
「掃除もサボっていたそうですし…。」  
「う…。だがその勝負、俺にメリットあるのか?」  
マリアは隠れるように少し笑って見せた。  
おそらく姫神が賭け勝負に乗り気になっているのを見逃さなかったからだろう。  
賭け勝負に姫神を乗せるためにマリアはそっと姫神に近づいて囁いて見せた。  
「私から一本でも取れば、それだけで大した物ですよ?と言うわけで今日に限りあなたが勝てば私が何か一つ言う事を聞きましょう?」  
「なぁ!?いいのか?深夜だぞ!男女だぞ!?それはヤバイって!!」  
姫神はマリアの言葉にだらしなく惹かれていた。もはや何を言っているか分からない。  
マリアは再び姫神を冷たい目で見た。  
「…姫神君、その…頭大丈夫ですか?」  
「…ああ、やってやるさ!勝負受けてやるよ!!今日と言う日を後悔させてやる!!」  
姫神はマリアの質問は無視してすっかり乗り気である。  
マリアは再び溜息をついた。  
「姫神君にその言葉お返ししますわ。今日がビリヤード1000敗目記念日になるのですから。」  
 
二人は睨み合いながら。ボールをセットし手球を置きキューを手に取る。  
「どちらから打ちますか?」  
「レディーファースト…だ。」  
「…余裕ですね〜。」  
「何…ちょっとでも勝つ可能性を与えてやるだけだよ。」  
 
(…姫神君はどの口でそんな台詞叩けるのでしょう?口だけじゃなくて1回でも勝って見てくださいよ。)  
 
マリアはゆっくりと構えた。隣で姫神が見守る。  
マリアのブレイクショット。  
カーン!  
手玉は物凄い早さで的球にあたり乾いた音をたてた。  
何個ものボールがポケットに落ちていく。  
残ったのはいきなり3・4・9のたった3個の的球。  
他の6つは全て台上からポケットへ消えた。  
「…あれ?」  
「私に先行を与えちゃいけませんよ姫神君。私9ボールでは殆ど失敗した事無いじゃないですか。それに…。」  
マリアは9番の的球を指差す。  
姫神からは脂汗と言うのだろうか?冬のはずなのに大量の汗が噴出していた。  
9番ボールは3番ボールと密着した状態でポケットギリギリの所に留まっていた。  
少しでも当たれば9番ボールは落ちてしまいそうだ。  
「マリア…俺が負けるとどうなるんだっけな?」  
「さあ…。とにかく9ボールは9番を落とした人の勝ちです。私がちょっと3番に当てれば必ず9番は落ちますよね?姫神君。」  
マリアはとびっきりの邪悪な笑顔をして姫神に今の状況をしつこく説明する。  
「マリア…その勝ち方は卑怯だぞ。まずは他のボールを落としてから9番を落とすのが美しいやり方だ。そんな姑息なコンビネーションプレーはマナー違反だぞ?」  
「これは別に大会でも他に観客がいるわけでもありませんよ?」  
姫神の最後の抵抗はむなしく破られ続ける。  
「こういう賭け勝負では勝ちそうでも自分を負けギリギリまで追い詰めてこそスリルがあるものだ。」  
「私は男の子じゃないのでそんなギャンブルはしません。確実に勝利を掴みますので…。では…。」  
マリアは構えた。こんな至近距離で9番を落とせない人間がいるはずがない!  
「待ってくれマリア!一度くらいは俺にも打たせろよ!」  
「ちょっと!潔くないですよ姫神君。今は後悔していてください!」  
マリアは姫神を無視して無情にもポケットに9番を入れた。  
ついでに言えば手球を巧みに操り3番4番もポケットに送りこんだ。  
「はぁ…1000敗目か…。だが…今度こそお前に勝つ!!」  
「まあ頑張ってください。無理でしょうけど♪」  
「…じゃあ私はこれで寝るとするか。」  
姫神は娯楽室を出て行こうとマリアに背を向けた。  
瞬間、背中が凍りつくような視線を感じる姫神。  
「……。」  
「姫神君忘れたとは言わせませんよ?敗者は勝者の言う事を聞くんですよ〜。ていうか本当に見苦しいです。」  
「……マリア。やっぱこんな怪しい賭けは無しにしようぜ?未成年がギャンブルしていいのか?」  
「私は巷では37歳という噂が流されているので今だけはそれを利用しましょう。ね?」  
じりじりと迫ってくるマリアから逃れようと後ずさりする姫神。  
しかし娯楽室は三千院家にしては珍しくとても狭かった。  
姫神はもう後ろにそれ以上後ずさり出来なくなってしまった。  
尚も姫神に近づいていくマリア。  
「ではちょっと気絶してくださいね?」  
「はは…。どういう意味かな?」  
マリアは何かを取り出し勢いよく振りかぶって・・・  
「やめろ…がっ!」  
姫神を殴り倒した。火サスのように鈍器のようなもので。  
「ふぅ…ナギは寝ているはずですし、ゆっくりと行きますか。」  
姫神を自分の部屋にまで引きずっていくマリア。  
姫神はがっくりと首を垂らし引きずられていく。  
 
屋敷は静寂に包まれていった。  
 
 
「・・・ここは?」  
「あ、目が覚めちゃいましたか?姫神君。」  
姫神はマリアの部屋で目が覚めた。マリアは姫神の顔色を伺う。  
姫神は少しときめきながらも状況を整理しようとした。  
(…確か俺はマリアに負けて。逃げようと思った矢先に捕まったんだよな?  
…しかし今、目が覚めた辺り…全ては夢落ちだったのか?)  
姫神が自分にとって都合のいい様に考え始めた時、突然頭に強烈な痛みを感じた。  
「痛っ…。頭が…。」  
(頭が痛いって事はやっぱりさっきのは夢じゃなかったのかよ!)  
頭を抑えようと手を動かそうとしたその時さらに姫神は自分の置かれた状況に気付いてしまった。  
(手が…縛られている!?)  
 
「マリア…これはどういう事だ?」  
両手を縛られている上に、万歳の姿勢で天井からロープで宙吊りの状態に吊るされている。  
しかも足までも拘束されて閉じる事ができない。  
足は開かされた形で床から伸びている鎖で縛られていた。  
そして最大の問題点。こればかりは姫神がいくら考えても説明がつかなかった。  
「大体なんで俺は裸なんだ?」  
「え?だって姫神君ビリヤードで私に負けたじゃないですか?」  
「だからって…何もここまでしなくても…。ていうかもういいじゃないか!俺の裸を見て楽しかったか!?」  
「いえ…。あまり楽しくはないです。」  
「あ…それはちょっと逆にショックだな。」  
姫神はこんな状況にも関わらず少し落ち込んでしまった。  
しかしマリアは軽く目を逸らしただけで姫神を解放しようとはしなかった。  
マリアが縄をほどこうとしてくれないので姫神が続けて喋る。  
「…掃除をサボった事を怒っていたのなら謝る。ただし俺はMじゃない。だから暴力を受けるのは嫌いだ。てかやめてくれ。」  
訳の分からない事を口にする姫神。  
マリアにも当然、意味が分からないようだ。  
「いえ…私はその…姫神君を軽く弄んでみたいんですよ。」  
「はい?」  
マリアはいきなり姫神の目の前でしゃがみこんだ。  
「…何だよ?」  
マリアの言葉に素直に反応してしまったのか、だんだんと立ち上がってしまう姫神のモノ。  
姫神はそれが恥ずかしいのだろうか?少しだけ恥ずかしそうに身体をくねらせた。  
「…いやらしいですね。姫神君は。」  
 
マリアはそんな姫神を見ていきなり姫神のモノを口に含み始めた。  
「なぁ!?」  
 
慣れていないのは分かるが見よう見まねで唾を溜めながらマリアは姫神のモノを舐めている。  
じゅば…じゅぶ…べちゃ…。  
「うわぁ!マリア!何やってんだよ!?」  
「ム―!ひめはみふんはうごかはいへくだはい。」  
姫神はいきなりの行動に驚いて体をく激しく揺らして暴れ始める。  
しかし宙吊り状態では軽く体がねじれるだけでマリアの温かい口から姫神のモノが解放される事は無かった。  
びちゃ…じゅる…ぴちゃ…  
「うああああ!うぐ…う…やめろマリアー!」  
じゅる…ぺちゃ…ぴちゃ…  
マリアは粘々とした水音をたてながら舐め続けている。  
姫神の叫びは完全に無視しているようだ。  
「う…くぅ…ぐ…。」  
マリアもこういうのは初めてなのか慣れない形で姫神のモノを舐め続けている。  
しかし初体験の姫神には十ニ分に気持ちよく感じてしまっているようだ。  
ちゅぷ…じゅぶ…じゅる…  
「本当に止めろぉぉ…おかしくなるから!どうしたんだ急に…うっ!…くっ…」  
「じゅぷ…ぺちゃ…。」  
その直後マリアがちゅぱという卑猥な音を立てて姫神のモノをから口を離した。  
暴れていた姫神もやっと落ち着き再びダランと宙吊りにされる。  
 
「はぁ…マリア…。」  
「もう…姫神君はゲームに負けたんだからしばらく大人しくしててくださいよ。」  
「え!?」  
「あむ…」  
マリアはやめる気など毛頭なかったのだ。それどころかさっきよりも深く根元まで飲み込もうとする勢いだ。  
開放されたと安心しきっていた姫神は再び暴れ始める。  
「うわぁぁ…!だからやめてくれぇ…お願いだマリア!許してくれ!!」  
身体を力いっぱいねじまげてマリアの口から逃げ出そうとする姫神。  
しかし拘束されているせいかその姿は快感にやられて悶えているようにも見えてしまう。  
最初から賭け勝負でビリヤードなどしなければいい話だったのだが…。  
 
マリアは今度はずっと姫神のモノを咥えたまま喋った。  
「ちゅぷ…姫神君だっへ…私に勝ってひたら私の事を襲おうと…じゅぷ…ひてたじゃないですか。」  
「…それは…うわぁぁ!」  
 
じゅぷじゅぷじゅぷ…ぺちゃ…  
マリアは舐める動きを少しだけ早くして体を振り始めた。  
もちろん、それも真似だけで効果は殆どないはずだが姫神は涎を一筋垂らしながら悲鳴をあげる。  
「だったら…私の罰ゲームもちゃんと受けてくださいよ。」  
じゅぷっ…ちゅぱ…ぺちゃ…じゅる…。  
「うあぁ…うっ…くぅ…もう!やめてくれ…。」  
 
マリアはもはや一心不乱に舐めているような感じだ。  
当初の弱冠恥ずかしがっている時とは違い今ではまるでむしゃぶりつくように姫神のモノを襲う。  
「んん…ぴちゃぺちゃ…。べちゃ。」  
しばらくして姫神は舐められ続けてから早くも5分が経とうとしていた。  
だんだんと姫神の抵抗は小さくなり…終いには殆ど動かなくなってしまった。  
初めての姫神の割には持った方だろう。  
 
…ついに姫神に限界が訪れようとしている。  
じゅぷじゅぷじゅぷ…ぺちゃびちゃぺちゃ…  
「マリア…離して…本当に限界だから…やめてくれ…う!…くぅ。」  
力無くマリアを説得する姫神。身体はだらんとだらしなく宙吊りにされたままだ。  
「ひめがみふんはだしたくなひんでふあ?」  
じゅぷ…ちゅば…じゅる…びちゃ…  
マリアが何かを聞いてきたが姫神には理解できなかった。  
それほど彼は今危うい状況なのだ。  
「なんていうか…おかしいだろ。男の俺がここまで一方的に責められて…女のお前は服まで着ていて…俺の男のプライドは欠片も無く壊されるな…うっ…くぅ…。」  
ビリヤード1000敗目の「敗北感」はこのお陰で何倍にも膨れ上がるだろう。  
姫神がイってしまったらそれこそ姫神はマリアに屈服してしまうようなものだ。  
姫神は最後の抵抗と言わんばかりに身体を激しく振る。  
そのせいで鎖の金属音やロープの音が大きくなるが、やはりマリアの口内からは脱出する事ができなかった。  
じゅぷ…ぺちゃ…ぺちゃ…  
マリアは依然、姫神の性器を口内で弄び続けた。  
「だから…もうやめてくれないかぁ!うああ!」  
「…ちゅぱ…はぁ…また仮定の話ですが…姫神君が勝負に勝ったとして私が泣いたりしてやめてくださいとお願いすればやめてくれたんでしょうか?」  
再び口を離して姫神に質問するマリア。  
「え?…それは……いや、やめる!やめるからマリアもやめてくれ!!」  
姫神は少し答えるのに時間が掛かった。マリアはそれを見逃しはしなかった。  
凶悪な笑みを最後に姫神に見せた。  
「本当にウソをつくの下手ですね姫神君。まあ正直なのはとても良い事ですけど…取りあえず姫神君がやめるつもりがなかった以上、私もやめません。…じゅぷ。」  
 
再び姫神のモノを一気に咥えたとき、それが姫神へのトドメとなった。  
 
「うわあ!マリアぁぁぁ…。」  
ドプ…ドプッ…。  
嫌な音と共に姫神は子種を発射してしまった。  
ビクビクと痙攣する姫神。糸の切れた人形の様にぐったりとしながら再び宙吊りにされている。  
マリアも初めての為か姫神の子種を吐き出してしまった。  
しかし口内に残ったものは唾と一緒になんとか飲み込む。  
 
「…どうでしたか?姫神君。」  
「………はは…は……疲れたよ…。やって…くれるね、マリア……。」  
姫神は力無い目でマリアを恨んでいるかのように睨みつける。目はまだ黒かったがどことなくボーっとしているようだ。  
「はぁ…俺は完璧に終わったな…。よりにもよってマリアに苛められるとは…。」  
「ビリヤードが弱いくせに勝負にのるからですよ?」  
 
すかさず姫神は次の勝負を提案する。ここで負けっぱなしでは男が廃ると思ったのだ。  
「俺が得意なのはチェスだ。次の時こそ勝つ…。」  
「チェスは確か0勝99敗でしたね。姫神君の戦績。後一敗で100連敗♪」  
姫神はどのゲームでも負けてばかりいるようだ。  
姫神はいまさらのようにマリアを恐れ始めた。  
「100敗記念も…まさかこれなのか?」  
「さあ?」  
マリアの笑顔は未だ邪悪な心が浮き出ているため姫神は諦めた。  
「チェスはやめるか…。取りあえず罰が終わったんなら部屋へ返してくれ。俺はもう寝る…。」  
「はい?」  
「え?」  
姫神は精子を出してしまって吹っ切れたような顔をしていたが、怪訝そうな顔に変わった。  
今のマリアの反応が信じられないのだ。  
「…まさか。まだあるのか?」  
「当然ですよ。軽く気絶して頂きたいくらいですから…。姫神君まだ出しただけで気絶して無いんですもの。」  
「冗談だよな?」  
「いいえ?」  
すっかり萎えていたはずの姫神の性器が本人の意思とは関係なく立ち上がってきてしまった。  
姫神はまた、だらだらと脂汗を掻きはじめた。  
「私達の起床時間は普段5時ですから…。もう3時半ですしこのまま寝ないで行きましょう。」  
「冗談じゃない!俺はまだ出したばかりで……」  
 
じゅぷ…  
マリアは今まで手加減をしていたかのように強くそして上手に姫神を喰らった。  
「うわあああああ!!ナギ!誰かぁ!!」  
 
再び姫神のモノを舐め始めるマリア。  
 
 
姫神は5時を迎えた頃には涙や涎を垂らしてすっかり果てていたという。  
姫神曰く、まさに悪夢の拷問のような2時間だったそうな。  
 
どんな内容だったかはまたの機会に…。  
 
 
「…今日は1月3日。姫神君が出て行ってから一年と少し経ってしまいましたね。」  
今日も娯楽室の中からは明かりと乾いた球同士のぶつかり合う音が響き渡る。  
マリアは姫神が居なくなってからもビリヤードの練習に打ち込んで居たのだ。  
姫神が言うようにマリアを負けギリギリまで追い詰めてくれるスリルのある勝負が出来る人が現れても勝てるように…。  
彼女が今練習しているのはブレイクショットで9番ボールやその他のボールを全て落とす技。  
もはやプロ級の技である。  
 
姫神はクリスマスイブ…。  
つまりマリアの誕生日の12月24日にマリアの性的な苛めに耐えかねて三千院家を飛び出したのだ。  
「注意:実際には何かもっと重要で深刻な理由があったとは思いますが…。」  
 
 
(…姫神君がいなくなるとビリヤードも詰まらなくなりますね。それに最近ギャンブラーの血が目覚めてしまったようですし。誰か私と対等に賭け勝負が出来る人はいないものですかねぇ?)  
賭ける物は何でもいい…。お金でも…。身体でも…。  
私は自分が負けるはずがないと信じているのだから。  
タッタッタッタ…  
その時、屋敷内を走ってこちらに向かってくる誰かの足音が聞こえてきた。  
こんな夜更けに一体誰が走っているんだろう?  
(…そうでした。ナギが惚れてしまったという姫神君の後任のハヤテ君がいましたね。  
容姿が姫神君にそっくりで相違点と言えば背の高さと口調と髪の色くらいの彼が。)  
「あら?もう起きていて大丈夫なんですか?」  
「あ、マリアさん。起きていたんですか?」  
やっぱり廊下を走って居たのはハヤテ君。  
ハヤテ君は娯楽室に入ってきた。  
「ええ。今日は伊澄さんが泊まってくれているので夜は久し振りに一人なんですよ。」  
「へぇ〜。あ、ところでそれビリヤードですか?」  
「ええ・・・ちょうど対戦相手が欲しかったのでハヤテ君もどうですか?」  
 
ハヤテ君はキューを受け取った。私と勝負してくれるということだ。  
私達は早速勝負をしようとした。が、その前に私はハヤテ君の実力を聞こうとする。  
「じゃあやりますか。…その前にハヤテ君はビリヤードの経験あるんですか?」  
「ええ。中学生の頃プールバーでバイトしていたので…。」  
「へぇ……。じゃあそこそこやれるんですね?」  
「ええ。なんなら何か賭けますか?」  
 
私はビックリした。まさかハヤテ君の方から賭け勝負を挑んでくるなんて…。  
「あら…いいですわね。」  
だけどまだ早いわね。あの賭けは後何ヶ月かしたら…私の誕生日が近いクリスマスイブにでもやりますか…。  
その時は姫神君よりも、もっときつい事を試して見ましょう。  
ハヤテ君、苛めがいがありそうですしね♪  
 
こうしてこの日の1月3日。私とハヤテ君のビリヤードの初勝負が始まった。  
…しかし私は動揺していたとは言ってもこの日は負けてしまったのである。  
 
初めての【敗北】だった。姫神君と1000回闘っても味わった事の無い悔しさ。  
 
彼との戦績は0勝1敗。  
ついに私を倒す相手が現れてくれたのである。  
 
「これは…本当に楽しめそうですね。」  
「え?」  
「いえ。こちらの話ですよ?」  
 
ハヤテ君。あなたとなら姫神君の言っていたゲームのスリルを味わえるかもしれない。  
姫神君を超えた存在になれるかもしれない。  
 
私は気付いたらまるで子供のようにクリスマスが来るのがとても待ち遠しくなっていた。  
でも…  
 
「ただし…姫神君のように執事の仕事だけはサボらないでくださいね?ハヤテ君。」  
 
 
【FIN】  
 

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